#11 序章 11話
ジュリアスとエミリアが裏山で巨大な化け物に襲われてる頃、教会にも化け物が現れパニックとなっていた。
化け物の直ぐ側で腰を抜かし尻もちをついていたジャインと年長組の少年は、モゾモゾ動く化け物の口から垂れて自分達の体に着いた液体が血である事に気付き、姿が見えないジャインの子分2人が食われた事に考えが行き着いた。
さらなる恐怖に襲われてると、化け物に掴まれたスニーオが片目を開け、ジャインを見下ろした。
「ビ……グG……」
「スニーオ!!」
ジャインは足が震えながらも立ち上がる。
そこに、震えながら側まで来たマリウスやレヴィンに年長組の少年数人が、ジャインと腰を抜かしている年長組の少年を掴み化け物から離れようとするが、ジャインは抵抗した。
「離せ!おい、何だお前ら?離せよ!」
「バカ、大声出すな。気付かれる!」
「スニーオが!」
「あんなのに素手で向かってもどうもできんだろ!」
「オレ様の子分が殺られたんだ。
あいつらは……オレ様の親友なんだ!スニーオはまだ……」
スニーオを掴む巨大な手の爪は、先端がスニーオの体に食い込んでおり、スニーオの顔が僅かに上がると吐血した。
「ケフッ……ビ……G……逃げ………」
スニーオが喋り終わる前に化け物は右大口を開けると同時に牙が至る所から生えてる口に、手に掴んでいるスニーオを乱暴に捩じ込むと、その巨大な口を閉じ咀嚼した。
「うぉ〜〜〜〜〜!!」
ジャインの絶望と怒りに満ちた絶叫と共に、マリウス達の手を振り解いた。
「お前らは逃げろよ」
ジャインは振り返りマリウス達一言声をかけると、視界に入った鉄製の燭台を左右の手に持つと、化け物に突撃した。
「ジャ……」
年長組の少年の1人がジャインの後を追おうとすると、天井や壁が崩れて来た。
マリウス達は急いで下がり、ギリギリ下敷きにならずに済んだ。
マリウス達が振り返ると瓦礫でれジャイン達の様子は見えなくなっていた。
マリウスやレヴィン、年長組の少年数人は、聖堂の真ん中で震えている子供達に声をかけ、聖堂の入口から出ようとしたが横からジョコボを更に筋肉隆々にして凶悪な見た目にした様な化け物が、大口を開けて突っ込んで来た。
子供達は互いを掴み恐怖で目を閉じた。
次の瞬間、岩と岩がぶつかる様な音がして子供達が恐る恐る目を開けると、両手を広げて子供達の前に立つモーリスの姿があった。
モーリスと化け物の間に薄緑の光の壁があり、マリウスとレヴィンはモーリスが魔法を使ってるんだと理解した。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「モーリス神父。ジャ、ジャインやスニーオ達が……」
「そうですか……」
年長組の少年の涙ながらの言葉にモーリスは目を閉じた。モーリスはゆっくりと息を吐くと、キッと目を開けた。
「皆さん、教会を出て駐屯所に向うのです。シスタークラレンスにはオルガ隊長達を呼びに行ってもらっています。フランシスカ様もいらっしゃるので急ぎない!」
モーリスの指示に、震えながらも動ける子供は恐怖で動けない子の手を取ったり、背中を押したりしながら急いで駐屯所に向かう。
レヴィンも駆け出そうして振り返ると、モーリスは一歩も動かず光の壁越しに化け物と対峙したままだった。
「モーリス神父!」
「行きなさい、レヴィン!
