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聖剣士物語(仮)  作者: レイファ
第1章 ヴァリストン聖剣学院の授業
21/33

#21 第1章 8話

「お、終わった~」


 鍛錬術の最初の授業で筋トレと素振り千本が課され、終鈴が鳴っても終らずに残っていた者達に付き合って素振りをしていたジュリアスとレヴィン。

 全員が終わり座り込んだりしていると、教室の入口から音がして振り返る生徒達につられて入口に視線を向けたジュリアスとレヴィンの目に、白い物が映った。


 体を起こした生徒達がよく見ると、白い物はネコの教師ハピであった。


「そう、終わってしまったのニャン。

 とりあえず、全員立つニャ」


 今日ローブではなく、白い短パンに袖の幅が広い紺色の上着を着て、腰辺りを布で縛った服装で、頭には白い布を捻った物を巻いたハピに言われて、生徒達はノロノロと立ち上がった。


「筋肉痛が酷くならない様に、整理運動をするのニャ。始め〜」


 レヴィンや数人の生徒は、鍛錬術の教室に兵糧・野営術の教師であるハピが現れた事に嫌な予感がしていたが、ハピに従い整理運動をした。


「じゃあ、オレ達。バハムート先生に言われた事が終わったんで行きますね」

「どこに行くニャ?寮かニャ?」


 間髪入れずにハリスが満面の笑みで答えた。


「食堂行ってご飯です」

「さっきも言ったけど、終わってしまったのニャン」

「「え?」」

「ま、まさか……」

「そうニャ。ご飯の時間は終わったのニャン」


 男女共にお腹が空いているのでショックを受けていたが、中でもハリスは顔面蒼白となり、膝から崩れ落ちた。


 「フッフッフ……」


 ハピは手を後ろに回し、数拍して前に出した手には唐草模様の布に包まれた物がそれぞれの手に握られており、生徒達の前に置かれた。


ドン。


 置かれた包の音から、中身はそれなりの重さがある事がわかる。そして、唐草模様を見た事が無い生徒達の半数くらいは怪しんだ。


「せ、先生。この包みは?」

「な、何か不気味な模様だなぁ」

「初めてみる模様だわ」

「は、はわぁ〜〜〜〜」


 不気味がる生徒達をよそに、ハリスは満面の笑みで包みに手を伸ばした。


「ちょ、待てよ!」


 ハピはハリスが包みに触る直前でサッと包みを取り上げると自分の前に置き、包みの結びを解いた。


「それで、天パーの朱雀生。不気味とは失礼ニャ!

 これは、一族の繁栄と長寿を表すありがた〜い模様なのニャン!

 ふざけた事言ってるとあげないのニャ……ほら、持ってない子に回してくニャ」


 ジュリアスはハピが差し出された箱を受け取ると、他の生徒へと回していった。


「みんな受け取ったかニャ?じゃ開けて良いのニャン」

「「「おぉ〜〜!」」」


 唐揚げやサンドイッチ等がぎっしり詰まっており、手前にはコルクで栓をした円筒形の竹が入っており、中にはお茶が入っていた。


「がんばった後に食事抜きはツライだろうから、それ食べてから寮に戻るのニャ」

「「「先生ありがと〜!」」」


 男女3人がハピにハグし、その内の男子生徒がハピに押しのけられた。


「気軽にレディにハグすんニャ!

 あ、食べ終わったら箱は、この教室の入口にまとめとけば良いのニャ。

 汗を流したらちゃんとストレッチして、暖かくして寝るニャ」


 そう言うとハピは教室を出て行き、その後ろ姿を見つめながら男子は同じ事を思った。


『先生……雌ネコだったんだ……』




 翌朝、ジュリアスとレヴィンは筋肉痛になっていたが、運動が得意なレヴィンはジュリアスより軽い筋肉痛で済んでいた。

 レヴィンはジュリアスのストレッチを手伝ってやり、それから食堂に移動して、朱雀寮のカラーである落ち着いた赤のテーブルに着いた。

 机の上には様々な料理が並んでおり、レヴィンとジュリアスが見た事もない料理も多く有り、それらに目を奪われていたら、ジュリアスは不意に横っ腹を指で突かれた。


「痛!?」


 ジュリアスが突かれた方を見ると、ジュリアスやレヴィンと同じ黒地に赤の朱雀寮の制服を着た生徒がニヤっとした顔で立っていた。


「お前達、昨日晩飯の時いなかったよな?

