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聖剣士物語(仮)  作者: レイファ
第1章 ヴァリストン聖剣学院の授業
25/35

#25 第1章 12話

 夜中に目が覚め、ポーションの材料を集めるべく部屋を抜け出したレヴィン。


 足音を立てない様に階段を降り、薄暗い朱雀寮の談話室から入り口へと進むと不意に斜め前に灯りが見え、レヴィンは急いでしゃがんだ。

 息を殺して隠れて様子を伺っていると、見回りの人間と思われる者の足音が近付いて来た。

 レヴィンは内心焦るが、息を殺して音を立てない様に、足音から遠ざかるべく這って進み、何とか寮の外に出る事ができた。


 朱雀寮の入り口前も、灯りが半分くらい落とされていた。

 入る時と出る時で配置が変わる見えない足場を通り抜け、中央棟に続く廊下を途中で曲がり、レヴィンは寮と1階ホールとの間にある中庭に出た。

 そこは朝夕の自主鍛錬に使う場所で、本来は使用申請を出してから使うルールになっているが、夜中に部屋を抜け出して来たレヴィンは当然申請を出しておらず、学院長のランカークスがそこら中に監視の目があると言っていた事を思い出し、キョロキョロ周囲を見つつ隅の方に身を寄せた。


 授業で寮周辺に魔法薬の素材となる植物が生えていると聞いて中庭を探すも見つからず、レヴィンは素材を探している内に中庭を通り抜け森に入った。

 そこはハピの特別授業同様、ヴァリストンの外周壁の内側の森であった。


 森に入るとポーションの素材となるキノコや薬草がポツポツと見つかる様になり、部屋を出る時に持って来た袋に素材を詰めながら、レヴィンは素材を探して森のさらに奥へ進む。

 そうしていると、これまで聞こえなかった物音が聞こえ、レヴィンはそっと近付き音のする方を覗き込むと、黒いフード付きのマントで全身を覆った者達がいた。

 入学試験の時に見た黒尽くめの者達とは雰囲気が全く違い、纏っているマントがボロボロの者もいて、レヴィンは一目手ヤバい奴らと感じ、冷や汗が流れた。


バキ


 直ぐに離れようと思い来た道を戻ろうとして、レヴィンは落ちていた枝を踏み折り、その音が夜の森に響いた。

 次の瞬間、レヴィンは左右に風が吹き抜けたと思ったら、黒づくめの者達に囲まれた。


「何だ生徒か」

「深夜にベッドを抜け出すなんて、悪い子ね」

「とりあえず……」


 レヴィンは左右に立つ黒づくめの者達の股間へ同時に拳を繰り出した。


「ぐあっ!?」

「あらら、レディの股間に手を突っ込むなんて礼儀がなってない……ね!」


 レヴィンの一撃で右側の男は股間の痛みに悶絶したが、左側にいたのは女で大したダメージにならず、逆に蹴り飛ばされ背後の木に強く叩き付けられた。


「がはっ!?ぐうぅ……」


 レヴィンは木に叩き付けられた際に後頭部を打ち、意識が飛びかけ動けずにいた。


「…のガキ!」

「待て!そいつは……だ。先々……」


 黒づくめの者達が何か話し合っていたが、レヴィンは意識を保てず気絶したのだった。


「う……うぅ……」


 目を覚ましたレヴィンは起き上が里辺りを見ると黒づくめの者達の姿はなく、少し離れた所に転がっていた袋と、袋からこぼれた素材を拾った。


「あいつらは……。何だったんだ?

