19 僅かばかりの老婆心
「その事はわたくしもずっと気になっていて、セルジオ様のご様子を窺ったりしていたのですが……そのような眼差しを向けられる女性は見当たらなくて……」
それはそうだろう。だってそもそも最初から、そんな相手はいないのだから。
しかし彼女はため息など吐き、本当に悩ましげだ。
「ですからその、もしや、公に出来ない方がお相手なのではと思ったのです。例えば、そう……どなたかの奥様、とか?」
これまた見当違い甚だしい発想だが、リルローズは自分の言葉に驚愕しつつも真相を得たとばかりに瞳を輝かせては一人で勝手に納得し、うんうんと頷いた。
「ですが、そうならば一体どなたなのでしょうか? 年齢的にはコナー夫人かしら、それともヘッケン夫人かしら。ああでもお二方共、深くご夫君を愛していらっしゃいますもの、セルジオ様の付け入る隙はなさそうですわ……」
本当におかしな子だ。何故そこで、しょんぼりとするのだろうか。
……気のせいかしら? なんだか頭が痛いわ。
精霊には備え付けられてはいない筈の疲労感や頭痛を間違いなく感じ取って、レオノアはもう一度深いため息を吐き出した。
『盛り上がっているところ悪いけれどねリル、もう時間みたい』
その言葉にリルローズは顔を上げ、心細いのだろうか少しだけ視線を彷徨わせた。その華奢な身体を包む淡い光を眩しげに見つめて、レオノアは少しばかり目を眇めた。
『こんな事しか言えないけれど……頑張ってね?』
全く本当に、もう少し気の利いた言葉など掛けられないものか──という自嘲が、レオノアの唇の端から零れ落ちた。
──ああ、でも、だめ押しが必要かしらね?
そんな中、ふと何故だかそんな事を思い付き、レオノアは光の向こうへと霞みゆくリルローズへと問い掛ける。
『あのね、マリエッタ……だったかしら? アナタの親友』
その瞬間、リルローズの脳裏に浮かんだのは、少し気弱で引っ込み思案で、だけどとても優しくて可愛らしい幼馴染みの、張り裂けんばかりに声を上げて泣き、狂ったようにリルローズの名を叫び続ける姿だった。
それは余りにも悲劇的で、だけどそれはいつも先に独りで死んでしまった自分が知りようもなかっただけで、ひょっとしたらそれ以前の二度もこんな風に泣かせてしまっていたのだろうかと……そう思えばまた、リルローズの胸は強く痛んだ。
──!? まさか、わたくしが死んだ後、マリエッタの身に何かあったのでは!?
レオノアの発言は突飛とも思えたが、それをきっかけに漸くその考えに至ったその途端、リルローズの身体は一瞬にして総毛立った。寒さではなく、恐怖に。
だが、青褪め、震え、身構えながら、次を待つリルローズに寄越されたレオノアの言葉に、リルローズは大いに肩透かしを食らうのであった。




