#13 序章 13話
傷だらけになりながらもレベン村に戻ったレヴィン。
村に連れ帰ってくれたエゼントの死に立ち会い、レヴィンの家である崩れた教会の傍らで、レヴィンはジュリアスの姿を見つけた。
「ジュリ!おい、ジュリ!」
レヴィンは痛む体でフラつきつつも、ジュリアスに呼びかけながら近付くも、ジュリアスは聞こえていないかの様に微動だにしない。
「おい、聞こえないのか?
……ジュリアス?」
レヴィンがジュリアスの肩に手を置くと、バランスを崩した人形の様にレヴィンの手の方に力無くジュリアスは倒れ込んだ。
レヴィンは、慌てて何度も呼び掛け続けていると後ろから両肩を掴まれ、振り返ると悲しげな顔をしたシスタークラレンスが立っていた。
「レヴィン。今は……そっとしてあげて。ね?」
悲しげな表情のまま、クラレンスはゆっくりと諭す様にレヴィンに語りかけ、レヴィンはジュリアスから手を離した。
「シスター……一体どうなったの?他の皆は……?」
「……ついて来なさい」
レヴィンの問い掛けに涙を滲ませたクラレンスは、レヴィンに背を向けたままついて来る様に言うと、ゆっくりと歩き出した。
レヴィンはクラレンスの後をついて行くと、兵士のウェッジとビックス、神父のモーリス、村で果樹園を管理していた中年の男ダンカンが座り込んでいた。
全員傷だらけで、特に横たわっていたモーリスは重症で、右足の膝上から下が無かった。
「レヴィン!?生きてたか!……っ!?」
「ほら、無茶すんじゃないよ。あんたも重症なんだから」
レヴィンに気付き立ち上がろうとするも痛みで立てないウェッジを、クラレンスが落ち着かせた。
「レヴィンが……いるのですか?」
「はい。ここにいます」
宙に伸ばしレヴィンを探すモーリスの手を、レヴィンは声を出せず無言で掴んだ。
モーリスの目の上に巻かれた包帯か赤く染まっていた。
「目を切られて顔が見れませんが、大怪我はしてませんか?」
「は、はい……」
「良かった……」
どんな時でも笑顔で、兵士達とは違う力強さの様な物があったモーリスが、片足を失い全身ボロボロで、か細くなってしまってる声を聞いて、レヴィンは溢れる涙を堪えるのに必死だった。
その後暫く経ってクラレンスが食事を用意し、クラレンスとダンカンがモーリス達に食事を食べさせ、レヴィンは食欲が無いものの腹が鳴り少しづつ食べた。
誰も喋る事なく食事をしていたが、レヴィンは食べるのを止め、沈黙を破った。
「あの……シスター。ジュリはどうしたの?」
「え?………。
……あの子の目の前で……エミリアが殺されたみたいなの。
エミリアはあの子にべったりだったけど、あの子もそれを望んでいつも一緒にいたから、たぶん……心が耐えられないでいるんだと思うわ」
「エミリアも……」
ジャリ、ジャリっと足音が聞こえマギーとレヴィンが目を向けると足音の主はオルガであり、レヴィンは今までオルガがいなかった事に気付いた。
オルガはモリースの傍らに膝をつき、この場にいるジュリアス以外の全員がオルガに注目した。
「モーリス神父。村に……生き残りは他にいませんでした。
結界の反応も無く、範囲内は恐らくどこも同様かと」
「何とういう……何という事だ……」
「な、なぁ、オルガ隊長。何で……そう言い切れるんだ?
もしかしたら、レヴィンの様に……生きてるヤツがいるんじゃないのか?
倅は……勘が良かったし、運動神経も凄かったんだ。だから__ 」
「ダンカンさん、生きてて欲しいと思う気持ちは痛いくらいわかる。だけど、結界の最終段階では、この村を中心に一晩で移動できる以上の範囲に生存者がいれば、緑の光が上がるはずなんだ」
「でも……」
「結界は古代遺産で、現在の王宮魔術師団でもそうそう作れない程高度な物なんだ。
だから……」
「くっ……」
オルガの説明に、頑固親父の風体のダンカンは、両手で顔を覆い男泣きした。
「ダンカンさん。一緒に息子さんはじめ、村の皆の冥福を祈りましょう」
オルガはダンカンをモーリスに任せ、黙って傍を離れた。
レヴィンは立ち上がると、オルガの前に立った。
「どうした、レヴィン。お前もケガしてるだろ……今は休め」
「隊長さん!オレ、レーゼ村で襲われて逃げる途中で崖から突き落とされて……。
何がどうなったかわかないんだ……。
オレら以外みんな殺されたって何で?
