18 レオノアの嘆息
そして次いで放たれたリルローズの言葉は、レオノアに少なからず衝撃を与えた。
「クララ様は、ご自分の力は『叶わない恋に苦しむ男性にしか効かない』と仰いました。だからセルジオ様達はクララ様に魅了されたのだとも。もし、万が一、セルジオ様が、わたくしを、想っていて下さった……のなら、きっと魅了に掛かる事はなかったでしょう? わたくしはあの方の婚約者だったのだから、報われない恋ではないもの」
婚約者『だった』、と過去形なのは、次はそうならない──なりたくないというリルローズの悲痛な心情の現れなのだろうか。
……あんな仕打ちを受けても何度も彼に恋をし、胸を焦がしているのに?
あれだけ優しかった彼の急激な態度の変化が、決して彼自身の意思などではなかったと知って更に色濃く染まった想いを、手放せずにいるのに?
なんと裏腹な心なのか。
とても愚かで、とてもいじらしい。
だから余計に、『感情を持つ生き物』である彼女がとても憐れに思えて、人間など歯牙にも掛けない筈のレオノアの胸にも、ずしりと重いものがのし掛かった。
……情? ってのが、移っちゃったのかしら。
あれ程に近くで、繰り返される『生』とその『最期』に寄り添った事など、永劫にも等しい時間の中で初めての事だった。それが僅かな──けれど確かな波紋となって広がり、空虚な胸の内を揺さぶったのは間違いないだろう。
『……ねえ、リルはクララ・アダムスのあんな突拍子もない話を信じるの?』
ふう、と一つ艶やかなため息を吐き出してから訊ねれば、リルローズは少しだけ困った風に笑った。
「あの場で嘘を吐かれる理由がありませんでしょう?」
クララは、リルローズが逆行前の記憶を有しているなど考え付きもしなかったようだ。でなければ、あれだけ得意げに自らの力を語るまい。
『じゃあ百歩譲って、セルジオに恋慕う女性がいるとしてよ、……アナタはその人に心当たりはあるのかしら?』
大いに嫌味を含んだ問い掛けである。……まあ、通じてはいないだろうけれど。
レオノアは、リルローズの、たった十七年という短い人生に三度も寄り添った。とても近くで見守った。それは即ち、間近でセルジオも見てきたという事。
だから知っている。
そんな存在、いる訳がない。
セルジオは、人間にしては非常に優秀な男だ。正しく王に相応しいだろう。そして何より、愚かしいまでに一途であった。
初めて会った時からリルローズだけを盲目的に想い続け、幼い胸に住まわせた狂気にも似た炎は十年を経ても鎮まる気配は一向になかった。
幼い彼が初恋に落ちたその瞬間を、実はレオノアは真正面から覗き見た事があるのだが、いや、あれはなかなかに強烈であった。あれだけの熱を帯びた眼差しを日々浴び続けておいて何故にこうもすっとぼけた発想に至るのか、心底リルローズという少女が不思議でならない。
たが、嘆かわしい事に、彼女は至って真剣なのだ。




