#18 第1章 5話
朝食前のホールに現れた兵糧・野営術担当教師のハピ。
だがフードを取ったその顔は紛う事なき白ネコであり、二本足で立ち、流暢に人間の言葉を喋っていた。
貴族出身の一年生達がハピの作った料理を床にぶち撒け、ハピに暴言を言いまくった事で、ハピが魔法で合図を出して料理は下げられ、またハピが作りだした光の壁と天井から降ってきた鉄格子によって一年生達は閉じ込められていた。
「かわいい〜!」
「ネコちゃ〜ん!」
1年生の女子達はハピに手を振ったりする等、殺伐とした空気感の貴族出身の男子達とは全く違う雰囲気であった。
ハピは嬉しそうにしながらも、時折教師である事を思い出したかの様にハッとして澄まし顔をした。
「ふざんけんな!クソ共!」
「そうだお前ら!」
「お前達もタダで済さねぇぞ!」
「は?何言ってるの?」
貴族出身の男子達の汚い言葉に、女子達は騒ぐのを止めると冷たい視線を貴族出身の男子達に向ける。
「あんた達のせいで、絶対美味しいとわかる料理は下げられ、特別授業の課題なんて物に巻き込まれたんですけど?」
女子達を代表して喋る少女はもちろん、他の女子達も冷たい視線を貴族出身の男子達に向けている中、貴族出身でない男子達はそっと騒ぎから離れ、ジュリアスとレヴィンもそれに続いた。
怒れる女子達と貴族出身の女子が至近距離になる前に、両者の間に炎が通り過ぎる。
「ストップにゃ。そこで揉めてても授業にならニャいから着いて来るニャン!」
そう言うと鉄格子の一部が開いた。しかし、振り返る事も無くスタスタ進んで行くハピの後ろに光の壁で一本道があるのみであり、一年生達も囲われた場所に居てもどうしようもないので、ハピの後に続く。
しばらく歩き、学院北側の玄武寮と東側の青龍寮の間辺りの行き止まりに辿り着いた。
ここで初めてハピが振り返り、一年生達が後について来ている事を確認すると、通路突き当りにある像を杖で何ヶ所が叩き、杖が光ると像がブロック毎にゴトゴト動き、新たな通路が現れた。
「ハピに続くのニャ」
それだけ言うハピは通路に入り、生徒も一人づつ後に続く。
「うわ〜〜!」
「きゃ〜〜!」
「わははは……!」
「おぉ〜〜!」
悲鳴が続いたかと思うと、何故か笑い声等も上がったりして、後方の一年生達の頭には疑問符が浮かんでいた。
ジュリアスとレヴィンの番が近付いて2人は理解した。
滑り台の様になっていて、角度がやや急でスピードが出ているのだ。
ジュリアスが滑り、少し待ってからレヴィンも滑った。
右へ左へ曲がり、カーブがキツ目の所では体が上の方まで上がる事もあった。
レヴィンはスピードを緩めようと足を広げて踏ん張ろうとするも、通路がスベスベで踏ん張って減速する事ができず、終いにはクルクル体が回ってなおも滑り落ちていった。
『隠し通路に巨大滑り台?何なんだよ、この学校〜……』
薄明かりの中を滑りながら、ジュリアスもレヴィンも世界で唯一聖剣士になるための学び舎に対して持っていたイメージが崩れていった気がした。
滑り始めて数分後、ジュリアスは滑り終わると眩しくて目を閉じた。
「早くこっちに来るのニャ」
ハピの声のする方に這って進みながら目を開けると青空が広がっており、ジュリアスが移動して少ししてレヴィンが通路から出て来た。