 バハムートの授業で居残りしてた一年か?」

「そう……です」

「ビンゴか〜。そして、金髪くんはだいぶ筋肉痛がキテるわけだ」

「ハピ先生の特別授業で知り合った玄武寮の子が終わるまで一緒にやってて、言われた数より多くやってからもしれないです」

「物好きなヤツらだな〜。

 オレは3年のジョーン・ワイズリーだ」

「よろしくお願いします」

「よろしくおね……あ!?」


 ジュリアスとレヴィンが挨拶を言い終える前にジョーンは急に飛び出し、ジュリアス達の間を通り抜けた。

 ジュリアスとレヴィンは驚いて振り返るが、ジョーンの姿はなかった。


「二人共どうした?」


 背後からの声にジュリアス達が振り返ると、テーブルを挟んだ向かい側の席にジョーンは座っており、優雅に紅茶を飲んでいた。


「え?あれ?今反対に飛び出したはず……」

「この一瞬に回り込んだ!?」

「また、一年生をからかってるの?」


 ジュリアスとレヴィンが声に反応して横を向くと、朱雀寮のプリフェクト生であるマリア・イェーガーが呆れ顔で立っていた。

 マリアがジョーンを見た後にジュリアス達の背後に目を向けており、二人が視線を追って振り返るとそこにもジョーンが立っていた。


「え?先輩が二人!?」

「な、何これ!?」


 ジュリアスとレヴィンは、目を丸くして2人のジョーンの顔を何度も見た。

 2人共同じ金髪のイケメンで、背丈や体格もそっくり。まるで鏡でもあるかの様だった。


「ふっふっふ、双子なのだよ」

「オレはグレッグ・ワイズリー。よろしくな」

「双子……は、初めて見た……」

「そっくりだ……」


 机の向かい側でお茶を飲んでいたグレッグが立ち上がり自己紹介をしている間に、背後にいたジョーンは高い前宙で机の上に着地し、グレッグの隣りでポーズをキメた。


「そうだろ〜。人呼んで“黄金の双生児、ワイズリー兄弟”だ!」

「黄金の……」

「ソーセージ……」


 それまで驚愕していたレヴィンの頬が少し緩んだ。


「あ〜、黒髪の方は絶対キンキラの二本の肉をイメージしてるって。

 なぁジョーン。そろそろやめようぜ、そのフレーズ」

「バ……何を言う兄弟!強くてカッコいいオレ達に相応しい二つ名だろうが!」

「はいはい、もういいから、な?

 マリア先輩見てみろよ」


 グレッグの視線に吊られてジョーンやその場にいた者達の視線がマリアに向くと、マリアは明らかに怒っていた。

 視線に気付いたマリアは咳払いをして笑顔を作ると、ワイズリー兄弟に笑顔で圧を掛けた。


「ほほほ、座りましょうね……食事がしたかったら」


 そうして食事が始まり、生徒達は朝から楽しそうに食事をしていて、2年生以上は女子もモリモリ食べている。

ジュリアスの左隣りに座っているマリアも、上品に食べているがよく見ればいくつもお変わりをしていて、それを見たジュリアスとレヴィンは驚いた。

 レヴィンは育ち盛りの少年らしく肉を中心にしっかり食べていたが、ジュリアスは野菜を中心に一人前より少ない量で手が止まっていて、それに気付いたマリアは静かにフォークとナイフを置くとナフキンで口元を拭いた。


「ねぇジュリアス。貴方どこか調子が悪いの?」

「え?」

「全然食べてないじゃない」

「あ、いえ、どこも悪くないです」

「そう」


 マリアはフォークを手に取ると肉を差し、ジュリアスの前に差し出した。


「ダメよ。ちゃんと食べないと。

ハピ先生の授業でその内教わるはずだけど、身体作りは鍛錬だけでなく、食事も重要な要素なんだから、しっかり食べなさい。ほら、ア~ン」

「あ、はい」

「あら、意外ね。フフ」

「「「な!?」」」


 マリアは、自分のフォークに刺さった肉を照れる事なく食べるジュリアスを意外に思いつつも、その素直さを可愛らしく感じていた。しかし、その様子を見た周囲の男子達はザワついた。


