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回顧

 俺がバドミントンを始めたのは中学生1年生の時。

できるだけ疲れないスポーツをしたいという短絡的な発想でバドミントンという競技を始めた。しかし、実際にやってみると想像以上にきつい。遊びでサッカーやバスケをしたことがあったが、本格的にスポーツに打ち込むのは初めてだった。


1年生のほとんどが初心者で数人経験者がいた。

スタートラインは一緒。

よーいドンの合図で俺は懸命に走った。


 走り込み、筋トレ、フットワーク、素振りなどの地味なトレーニング。1年生は朝練の準備のため7時前に集合、夜は最終下校時間の6時のぎりぎりまで練習。そのあとは地域のクラブチームで高校生や社会人に混じって8時を超えて練習。家にいる時間は少なくバドミントン漬けの毎日が続く。


「おまえ、練習しすぎだろ」


初心者のやつらはそんな言葉を俺にかけた。

だが、ゴールはまだ全然見えない。


 3年の先輩たちは俺の頑張りを知ってか特別扱いですぐにシャトルを打たせてくれた。得意のスマッシュを打つ。


「はやっ!!小井川、センスあるんじゃねーか」


 3年の先輩たちはこぞって褒めてくれた。そのときの感覚は忘れられない。楽しかった、嬉しかった。小学生みたいな感想だけどもそう表すのがちょうど適しているだろう。


――それから一気に伸びた。


 周りからあるていど実力を認められ、1年生の経験者と試合をする機会がくる。ここで勝てばいっきにレギュラーメンバーになれるかもしれない。


 勝って勝って勝ちまくった。そのときはプライドの欠片もない挑戦者として恐れも知らずどんどん進んだ。負けたところで「相手が経験者だったからしょうがない」と言われるだけだろうし、勝てば「経験者よりも強いなんてすごい、才能がある」と驚いてくれるだろう。だから適度な緊張感で試合ができる。

相手が誰であろうと関係ない。俺には才能がある。誰よりも。


 1年生の終わり頃には2年の強い先輩にも試合で勝てるようになった。

次第に自尊心の塵が積もってきた。

あのとき周りからはどのように映っていただろうか。


 そうして、2年生にもなると俺は先輩にも負けなしで、もちろん同級生にも勝てるようになり部内で一番強くなっていた。


「天才はいいよなぁー、レギュラーメンバー確実だろ」


「おまえに俺らの苦労わかねぇだろおなぁ」


 努力を怠っていたやつらが喚き散らしてくる。


「もっと練習を本気でやれよ! だから弱いままなんだよ」


「おまえ最後の最後であきらめただろ! それだから俺に勝てないんだよ」


 イラッとして相手を下げずむような言葉を発した。自慢っぽい発言もした。当然のことだが、同級生や1個上の先輩はそんな俺をよく思っていなかった。特に同級生でバドミントン経験者だった曽根田は俺に対してかなり反抗的な態度をとっていた。


「あっ!佐藤先輩、小井川のやつ佐藤先輩のこと『楽勝だわ』とか豪語してましたよー」


 はじめは俺の悪口を言ったり、練習のときに邪魔をするといった小さなことだった。

俺は曽根田がいちいちやってくることに反応せず無視するようにしていた。

俺は周りを意識せず前を見ていた。あと少し先にあるであろうゴールテープを探して。



次第に肥大化して塊になった自尊心がのしかかってくる。

そうしてゴールが近づいたときには誰もいなかった。

それは本当にゴールだったのだろうか。


 練習し過ぎたせいか、残念なことに夏にあった初めての公式試合は試合前に膝を痛めてしまい大事を取って出場は辞退した。大丈夫、冬にも大会がある、なにも心配することはない。意識はずっと前を見ていた。


 そんなときに河合瑠香と付き合うようになった。

波はかすかに揺れて自分の心と体を揺さぶる。


 瑠香は同学年で二年生からバドミントン部のマネージャーになっていたので何度か会話をしており、ある程度面識があった。ショートカットで生まれつき明るい茶色の髪。はきはきとした口調に誰にも物怖じしない態度。身長は140センチ台と小柄で細身。


 意識し始めたのは瑠香が俺のことを気にしている素振りをみせたからだ。正直に言うが、断じて自意識過剰ではない。

特に用はないのに部活終わりに一緒に帰ろうと言ってきたり、練習試合のときにはタオルを渡してくれたりとさりげなく好意を伝えようとしてきた。


「小井川君、....前から好きでした。付き合ってください」


 花火大会に誘われて、それが終わった後に瑠香は告白してきた。断る理由も無かったのでもちろんオッケーした。その日から瑠香のことを”ルウ”と呼ぶようになった。


 付き合い始めて最初の頃は彼女の方がグイグイ引っ張られ流れにまかせたままだったが、いつの間にか俺も彼女のことが好きになっていた。

小学校の頃の初恋以来の久しぶりの淡い感情。

こぼさないように両手を使い、気を付けてすくい上げた。


 一度彼女に「どうして俺を好きになったの?」と質問したことがあった。

彼女は少し考える素振りを見せて「秘密だよ」と答えた。

それがちょっと心に引っかかった。


 冬の大会、俺の初の公式試合のとき事件は起きた。ちょうどルウに対する思いも高ぶっていたとき。



 冬の寒さがピークに達して厳しくなってきた。


――潜る深さは記憶の中のより深層に達す。


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