ジュリアスの時同様ハピがレヴィンに声をかけ、レヴィンは立ち上がるも目が回っており、その場でフラフラしていると黒地に緑の玄武寮の制服を着た肥満体形の一年生が滑り降りて来て、レヴィンにヒップアタックした格好になった。
「いって〜〜……」
「ご、ごめんよ〜。大丈夫?」
「あ?あ〜いいよ。イテテ……」
ハピは近くにいた生徒に自分に代わって滑り終わった生徒に声をかける様指示をすると、レヴィン達に歩み寄った。
「だ〜から、早く退くように言ったのニャ。も〜、しょうがニャいなぁ、の……黒髪君は……ケニャル」
ハピの杖から緑の光りがレヴィンに飛び、数秒レヴィンの体を包むと光りは消えた。
「痛みが……回復魔法!?」
「そうニャ」
「「ネコ先生スゲェ〜!」」
「ふふふ、ネコは偉大なのニャン♪」
ハピは一年生を見下ろせる場所に軽やかに登る。
「いいかニャ。ここから先が森ニャ。ず〜っと先の壁の向こう側は敷地外ニャから、間違っても越えようとしない事」
「おい、ネコ教師!ナイフや火を起こすための道具はどこだ?」
「うにゃ?そんなの用意してないのニャ。動物も虫もそんな物無くても生きてるのニャ」
「「「何だと!」」」
ルンルンだったハピが真顔になり、悪態をつく貴族出身の男子達に杖を向けた。
先程、ハピが魔法を使えるのを目の当たりにしていた一年生達は押し黙り、身を強張らせた。
魔法は聖剣士程ではないが、誰にでも使える物では無いのが常識だからだ。
「貴族出身の男子。お前達は、ハピが教師なのを忘れたのかニャ?
あんまり目に余る事をするなら減点だけじゃ済まさないのニャン」
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
「それに、お前達全員が一度に襲って来ても、ハピに勝てる可能性はゼロにゃ。そこを理解して発言するのニャン」
「「「「……」」」」
貴族出身の男子達はそれ以上悪態をつけなかった。
ハピは改めて特別授業の確認をした。
一週間、自力で生き延びる事。学院の敷地外に出ない事。そして、いニャいとは思うけど、もし上級生に会っても物を受け取る事は禁止。
「なっ……!?」
「安心するのニャ。限界、もうダメ、ギブアップ……って場合は、空に向かって【ボスケテ〜!】って思いっ切り叫ぶニャ。そしたら救援が向うのニャン」
何も装備無しでサバイバル生活が始まる事に唖然とする生徒が多い中、1人の生徒が手を挙げる。
「あ、あの、先生……。その……【ボスケテ】って何ですか?」
「「「え?」」」
一瞬、一年生達の動きが止まる中、ハピが自信たっぷりに答えた。
「ボス助けて。略して【ボスケテ】ニャ。人間はピンチの時にそう叫ぶって聞いたのニャン。それじゃ、そろそろ__」
「お、おいネコ……先生。ここは学院の敷地内なんだろう?食事は出さないって話しだが、食べれる物は森にあるのか?」
何人かはハピの認識を訂正しようとするも、ハピが話しを切り上げ様とした所で、またも貴族出身の男子がハピの話しを遮り、ハピは無言でやれやれといったジェスチャーをすると、サッと森に入って行った。
10分もしない内に、ハピは果物や魚、野菜や山菜と思しき物を抱えて戻って来た。
「この通り、僅かな時間でハピはこれだけ確保したのニャン。
さぁ、言い訳が1つ潰れた所で、張り切って行ってくるのニャ!
