16 祈るような思い
そんな中、リルローズにはどうしても一つ気になる事が。
「あ……、あの、レオノア……様」
『あら、そんな他人行儀な呼び方は嫌だわ。親愛を込めてノアって呼び捨てて頂戴』
茶目っ気たっぷりにウィンクなどされて距離感を測りかねるリルローズだが、なんとか気を取り直し、長身のレオノアを見上げて問いの言葉を発した。
「アンネラが闇の精霊だと仰るのなら、その……もしかして貴方様は……」
『んもうっ、やだ、固っ苦しい話し方!! 全く、リルってば本当に頑固なんだから。ええ、そうよ。アタシは光の精霊。……あら、言ってなかったかしら?』
いつの間にかちゃっかり愛称呼びのレオノアに若干呆れつつも、リルローズは成る程と納得する。
光と闇の精霊は一対で、全ての精霊の頂点に立つ尊い存在なのだと、幼い頃から教えられていた。レオノアの口振りから、レオノアはアンネラと同等──或いはそれ以上の力を持つのだろうとリルローズにも推察出来た。
それに、レオノアが現れた瞬間から光が満ち、リルローズの胸の内を占めていた暗闇への恐れが消え去ったのだ。
言葉はなくとも、それだけで充分な説得力だ。
レオノアは光の精霊。それならば……
「あの、もう一つだけお訊きしても宜しいでしょうか?」
『なぁに?』
「レオノア様は」
『ノア』
「……ノア様は」
『ノ・ア』
「~~~~~っ、ああもうっ、分かりました! ノアならば、その、……わたくしの母を救う事も出来るのでしょうか?」
『リルのお母様って……確か、流行り病で亡くなられたのよね?』
母ロージェリアが亡くなったのはリルローズが五歳の時で、彼女はまだ二十三歳の若さだった。
その年の冬、突如として大陸を襲った病は瞬く間に全土に広がり、多くの罹患者を出した。その八割程が十代から三十代の女性で、また致死率も非常に高かった。妻を、母を、娘を喪った男達は悲嘆に暮れ、深い悲しみは長く降り続く涙雨となった。
リルローズの父も例外ではなく、それ以降まるで人が変わってしまったのだ。
母が元気だった頃の父は大変な愛妻家で、またとても子煩悩で優しい人だったとリルローズは確かに記憶している。
しかし最愛の妻の死後、彼は彼女が遺した子供達を見るのも辛かったのか接触を避けるようになり、次第に興味も関心も失ったのだろう見向きもしなくなった。
当時一歳になったばかりで母の温もりを殆ど憶えておらず、また父の愛情も知らないリュカがあまりにも不憫でならなかった。
だがもし母が健勝であったならば、父も変わらずにいたのではないかと、リルローズは考えた。もしそうであれば父は、自分はともかくリュカを見捨てるなんて事は絶対にしない筈だ。
打てる手は打つ。それだけでもリルローズの不安は大幅に減らせるのだ。
『そうね、直接的に手を貸す事は難しいけれど……特効薬の発見を早めさせる程度なら、アタシにも出来ると思うわ』
それは正に、僥倖であった。