あの化け物は何なんだよ!」
オルガは少し考えて口を開きかけた時、オルガが無言で驚き、ふと隣りを見たらジュリアスが立っていた。
「僕も………その話し聞きたいです」
「……。ふぅ……。
ジュリアス。辛い話しかもしれんが……それでも聞きたいか?」
「もう既に辛いですから、今さら……」
「……わかった」
オルガは瓦礫に腰を下ろすと、オルガは語った……。
魔物は滅びておらず現像する事。
今回、魔物達は最初に山間の駐屯所に現れ、次にレベン村の高台と呼ばれる岩山から現れ、レベン村や周辺の村を襲った事。それは、各村に魔物が入るか、村の結界に魔物が触れる事で立ち昇る赤い光で確認できる事。
聖剣士であるフランシスカと共に、オルガ達駐屯兵や守りの魔法を使えるモーリスが奮戦するも、魔物は分裂して数を増やし、村を守り切れなかった事。
そして、魔物の被害が拡大しない様にするため、古代遺産を使い魔物達を封殺した事を話した。
「な、なんでその古代遺産ってのを最初に使わなかったんだよ!」
「そうですよ!そうすればエミ……みんな死なずに済んだのに!」
ジュリアスとレヴィンはオルガを問い質した。
特にジュリアスは仇を見る様にオルガを睨み付けた。
「そう言いたくなる気持ちもわかる。でもな、あれは使うのに条件があったり代償がいるの代物なんだ」
「代償?」
冷静に話す様努めていたオルガに悲壮感が滲む。
「発動させた者達は力の反動に耐えられければ命を落とす。その上、魔物の力に少しでも侵された人間も封殺されてしまうのだ」
「「……」」
「現に11名の住民が発動してすぐに命を落とし、起動に関わった者は7名が命を落としフランシスカもかなりの消耗した。そして、フランシスカはその身と引き換えに古代遺産の力を使って、親玉の様な魔物を封じた」
「そ、そんな……フランシスカ様も!?
せ、聖剣士が殺られるなんて……」
「いや、詳しい事は話してやれないが、フランシスカは魔物に殺されたわけじゃない」
レヴィンはフランシスカが殺される所も、亡骸を見たわけではない。しかし、聖剣士……それも上級階級である白銀の中でも数少ない、"ガルーダ”の称号を持つフランシスカの行方がわからない事にショックを受け、暫し呆然とする。
「……で……でも、物語の話しだと思ってた魔物が、何でウチの村に現れたんだよ?」
絞り出す様に質問するレヴィンの言葉に、オルガの目が僅かに細くなった。
「山間の駐屯所の岩山と、村の中央……お前達が高台と呼ぶ岩山は、魔物の封印だったんだ」
「「!?」」
「光迎祭の本当の目的は、封印の力をチャージさせる事だったのさ」
オルガは話しを止め、ジュリアスを見つめる。そして、オルガは暫く黙った後、口を開いた。
「フランシスカが最後に話した時に言っていた、エミリアが身に着けていたネックレスから闇の力が出でいる……と」
ジュリアスとレヴィンは驚いた。特にジュリアスは心臓を掴まれる思いだった。
「何か心当たりがあるみたいだな。ジュリアス?」
「あ……う……」
「エミリアが高台に入る際に会ったが、その時あの子はネックレスは身に着けてなかった。
アレはどこで手に入れ入れたんだ?」
オルガはジュリアスにといかけるも、ジュリアスはショックでオルガの声が耳に入っていない様子なのを見て取り、目だけでレヴィンを見た。
「あ……あれは、ヘザーの街の露天で買ったんです。
黒い石を包む様に青い木を彫った飾りが付いていて、その木には何か少しだけど聖属性がの力が付いてるって……」
「その商人に、お前達がどこから来たのか聞かれたか?」
「え?あぁ……そういえば、聞かれた様な……」
「ふ〜……たぶんそいつだな」
オルガは深いため息をつきながら右手で眉間を揉んだ。
「たぶん、その商人がお前達がレベン村に来たのを知って、そのネックレスをお前達に渡る様にしたんだろう。そして、ジュリアスは禁を破って高台に入り、ネックレスをエミリアに渡した……。
眷属の役をだったあの子は、あの時封印の力をチャージするための鍵の様な状態だった。そこにネックレスの隠された闇の力で……」
「ぼ、僕のせい?僕が高台に忍び込んだから?僕
が、エミリアにあのネックレスを渡したから?
