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聖剣士物語(仮)  作者: レイファ
第1章 ヴァリストン聖剣学院の授業
19/33

#19 第1章 6話

 突然始まったヴァリストン聖剣学院 兵糧・野営術の担当教師であり、二足歩行で歩き、人間の言葉を喋る白ネコのハピによる特別授業。

 朱雀寮のジュリアスとレヴィン、青龍寮のエマ、玄武寮のハリスは、共に一夜を過ごしたが何の道具もなく、毛布もない中での野宿で4人はしっかり眠る事はできなかった。


 翌朝、4人は川で顔を洗い、川の水を飲み、火がなくても食べられそうな物を探した。しかし、2時間以上探すも成果はなく、気分が萎えている中、レヴィンはハリスの閉じた口が動いてる事に気付いた。


「なぁ、ハリス。もしかして、お前何か食ってる?」

「え!?あ、モグモグしてる……」

「ハリス。あなた……」


 3人の非難の目に、ハリスは汗を流しながら焦る。


「え、あ、た、たた、食べ物じゃないよ。

 お腹空き過ぎてツラくて、さっき手を付いた木の皮が、昨日齧った木の皮よりだいぶ柔くて簡単に剥がれたから、試しに噛んでたんだ」

「ハリス、木の皮を食べてたって事?」

「食べてはないよ、噛んでるだけ。噛んでても解れないし、ずっと口に残ってとても飲み込める感じじゃなかったから、みんなに言わなかったんだよ。

 ただ、お腹空き過ぎてツライから、ちょっとでも食べた気分になれたらと思って噛んでるんだよ……」


 そう言いつつ、ハリスは木の皮を噛み続けている。


「な、なぁ、ハリス。もしかして、それ美味いのか?」

「「え?」」

「だって、ずっと木の皮をずっと噛んでられるって、不味かったらできないだろ?」

「き、気のせいかもしれないけど……今は少しだけ甘い様に感じるんだ」

「マジか!?」

「待ってレヴィン。ねぇ、ハリス。『今は』ってどういう事なの?」

「え、えっと……最初はね、ただの木って感じだったんだ。でも、昨日みんなで齧ったヤツみたいに凄く不味いとも感じなかったから、気が紛れるかもってずっと噛んでたんだ。そしたら、気のせいかもしれないけど甘い様な気がして来たんだよ」


 ハリス以外の3人は信じられなかったが、食べ物が見つからず空腹であったため、ハリスが口にしている木の皮のある所まで戻った。


 少し迷いつつもハリスは自分が齧ってる木の皮を取った木を見つけた。

 エマ、ジュリアス、レヴィンの3人が木の表面を触って見ると、見た目は他の木と大差ないものの、確かに木の皮は他の木よりも柔らかかった。

 レヴィンが取りやすそうな所に手を伸ばすと簡単に木の皮が剥がれ、それを口に入れて少し噛んですぐに吐き出した。


「ぺっ、ぺっ……甘くなんかないじゃん。ただの木の皮。昨日齧ったのと変わんないぜ」

「もっと長く噛むんだよ」

「マジかよ……」


 ハリスの一言に引いているレヴィンとジュリアスを横目に、エマは木の表面を触っていた。そして、何度か近くの木の皮を剥いで見比べたり、皮を裂いたりしている。


「エマ。どうしたの?」

「これを見て。右がハリスが噛んでる木の皮で、左が今取った柔らかくない木の皮よ。違いがあるでしょ?」


 エマは左右の掌に木の皮を乗せてジュリアス達の前に差し出し、3人は顔を近付けて木の皮を見比べる。


「あ〜、そう言われるとたしかに……」

「そうだね。右手に持ってる方が厚みがあるね。これがどうしたの?」

「見て」


 エマは左手に持ってる木の皮を足元に捨てると、厚みのある方の木の皮をさらに剥き出した。すると、白い中身が出て来た。


「この白い所を噛んみて」


 エマに促され、ジュリアスとレヴィンを見合わせると、ジュリアスがエマから剥いた木の皮を受け取り齧った。


「あ、少しだけど甘い!?」

「え!?マジ?……ホントだ。少しだけどたしかに甘さがある」

「ぼ、僕にも……これだよ!最初から甘いや」


 二日目にしてようやく味わえる物にありつけた4人はできるだけ厚みのある木の皮を剥ぎ取り、表面を剝いては噛んで、味が無くなったら木の皮を捨てて新しい物を噛むという事をしばらく繰り返した。


