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4 絶望


マリエッタ・ボンはその瞬間の、リルローズのほんの僅か変化した表情を見逃さなかった。

そして痛烈に思い出すのだ、彼女が過去に一度、一瞬だけ同じ表情を見せたあの日を。



幼馴染みで親友の二人はその日も教師から出された課題とにらめっこしながら、合間に焼き菓子を頬張っていた。他愛ないおしゃべりも、リルローズと一緒だと本当に楽しくて止まらない。

リルローズ付きの侍女メイベルが淹れてくれた紅茶で喉を潤し、再び難問に取り掛かろうとした時──



父親である侯爵によってもたらされた『吉報』に、彼女の中で生まれたのは諦観か恐慌か……それとも絶望だったのだろうか、今でもマリエッタには分からない。だが混ざり合った様々な負の感情を、七つになったばかりの幼い少女は一瞬の内に全て綺麗に飲み干して、

『……分かりました、お父様』

小さくそう呟いたのだ。


決定事項だけを無機質に告げる父親とよく似た、一切の感情を置き去りにした返事。


そんな彼女に訳もなく哀しさが込み上げてとうとう泣き出してしまったマリエッタを、リルローズは少し困った風に微笑んで優しく背を撫で、慰めてくれたのだった。



「……分かりました。全て殿下のお言葉のままに」

あの時と同じ言葉を、あの時と同じ温度と表情で発して、リルローズは深々と頭を下げた。


弁明も抵抗もせず、ただ引いては満ちる潮のように穏やかに全ての理不尽を受け入れるリルローズの姿に、マリエッタの胸にはまたあの時と同じ悔しさが渦を巻いた。




しん……と静まり返ったダンスフロアで参加者達は、もはや希望は全て(つい)えたのだと悟った。


どれだけセルジオが愚かでもまだ僅かばかり残されていた芽は、彼に追従する者達によって完膚なきまでに叩き潰されたのだ。


「ここにある、学生寮の貴女の部屋から徴収された小瓶の毒が、王殺害に使用された毒薬と一致しました」

そう告げてリルローズを鋭く睨むのは、父親が宰相を務める公爵家令息フィリップ・ハンソン。

「抵抗すんなよ? 悪党とはいえ女をいたぶる趣味はないからな」

鼻を鳴らし、嘲りの視線を送るのは、騎士団長を父に持つ子爵家令息オットー・モディリア。

「まさか君がこんな大それた事をするなんてねぇ。高潔なる銀の女王も地に堕ちた、って感じかなぁ?」

愛らしい顔を侮蔑に歪めて嗤ったのは、諜報室長の一人息子で侯爵家令息サージェス・ベイカー。


幼少より王太子(セルジオ)に仕え将来を嘱望されていたこの三人が、本来であればセルジオが間違えた時に諫めるべき立場の三人が、こうまでに盲目的に、知己の仲であるリルローズの犯行だと決め付けて衆人環視の前で声高らかに糾弾しているのだ。


この国の未来になど、誰が希望を抱けると言うのだろうか?


クララ・アダムスに狂ってしまったのは、セルジオだけではなかったのだから。




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