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聖剣士物語(仮)  作者: レイファ
序章 レベン村の子供達
12/33

#12 序章 12話

 ジュリアスとエミリアを除く生き残ったレベン村の子供達は、村を出て隣村のレーゼ村に避難すべく、夜の山道を進んでいた。


 子供達の隊長に指名されたゼノンの指示で、駐屯所から持ち出した12本のトーチの半分は温存する事とし、前列に3本、左右と最後尾に1本づつ火をつけたトーチを持たせ、外側にレザーシールドを持った子供が歩いた。

 獣道ではないが夜の山道は不気味で、魔物に襲われた恐怖が拭えていない子供達は、灯りの届かない暗がりから今にも魔物が飛び出して来るんじゃないかという怯えから、誰一人喋る事はなく進んでいた。


 途中、子供達から5mという距離で獣と出くわすも、火を向けたからか、別の何かを気にしてかの様にも取れる挙動をしつつすぐに子供達から離れて行った。

 2時間程歩いて子供達は休憩を取った。


 果実水は体に染み渡る様で美味しく感じたが、食べ物は光迎祭で出るはずだったご馳走の一部だったにも関わらず、どの子供も喉を通らなかったり、味を感じる精神的余裕がなかった。


 ほどほどに休暇を切り上げ、子供達は暗い山道を再び歩き出した。そして、2時間以上歩いて、獣や魔物に襲われる事無くレーゼ村に無事辿り着いた。


「すみませ〜ん!誰かいませんか〜?」


 レーゼ村の門は閉ざされていて、ゼノンが門を叩き門の向こう側に向けて大声で呼びかけた。

 何度か繰り返すも中から反応は無く、今度はレヴィンや数人の少年も一緒に門を叩きながら呼びかけた。

 

「誰だ?」


 子供達は、頭上から声が聞こえて見上げると、髭面の男が見下ろしていた。


「レベン村から来ました。村が襲われて、駐屯所のオルガ隊長に言われてこちらで保護してもらいたくて……中に入れてもらえないですか?」


 大声で返事をするゼノンや子供達を、門の上にいる男は怪訝そうに見渡す。


「ダメだ。レベン村なら特にな」


 子供達は予想もしなかった一言に凍り付く。


「レベン村の辺りから魔法の光が上がったのは見た。

 レベン村の奴らは自業自得だ!

 いつもレベン村ばかり優遇されてた罰が当たったんだ!」

「何の事ですか?」

「そうだ、何の事だよ?適当な事言うな!」


 男の突然の言葉に子供達の多くは困惑して何も言えなかったが、マリウス等一部の少年は文句を言った。

 男は子供の声を意に介す事なく言葉を続ける。


「生意気なガギが!戻って魔物のエサになるがいい。

 あぁ、年長組の女子だけなら入れてやってもいいな〜」


 忌々しげに喋る男の言葉に、少女達は身を寄せ合った。

ふいに下の方で金属音がして子供達が視線を下ろすと、閉ざされた門の小さな覗き口が開いて、こちらを覗く目が見えた。


「あの、僕達村が襲われて逃げ来たんです。助けて下さい!」

「助けて下さい!」


 子供達が覗き口に集まると、覗いていた男は狼狽つつも言った。


「ダ、ダメだ。守りの結界を発動してる。

 開けるとそれが解けてしまう」

「そんな!」

「わ、我々はこの村を守られねばならん」

「オレ達はオルガ隊長に言われて来たんぞ!」


 レヴィンは覗き口付近を殴りながら叫んだ。

 少し間があって再び覗き口の向こうにいる男は口を開く。


「た、隊長からそんな命令は、と、とと届いていない。

 ほ、本当の話しかわからん」

「子供を見捨てるのかよ!」


 レヴィンを押し退けマリウスが抗議する。


「赤い光……ま、魔物が出たんだ。

 我々はこの村を守る責務が……あ、ある」


 そういうと男は除き口を閉めた。

 レヴィンやマリウスが何度も門を叩きながら門の向こう側に呼び掛けるも、中から返事はなかった。

 子供達が途方に暮れていると、背後で複数の物音がして振り向くと、猪と狼を足した様な巨躯で黒いモヤの様な物を纏っていた。


「助けて〜〜!」

「お願い入れて〜!」


 子供達の多くが扉をバンバン叩きながら助けを訴える。

レザーシールドを持った少年達は盾を構えてるがジリジリ下がっていた。


「何故子供達を中に入れない!」

「レベン村のためにこの村を危険に晒すのか?