 4人は満腹になったわけではなかったが、またしばらくは耐えられそうな気がして、再び食べ物を探して森を歩き回った。


「火の有り難みが嫌って程わかるわね」

「そうだね。魚とか、火があったら食べれそうな物は初日から見つかってたもんね……」

「兵糧・野営術……ちょっとナメてたかも」

「ぼ、僕、もう好き嫌いしない!」

「あなたはこれを機にダイエットした方が良いと思うわ。

 野営術の授業でこれだもの。鍛錬科の授業は体力付けてないときっと大変よ」

「うぅ……。そうかも。先生もなんか怖そうだったし……」

「とりあえず、まずはあと5日耐えるためにも、まともな食べ物を確保しようぜ」

「う、うぅ〜……」


 4人は途中休憩を挟みつつ日暮れまで食べ物を探す中で、時折他の一年生を見かける。

 声をかけると他の一年生達も食べ物だけでなく水も見つけられてなく、4人よりも消耗しておりエマが川の方向を教えたりもした。

 その後、食べられる木の実を辛うじて人数分見つけ食べたが、味がほぼないリンゴの様な食感だった。しかし、味がほとんどしないだけで特別不味わけではなく、何より少量ながら腹に物を入れられたのがありがたかった。


 空腹感は少し減ったが疲れは溜まる一方で、昨夜同様に4人は川の近くの岩場で岩を風よけに休む事にしたが、夜の冷え込みでなかなか寝付けなかったが、昨夜より空腹さ具合が減っている分辛さも減っていた。



「ボスケテ〜〜!」


 3日目に入り、食べ物を探している4人は、このギブアップ時に叫ぶ様言われていたキーワードを時折耳にする様になる。


 この言葉を聞いてしばらくすると、複数のガサゴソする音が聞こえ、静かになってから様子を見に行くと誰もいない。

 しかし、血の跡があり、エマ、ジュリアス、レヴィンの3人はドキっとした。

 空腹にばかり意識が行っていて、獣がいる可能性を考えてなかったからだ。


「ここで転んだか何かでケガしてギブアップしたのかな?」

「それならいいけどな」


 そう言うとレヴィンは周囲を警戒し、それに気付いたジュリアスは自然とレヴィンと反対方向を警戒する。


 空腹と疲れ、睡眠不足に、周囲を警戒する事で精神的疲労が加速した。

 特に王都出身のエマとハリスの消耗は大きかった。

 2人は森に子供だけで入るのも野宿をするのも初めてで、ハリスに至ってはまともな食事を一食以上抜いた事も生まれてこの方した事がなく、未知の経験を体感中であった。


 夕暮れ時になり、ハリスは限界が近かった。

 そんな派の前に、手の平2つ分くらいの葉っぱの上に白い物が盛られた物が置かれた。


「ハリス、これを噛みまくれ」

「質より量作戦よ」

「い、いつの間に……」

「みんなで剝いたんだ。さ、食べたら今日は早めに休もう」

「あ、ありがと〜」


 ハリスは涙を浮かべながらここ数日の主食である、厚みのある木の皮の中身を頬張り、何度も噛んだ。


 エマ、ジュリアス、レヴィンの3人もある程度の数を噛んで甘みを味わった後、川に水を飲みに行こうと立ち上がった。


「ねぇ、みんな」


 空腹から自分から話し出す事がなくなっていたハリスの声に3人が振り返ると、地面に座ったままハリスは言葉を続ける。


「色々気を使ってくれてありがとう。でもね、ぼ、僕もう限界なんだ。

 僕達は一緒に森に入ったけど、チームで行動しろとは言われてないだろ?」

「まぁ……そうね」

「だから、僕がギブアップしてもみんなの迷惑にはならないし、先にギブアップしてる子もいたから、点数もビリにはならないと思うんだ。それに、僕みんなの足を引っ張って迷惑かけてるから……僕、ギブアップするね」

