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21 衝撃


その言葉の意味を理解する程に、赤黒い、燃え(たぎ)るマグマのような醜くて歪な何かが、痛みを伴ってリルローズの胸中で暴れ回った。


『王もアナタの弟も、クララ・アダムスにしてみれば邪魔ばかりする存在。しかも魅了も効かないのだもの、殺しちゃうのが一番手っ取り早いのは分かるけれど……短絡的って言うか、まあ、いかにもって感じかしら』


呆れた様子のレオノアの言葉も、震えるリルローズの耳には届かなかったようだ。



──そんな、そんな下らない理由で?

そんな馬鹿げた、身勝手極まりない理由で、リルローズの愛する、たった一人の弟を、罪人へと堕とし死に追いやったと言うのだろうか?


脳が沸騰せんばかりの怒りとは、これ程までに目の前を真っ赤に染めるものなのだと、リルローズは生まれて初めて知ったのだった。




怒りに戦慄くリルローズの鬼の形相を黙って見つめたまま、レオノアはクララの悪質さに改めて嘆息する。


気に食わない、ただそれだけの幼稚な理由で、本気で欲しかった訳でもないクセにリルローズの周りにいる男達を片っ端から寝取って操って、それだけでは飽き足らずでっち上げた罪でリルローズを陥れたり。

過去二度のいずれもリルローズを病死に見せ掛けて殺す為に少量ずつ投与していた毒薬を用いて王を殺し、尚且つその罪を(なす)り付けてリュケイオスもろとも処刑させたり。


──成る程、アンネラがとっても好む、黒くてドロドロとした、穢らわしい魂ね。


そんな女なのだから、例えアンネラに踊らされているだけだとて、愚かだとこそ嗤えれど可哀想などとはとても思えないのだ。


軽々しく乱用したその毒にいずれ足を掬われるのだとしても、それこそ正に自業自得というやつなのだから。




『まあそうやって、目障りな二人を排除する事には成功したんだけれど……でも、不思議よねぇ? だってほら、最初に言ったでしょ。クララ・アダムスの栄華は長くは続かない──ってね』

そんな腹の内など見事に包み隠して、レオノアはぴんと伸ばした人差し指を魅惑的な笑みを湛える口元に添えて、晴れ晴れと微笑んだ。

『それで、ここからが本題。これでクララ・アダムスは三度目の人生を謳歌する筈だった。だけどやっぱり、程なくして彼女の人生もまた終わりを告げた、それもとびきり凄惨な最期をね。さて、じゃあここでリルに簡単な問題を出すわ。クララ・アダムスの死は、一体誰によってもたらされたものでしょう? アナタの死に憤り、その復讐を為し遂げたのは……一体、誰かしら? まあリルには、心当たりがあるみたいだけど』



リルローズの、誰も彼もを魅了する美しい紫水晶の瞳が極限まで見開かれた。そしてそこにありありと浮かぶのは、最愛の弟の死の真相を知った時の衝撃を遥か凌駕する程の驚愕と──恐怖だった。




まさか。

まさか。

まさか。

まさか、まさか。

まさか、まさか、まさか。

まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさかまさかまさかまさか。


まさかそんな。


有り得ない。まさかそんな事、有り得ない。


だって、あの子は優しい子だもの。

いつだって優しく笑っていてくれる子だもの。


野に咲く、名もなき小さな花を摘む事さえ躊躇うような、心優しく慈悲深いあの少女が。


復讐という馬鹿げた狂気に囚われるだなんて。


そんな事、有り得ない。


決して有ってはならない。



リルローズの記憶の中の少女は、今もなんら変わりなく愛らしい微笑みを湛えている。だが現実は──リルローズがいなくなった後の世界は、余りにも無情だった。


『人間って、本当に不思議だわ。復讐という確固たる信念を心の奥深くに一度(ひとたび)(いだ)いたのならば何故なのかしら、男よりも女の方がずっと冷酷にも残忍にもなれるものなのね』


そう、レオノアは呟いた。



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