 何よりもう結界は発動したんだ。止めたら再発動はできんのだぞ!」


 門の向こうでは大人達が揉めてる声が聞こえて来る。

 しかし、人間達の声を遮る様に、甲高い何かが割れる音が轟いた。


 子供達が音のする頭上に顔を上げると、ガラスが割れる様に光が散り、塀を飛び越え黒い影がいくつも村に入り込んだ。


「うわぁ〜〜〜!」

「ぐっ、がぁ〜〜〜!」


 門の前にいたレヴィンやマリウスが振り返ると、レザーシールドを持った少年達が、魔物にシールドごと切り裂かれ、そのまま力任せに薙ぎ払われ吹っ飛ばされていた。

 それに続く様にレーゼ村の中からも叫び声が上がっていて、阿鼻叫喚の様相と化していた。


 子供達に迫った魔物は分裂して囲み、外側の子供達を襲いながら徐々に追い詰めて行く。

 武器を持った数人の少年達は反撃に出るも、全くダメージを与えられず返り討ちに合っていた。


「ぎゃ〜〜〜!」

「く、来るな〜〜〜!」


 今度は門の向こう側から悲鳴等が聞こえ、レーゼ村の中から赤い光が一直線に空に伸び、先程の赤い光=魔物が出た事だという話しが脳裏に浮かび、子供達は完全にパニックになった。


「みんな散れ!とにかく逃げるんだ!」


 追い詰められつつ子供達の中でゼノンが叫ぶと、子供達は各々逃げだすも、魔物に頭から食らいつかれる等次々襲われ、落としたトーチが枯れ草を燃やし、次第に煙も立ち込めて来た。


「クソ!何なんだよ!どこに行けば__ 」

「レヴィン!」


 レヴィンは突然横から突き飛ばされた。

 身体を起こし振り返ったレヴィンを目を見開いた。

 そこには首を伸ばした魔物に、左側から腰骨より下に食らいつかれてら身体が千切れそうになったマリウスであった。


「マ、マリウス⁉」

「ぶ、無事みたい……だな」

「マリウス、い、い、今助ける!」


 血の気が引き体に力が入らないレヴィンは、這ってマリウスに近付こうとする。


「来んな!お前だけでも逃げろ」

「でも……」

「コレを」


 マリウスは最後の力を振り絞って腰と懐から革袋を取り出しレヴィンに向かって投げるも、レヴィンまで届かなかった。


「マ、マリ……」


 レヴィンが革袋に手を伸ばそうとすると、マリウスに食らいついた魔物が頭を捻りながら引いて、マリウスの体は2つに千切れた。

 直ぐに魔物は大口を開いて、マリウスの上半身を一飲みにした。そして、魔物は頭を持ち上げつつ咀嚼をするのだった。


「あ"ぁ"〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


 レヴィンは一番近くにあった革袋だけを拾うと全力で走り出した。

 その後ろ姿を見つめる魔物は、体が2つに別れるとそれぞれが別の魔物となり、2体でレヴィンを追った。


 レヴィンは必死に走った。

 夕方までは光迎祭のご馳走は何を食べれるのか考えたりしてたのに、何故こんな事になってるのか?

 何故化け物に襲われてるのか?

 何故レーゼ村の人は助けてくれなかったのか?

 何故?何故?何故……。


 レヴィンは必死に逃げつつも、次第に恐怖より怒りが湧き上がっていた。

 魔物への怒り、憎しみ。

 レーゼ村の大人達への怒り、憎しみ。

 仲間が、友達が殺された憤り、怒り。

 当たり前の日常を失った怒り。

 無力な自分への怒りと苛立ち……。


 レヴィンは負の感情に飲まれ周囲の事が意識から外れていたが、背中から物凄い衝撃を受けてハッとすると、視界がゆっくり回っていて、足元から風を感じ、目を大きく開くと月が見えた後、視界が流れて下に森が見えた。


 『ヤバい、ヤバい、ヤバい……!!』


 吹っ飛ばされて崖から落ちてる事を無意識で理解し、顕在意識はレヴィンの負の感情を危機感が塗り替えるも掴める物すらなく、吹っ飛ばされた勢いのまま為す術も無く落下していった。



ズズズズ……………………。


「うっ……!?。助かっ……た?