いってぇ……な!?」


 自分が来た方向を確認すべくさらに周囲を見渡すと、レヴィンはすぐそばに大きな血溜まりの様な物がある事に気付いた。


「血……だよな?血の跡はあるけど、他に何も無い。

 でも、何この血?薄っすら光ってる様な……」


 血溜まりは月明かりで少し反射している様に見え不思議に感じていると、大きな血溜まりは見る見る地面に吸収されるかの様に消えてしまった。

 どういう事か考えるもわからずにいたが、血溜まりさえ消えてしまったので、レヴィンは考えるのを止めて部屋に戻る事にした。



カチャ


「あ、お帰り…どうしたの!?」


 扉が開くのに気付き入り口に顔を出したジュリアスは、レヴィンの姿を見て驚いた。

 ポーションで回復したはずのレヴィンの顔には少しながら苦痛の表情が浮かんでいて、制服の胸元には足跡がくっきりと付いていたからだ。

 レヴィンは森で黒いフードとマントを着た者達に襲われた事、目を覚ました時に大きな血溜まりを目にするも、直ぐに消えた事を話した。


「怪しいね、そいつら。先生に言っとく?」

「ジュリ、それじゃオレが夜中に森に行った事も先生に言わなきゃダメだろ。

 第一、顔も見てないし、血溜まりだって消えたのに、言ってもオレが叱られて終わる気しかしないぜ」

「そうか。そうだね……あ、素材は?」

「あるよ」


 レヴィンは右手に持っていた袋をジュリアスに渡した。


「けっこう集めたんだね。

 とりあえず、すぐ1個作ろう」


 そういうと、ジュリアスは直ぐに机に置いていた調合の器具に向かうと、授業を思い出しながらポーションの作成を始めた。


 しばらくしてポーションができあがると、ジュリアスはベッドで休んでいるレヴィンに飲ませ、少しするとレヴィンは回復して起き上がった。


「ふ〜、酷い目にあった……」

「大丈夫?」

「あぁ。黒づくめのヤツらに蹴られ飛ばされてから、ずっと後頭部が痛かったし、気持ち悪かったけど、スッキリした」

「その黒づくめの人達の事は気になるけど、とりあえずこれでポーションの効果は確認できたね」

「効果?飲んだら元気なってるだろ」


 レヴィンは首を傾げた。


「鍛錬での筋肉痛なんかの体の痛みの回復と、体力の回復。それと、純粋なケガの回復が確認できたって事」

「あ〜、たしかに」 

「ポーション無しだったら、どんどんキツくなる授業で常に筋肉痛とかで苦しみそうだけど、回復する方法を確保できた」

「じゃあ、先生達が言ってたみたいに鍛錬から回復した後、体が鍛錬前より強くなるなら、ガッツリ鍛錬してポーション飲むのを繰り返せば……」

「早く強くなれるよね」

「良し!」

「同じ事に気付く人はいるだろうけど、この事は黙ってた方がいいかもね」

「あぁ……そうか。ポーションの素材が集まらなくなったら計画が台無しだもんな」


 こうしてジュリアスとレヴィンは朝夕に自主練をする事にした。そして、自主練の際、ジュリアスとレヴィンは交互にポーションの素材を集め、夜にポーション作りに勤しんだ。

 とは言え、ポーションは数に限りがあるため、肉体の疲労が限界に達してから飲む様にしていた。


 また授業では積極的に質問し、鍛錬術の授業では常に全力で体を動かし、自主練では黄金の双生児ことワイズリー兄弟等、話しかけやすい上級生に改善点の指摘をしてもらった。

 そうして、全力で体を使って限界が来ればポーションを飲み、食事は無理にでも一人前以上を食べ、夜にポーションを作って泥の様に眠るのが1日のサイクルとして体に定着しつつあった。



 そうして3ヶ月が過ぎた。


 鍛錬術は授業の度に課せられるメニューがどんどん増して行き、授業回数も多い事から鍛錬に耐えられず学院を去る1年生が、全ての寮生から現れ出した。

 逆にジュリアスとレヴィンは作戦が功を奏し、体力・力・柔軟性等が順調に増して行った。

 剣術や体術だけでなく、特性や対処法を知るため槍や斧、弓や鞭と言った物の講義と実践も始まった。

 他の教科や自主練と合わせて忙しい日々か続く中、1年生達の誰もが待ち望んだ授業の日を迎えた。


 ジュリアスとレヴィンは同じ寮の1年生達と共に、心理力(プラナ)術の教室がある中央棟の6階に初めて入っていた。

 心理力……それは聖剣士(セフィター)が他の追随を許さず、魔物を倒し得る力の秘密であり、門外不出の物であった。


 教室には机も椅子も無く、黒板の方に向かって数段横長の階段状に床が下がっており、生徒達は何となく一番下の黒板の前に集まっていた。

 始業の鐘が鳴ると同時に赤髮の男、ユダヤ・イフリスが教室に入って来た。

 イフリスはバハムートと同じくらい長身であり、どこか氷の様な冷たさを感じさせる銀髪・碧眼のバハムートとは対象的に、真っ赤な髪と眼で微笑を浮かべるイフリスは、柔らかな炎をイメージさせた。