だから、エミリアは殺されたんですか?僕のせいで……」
「でも、隊長!あのネックレスの木材は、少しだけど聖属性の力があるって!」
「恐らく、闇の力は眠っていて、その木材が闇の気配を隠していたんだろう。
現に、オレやフランシスカは違和感を感じる事はあったが、封印の力が弱まった影響と考えていた」
「そんな……」
ジュリアスはその場に泣き崩れた。
レヴィンも、ジュリアスがトイレから戻って来ない事で裏山に忍び込みに行ったと思ったものの止めに行かなった後ろめたさを、砂を噛む思いで感じていた。
「一番の悪はあんな物を売った商人だがな。でもな……。規則を破った事がこの事態に至った要因の一部である事は、忘れないで欲しい。
まぁ、いかなる状況でも規則通りしか動けないのも、状況によってはダメだがな」
オルガは立ち上がるとジュリアスの前に立ち、ジュリアスに手を伸ばす。
ジュリアスは目を閉じ歯を食いしばるも、オルガに頭に優しく手を置かれ、ポン、ポンと軽く叩かれた。
「とりあえず、焚き火の傍で一度寝るんだ。
目が覚め、シスタークラレンスの魔力が回復したら、回復魔法をかけてもらう。
今後の事はその後話し合おう」
そう言うとオルガはジュリアスとレヴィンから離れた。
レヴィンはジュリアスを立たせ、焚き火の傍にまで連れて行き、ジュリアスの傍で横になった。
ジュリアスとレヴィンが目を覚ますと、クラレンスがダンカンに回復魔法をかけていた。
クラレンスはその後全員に魔法をかけて疲労困憊といった様子だったが、重症だったモーリス、ウェッジ、ビックスの3人は命の危険は脱した。ただ、全快には至らなかった。
幸か不幸か、光迎祭でご馳走を出す予定だったため、瓦礫から比較的容易に食糧を確保できており、それらを大事に食べていた。
食事を済ませたジュリアスとレヴィンの前に、カルドが真面目な顔で立った。
「ジュリアス、レヴィン。これからの事だが……。
レベン村やこの辺り一体はまず間違いなく近い内に封鎖地区となるだろうから、ここに居続ける事はできない。
ウェッジ、ビックス、モーリス神父は命の危険はなくなったが、まだ暫くはシスタークラレンスの魔法による治療が必要状態でここを動けない。
オレもここで兵士達のまとめ役としてやる事があるから、この地域を離れられない。
……で、お前達には選択肢が3つある」
オルガは指を立て数えながら話しを続ける。
「一つはヘーザの街の教会に移ってあの街の孤児達と暮らす道。
二つ目は、ヘーザの街かヘーザ周辺で見習いとして住み込みで働く道。
三つ目は、王都に行って何らかの学校に入って特定のジョブを目指す道。
ただし、どこも試験があり、その分野の可能性を示せないと入れないがな」
「よく考えて決めねばなりませんよ」
杖をつき、クラレンスに肩を借りてやって来たモーリスをオルガも支え、オルガは自分の隣りにモーリスを座らせた。
「1つ目はこれまでと然程変わらない生活でゆっくりと将来の事を考えられますが、2つ目の住み込みで働くのはこれまでよりも責任感を持ち、遊びたい等の欲求を我慢する必要があります。でも、手に職を付けられたり、給金でそれなりに安定した生活ができるでしょう。 そして、3つ目の学校は辛い修練が課せられ、場合によっては命を落とす可能性もあります。
それぞれにメリットとデメリ__ 」
「3つ目!」
バッと立ち上がったレヴィンは、意を決した強い眼差しとなっていた。
「フランシスカ様に、王都には聖剣士になるための学び舎があるって聞いた。
オレはそこに行く!」
「ヴァリストンか……」
「ヴァリストン?」
「王国支援私立ヴァリストン聖剣学院。
世界で唯一聖剣士になるための学校だが、入る事ができても命を落とす率は最も高いぞ?」
「それでも……行く!