 ……つ!?」


 地響きと揺れで目を覚ましたレヴィンは、体の色んな所が痛みながらも立ち上がると全身ずぶ濡れで、周囲を見て川辺に倒れていた事を理解した。


 背中から垂れ下がる物があり、何かと手に取ってみると練習用レザーアーマーの一部で、年長組ではなかったがお使いでレヴィンに合わせて調整したままだったため、クラレンスから渡され身に着けていたのだった。

 そのレザーアーマーを脱いでみると背中は大きく切られて端っこで繋がってる状態で、さらに落下した際に幾つもぶつけた様でボロボロになっていたため、レヴィンはその場に捨てた。

 そして、レザーヘルムや革袋がいくつか失くなっていて周囲を見ても見当たらず、マリウスからもらった革袋だけが腰に残っており、確認すると水漏れ等がなそうだったので、レヴィンは中の果実水を一気に飲み干した。


 改めて周囲をみると、木々の向こうに空へ伸びる赤い光が見えた。しがし、その光は消えつつあった。

 無我夢中に走ってる所を崖から突き落とされたため、自分がどこの辺りにいるのかわからなかったレヴィンは、何となく赤い光を目指して歩き出す。


『寒いし、痛い……夢じゃなかったんだ……どうなった?

 ジュリは……カイト……』


 レヴィンは答えの出ない事を延々と考えつつ、よろつきながら歩いた。

 やがて、登り坂が終わりさらに進んで開けた場所に出た。

 レヴィンには見覚えがありキョロキョロしながら進む。


「止まれ!両手を上に挙げろ!」


 レヴィンの背後から掠れながらも鋭い声に呼び止めら、レヴィンの首元には穂先が大きく破損した槍が突き付けられていたのもあり、レヴィンはゆっくりと両手を上げた。


「動くな……動けば切り捨て……レヴィン?レヴィンか!?」

「え?あ……エゼントさ……ん!?」


 正面に回り混んで来た男の顔を見え、エゼントである事に気付くと同時に息を飲んだ。

 エゼントは額から左頬にかけて二筋の裂傷があり、左目を覆った包帯は赤く染まり、右腕は二の腕の途中から先が失く、肩口付近を布で縛っていた他、全身ボロボロの状態だった。


「エ、エゼントさん……」

「そんな顔をするな。それより、1人か?他の子達はどうした?」


 レヴィンはレーゼ村に着いてからの事を掻い摘んで話した。


「そうか、村人だけでなく兵士達も……。

 すまなかったな。そんな言葉で片付けられない事になってしまったみたいだが、すまなかった」

「……」


 目の前で親友達が殺されるのを目の当たりにしたレヴィンは、返す言葉が見つからなかった。

 また、振り返るとレベン村の大人達は何かを自分達に隠している様にしか思えず、大人に対して不審感を持ち始めていた。


「エゼントさん。凄い怪我だけど……動いて大丈夫ですか?」

「気にするな。それよりも、この山間の駐屯所は地盤が緩くなっていて危ない。村に帰ろう」

「あの……帰って……大丈夫なんですか?」

「どちらにせよ、地盤が緩くなってるから移動するしかない」


 足を引き摺りつつ歩き出すエゼントの後を追おうとして、エゼント以外に人影すらない事に気付いた。


「エゼントさん。1人……何ですか?」

「……そうだ。行くぞ」


 レヴィンはエゼントと共にほぼ獣道の山道を登った。

 重症のエゼントは槍を杖にして辛うじて歩を進め、レヴィンも傷だらけでフラフラの状態で、その足取りは重く安定しないものだった。


 数日前通った時と違って直線的に進んではいたが、二人共ケガが酷いため、エゼントの案内で迷う事なかったが怪我で時間がかかり、東の空が明るくなり始めた頃にレヴィンとエゼントはやっとレベン村に辿り着いた。


 レベン村の入口に着いて、レヴィンは愕然とした。

 村を覆う壁は見る影もなく一面瓦礫の山で、所々の火がついままになっていた。


 エゼントとレヴィンが少し村を進むと、前方から兵士達の隊長オルガがやって来た。

 オルガも傷だらけであった。

 オルガを視認したエゼントはその場に倒れ、オルガとレヴィンが慌ててエゼントに駆け寄る。


「おい、しっかりしろ!」

「エゼントさん!」

「た、隊長……レヴィンを連れか……」


 エゼントは最後まで言い終わる前に永遠の眠りについた。

 オルガはエゼントの亡骸をその場に横たわらせると、その傍らに片足を着いた。


「エゼント。その傷で、レヴィンを村まで保護し連れ帰った事、見事であった。

 そして、今まで良く働いてくれた。感謝する」


 エゼントに祈りを捧げるオルガに習い、レヴィンも跪き祈りを捧げた。そして、村の中央に移動すると、一際大量な瓦礫の山があった。

 教会の裏手にあった「高台」と呼ばれていた物と教会の成れの果てであった。


 生まれ育った村の無惨な光景が一面に広がる有様に、自分の居場所を失った事、一晩の内に仲間達を失った事実をこれでもかと思い知らされた。


 レヴィンは涙を流しながら周囲を見渡すと、教会の瓦礫の側に座り込み、虚空を見つめる少年に気付いた。

 金髪に翠眼の少年……ジュリアスであった。

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