11 勝者と敗者
ここにきて漸く、リルローズは悟った。
リルローズはリルローズなりに、知恵を絞り思考を巡らせ、抗い、立ち向かったのだ。
着せられた身に覚えのない罪にも、理不尽に迫る死にも、意味も理由も原因も分からないまま繰り返す生にも。
過去二度、そして今回も、結局それらを覆す事は叶わなかったし、しかも事態は悪化の一途を辿り最愛の弟まで巻き込んでしまったが、それでも最後まで戦ったと──思っていたのに。
違った。
そもそもリルローズは最初から、クララと同じ舞台に上がれてすらいなかったのだ。
クララは、違う──のだ。
倫理観も常識の基準も良心の所在も、リルローズの中で『正しい』とされるものと何一つ符号しない。
リルローズとて独り善がりの正しさを他者にも強要する程に傲慢ではないし、歩み寄るという選択肢も持っている。
だけど、クララ・アダムスという存在は、リルローズの理解の範疇を遥か越えているのだ。
そうやって決して交わらない線上を突き進むクララとリルローズでは、真正面からの喧嘩なんて成り立つ訳もない。
その上で、クララにはリルローズの世界を蹂躙する『力』があって、リルローズにはそれに立ち向かう『力』がなかった。たったそれだけの、だけど致命的な差。
「うふ、うふふ。今日のところはこれでお暇するわ。……ねえ、リュカ様、気が変わったならいつでも仰って下さいな。すぐにそこから出して差し上げますから」
「慎んで遠慮させて貰うよ。僕が最期まで側にいて、見ていたいのは、姉さまだけだからね」
にっこり笑って申し出るクララに対し、にっこり笑って即拒絶するリュカ。自分などより余程悠然と構えてクララと対等に渡り合っている弟に、リルローズは一層、罪悪感を募らせる。
「あらまあ、それは残念。では三日後の処刑日まで、姉弟仲良くお過ごし下さいませ」
さして気を害した様子もなく笑って、クララはもう一度リルローズへと向き直った。
「うふふ。それではごきげんよう、リルローズ様」
宛ら勝利宣言の如く艶やかに微笑んで、クララは来た時と同じように硬質な足音を響かせながら去って行った。
「──で。あれを聞いても見てもまだ、姉さまは僕に生き延びて欲しいの?」
……聡明な弟はどうやら姉の愚考などお見通しのようだと、リルローズは内心舌を巻いた。
確かに、機会があれば──セルジオがもし一度でも会いに来てくれたなら、彼にリュカの助命を嘆願するつもりではいたが、リュカの言う通り、クララの元で愛玩動物のように飼われる未来などゾッとするばかりだ。謹んでご遠慮したい。
「ごめんなさい、ごめんなさいリュカ」
「もう良いって。姉さま、僕は姉さまが大好きだよ。誰にも負けないくらい愛しているよ。ずっと、ずっとね」
「ええ、リュカ。わたくしも貴方を愛しているわ」
まだ幼さの残る笑顔が眩しくて、彼の素直な言葉が嬉しくて、堪えきれず目を眇めればまた大粒の涙が零れ落ちた。




