22 幼き日の
可憐なあの少女に初めて会ったのは、涼しげな風が舞う初夏の日。第一王子の婚約者候補に挙がった令嬢達が保護者同伴で一堂に会したお茶会だった。さすがにこれだけ花が揃えば圧巻だが、今年五歳になったばかりの王子の婚約者候補と言う事で集められたのは上は七歳、下は三歳のまだまだ幼きレディ達なのだ。貴族らしい微笑の奥で牽制し合う親達の心中などそっちのけで、彼女達の関心が専らテーブルの上に並べられた麗しいケーキや焼き菓子へと向けられていたとしても仕方あるまい。
まあ成る程、『王家主催』の冠に偽りなしの豪華な品揃えだ。
「おとうさま……、あちらの方はどなたですか?」
この頃は当然リルローズもまだ四歳と幼く、まだ人生を繰り返す前。当然、この後に起こる不幸など知る由もなかった。
父の袖口をそっと摘まんで問うた声は、その容姿に相応しく大変に可憐だった。
有り体に言えば『一対多数のお見合い』である王室伝統のこのお茶会は、既に結果ありきの茶番である。
幼い胸を締め付ける、甘くも熱く激しい初恋に溺れきった第一王子は、早々とその少女唯一人を自身の妃にと定めてしまった。それ以外を寄せ付けるほんの僅かな隙間さえ、その胸の内には存在しない程に。
いつしかそれは、年頃の娘を持つ貴族達の間で暗黙の了解となり、どれだけ優秀であっても自分の娘は王妃にはなれないと悟り──ならばと彼らが目論むのは、娘が後に王妃となるその少女とより親しくなれるように接点を持たせる事。
『余程の不祥事』でも起こさない限り、第一王子の王位継承は揺るがない。であるから尚更、なんとしてでもここで縁を掴み取りたいのだ。
少女に気に入られ侍女として側で仕えられたならば、彼女が王妃となった際に賜る王妃宮へも、嫁入り道具の一部としての同行が叶うだろう。そこで王の目にでも留まり寵愛を得られれば側室として召し上げられる可能性はなきにしもあらず、先に男児でも産んだものならば立場など容易く逆転するのだから。
だが相手は例え幼くとも侯爵家のご令嬢。皆の模範となる優秀さを兼ね備えており、攻略の難度が格段に高い。
しかも公爵家のような高位貴族はこの期に及んでも尚、無駄に高い矜持が邪魔をして巧く擦り寄れずにいるし、また伯爵家以下の下位貴族は礼節上自分達から話し掛ける事も難しく、それぞれ牽制し合う事も相俟って皆、未だ手をこまねいているのである。ソフィーリオ家と双璧を成すベイカー家や姻戚関係にあるモディリア家に男児しかいない事が、つくづく悔やまれる。
皆の視線と関心と嫉妬を独占する娘からの思いがけない問い掛けに、ソフィーリオ侯爵家当主アルブレヒドはいつになく困惑し、そして珍しい事にそんな表情を巧く隠せずにもいた。
どうせなら、もう少し有効活用出来そうな家柄の娘に興味を持てばよいのに──との、いかにも政治的な考えが頭を過ったのは確かだが、それもたった一瞬。
愛する妻によく似た娘を、文字通り目に入れても痛くない程に溺愛する彼は、損得勘定抜きに生涯の友となり得る相手をちゃんと見付けた彼女を大変に頼もしく、また誇らしく思うのだった。




