#15 第1章 2話
聖剣士になるための学校である「王国支援私立ヴァリストン聖剣学院」を受験したジュリアスとレヴィン。
第一の試験は床に出現した透明な物体を持って奥の扉を潜る事。
受験生達の誰もが透明な物体を持ち上げる事ができないでいたが、残り時間が半分を切ろうとした頃、1人の少女が持ち上げ切り、重そうにしながらもそのまま扉を潜ったのだった。
他の受験生達が茫然とする中、ジュリアスとレヴィンは周囲に目まぐるしく視線を送りつつ、考えを巡らしていた。
『透明なヤツは、大きさは似たり寄ったり……』
『物凄い重さで誰も持てないのに、あの女の子は持てた』
『最初は引き摺ってたのに、最後にはバテるどころか引きずらなくなってた』
『あの子は持ち上げ切る前に勢いを付けようとか、一気に持ち上げ様とするよりも……』
『『自分に言い聞かせてる様だった!』』
考えが纏まり目を合わせるジュリアスとレヴィン。
互いに同じ考えに至ったと思った2人は頷き合い、扉に近い所に転がっている透明の物の前にしゃがむと意識を集中させる。
『指が挟ったヤツは一瞬持ててた……大丈夫、持てる、イケる』
『魔法で出て来たコレは、きっとただのガラスや石じゃない。だから……』
『オレにはできる』
『僕ならできる』
『『……できる!』』
ジュリアスとレヴィンは意を決して透明な物を握り込み、腰を上げる。すると、先程まで全く持てなかった嘘の様に透明な物を持って立ち上がる事ができた。
「は、はは……っ!?」
レヴィンは一瞬気を抜き、その途端落としそうになるが、慌てて意識を集中して耐えた。
そして、ジュリアスとレヴィンはフラつきながらも歩を進め、扉を潜る事ができた。
「「っ〜〜………」」
「よし、手を離して良いぞ」
ジュリアスとレヴィンは透明な物を持つのが限界に達した所で黒尽くめの男の声が聞え、目だけ動かし声の主が黒尽くめの男である事を確認すると、2人は同時に透明な物から手を離した。
透明の物は床に落ちると甲高く何かが割れる様な儚げな音と共に床に転がった。
ジュリアスとレヴィンは汗が吹き出し、息が切れるも、体の状態に対して辛さは軽く、初めて感じた感覚に戸惑っていた。
「じきに砂時計の砂が落ち切る。それまでコレでも食って待ってろ」
「え?あ、ありがとうございます」
黒尽くめの男は小さな革袋をジュリアスとレヴィン、2人より先に扉を潜っていた少女に投げ渡した。
3人は袋の中身を取り出すと、焦げ茶色の物が出て来た。
少女が躊躇いなく口にするのを見て、ジュリアスとレヴィンも恐る恐る口に入れると濃厚な甘みが口の中に広がった。そして、ジュリアスとレヴィンは妙に気怠さを感じ、甘みを噛み締めながら床に仰向けになり、少女も壁を背に座り込んでいた。
しばらくして聞こえて来た足音に反応して3人が体を起こすと、やって来たのは黒尽くめの男だけだった。
「待たせたな。砂が落ち切った。お前達以外は全員不合格だ」
「じゃあ、合格!」
「馬鹿者!最初に“第一の試験”と言ったのを忘れたか。
この第一の試験で、聖剣士に成れる可能性が皆無の奴らがふるい落とされた」
「え?アレでそんな事がわかるの?」
黒尽くめの男の顔がレヴィンの方を向く。
仮面で表情は見えないが、レヴィンは無言プレッシャーを受け押し黙った。
「次の試験で最後だ。奥に進めば次の試験官でもあるヴァリストンの教師がいるから、その者の指示に従え。
わかったら行け」
それだけ言うとジュリアス達の反応を待たず、透明な物が転がっているフロアに戻って行った。
残されたジュリアス達は、黒尽くめの男に言われた通り奥へと進んだ。
少し進むと他の部屋からの合格者達と合流した。そしてさらに進むと数段高い所に扉があり、扉の前には黒地に金の帽子とローブを纏った年配の女性が立っていた。
その眼光は鋭く、一見すると魔法使いの様な格好だが、その腰には細身の剣を差していた。
「後から来た受験生の皆さん、聞きなさい。
第一の試験はまだ終わってない組がありますので、終わるまで待機です。
座るのは良いですが、寝っ転がらない様に」
多くの受験生は床に座った。ジュリアスとレヴィンも次の試験内容がわからない事もあり、待ち疲れない様にする意味でも座って待った。
暫く経ち、ジュリアスとレヴィンがうとうとし始めた頃、後続の第一試験通過者達がやって来て、待っていた受験生達に起立の号令が掛かった。