『マ、ママ、マリア先輩のア~ンだと!?』

『う、羨まけしからん!』

『『『そうだ、そうだ』』』


 周囲の朱雀寮生の男子の多くが、声を潜めつつ悔しがった。そして、レヴィンが周囲を見ると、他の寮生も一部悔しがっていた。

 ジョーンや悔しがっていた男子一部は、ジュリアスと同じレベン村出身であるレヴィンに詰め寄った。


『おい、何であいつマリア先輩にア~ンしてもらってんだ!』

『え!?オレに言われても……マリア先輩がちゃんと食べないとダメって言って、先輩からア~ン行ったんスよ』

『な、何ぃ!?』

『で、でも、アイツのあの余裕は……』

『あぁ、たぶん慣れてるんだと思いますよ。

 村で彼女と言って良い子がいたんですよね~』

『か、彼女……』

『ちゃんと告白したかは知らないですけど、彼女の方がべったりガッチリ守ってて、ア~ンされてるのを見たのは1度や2度じゃないですよ』

『それって……』

『10歳より前って事……だよな?』

『そうっスね』

『な、何てヤツだ……』

『ま、負けた……』


 悔しがる男子達には目もくれず、食事を終えたマリアは食堂を後にした。

 この後、ジュリアスは冷やかされるになるが、瞬間的な物であった。

 魔物に襲われたレベン村で生き残った子供は2人である事は周知の事実。そして、その2人はジュリアスとレヴィンである事から、必然的にジュリアスの彼女は故人である事に気付いた男子達は、冷やかす事ができなかったからだ。

 代わりに女性事の先輩として、朱雀寮の男子達の中で密かに認定されたのだった。



 朝食が終わり、満腹で迎える授業は、ひたすら座学の歴史科であった。

 食堂のある中央棟を登り、ジュリアスとレヴィン、それに朱雀寮と青龍寮の一年生達は3階にある歴史科の教室に入った。


 机や椅子は壁や天井には樹木をイメージさせる装飾が施され、黒板と教壇を中心に、扇状で教壇から奥になるにつれて緩やかに席が高くなっており、どの席からも黒板が見やすく、それでいて、教壇と奥の席は離れ過ぎない様に配置されていた。

 木の温もりと、飾られた緑、床や壁の白が調和した空間に、平民出身の生徒達は迂闊に物を触るっていいのか気後れするも、貴族出身の生徒達が座るのを見て、各々気が向いた席に座ると、寮で支給された3冊の教科書を机の上に出した。


 始業の鐘がなると、黒板横の扉から明るい緑と白のローブに身を包んだ、プラチナブロンドの長髪の老人が入って来た。

 やや小柄の老人の耳は長く先が尖っていた。


「おはよう。朱雀寮と青龍寮の一年生諸君。

 歴史科を担当するメレル・ウル・ラムネードだ。

 さて、キミ達の中には、何故戦う事以外の授業があるのかと不満に思っている者がいる事だろう。

 しかし、国同士の関係等、歴史を学ばなければ深く理解できない事があったり、遺跡の調査をした際に重要な事を見過ごす事もあるかもしれない。

 キミ達に聞こう。精神や肉体の力、魔法の力、聖剣士(セフィター)が扱う力……それ以外にどんな力が存在するか分かる者はいるかな?」


 青龍寮生達が多く座っている席から即座に手が上がる。

 茶髪のショートヘアで切れ長の目をしたエマ・グレンチャーであった。

 

「では、キミ。名前は?」

「エマ・グレンチャーです。

 答えは『知の力』です」


 立ち上がり答えたエマにラムネードは目を細める。


「ほう。では、知の力とは何か言えるかね?」

「はい。知の力とは、知識とそれを活かす思考力の事です」


 エマの答えを聞き優雅に拍手をするラムネードの姿に、生徒達は気品を感じ取っていた。


「10歳でその答えをすぐに言えるのは上々。

 キミに10点をあげよう。座りなさい」

「ありがとうございます」


 エマが喜びを抑えつつ着席すると、周囲の女子が小さくエマを褒めた。


「今彼女が答えた通りだ。

 生来の武器も防具も持たない人間がこれだけ勢力を高めたのは、まさに知の力を活かしたからに他ならない。

 だが、豊富な知識があっても、それを活かす手段を考えられなけば意味は無い。その逆もまた然り。そして、それは聖剣士にも言える。

 知の力だけでは魔物は倒せんし、腕っ節だけ強くても聖剣士は務まらん。

 故に、様々な歴史。それに付随する知識をキミ達には与える。

 しっかりと受け取り給え」

「「「はい!」」」


 真剣に話しを聞く生徒達を見て、満足気にラムネードは頷いく。


「よろしい。では、授業を始める」


 こうして、ラムネードの授業が始まった。

 どちらかと言えば勉強嫌いなレヴィンではあったが、ラムネードの話しは物語を聞くくらい抵抗なく聞く事ができ、思考が止まり居眠りする事はなかった。

 一方勉強好きなジュリアスも授業を楽しみ、宿題を出されるもレヴィンとは対照的に興味を示していた。


 ラムネードの授業の後は基礎学科であり、勉強の苦手なレヴィンには苦痛の時間であった。しかし、聖剣士になるという一念でレベン村での様にふざけず、気力が大きく消費していく中、がんばって食らい付いていくのであった。

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