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1 婚約破棄

単純な話ですので、暇潰しにでも読んで頂ければ幸いです。


本年度の卒業パーティーも例年に負けじの大盛況である。


思い思いに着飾った、まだ学生気分の抜けない幼き紳士淑女は各々のパートナーを(いざな)い、手に手を取って軽やかにダンスフロアへと滑り出す。

オーケストラの生演奏に合わせて女生徒達が舞えばスカートの裾がひらりと翻り、フロアのあちらこちらで色鮮やかに花が咲き乱れた。

なんとも華麗、壮観である。



主催者であり、また同時に参加者でもある王太子セルジオ・イム・ギヌーヴは、その光景に満足げに頷いた。


彼には二人、少々折り合いの宜しくない姉がいるのだが、彼女達が自身の卒業時に主催したパーティーはいずれも大成功を収めていた。女性ならではの細やかな心配りと様々な趣向を凝らした演出、また多くはないが平民出身の生徒や特定のパートナー不在の生徒への対応も実に手際良く、また誠実に行われ、参加者やその親、また学院関係者から非常に高い評価を得ていた。


だから少なからず、彼なりの重圧を感じていたのだろう。


それが蓋を開けてみれば負けず劣らずの結果だ、人知れず北叟(ほくそ)笑んでしまうのも仕方ない。


だが、まだだ──と彼は考える。

何故なら今日は、自分にとってもこの国にとっても、歴史的な一日になるのだから。


愚かにも彼は、そう信じ、それを微塵も疑わなかった。



やがて、管楽器がメインだった躍動的な楽曲から、弦楽器のみで編成される優美な音楽へと演奏が変化した。

誰かが音頭を取った訳でもないが、踊り終えた参加者達が一様に後退しホールの中心へと一直線に続く道を作り出せば、その圧巻たるさまにセルジオの自尊心はいたく擽られたようだった。さも当然といった風に笑んで、傍らに佇む可憐な少女へと手を差し出した。


ざわざわ──


平然とその手を取る少女に、生徒達は先程までの高揚も忘れて眉を顰めた。露骨に顔を背ける者も少なくない。


このような場で非常識にも程があるだろう。


婚約者でもない女を恥ずかしげもなく甘く誘う男も、誘われるままに頬を染める厚かましい女も、どちらも正気の沙汰とは思えない。

このパーティーには彼の婚約者も参加しているというのに。


だが、王の急逝によって卒業後すぐ即位する彼に表立って異を唱えられる者など、残念ながらこの場に居はしない。


参加者達の沈黙をどう捉えたのか。セルジオと少女は手を繋ぎ、なんなら誇らしげにホールの中央へと進み出た。


そのセルジオの視線が真正面、独り佇むとある少女に向けられた。

その瑠璃色の瞳に浮かぶ鋭く冷たい光は、苦学を共にした生徒達のよく知る、温厚で思慮深い彼にはなんとも似つかわしくないものだった。

そして愚かにも彼は──


「侯爵令嬢リルローズ・ソフィーリオ。今日この場を持って、お前との婚約は解消だ!!」


固唾を呑んで生徒達が見守る中、怒りと憎しみに塗り固められた声で、セルジオは高らかと宣言したのである。




「うわぁ、言った。ホントに言ったよ、イカれたクソ馬鹿王子が」

宣言のその瞬間、大半の男子生徒が呪いの言葉を吐き捨てて、一縷の望みも断たれたと嘆き天を仰いだ。勿論、彼らとて命は惜しいので心の中だけで──だが。


タイトル詐欺にならないように頑張ります笑

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