「迷惑には思ってないけど、ハリスが耐えられないなら……」

「無理強いはできないわよね」

「う、うん………」


 エマ、ジュリアス、レヴィンの3人は、もう少しがんばろうと言いたい気持ちと、ハリスが限界というのを理解する気持ちが入り混じっていた。


「ありがとう。じゃ、傍にいてみんなもギブアップって思われるといけないから離れて」


 そう言われ、3人はハリスから距離を取った。


「じゃ……ボス__」


パーン!パパーン!

パパパパパパーーン!


 ハリスは、ギブアップする時に叫ぶ様に言われていた『ボスケテ』を言いかけると同時に、空から次々と大きな破裂音が聞こえ、4人は空を見上げる。

 破裂音は遠くの方からも聞こえ、何が起こったのか理解できず、4人は空を見上げたまま茫然としていた。


「おい、そこの一年生達」

「「「「!?」」」」


 茫然としていた所に声をかけられ、4人はビックリして声がする方を見ると、コック服に身を包んだ屈強な男が立っていた。


「ハピ様がお呼びだ。私に着いて来い!」


 戸惑いながらも教師であるハピが呼んでいるとの事で、4人はコック服の男の後に続いた。

 男はスイスイ森を進み、すぐに4人との距離が開き、ある程度距離が開くと男は足を止める。

 息が上がっている4人に対し、コック服の男は息も乱れず汗もかいていなかった。


 コック服の男に続いてしばらく進むと、同様にコック服の人間の後を追う他の一年生達の姿が見えた。

 しばらく走ると開けた場所に出て、コック服の男からここで待機する様にと言われた。

 その場所にはある程度の数の1年生が集まっており、多くの一年生は消耗していたが、急遽集められてこれから何が起こるのかわからない不安からザワついていた。

 そんな一年生達の前には二本足で立つ白ネコこと、ヴァリストン聖剣学院の教師ハピが台の上に立ち、後から生徒を連れて現れたコック服の人間達は、順次ハピの後ろに横一列に整列していく。

 一年生が半数程集まった所で、ハピの後ろに並ぶコック服の者達から2人前に出て、ハピの左右に並んだ。


「静まれ〜!」

「静まれ、静まれ〜!」


 屈強な男達の真剣な呼びかけに、それまで雑談していた一年生達は口をつぐむ。

 呼びかけを行った男達は自分達に生徒達の意識が集まってる事を確認すると、2人同時にザッとハピに手を伸ばし、ハピに注目させる。


「ハピ様」

「うにゃ!

 さっきの大きな音は、半数を超える一年生が『ボスケテ』した合図なのニャン!」


 エマ、ジュリアス、レヴィンは周りを見ると、確かに半分くらいの一年生がいない。そして、ハピが合図するとハピの右後方に並ぶコック服を着た者達が、さらに後方から沈んだ顔のギブアップをした一年生達を連れて来た。


「ボスケテした子達は、ハピのスタッフが保護してケガの治療とかをしておいたのニャン。

 それで、脱落者が半数に達したのをもって特別授業は終了とするニャ」


 沈んだ顔をした一年生達から、重々しい溜め息が出た。

 ジュリアスとレヴィンは授業であった事を半ば忘れており、自分の行動が自身の成績だけでなく、寮の点数にも影響する事を思い出した。


「ボスケテしてニャい子達にはしっかり加点……と行きたい所ニャけど、ホクホク森でサバイバルしてた子が9人いたから、1点ニャン。

 そして、ホクホクサバイバルしてた9人は1人+2点、火を起こした青龍の子はさらに+3点なのニャン」


 加点されたであろう9人から歓声の声を上げるもすぐ静かにさせ、ハピは言葉を続ける。


「道具も知識も無い中で、慣れない環境に放り込まれてどうだったかニャ?

