アライグマと流れ星のきこうし
むかしむかし、あるところに、さかさにじの森とよばれるところがありました。
そこでは、動物たちが、みんななかよくくらしていました。
しかし、その中にいっぴきだけ、あばれんぼうとよばれている動物がいました。
「おい、へびやろう。前作と同じプロローグを使うんじゃねぇ。手ぬきって言葉を知らないのか?」
おやおや。今日もアライグマは、ごきげんななめのようです。
そのようにらんぼうなことばづかいと、ふてぶてしいたいどは、いただけませんね。
またまた森の動物たちから、ごかいをまねいてしまいますよ?
「よけいなお世話だ、バカヤロウ」
はいはい。そんなひねくれもののアライグマには、すなおになるためのかだいを出しましょう。
ねっこひろばから、オンボロばしをわたり、ドングリいけを通りすぎると、カエデの林があります。
そこにだれが住んでいるか、もちろん知ってますよね?
「勝手に仕事をふやすんじゃねぇ。しかも、さりげなく前回のふくしゅうしてやがるし。まぁ、知らねぇと思われて見くびられるのもシャクだから、ふほんいながら答えてやるか。せいかいは、おくびょうもののクマだろう?」
そのとおり!
それでは、お待ちかねのかだいを発表します。
かぜを引いたクマに代わって、流れ星のきこうし「オリオン」に、森の動物たちのねがい事をとどけなさい。
「待て待て待て。どうしておれが、そんなしちめんどくさいことを代わってやらなきゃいけねぇんだよ」
だって、アライグマでしょう?
れんだくを取れば、アライクマ。
名前にクマとついているのですから、代役にピッタリではありませんか?
「ヨタカとハイタカくらいちがう。こじつけにもほどがあるぞ」
そうですか、そうですか。
そんなによろこんで引き受けてくれるとは、たよりになりますね。
それでは、クマのねぐらまで行ってらっしゃい!
「ひとの話を聞け。うわーっ!」
へびのかみさまの神通力によってつむじ風が起こり、アライグマはクマのねぐらまでふきとばされていきました。
おくびょうもののクマは、大人しくねていたところへ急に空から落ちてきたアライグマに、びっくりぎょうてん。
ねぐらのすみっこで、大きな身体を小さく丸めながら、アライグマの様子をうかがっています。
「これは、いきなり、どういうこと? こわいよ、こわいよ~」
「ええい、なさけない声を出すんじゃねぇ、バカヤロウ!」
「ひいっ! ごめんなさい、ごめんなさい。なにか悪いことをしたのならあやまるから、ゆるして~」
「しゃらくせぇな、まったく。べつにおこってるわけじゃねぇっての」
アライグマは、バツの悪そうな顔を前足のつめでポリポリかきました。
それから、頭の中でへびのかみさまに言われたことを整理しました。
しかし、とちゅうで一からせつめいするのがめんどうになってしまったのか、アライグマはすてばちなたいどで言いました。
「たんとう直入にいうぜ。ここにねがい事を書いた紙切れが集めてあるのは、知ってんだ。あばれる前に、さっさと出しやがれ!」
「ええっ、なんで? あれは、オリオンさまにとどけるものだよ?」
「それくらい、わかってら。ワケははぶくが、おれは、かぜっぴきのおまえに代わってねがい事をとどけて来るようにってたのまれてんだよ。わかったか!」
「わかったよ。そういうことなら、早く言ってくれればいいのに」
「おれの顔を見たしゅんかんにねどこからにげ出したやろうは、どこのどいつだ、こらっ!」
「うっ。やっぱり、おこってるんじゃないか~」
おっかなびっくり、クマはねがい事が書かれたカラフルな色紙をポシェットに入れ、アライグマに手わたしました。
アライグマは、ポシェットを首と前足に通してななめがけにして、クマのねぐらをあとにしました。
てくてく、ぺたぺた。しばらく森のけもの道を歩いていると、アライグマはイヌの親子と出会いました。身体の大きい親の方にはシリウス、小さい子の方にはプロキオンという名前があり、どちらもオリオンのご近所さんです。
「おや、アライグマくん。ガラにもなくポシェットなんぞせおって、どこへ行くつもりだい?」
