2 リルローズ・ソフィーリオという少女
リルローズ・ソフィーリオ。
輝く銀の髪と紫水晶の双眸を持つ、神秘的な少女。
王国の長い歴史の中に輝かんばかりの栄誉を刻む由緒正しき侯爵家の、その象徴たる瞳を受け継いだ彼女は、王家により幼少の時分に王太子セルジオの婚約者へと据えられた。
家格こそ公爵家には一歩劣るがセルジオとの年齢も釣り合いが取れていたし何より、幼き頃より類い稀なる美貌を誇り才気に溢れ愛情深く、また恭順である事から後の王妃に相応しいと時の王が太鼓判を押した──というのは一般市民もよく知るところ。
事実、彼女は総じて他者より秀でていた。
勤勉で誠実、謙虚で慎ましく、貴賤の区別なく人を労り思い遣る姿に、男女問わず多くの生徒から絶大な支持が寄せられている。
だがそれらは天から賜ったものなどではなく全て、彼女の努力の結実だ。王太子の婚約者となったその日より、彼女はそれに相応しくあろうと努力した。幼い欲を抑え己を律し、いずれ王となるセルジオを支え寄り添う為に誰よりも努力をしてきたのだ。
それこそ血の滲むような。
それはリルローズの幼馴染みであり、ずっと彼女を近くで見続けていた親友マリエッタ・ボンのみならず、この場にいる同級生達ならば誰もが見聞きし知っている事だ。
『いずれ国母となる身なのだから当然の事だ』と軽く言う者もいるだろう。だが、だからと言ってリルローズの努力を、費やした歳月を、このように理不尽に踏みにじる権利が一体誰にあると言えるのか?
彼女の頑張りは最優先で報われるべきなのに。
だからこそマリエッタを始め居合わせた者達は皆、セルジオに対して激しい憤りを覚える。だがそれと同時に、拭えぬ違和感にも身を震わせるのだ。
セルジオ・イム・ギヌーヴは誰もが認める聡明な、人々が理想と描く王子そのものだ。蜂蜜色の髪と瑠璃色の瞳は、王族としての彼の血の正統さを表していると言えよう。
そんな彼の、自らの地位に甘んじる事なく学を積み、広い視野を育て、より善き王になろうと努力する姿勢は、これからを担う若手達が忠誠を捧げるに充分値するものだ。
確かに若さ故なのか、ぎこちなさもあり仲睦まじいとまでは言い難い二人ではあったが、セルジオのリルローズへの想いは傍目にも明らかで、成る程、『一目惚れしたセルジオが我を通してリルローズとの婚約に漕ぎ着けた』と決定から十年以上経った今でも実しやかに囁かれるのも納得だ。
そんな二人だから皆、微笑ましく見守り、近い将来の賢王と賢妃に希望を抱き、輝かしい未来に思いを馳せたのだ。
なのにいつの頃からか──いや、知っている。知りたくもないし見たくもなかったが、彼女の出現がセルジオを狂わせた事は間違いない。
「……クララ・アダムス……」
群集の中、誰かとは特定困難だが確かに複数人、その名前を呟いた。
そこには嫌悪と侮蔑が色濃く滲んでいた──