 これまで当たり前にしていた物を、自力で得にいく事を体験して何を思ったかニャ?」


 ハピが杖を空に翳すと一瞬空が光ったと思ったら風が流れ、一年生達はこれまで自分達がいる辺りが屋外なのに無風であった事に気付いた。

 それからすぐにハピの左側後方から風に乗って香ばしい匂いが漂って来るのを感じ、多くの一年生が匂いのする方にフラフラと歩いて行く。


「あ、炙った肉だ〜!」

「うわぁ〜〜!」


 湯気の立ち上る炙られた肉にスープにマッシュされたイモ等、暖かい料理達を目にして、先頭の生徒は駆け出した。

 しかし、即座に立ち塞がった屈強なコック服の男達にぶつかり地面に転がった。


「な〜にしよ〜としてるのニャ〜?」

「く、空腹で耐えなくて……」

「た、食べさせてくれても良いだろう!」

「「「そうだ、そうだ!」」」


 腰に手を当てて転んだ生徒達の前に立つハピに、一年生達が文句を言うが、ハピは全く動じない。


「勝手に人の物を食べるのは泥棒なのニャン。でも、今はそんな事を言いたいわけじゃないニャ。

 お前達は何を食べようとしたのニャ?」

「え?美味しそうに炙られた肉……」

「ブブ〜。次」

「あったかそうなスープやパスタ」

「ブブ〜、次。もっと根本的な事なのニャ。

 後ろの生徒でわかる子いたら答えるニャ!」


 ハピの問いかけに考え込む一年生達。

 屈強なコック服の男に阻まれた男子達は、テーブルの上にある湯気が立ち上る温かいであろう料理と飲み物に手を付けようとしたのに、それは違うらしい事に多くの生徒が首を傾げる中、スッと手を挙げた1人の女子が恐る恐るハピの前に進み出た。


「じゃあ、焦げ茶のロングヘアーの子」

「はい、命……と言う事でしょうか?」

「ピンポ〜ン!正解ニャ〜」


 ハピは飛び上がり少女の頭を撫でてフワリと着地するとすぐに後方にジャンプし、クルクル回って台の上に着地した。


「我々動物は、他の生き物を食べる事でしか生きられないのニャン。

 たまに動物を食べる事を否定して、野菜を食べる事を良しとする事を主張するヤツらがいるけど、植物も生きてるから同じ事ニャ。

 それで、食べれる事は当たり前じゃないって事を、この数日で理解しなかったのかニャ? 

 お前達はこの数日、満足に食事できなかった事を忘れるニャ!

 じゃあ、テーブルの前に立つのニャ!」


 一年生達は急ぎ自分達の足でテーブルの前に着く。

 湯気の立つ料理を前に深呼吸をすると、美味しそうな匂いを胸一杯に吸い込み、一年生達の腹の音は鳴り、よだれが出そうになる。


「食べたい時に食事できる事が当たり前じゃニャいなら何をするか?それは感謝ニャ!

 これから毎食必ず感謝をするのニャン!

 食事ができる事に対する感謝、食事の機会を作ってくれた人や食事の配膳等の準備をしてくれた人への感謝に、調理してくれた人への感謝。

 何より!食材……自分が食べる命に対して感謝するのニャ!

 今挙げた事に対する敬意と謝意はこうやって示すのニャン……手を合わせて、合掌ニャ!」


パチン!


ハピが手を合わせた後、ほぼ同時に一年生達は合掌をして、手を合わせた音が響く。


「いただきます!……ニャ」

「「「いただきます!」」」


 そう言ってハピが目の前の料理に頭を下げるのと同じ様に、生徒達も頭を下げる。

 ハピは先に頭を上げ、一年生達が全員同じ様にしている事を確認するとハピは宣言片手を挙げて号令を出す。


「じゃあ、好きなだけ食べるのニャ〜〜!」


 一年生達は歓喜の声をあげると、目の前の料理を食べ出した。

ある者は一心不乱に、またある者は涙を流しながら、かつてない美味しさの料理を夢中になって食べたのだった。

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