ハピはこの食材で豪華な朝食を堪能するのニャ〜」
そう言うと、ハピは森に数人づつ、入って行く場所や方向を指示しつつ、調理を始める。
ハピの爪が伸びて一振りで魚の鱗が落ち、三枚に下ろされ、魔法で焼き、どこからともなく取り出した木の器に盛られて行く。
朝食抜き状態の一年生達は、その様子を羨ましそうに横目で見ながら、森へと入って行き、多くの一年生はすぐに食べ物探しに動いた。
ジュリアスとレヴィンは、レヴィンにぶつかった肥満体形の少年とメガネをかけた栗毛の少女と一緒に森に入り共に行動していた。
「えっと、僕はジュリアス。キミ達は?」
「ぼ、僕はハリス・ショートトップ。玄武寮だよ」
「私は青龍寮のエマ・グレンチャーよ」
「オレはレヴィン。オレとジュリアスは朱雀寮だよ」
挨拶もそこそこに、ハリスは歩きながら食べ物を探し、ジュリアスとレヴィンは森の様子を伺いながら進み、エマは3人より少し後ろを歩いていた。
「ねぇ、ハリス。あなたはこのまま食べ物を探すの?」
「うん。朝ご飯食べてないから探すよ」
「そう。ジュリアス達はどうするの?」
「僕らは川とか湧き水とか、水場を探そうと思う」
「何も無い中で過ごす事になった時は、食べ物より水を何とかする方が大事らしいんだ」
エマは男子3人の意見を聞いて考え込みながら周囲を見ると、3人に向き直った。
「私は朱雀の2人にもう暫く着いて行くわ」
「えぇ!?ぼ、僕1人?1人は嫌だよ。
僕も一緒に行っていいかい?」
「オレはいいぜ」
「僕も構わないよ」
「じゃあ、川を探しましょ。先生が魚を穫って来たって事は、川が近くにあるって事でしょ」
こうして、4人は川を探して森を進む。
学院の敷地内ではあるが演習場との事で、4人は襲って来る獣がいないか気を付けながら進むと川に辿り着いた。
川にはすでに何組か到着していた。その中に、貴族出身の少年達がいて、ジュリアスとレヴィンを見つけると2人に近付いて来た。
「おい、金髪と黒髪の2人」
「僕達?」
「そうだ」
「何だよ?」
「貴様!平民のクセに何だその口の利き方は!」
「は?オレ達はお前の子分じゃない」
「何だと!」
キレる貴族出身の少年達を、小柄な金髪に鳶色の目をした少年が手を横に上げて制した
「僕はセブル・フォイス。侯爵家の長子で、白虎寮だ。
魔物に襲われたレベン村で生き残ったんだろ?学院……しいては王都で暮らすのに困らない様に、付き合う人間は選んだ方がいい。その辺りを僕が教えてあげよう。名前を聞いてもいいかな?」
ジュリアスとレヴィンは顔を見合わせた。
「僕はジュリアス」
「……レヴィンだ」
少し考えてからジュリアスが警戒しながら答え、レヴィンは貴族出身の一年生達をじっくり観察してから名乗った。
フォイスは貴族出身の一年生達の中で上の立場の様であり、フオィスの後ろから自分達を見下していると感じたレヴィンは、フォイス達に背を向け、ジュリアス、エマ、ハリスに声を掛ける。
「どうしたんだい?レヴィンにジュリアス。共に協力しようじゃないか?」
「協力するヤツは先に決まってたから断る」
「何!?フォイスさんが声かけてもらったクセに!」
「無礼な!」
口々に文句を言うフォイスの取り巻き達を横目に、レヴィンとジュリアスは川の様子を伺った。
「レヴィン、ジュリアス。この辺りは僕達が先に陣取った。
僕達と協力しないのならば他所へ行ってくれ」
「あぁ、そのつもりさ。オレ達は誰かの子分になる気は無いからな」
「チッ……貴族の僕達に対するその態度、必ず後悔させてやるからな」
フォイスは顔を歪ませ舌打ちをすると、苛立ちを隠さずにレヴィン達に言葉をぶつけるも、レヴィン達は何も言わずその場を去った。
レヴィンとジュリアスは川から離れる様に進み、フォイス達から完全に見えない距離を取ってからフォイス達から離れつつも川に向かって方向を変えた。エマとハリスはその後に続く。
「ねぇ、迷いなく進んでるけど、何か目的があるの?」
「え?あ……とりあえず水辺に近い所は押さえたいんだ」
「そう。川上をな」
「な、何でなの?」
「ハリス、さっきのフォイス達を思い出してみろよ。アイツら何するかわかんないだろ?