「おっ、シリウスか。ちょうどいいや。実は今、クマのぼうずに代わって、ねがい事をとどけなきゃいけねぇんだ。流れ星のきこうしの家は、この先で合ってるか?」
シリウスが口を開く前に、プロキオンが横から答えました。
「合ってるよ! へぇ~。今年は、アライグマさんがメッセンジャーなんだね」
「そうなんだよ。まったく、いやになっちまうぜ」
「君も、あいかわらずだな。まぁ、気をつけて行っておいで。くれぐれも、しつれいのないようにな」
「わかってる、わかってる」
「じゃあね、アライグマさん」
イヌの親子とわかれたアライグマは、ふたたびオリオンの家を目指し始めました。
てくてく、ぺたぺた。もうしばらく森の小道を歩いて行くと、キラキラ光る星の形をしたたてものが見えてきました。
アライグマは、家の正面げんかんにたどり着くと、前足でドアをノックしながら言いました。
「おーい、だれかいるか! ねがい事を持って来たぞ!」
すると、家の中から流れ星のきこうしこと、オリオンがすがたをあらわしました。
見た目は、ひげをたくわえたりっぱなしんしです。もっとも、赤ら顔でかた手に酒ビンを持っていなければ、もっとりっぱに見えるかもしれません。
「うい、待ちくたびれぞ! おや? 今年はクマではないのか」
「ぐっ、酒くさいな。真っ昼間から、なにを飲んでやがる」
「わしはオリオンじゃぞ。ビールに決まっておるであろう」
「ところで、じいさん。流れ星のきこうしはどこだ?」
「なにを言っておる。目の前にいるであろう」
「どうわかく見つもっても、ショロウは過ぎてる気がするけどな」
「きこうしと言われつづけて早半せいきじゃからな。それより、外はひえるから早く内に入りなさい」
「へいへい。それじゃあ、おじゃましますよ」
家に上がったアライグマは、ポシェットから色紙を出してオリオンに手わたしました。
オリオンは、キツネが書いた「なくしたモミジのかんざしが見つかりますように」というねがいや、母ネコが書いた「子ネコたちが元気に育ちますように」というねがいなどをひと通りたしかめました。
それから、まい数を数えながらもう一度見直し、アライグマに問いかけました。
「アライグマよ。お主のねがい事がないが、どうしたのじゃ?」
「だって、そいつは今年一年いい事をしてきたヤツだけがかなえてもらえる代物だろう? おれは悪い事しかしてねぇから、書くだけ紙とすみのむだだ」
「ふむ、なるほどのぅ……」
オリオンは、あごひげをなでながら考え、ひとつのていあんをしました。
「たしかに、お主はぜんにんとは言い切れん。じゃが、白へびから聞いた話では、コマドリやリスの手助けをしたり、こうしてたのまれたおつかいをこなしたりしたわけじゃから、そのなさけ深い行いにむくいがあっても悪くないと思うがのぅ。どうじゃ、ためしにひとつ、軽いねがいを言ってごらん」
「そんな急に言われても、何も思いつかねぇよ。う~ん……」
アライグマは、しばらく前足を組んで考えはじめました。その時、アライグマのおなかがキューッと鳴りました。
アライグマは、真っ正面から期待とこうきにみちた目で見つめているオリオンから顔をそむけつつ、てれくさそうに言いました。
「にあわねぇからだまってたんだけど、おれ、大のあまとうでさ。中でもガキのころに一度だけ食べたさとうタップリのドーナツの味がわすれられねぇんだ。……へんだな。なんだって、こんなときに、そんな昔の話を思い出すんだろう。それで――」
「ふぉっふぉっふぉ。意外とかわいらしいところがあるものじゃな。まぁ、みなまで言わずとも、さっしはつくぞ。山もりのドーナツをこしらえてやるから、気がすむまで食べていくがよい」
「いいのか? 本気にするぞ?」
「ああ、わしに二言はない。そこのソファーでくつろいで待っておれ」
このあと、アライグマはおなかいっぱいになるまでドーナツを食べることが出来ました。
それから、色紙に書かれたねがい事も、よく朝シラフにもどったオリオンが、ぜんぶちゃんとかなえたそうです。
めでたしめでたし。