12 憎悪
カツン、カツン、カツン、カツン。
地上へと続く、暗く長い石段を、クララは無言で上った。
地下牢の中のリルローズは数日で少し窶れたようだ。髪は短く切り取られていたし、当然化粧などしていない。陰の落ちた瞳にやや痩けた頬、乾いた唇に罪深き者の末路が見えて、惨めで憐れだった。
それなのに、それでも尚、リルローズは清らかで美しかった。輝いて見えた。それはこの先クララがどれだけ努力しても得られない、生まれ持った高潔さや気品が滲み出たもので、埃に塗れても決して消えない光を放っていた。
幾度も振り払っても、その姿は脳裏から消えなくて、忌々しくて憎らしくて、クララはぎりりと唇を噛む。
『リルローズ、ずっと貴女が欲しかった』
『リルローズ、やっとお前を抱ける』
『リルローズ、これでもう僕のものだ』
『リルローズ……リル、リル、私の……愛しい女……』
代わって不意に、クララの脳内で、男達の甘く切なげな、狂おしい程の熱を帯びた声が繰り返し再生された。
忌々しい。
ああ、なんて忌々しい。
荒々しく服を剥ぎ取り、乱暴に組み敷いて、無我夢中で腰を打ち付ける彼らは、幻の中の少女へと真実の愛を囁きながらクララの中に想いの残滓を注ぎ込む。
この屈辱を何度も何度も、クララは繰り返した。
どう願っても学院に転入する少し前にしか遡れないクララは、その時点で既に一通り経験済みであるし、男女の行為そのものには抵抗はない。寧ろあれだけ見目麗しい男を取っ替え引っ替えだなんて、優越感で笑いが堪えられないくらいだ。
だが、情事の間中ずっと囁かれる他の女への愛など、聞くに堪えない。
苛々するのだ、愚かな男達に。
狂う程に欲しいのなら、奪い取れば良いのだ。何を捨てても、どんな手を使っても。
あの女のように──
「は、あは、……あはは」
思い出したくもないもの──自分とよく似た、無様で愚かで薄汚くて、堕ちる所まで堕ちた女──を思い出して、クララは自虐的な笑みを浮かべた。
「馬鹿な男、……馬鹿な女」
そんな馬鹿な男の代表のようなセルジオはこの数日、クララを抱かなかった。妊娠した彼女を気遣ってのものではなく、気が乗らないと言っては二人の寝室から彼女を追い出す。だが本当は、反応しないだけなのだとクララは知っている。
つまらない。
大それた言い方だが、全ての思考・行動がリルローズへの愛に基づいている男だから、本人の意思ではないとは言え処刑を言い渡して以降、すっかり抜け殻のように変わり果ててしまった。
少し刺激が強過ぎたかとも思うがそれ以上に、この程度で不能になるとはなんと甘ったれなのかと、虫酸が走る。
大切に大切に育てられ、綺麗なものだけ見て聞いて食べて、世の中の──人間の汚さを何も知らない、純真で清廉で善良で、ただ存在するだけで万人から愛される幸せな生き物達。
自分とはまるで違う、光の中で輝く存在。
「だから私は貴女が大嫌いなんですよ、リルローズ様。あは、あは──あはははははははは!!」
狂うクララの哄笑は陰鬱とした闇の中で霧散して、誰の耳にも届く事はなかった。