川下にいてアイツらが川に変な物を流したら、自然と自分の所に流れて来る」
「う、うん」
「あ〜、理解したわ。そうね、正しい判断ね」
途中4人は他の生徒達を見かけるも、どの組も何も無い中でどうしたらいいかわからずにいた。そして、フォイス達から距離を取った上流に辿り着くと、川の水が澄んでいるのを確認して飲んで見ると、川の水はすごく美味しかった。
歩き続けていた4人は水を飲むと周囲に転がっている岩に腰掛け一息入れた。
「お腹空いたなぁ〜」
「たしかに、貴族出身の奴らのせいで朝メシ抜きだからなぁ」
「休憩したら食べ物を探しましょうか」
「待って」
ジュリアスの一言に岩の上に寝込んでいたハリスは体を起こし、エマとレヴィンもジュリアスを見る。
「水はある、この岩場の岩で風が来ない所を見つけたとしても、夜は寒いと思う。今日だけの事じゃないから何とかしたいね」
「そうだよな~、一週間だもんな〜」
「で、でも、一週間ご飯無しは耐えられないよ」
「いや、ハリス君。食べ物を探さないわけじゃないよ。ただ、先に火を何とかしたいと思ったんだ」
「何とかってどうやって?」
「ジュリ、何か道具持ってるとか?」
「ううん。僕も何も無いよ。でも、ほら、前にニックさんの手伝いで木材集めした時に、ニックさんが木の太めな所と枝を擦って火をつけてたの覚えてない?アレをやってみたいんだよ」
「あぁ〜、あったなそんな事」
「さすが山育ちね」
「じゃ、じゃあ、焼き魚ができるんだね!」
「上手く行けばな。オレ達見た事あるだけでやった事はないんだよ」
「そう。でも、ヒントはあるわけね。やってみましょ」
こうして、4人は落ちてる木や枯れてる木から板状の木片を取り、できるだけ真っ直ぐな枝を拾う。
ジュリアスとレヴィンが木片の面側に枝を立てると、枝を両手で挟むと手を前後に動かして、枝を回し木片に何度も何度も擦り続ける。それを見たエマとハリスも、見よう見マネでやってみる。
10分、15分、20分とやり続けるも、誰も火を起こせないでいた。そして、30分が過ぎた。
「点かないわ……」
「クソ〜」
「僕もう手が痛いよ……」
「何でダメなんだろう……同じ様にやってるつもりなのにな……」
4人は火を起こすのを諦めて火を入れずに食べられそうな物を夕方まで探すも、ほとんど見つからなかった。
とりあえず、4人は風よけになる岩場に腰を下ろして、見つけた物を確認していった。
木の実の類は強烈な酸味や苦さで食べる事ができず、割りとキレイで枯れ木でない木の皮が気になって持って来ていたが、試しに齧ってみるとエグ味が酷く不味かった。
そして、ハリスが赤い傘に白い斑点を持ち、軸が肌色のキノコを取って来ていたが、ジュリアスとレヴィンが食べれるか判断が難しい事を伝え、そもそも生でキノコを食べて大丈夫かわからないのもあり、ハリスは躊躇いながらキノコを投げ捨てた。
日が落ち、灯りも無しに夜の森を動くわけにも行かず、岩を風よけに、なるべく寒くない場所を探してジュリアス、ハリス、レヴィンの3人は身を寄せ合い、エマは3人から少し離れた所に見つけた少し大き目の岩と岩との隙間に入り、体を丸めて寝た。
真冬ではないものの、まだ今の時期の夜は冷え、4人は寒さと空腹でなかなか寝付けずにいた。
まだ初日。それを思うと4人の気分は重かった。