「皆さんお久しぶりです。

 聖剣士をまとめる聖地の仕事で出張していて、数ヶ月振りになりますね。

 今日から、皆さんに心理力について教えて行きます」

「待ってました!」


 数人の生徒が歓声を挙げるのを、イフリスは手を叩いて止める。


「喜ぶ姿は微笑ましいですが、始めに厳しい事を言わねばなりません。

 心理力は、聖剣士にとって最重要の力です。

 体と技の研鑽は当然として、その上で聖剣士の戦いは、どれだけ心理力を高める事ができるかによります。

 従って、4年生になるまでに一定水準に到達できない者は、ヴァリストン聖剣学院を退学となります」


 それまで和気あいあいとした雰囲気に緊張感が走る。


「最終的には、聖剣士の武具である”聖器(クラテリス)“に認められないと聖剣士にはなれないんですけどね」

「それってどうしたらいいんですか?」


 1人の女子生徒が手を挙げながら質問した。


「心と体と技。そして、今日から学ぶ心理力を鍛え、高める事。

 その後は……運……ですかね」

「運?」


 生徒達はきょとんとした。

 レヴィンは「は?」とした感じで口を開けている。


「聖器にも意思があり、相性の問題なのかわかりませんが、仮に十分な実力があっても聖器に認められねば、聖器を纏う事は決してできませんし、その判断基準は聖器ごとによって微妙に違うとも言われますからね」


 生徒達はどういうリアクションを良いかわからないといった感じで戸惑っていたが、レヴィンがその空気を破った。


「えっと、とにかく!

 まずはその心理力ってのを身に着けるのが先って事でしょ?だったらそういのは後で良いでしょ!」


 それを聞いて、イフリスはニヤリと笑うが、すぐに柔和な表情に戻った。


「そうですね。悩むのはやる事をやってからで良いでしょう。

 では、まずは講義からです。

 居眠りせずについて来て下さいよ、レヴィン君?」

「わ、わかってますよ」

「「「ハハハ」」」

「では、適当に段になってる所に座って下さい」


 イフリスに座る様に促されて、生徒達は散らばり、階段状になっている床に腰掛け、黒板の真正面に陣取る者が多かったが、ジュリアスとレヴィンは黒板正面の最前列を確保した。


「では初めに質問をしましょう。

 心理力とは何だと思いますか?」


 何人もの生徒が一斉に手を挙げ、イフリスは端から当てて行き、まとめると魔法の一種、自然の力、精霊や神の力の一部、聖器が持っている力といった物が挙がった。


「心理力とは、自然の力であり、生命に秘められた力であり、神や精霊にも通じると言われる力です。そして、人に隠された、人が持つ力の真髄です。

 ですが、それは魔法とは別物です。

 魔法にも精霊や自然の力も含まれますが、魔法は魔に通じる力であるとも言われ、元々人が備えていなかった力と言われています。それ故か、魔物相手には強大な魔法でも止めを刺す事はまずできません。

 それは歴史が証明しています」


 イフリスは黒板に書き始めると、ジュリアスや数人の生徒が慌ててノートを開いた。


「ストップ。心理力は肉体の鍛錬同様、体で覚えるしかないのです。そして、門外不出の技故、教科書もありませんし、ノートを取るのも禁止です。

ちなみに参考までに言っておくと、ヴァリストン去る時には教科書はもちろん、授業に関するノートやメモは全て没収となります。

 さて、黒板に書いた自然界における“二極三大”とは何かを考え、何か思い付いた人は挙手して下さい」


 こうして聖剣士の力に迫る授業が始まり、生徒全員が前のめりで授業を受けるのは言うまでもなかった。

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