この魔物は私が抑えてますから、行くのです!」
「ま、魔物!?」
レヴィンは光の壁の向こうにいる魔物を見た。
真っ赤な目、巨大で歪なバランスの体。その体からは黒いモヤの様な物が出ていた。
「そうですレヴィン。これが魔物です。私が押さえてる間に少しでも離れるのです」
「でも……」
「行かんか!」
改めて魔物を見て竦む思いとモーリスを1人にする事に対する躊躇いで動けずにいたレヴィンだったが、モーリスに一喝され体の硬直が解けた。
「モーリス神父……死んじゃ嫌だぜ!」
「ほっほっほ。あなた達にはまだまだ指導し足りないですから、簡単には殺られませんよ。
さ、行きなさい!」
「はい!」
レヴィンはマリウス達の後を追いかけ走り出した。
「さて、教会をメチャクチャにしただけでなく、子供達を手に掛けたのですから……タダでは済まさんぞ!」
モリースの白髪は逆立ち、普段の柔和さからは想像が付かない鬼の形相と化していた。
モリースが左手を魔物に向けたまま右手を引いて軽く握ると、手の内側に光の壁とは別に光が集まっていった。
年長組の少年達を先頭にマリウスやレヴィン、その他の子供達が教会の外に出ると、村の入り口辺りから赤い光が天に伸びていた。
子供達はとまどい戸惑いつつも、駐屯所は村の入口近くにあるため、赤い光に向かって懸命に走った。
光迎祭の飾り付けや一部の家が燃えていて、大人達の怒声や叫び声が所々から聞こえる。
危機感が高まる子供達の後から、何かが頭上を飛び越えた。
それは聖堂で見た魔物よりは小型の魔物だった。小型と言っても大人より大きく、獣より遥かに醜悪で不気味だった。
子供達はとっさに下がったが、栗毛の少年は足を滑らせ逃げ遅れた。
魔物は頭から前に鋭く伸びた太い角で赤毛の少年を突くとシャクる様に放り投げ、仰け反った体を戻す勢いで目の前にいた少女を角で薙ぎ払い、少女は木にぶつかり吐血して動かなくなった。
「ジン!」
「嫌〜!メイちゃん!」
動かなくなった仲間、目の前にいる醜悪な魔物、言い知れない恐怖。明日は光迎祭で、そこで出でるとなってご馳走を楽しみしていた気持ちとの落差に、子供達の多くは心が折れていた。
数人が石を投げるもまるで意に介さず、子供達から視線を外さずに魔物はゆっくりと迫って来る。
「ガルーダペネトレーション!」
子供達がもうダメだと思ったその時、五色の光が渦巻く三角錐状の光が魔物に突き刺った。その光の中に、剣を突き出し突進する人影があった。
魔物は体を光に体を貫かれ、さらに人影に吹っ飛ばされ、四肢を光に細かくされながら吹き飛んだ。
人影は魔物にぶつかった反動を利用して後ろに飛ぶと、何回転もして着地した。
その人影はフランシスカだった。
フランシスカの容姿やスタイルの良さを引き立てる様な優美さを醸し出す白銀の鎧を纏っていて、篝火や建物を燃やす炎に照らされ鎧は煌めいていた。
「セ、聖剣士……?」
村の兵士とは比較にならない神々しさを感じさせるその姿は、まさに物語を聞いてイメージしていた人類の希望、聖なる剣士そのままのフランシスカを見て、子供達は自然と立ち上がった。
「間に合わなかったみたいね……これで全員?逃げ遅れた子はいる?」
「モーリス神父が……」
「メイちゃんが……メイちゃんが……」
フランシスカが優しく問い掛けるも、子供達は泣きじゃくり、名前は出て来るも逃げ遅れた子なのか、犠牲となってしまった子なのかわからないでいると、フランシスカの目にマリウスが止まった。
フランシスカは、呆然としてるマリウスの肩を掴む。
「マリウス、大丈夫?」
「フランシスカ……様?」
「そうよ。がんばったわね。まだ逃げ遅れた子はいるの?」
マリウスはガキ大将のジャインが殺された子分達の仇を討つべく単身大型の魔物に突っ込むも、直後に天井や壁が崩れて安否がわからない事。その後、別の魔物に襲われるもモーリスが魔法で自分達の壁となって逃してくれた事を説明した。
「フランシスカ様」
「レヴィン!無事だったのね」
「フランシスカ様。教会の裏の高台にエミリアっていう女の子と、たぶんジュリがいると思います」
「エミリア?……あぁ、村の入口でジュリアスを出迎えた子ね」
「はい」
「高台って言うのは、村の中央にある切り立った岩山の事?」
「あ、そうです」
「わかったわ。オルガ隊長も今こっち向かってるから、皆はこのまま駐屯所に向かって走りなさい。
私は教会に……不安かもしれないけど、魔物は私が相手するから、皆は避難するのよ」
フランシスカは優しくも力強く子供達に語りかけると、子供達の背中を押した。
「さ、行きなさい!」
子供達が走り始めたのを確認すると、フランシスカもとてつもない速さで走って行った。
その後ろ姿をレヴィンだけが見つめていた。
子供達が走っていると、兵士達と合流した。
