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聖剣士物語(仮)  作者: レイファ
第1章 ヴァリストン聖剣学院の授業
17/33

#17 第1章 4話

 ジュリアスとレヴィンは、他の新入生と共に試験会場であったホールの南側の出口から寮へと向かっていた。

 上級生のほとんどは先に進んで姿が見えなくなっていたが、階段を登り踊り場に出ると人集りができていて、よく見れば道が切れていた。


「新入生のみんな、よく聞いて。ここには見えない道があるわ。

 でも、よく見ればうっすら色が付いてるから、よく見てね」

「先にオレらが進むから、場所を覚えて着いて来い」


 そういうと、 赤い上着をなびかせて、朱雀寮のプリフェク生である二人は躊躇なく踊り場から飛ぶと、2mくらい先に着地した。

 新入生の何人かが踊り場から下を見ると底が見えなかった。


「じゃあ、同じ様にやってみて」

「先輩!こ、これ、落ちたら助からないんじゃないんですか?」

「7ヶ月くらい前に落ちた奴は、2日後に寮に戻って来て。1年半前に落ちた奴は3日後に軽症を負って戻って来て、さらにその前に落ちた奴も彷徨いはしたが、戻って来てるから安心しろ!」


 男のプリフェクトは指折り数えてニッコリ笑う。

 それから数分経ってから数人が走って飛ぶと、他の新入生達も後に続き、それを見たプリフェクト達は後に続く者達がいる事を確認しつつ先へと進んだ。そして、新入生達は金色の縁取りがされた赤い大きな扉の前に辿り着いた。


 新入生達が扉を見ていると、扉の上に女性の姿が浮かび上がった。


「ここを通りたければ、問い掛けに答えーー」

「お〜い、こっちに注目」


 扉の上の女性を無視するプリフェクトの声に新入生達が視線を下げると、男のプリフェクトが身振り手振りで説明する。


「ここが寮の入口で、上のアレはほぼフェイクだ。扉のこの部分に僅かな窪みが縦横5個づつ並んでいるから、真ん中の横5つを指で押さえて、扉の『答えて』の後に合言葉を言うんだ」

「……答えて」

「“自由を我らに”」

「いいでしょう。通りなさい」


 扉に浮かんだ女性が消え、扉が開いた。


「さ、入って」


 女のプリフェクトの指示に従い新入生達は扉を潜った。

 中は落ち着いた赤や茶系の色で上品な雰囲気の部屋で、新入生達が全員入ってもまだまだ余裕があった。そして、肌寒かった廊下と違い、寮内は心地良い暖かさに満ちていた。


「ようこそ朱雀寮へ」

「そういえば、自己紹介がまだだったな。

 オレ様はこの寮のプリフェクト。6年のラース・シュナイダーだ」


 長い銀髪のラースが鷹揚に挨拶をすると、隣りにいたもう一人のプリフェクトの少女がラースを叩いて前に出る。


「もう!ちゃんと挨拶しなさいよ。

 新入生の皆さん、はじめまして。私は朱雀寮生のまとめ役、もう一人のプリフェクトで、6年生のマリア・イェーガーです。よろしくね」

「「「「よろしくお願いします!」」」


 落ち着いた大人のお姉さんといった雰囲気の美人であるマリアに、新入生達はしっかりと返事を返した。


「今みんながいるのは寮の談話室です。

 左右の奥に階段があり、向かって右側は男子、左側は女子の部屋へと続いていますが、異性の部屋への階段への立ち入りは禁止です。

寮や学院のルールを破ったり、目に余る行動をした場合にはプリフェクトの権限で罰則を与えます」

「それから、生徒の行動や成績等によって寮に点数が入り、学年末時点の獲得点数がもっとも高い寮はさっきのホール兼食堂の、壇上の向かい側の壁に寮旗が掲げられる。勝利の証ってわけだ。だが、お前達がトロ臭いマネをすると減点される」