数段高い所にある扉の前に先程の女性が立ち、受験生達を見回した。
「皆さんはじめまして。私は当学院の教頭、ミナーヴァ・マクディッドです。
第二の試験について説明をします」
待っていた受験生達の待ち疲れから少し緩んだ感があった受験生達に、再び緊張感が満ちる。
「このあと、全員で中に入り広間まで行きますが、そこには学院長や教師、在校生達がいます。
そして広間には“選抜の盾”と呼ばれる盾が置いてありますので、名前を呼ばれたら前に進み、盾を手に取ります。
当学院には青龍、白虎、朱雀、玄武の4つの寮がありますが、盾を手に取り盾から寮名が宣言されれば合格。落第の宣言をされれば不合格となります。
なお、第一の試験は15歳になるまでに3回受験する事ができますが、この第二試験で不合格となった者は以後受験する事がでません」
受験生達にざわめきが起きる。ジュリアスとレヴィンは不合格になった後の事を考えてなかったので動揺はなかった。
ジュリアスとレヴィンが周りを見れば、平然としている子もチラホラ見てとれた。
「静かに!理由あっての事ですので、異論や文句は一切認めません。
それでは移動します。前の者に続いて着いて来なさい」
マクディッドの一喝で静まり返った中、マクディッドが左右の扉の取っ手を下げるとガチャリと重い音が響き扉が開いた。
「(え!?ちょっとレヴィン。あの扉、凄い厚みだよ)」
「(え?あぁ……ホントだ。鉄でできてそうだけど、あのオバサン普通に開けたよな?)」
「(うん……あ!聖剣士になるための学校の教頭先生だし、聖剣士なのかも)」
ヒソヒソ話しをしつつ、受験生達はマクディッドの後に付いて行き、3階に上がってさらに進むと、マクディッドは再び大きな扉を開けた。
レヴィンが覗き込むと、今度の扉は普通の厚みであった。
受験生が全員部屋の中に入ると扉は閉じられた。
「ここで止まりなさい」
マクディッドは受験生達に止まるよう指示すると、生徒達の右斜め前へ離れていく。
その先には壇上があり、壇上に数人の大人達が座っていた。そして、壇上から間を開けた向かい側には在校生達が座っており、壇上と在校生の間には1枚の古びた盾が台座に置かれていた。
「これより、選抜の儀を行います。名前を呼ばれた物は壇上と在校生の間を進み、中央に置かれた盾を手に取り、盾を在校生達に向けて掲げなさい。
寮名が告げられ、各寮の紋章が盾に浮かび上がれば合格……その寮への入寮が決定ですので、盾を台座に戻して自分の寮のテーブルに着きなさい。
もし落第と告げられた場合は盾を台座に戻し、通路を突き当たりまで進みなさい」
マクディッドは巻き物をゆっくりと巻き紙を開き、受験生達は身を固くした。
「サガリオン出身、アート・レオルグ」
「は、はい!」
赤髪の少年アートは緊張した面持ちながらしっかりとした足取りで進み出て、盾を手に取った。
少年の体がビクっとしたり、少し苦しそうに見えた後、アートが両手で盾を掲げると盾は緑に光りをまとい、アートの足元からもの光が立ち昇った。
「玄武!」
老齢の男性の声が盾から発せられ、周囲に轟いた。
それと同時に緑のテーブルに座っている在校生から短い歓声が上がった。
アートの足元から緑のテーブルへと緑の光りが伸び、アートは盾を台座に追いて緑のテーブルへと向かった。
「カザン鉱山出身、アイネス」
「はい」
マクディッドに名前を呼ばれたアイネスが盾に向かった。
一見して粗末な服を着た濃い茶髪のアイネスの目付きは鋭く、緊張した様子も無く、盾を右手で取ると、左手で盾の下部を持って掲げた。
程なくして、今度は白い光りが盾を覆った。
「白虎!」
盾からの宣言で今度は白いテーブルから歓声が上がり、アイネスは盾を台座に戻すと一瞬フラつくもしっかりとした足取りで白いテーブルに進んだ。
その後もマクディッドに呼ばれた受験生は順番に盾を持ち、4つの寮のいずれかに割り振られていった。
「レベン村出身、ジュリアス」
「はい!」
「(レベン村⁉)」
「(レベン村ってちょっと前に――)」
在校生や受験生達からヒソヒソとざわめきが起こった。
これまでに無い反応にジュリアスは戸惑い足が止まり、周囲をキョロキョロしているとマクディッドと目が合った。