兵士達は普段してない革鎧の肩当てや腰当て、上半身を隠せる大きさがある円形の盾を持ち、重武装化ていた。そして、先頭に立つ隊長のオルガは、兜・胴等一部金属鎧を身に着け、カイトシールドと呼ばれる尖った盾を持っており、普段とは違う物々しさがあった。
「お前達!無事だったか!」
オルガは子供達の名前を呼びつつ、ケガが無いか確認した。
「8人程いないッスね。
別方向に逃げた子はいるのか?」
ウェッジの問いかけに子供達は顔を上げず、数人が小さく頭を振った。
オルガは年長組の少年達からできる限り状況を確認した。
「いま村は、魔物に襲われている。それも村の中央まで喰い込まれている。
よって、お前達はこれから村を出たら右斜前方向を移動して、隣りのレーゼ村まで行って保護してもうんだ」
子供達に再び緊張が走る。
年長組の一部やマリウスが大人の手伝いで村の外について行く他は、村を出たとしても村が見えるくらいの近場、それも大人の付き添い有りでだった。
しかも獣道ではないとはいえ、夜の山道を進むからであった。
「ゼノン。一番年上で訓練もしっかり受けてるお前が隊長となるんだ」
「は、はい!」
「駐屯所にシスタークラレンスがいる。
彼女に防具やトーチなんかを出してもらってるから、受け取ったら直ぐに出発するんだぞ。いいな!」
不安そうな子供達にオルガは笑顔で指示すると、踵を返し歩き出す。そして、ウェッジ達兵士も子供達の頭を撫でたり肩に手を置いて声をかけてオルガの後に続く。
子供達は醜く凶悪な容姿、獣とは比較ならない力、黒いモヤの様な物を出し物凄い恐怖を感じる化け物を見て、何度も聞いたり読んだ物語に出て来る異形の存在であると感じており、明るく振る舞いつつも、今まさに決死の覚悟を持って歩を進めるオルガ達を見て一抹の不安が拭えずにいた。
“魔物は聖剣士でなければ倒せない”
史実に基づくとされるいくつもの物語で語られているその事が、子供達の脳裏から離れないからか、子供達が動けずにいると、オルガ達は立ち止まった。
「お前達の背後は!オレ達が守る!更に後ろには白銀聖剣士のフランシスカ様もいる!
希望や逆転のチャンスは、どこまでも諦めないヤツだけが掴める可能性がある!
オレ達は何も諦めちゃいない……オレ達を信じろ!」
オルガは剣を高々に振りかざした。
「さぁ、お前達……行け〜〜〜〜〜〜!」
オルガは剣の腹を下にして一気に振り下ろし、大きな風切り音を立てる。
「「「おぉ〜〜〜!」」」
兵士達は鬨の声を上げながら駆け出し、子供達も声を上げつつ走り出し、動けない子供に気付けば手を引いて一緒に駆け出した。
カルドは僅かに振り返り口角を上げ、子供の無事を短く祈ると、教会に向かい走り出した。
ゼノンを先頭に進む子供達は、駐屯所に駆け込んだ。
駐屯所の中にいたクラレンスは、子供達の姿を見て涙腺が緩んだ。
「あ、あんた達……」
クラレンスは子供達の頭を撫でながら顔触れを見て、すぐに子供達が全員居ない事に気付く。
涙を堪え、真剣な顔で子供達を自分に注目させる。
「良く聞いて!年長組の男子はレザーアーマーを身に着けて、年長組以外の男子は体の大きな子からレザーシールドを持ちなさい。すぐ!」
クラレンスの指示に年長組の少年達は右奥の部屋に移動し、残った男子達はクラレンスの後ろに積まれたレザーシールドを手に取った。
「年長組の男女はトーチを持って。
マリウス、あんた火打ち石は使えたわね?」
「だ、大丈夫です」
マギーは火打ち石をマリウスに問い掛けながら渡した。
「それしか見当たらなかったから、失くすんじゃないよ」
マリウスはしっかりと頷く。
クラレンスは机の上に並べられていた革袋を、子供達に 2〜3個ずつ配った。
「今配ったのは、光迎祭で出す予定だった料理の一部と果実水だよ。
間違っても食べるのに意識が行って移動が遅くなるなんて事がない様にするんだよ」
「「「はい!」」」
「レザーシールドを持ってる男子が周囲に立って、もしも獣と出くわした際はみんなを守るのよ。そして、無理に戦わず、レーゼ村に移動するのを第一にするの。いい?」
「「「はい!」」」
子供達はしっかりと返事するのを見て頷くと、子供達を抱きしめたり、頭を撫でたりしながら入口に移動する。
「さあ、ここを出たら気を引き締めて、気を付けて行くのよ。
助け合うのを忘れないで、力を合わせるのよ」
「え?シスターは一緒に行かないの?」
「あたしはここに残るわ。
ケガしてる大人もいるし、そっちもほっとけないでしょ?」
暗い雰囲気を破る様に、クラレンスは手を数回叩く。
「はいはい、暗い顔すんじゃないよ!モーリス神父やオルガ隊長達は化け物をやっつけて、あたしやケガしてない大人が、ケガ人をケアしてから避難。あんた達子供は先に避難……いつもと同じ。やるべき事をみんながんばるの。
だから行きなさい!駆け足!」
クラレンスの有無を言わさぬ号令に、子供達は駐屯所を駆け出すと、そのまま村から出でレーゼ村へと向かうのだった。