「私達の朱雀寮は、去年僅かな点差で負けてしまって、連覇が途絶えてしまったの」

「他寮の奴等から挑発されてもケンカはするな。

 やるなら罰則の無い決闘に持ち込め。

 特に!他の寮のプリフェクト達は、規律違反を犯した生徒に対して、現行犯なら減点できるから気を抜くな!」

「あと、ヴァリストンの授業は戦う事以外の勉強もあるけど、出された課題も寮の点数に影響するからちゃんとやってね。

 各自の得失点の合計にテストでの点数を足した物が個人の成績となるから、みんなしっかりね!」

「「はい!」」


 ラースとマリアの説明の後、布で切られた談話室奥の左右に男女で分かれ、新入生達は自分の体に合うサイズを確認して、制服・運動着・靴を予備も含めて受け取った。

 それらを両手で抱え、男女それぞれのフロアへと移動する。

 既に部屋割が決められており、ラースに呼ばれた新入生は指定された部屋へと入って行く。

 母屋は5階建てとなっており、二人一部屋、各ペアがどの部屋を使うかはランダムで決めたと説明があった。

 ジュリアスとレヴィンは5階の一番奥の部屋で同室であった。


 レヴィンとジュリアスは自室に入り、備え付けの机に制服等を置くと、レヴィンはベッドに横になり、ジュリアスは窓を開けて外を眺める。


「レヴィン凄いよ!良い眺めだよ〜」

「そりゃ一番上何だし眺めは良いだろうけど、毎日上り下りするのダリ〜よ」

「それは、トレーニングの一環って思うしかないんじゃない?」

「そうだな〜。とりあえず、揃って入学できたな」

「そうだね……」


 ジュリアスは哀しげに窓の外に目を向けた。

 そんなジュリアスを見て、レヴィンは話題を変えるべく、机の上に積まれていた教科書やノートの一番上に置かれた時間割を手に取った。


「なぁジュリ、時間割見たか?最初の授業は兵糧・野営術だってよ。今日いなかった先生だったよな?」

「え?あぁ、うん見た。たしかハピって先生だったよね?

 名前からすると、平民……もしかすると、僕らと同じ孤児出身かもね」

「まぁ、変な先生じゃなければ、そんなのはどうでも良いさ。

 でも、聖剣士(セフィター)を目指す上で重要そうな鍛錬科の先生は厳しそう……っていうか、おっかなさそうな人だったよな」

「鋭い目付きで、近寄りがたい雰囲気の先生だったよね?

 逆にイフリス先生は穏やかそうな人だったかな。

 僕は授業は楽しく無くても良いけど、授業に付いていけるかが心配だよ」

「フランシスカ様がオレらの前で剣を振った時は全然全力って感じじゃなったからよくわかんないけど、あのくらい力を身に着けないと聖剣士に成れないかもな」

「フランシスカ様……殺されたわけじゃないって隊長さんは言ってたけど、どうなったのかな……」

「詳しく言えないって言ってたから、少なくとも隊長はどうなったか知ってるんだろうなぁ。オレ達が聖剣士に成れたら聞きに行くのもアリかもな」

「うん」

「何かあの盾のせいでめっちゃ長い一日に感じたなぁ……。

 寝るには早いけど、オレもう寝るよ」

「僕も寝ようかな」


 そうして、2人はベッドに入ってすぐに爆睡した。



 翌朝、上級生のノックで起こされたジュリアスとレヴィンは、黒地に赤の制服に着替えて談話室に降りると、上級生達の後をついて食堂を兼ねたホールに移動した。


 食堂に着くと配膳が済んでおり、各寮のプリフェクト達は一年生席に着くよう指示を出している。

 よく見ればテーブルは昨日見たサイズよりも小さく、壇上から遠く置かれ、上級生達のテーブルとは間を空けられていた。

 ジュリアスやレヴィンはその事に対して疑問を持たず席に着き、周囲の生徒達を見渡した。

 どの寮の生徒も制服のデザインは同じであったが、朱雀寮生が着ている制服が黒地に赤なのに対し、青龍寮は黒地に青、白虎寮は黒地に白、玄武寮は黒地に緑と、寮ごとに色が違っていた。

 そして、一年生達の前に並ぶ料理は昨日よりも美味しそうな匂いを漂わせていたが、プリフェクトから強い圧と共に許可有るまで食べるなと言われ、どの一年生達も固唾を飲んだ。


 一年生が全員席に着いて少しすると、緑の上着を羽織った玄武寮のプリフェクトの少女、ロディス・コンボイが一年生の前に立った。


「注目!これから兵糧・野営術の先生を紹介する。

 先生、お願いします」


 コンボイはそう言うと、自身の腰くらいまでの高さの台を前に出して後ろに下がった。

 それと入れ替わりに小柄な人物が台の上に飛び乗った。

 ローブに覆われフードで顔も見えなかったが、フードの下から現れた顔は白ネコであった。


「一年生のみんな、はじめましてニャ!

 兵糧・野営術を担当するハピなのニャ~!」

「「「「えぇ〜〜〜〜!?」」」」


 二本足で立ち、にこやかに片手を挙げて挨拶するハピを見て、一年生達はハピを見て息の揃った驚きの声を上げる。


「ネ、ネコが立ってる」

「しゃ、喋ってる!?」


 どよめきが治まらない中、ハピはどこからともなく背後から自分と同じくらいの大きさの黒板サッと取り出すと、1年生達の背後で上級生達は一斉に耳を手で塞ぐ。

 ハピがボソっと何かを呟いて黒板をクィ〜〜っと爪で引っ掻いた。


 ギィ〜ギギギ〜〜〜〜!


 動作に反してけたたましい音がホールに轟き、一年生達は身悶え苦しんだ。


「騒ぎすぎニャ!ネコが二本足で立って人間語を喋っちゃいけない決まりでもあるのかニャ?」

「そんな決まりは無いけど……」


 ハピが自分の背丈と同じくらいの黒板をサッと背後に回すと、黒板はパッと消えた。

 それを見ていた一年生達の心は自然と一つとなり"有り得ない”と思っていたが、目の前に有り得てる存在がいるため何も言えないでいた。


「この世界は人間だけしか存在しないわけじゃないのニャ、まったく……。

 まぁ、ハピはスーパーなキャットだから驚くのは無理ないのニャ」


 ハピは胸を叩き得意気に語る。そして、上級生達からハピに対する声援が飛び、生徒達からの人気の高さを感じさせた。


「目の前に並んでいる料理は、挨拶代わりにハピが腕に縒りをかけて作った自信作ニャ。

 兵糧・野営術担当教師の力をとくと見……堪能すると良いのニャン!」


 いかにも決まったと思っていそうな顔をするハピ。


ガシャーン!バリーン!