マクディッドに手で台座に進むよう促されると同時に、壇上でドンと音がして在校生と受験生は静まり返った。そして、ジュリアスは台座の前に着くと、深呼吸を1つしてから盾を手に取った。
次の瞬間、ジュリアスの前には見た事のない景色が広がっていた。
赤紫の空に、濃い紫の石畳。枯れた草が所々に生えている以外は何も無い場所であった。
何もなく、誰もおらず。鳥や虫、動物の等の姿も無ければ物音も無かったが、じっとしていてもどうしようもなく思え、ジュリアスは何となく歩き出す。
暫く歩くと遠くに動物が見え、目を凝らしつつ近付くと血が逆流する様な感覚に襲われ、大声を出しながら全力で駆け出した。
息が切れ、喉の奥から血の味がしてくるも、気に止める事も無く走りづけた。
動物は翼を持つ魔物で宙に浮いており、その下には左右に突き出た岩に少女が手足を鎖で繋がれていた。
ジュリアスからは少女の後ろしか見えず顔を確認できないが、艷やかな長い黒髪、魔物に痛めつけられたのか所々ケガをし、ボロボロながら服装だが、少女の背丈やその後ろ姿から感じる雰囲気は、レベン村で魔物に襲われ、意識を失っている間に殺されたジュリアスの想い人であったエミリア以外に思えなかった。
文字通り必死に少女へ駆け寄ろうとするジュリアス。
少女まであと2〜3m程という所で何かにぶつかり地面に転がった。
全力で硬い何かにぶつかったジュリアスは痛みで気を失いそうになるも、歯を食いしばり立ち上がると少女の方に歩くが、やはり見えない壁に阻まれてしまう。
「エミリア!エミリア〜!
クソ!クソ!クソ〜〜〜!」
ジュリアスが何度も手で叩くも見えない壁はビクともせず、次第にエミリアの名を叫びながら何度も体当たりを繰り返した。
「あの少女が大事か?」
「え?」
どこからともなく老人の声が聞こえ、ジュリアスは周囲を見るも誰もいないが、はっきりと聞こえたため戸惑いながらも言葉を返す。
「彼女……エミリアは大事です」
「ほう?彼女は本当にエミリアか?
呼び掛けにも反応しないが?」
「でも、あれはエミリアで――」
「殺されたんじゃないのか?」
「!?…………で、でも、どう見ても……」
「どう見えたとしても、え死んだ人間で存在するはずがない。ならば、危険じゃないのか?
魔物に襲われ、どうする事もできなかったのだろう?」
「それは……そうだけど」
「ならば逃げるがいい。不可視の壁があるならば向こうもこっちには来れないだろう」
その一言に一瞬ジュリアスの心は揺らいだ。だが、後退って視界の魔物に意識が向くと、怒りや憎しみ等のドス黒い感情がこみ上げて来た。
「その力で良いのか?」
「え?」
ふと我に返ったジュリアスが顔を上げると見えない壁が光りを反射し、自分の顔が見えない壁に一瞬映った。
その顔は、翠眼であるはずのジュリアスの目が黒目とは違うドス黒い目に見え驚いて飛び退き、何故か心に激しい迷いが生じた。
「どうするね?せっかく拾った命だ、大事にするも良し。魔物に立ち向かうも良し……好きにすればいい」
ジュリアスは今まで以上の力で拳を握り込み、少女を見つめたまま叫んだ。
「もう、あんな思いはしたくない!
例えエミリアじゃなかったとしても、後悔はしたくない!
僕は助けに行く!」
ガン!ガラン、ガラーン……。
ジュリアスが全力で踏み出そうとした背後で、硬いものが床に落ちた様な音がして、ジュリアスが振り返り足元を見ると、そこには選抜の盾が転がっていた。
ジュリアスは盾を見ると無心で盾を拾い、盾を左手に持ち左半身前に出し盾ごと体当たりする構えを取ると、見えない壁に突進すべく思いっ切り踏み出した。
そして、またも見え無い壁に阻まれるも、今度はその場に踏ん張り、素早く盾を体の右側に持ち替えると、今度は右半身を前にして見えない壁に体当たりした。
するとミシミシと音がして次第に見えない壁に罅が入って行く。
ジュリアスは左半身を前に出しつつもう一撃入れ、両手で持っている盾で押し上げる様に見えない壁を突き破った。
その直後、勢い良く光が溢れ、徐々に強くなっていく。
「エ、エミ……エミリア〜〜!」
ジュリアスは体が動かずにいたが必死に少女を見つめていると、拘束されていた少女が振り返りその横顔が見えた。
その顔は悲しそうに微笑むエミリアである事を認識すると、ジュリアスの視界は真っ白となり何も見えなくなったのだった。