マリウス達の敵を討てる様に成りたいんだ!」
敵を討つという一言を聞いて、それまで俯いていたジュリアスも立ち上がると一歩前に出る。
その目には強い怒りが籠もっている。
「僕もその学校に行きます!エミリアを殺した魔物達を倒せる様に成りたい!」
「2人にとって、家族とも言える仲間達が殺された事に対する思いはわかる。
だかな、修練は本当に辛く、命を落とす確率が高いのもウソじゃないぞ」
オルガが、強い眼差しでジュリアスとレヴィンを順番にじっと視線を向けたが、2人は視線を全く反らさなかった。
「モーリス神父、本気の様ですよ?」
「良いでしょう」
「モーリス神父。ですが、ヴァリストンは……2人には心のケアが必要なんじゃないでしょうか?」
すんなりジュリアスとレヴィンがヴァリストン聖剣学院に入るのを認めた事に、クラレンスは即座に反論した。
「シスタークラレンス。貴女の言う事もわからないではありません。
ですが、2人には確固たる思いがあると感じました。
その思いを燻らせるのは、かえって良くない方向に2人が進む様に感じたのです」
「……」
「それにれ、最初の試験で2人とも即不合格になるかもしれませんし、入学できればしっかりと躾られるでしょうしね」
「な、なんスかそれ?」
「聖剣士としての力の根源たる物を発揮する可能性が皆無の者は、最初の試験で“必ず”落とされるのさ」
「ジュリアス、レヴィン……緊急時の取り決めはちゃんと機能してる様ですから、2〜3日で応援の兵士の方々が村に着くはずです。
それまで今後どうしたいのか、もう一度冷静に考えるのです」
その後、村の多くの場所で被害者達が無惨な姿となっていたため、ジュリアスとレヴィンは教会跡周辺でモーリス達重症者の世話や、回復魔法を行使するクラレンスの手伝いをし、オルガとダンカンは被害者の亡骸を埋葬すべく一箇所に集めていた。
3日後、完全武装をした兵士の一団がレベン村にやって来て兵士達が慌ただしくする中、馬車の前にジュリアス、レヴィン、ガルド、モーリス、クラレンス、ダンカンの6人が集まっていた。
「ジュリアス、レヴィン。これから出立だが、どうする考えたか?」
「「はい!」」
「聞かせてくれ」
「オレはヴァリストン聖剣学院を受験します」
「僕もです」
「命の危険もあるが、良いんだな?」
「「はい!」」
「わかった……」
オルガジュリアス達から離れ、馬車の傍に控えている兵士達に指示を出す。
「シスターマギー・クラレンス」
入れ替わる様に一人の女性がやって来た。それは、レーゼの街の修道士長メアリーであった。
「メアリー修道士長!?どうしてこちらへ?」
「貴女の代わりです。辛い中、よくがんばりましたね」
「修道士長……」
メアリーに優しく抱きしめられ、クラレンスは涙した。
「貴方はあの子達に付き添ってあげなさい」
「でも、まだモーリス神父達の治療が……」
「それは私が引き継ぎます。だから、この苦境を生き残った2人に、共に生き残った貴女が付き添ってあげるのです」
「はい。メアリー修道士長」
「ジュリアス、レヴィン。こちらへ」
「「はい」」
瓦礫に腰掛けているモーリスの前に立ったジュリアスとレヴィンを、モーリスは優しく抱き寄せた。
「2人がこの村で拾われて、約10年。大きくなりましたね。
諦めたらそこで可能性は終了ですが、時には引く勇気も必要です。
無茶や無謀を通そうとして、命を落とす事が無い様に。
他者への優しさを忘れないで下さい」
「「はい、モーリス神父」」
モーリスはジュリアスとレヴィンを回れ右させると、2人の背中を押した。
「旅立ちの時です」
モーリスは痛む体に鞭を打ち、瓦礫に掴まりながら立ち上がった。
「ぐっ……。この村の子供達は、私は自分の子供の様に思っていました。
ここら一帯は封鎖され、2人は故郷さえも失ってしまいますが……私の命ある限り2人の幸せを祈っています!
生き残った事に引け目を感じる必要もありません。
精一杯生きるのです!
行きなさい!息子達よ!!」
「「い"、い"っで来"ま"す"‼」」
ジュリアスとレヴィンは泣きながらモーリスに応え、馬車に乗り込んだ。
痛みでフラついたモーリスをクラレンスとメアリーが支えた。
「ありがとう。さあ、シスタークラレンス……貴女も。
ジュリアスとレヴィンを頼みましたよ」
「はい……はい。お任せ下さい。
長い間、ありがとうございました」
「いえ、シスター。それは私の台詞ですよ。
神のご加護を……」
レベン村は周辺地域もろとも壊滅した。
僅かな生き残りである、クラレンス、ジュリアス、レヴィンの3人は、応援で来た兵士達と共に馬車で一路王都へ。
道中、季節外れの雪が静かに舞い落ちていた……。