ガシャガシャーン!


 突然大きな物音がしてジュリアスやレヴィン、他の生徒達が音のする方を見ると、白虎と青龍のテーブルで一部の一年生が料理をひっくり返し、机の上に足を乗せる者もいるのが見えた。


「ふざけるな!貴族である我々にネコごときが作った物を食べろと言うのか!」

「白虎の生徒達の言う通り!畜生が料理なんて笑わせる!」

「二足歩行して人間の言葉を喋る?冗談は大概にしろ!」


 騒ぎ出した生徒達は口汚く悪態をつき、料理を踏み躙ったのを見た一部の上級生が殺気立つも、悪態をついた生徒達は気付かない。


「ネコ……ごとき?畜生?

 ……何で……ハピの料理が……ぶち撒けられ……踏まれてるのニャ?」


 ハピに力が集まり、ジュリアスとレヴィンはそれが魔法の力に感じ、しかも魔物の攻撃をも防いだモーリス神父の魔法よりも強い様にも感じて嫌な予感がしていた。


「うにゃうにゃ〜〜!」


 ハピに集まった力が放出され、床が光り、床から現れた光の壁がテーブルを囲い、一年生達の周囲に天井からは格子が降り、一年生は閉じ込められた形になった。


ウ〜!ウ〜!


 ホールの前後左右からけたたましい警報音が鳴り響く。


〘プロジェクトHが発動されました。

 現在、各寮に待機する生徒無しを確認。

 1班は各寮にて所定の品の回収開始。

 2班は生徒の身体検査を開始。

 3班は各教諭へ連絡〙


 どこからともなく淡々と音声案内の声が聞こえる中、生徒達の間を何かが通り抜けて行く。

 ジュリアスとレヴィンも例外ではなく、何かが通り抜ける何かに足元から首元までサッと触られた様に感じた。

 そしてしばらくすると、またどこからともなく音声が聞こえる。


〘各寮から規定された品を回収終了。また、全一年生徒の身体検査終了。

 同じく規定された品を回収しました。

 他の教師達から反対意見無し。時間割を更新〙


 ざわめくのは一年生のみで、上級生達は動じる事なく大人しくしているが、ジュリアスとレヴィンはどこか上級生達が嬉しそうな感じがして不思議に思っていた。


「静かにするニャ、一年生!」


 ざわついていた一年生達がハピに注目し、ホールは静かになった。


「食べ物を粗末にできるオタンチンがいるから、連帯責任でこれから一年生全員に特別授業を課すのニャ!

 【一週間、自力で生き延びる】のが課題なのニャ。だだし、学院の敷地の外へ行く事、上級生から食料の類の受け取りは禁止。そして、課題が終了するまで学院から食事の提供を停止するニャン。

 ここまでで何か質問ある子はいるかなニャ?」


 一年生達は最初誰もが何が起こっているか理解できずにいたが、理解が追いついた生徒達が挙手をしていく。

 ハピは一人の生徒に持っていた杖を向ける。


「はい、挙手してるキミ」

「特別授業の間、食事はどうすればいいんでしょう?

 学院内にお店があったりするんでしょうか?」

「ヴァリストンに購買は無いニャ。課題は敷地内に森でやるから、そこで何とかするのニャン。あ、言っとくけど、誰かにやらせるのはNGニャ」

「ふざけるな!貴族のオレ達に平民共の様になマネをしろと言うのか!」

「オレ達にこんなマネをしてタダで済むと思ってるのか!」


 ここで貴族出身の一年生達が机を叩いたり、椅子を蹴る等して次々に文句を言うのを、ハピは冷めた目で見ていた。


「ニャ〜〜んで、貴族出身の子は自分達が特別って勘違いしてるのかニャ〜?

 そもそも、お前達が貴族のままだったとしても、教師が生徒に課題を課すのが問題になるわけないのニャ。

 それに、食料確保を自分でやるのは、昆虫でもやってるのニャン。まさか、貴族様はそんな生きる上での基本中の基本もできないのかニャ?生物として終わってるのニャ……ププッ」

「ネコちゃんかわいい〜」


 ハピはオーバーに身振り手振りをして、最後に口に手を当てて笑いを堪える仕草で貴族出身の一年生達を煽るが、貴族出身でない一年生の多くはハピの動きが愛くるしく感じており、貴族出身の一年生達とは全く違う空気に包まれていた。


「おいおい、どうなるんだよ……」

「なんか凄い所に来ちゃったのかも……」


 多くの一年生の気持ちは、レヴィンやジュリアスと同じ思いであった。

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