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~シャトル拾い編~

帆を張った船は風を受けてグイグイ進む。


港から出発するときには何隻かの船がいたはずだが、

いつの間にか見えなくなった。


自尊心の波を受けて調子に乗る。


その勢いのまま途中で出会ったイルカと仲良く並走。


気に入って名前なんかもつけてやる。


ふざけあって踊りだして......。


急に風がピンと張って冷たくなる。


青空だった空は一変して嵐に変わる。


逃げるしかない。


何に?


風が以前とは打って変わって当たりが強い。


暗い?暗い。見えない!


真っ暗な闇に何処へ進めばいいか迷ってしまう。


暗闇を照らしてくれる灯台があれば。


......光があれば。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 神永先輩は足を引きずりながら慣れた手付きで松葉杖を使って体育館に入ってきた。がっしりとした体格に反して歩き方は威厳がまったくない。


「新しい一年が入部するよおー、これで男子部員四人になったなあー」


 開口一番に間の抜けた声だ。

身長は189センチの長身。それなのに神永先輩はまったく威圧感がない。むしろ話しやすそうな雰囲気を醸し出している。しかし侮るなかれ、数々の伝説を残したと言われるお方である。

噂では、今回の怪我はいじめを受けた生徒を助けるために不良とケンカをしてできたとか。

はたまた車にひかれそう子供を助けるために走って跳んでダイブしてできたとか。


 過去には、うちの学校の校長先生のお話が皆が目を閉じて眠りたくなるほどながいので、神永先輩がわざわざ話し合いをしたところ、それから校長先生のお話は数分になったとかどうとか。

実際、入学式のときの校長先生のお話は短かくなっていた。

これは後で先輩にお礼をしないと!


 そんなこんなで神永先輩は数々の伝説と善良さや強さから、北欧神話の雷神トールにちなんでトールと同級生からはあだ名で呼ばれている。

俺自身も神永先輩というよりもトール先輩と呼んだ方がしっくりくる。

俺はトール先輩に向かって「こんにちはー」と深々と頭を下げる。


「アホぅ、トール! お前自分をメンバーに入れるの忘れているぞ。これで五人だ」


 横から神田先輩がビシとした声で言葉を投げ入れる。

神田先輩はトール先輩とは対照的だ。

声が大きい。厳しい。メガネ。以上だ!

おっとこれではあまりにも先輩に失礼である。少し言葉をやわらかくしよう。

神田先輩はトール先輩と同じく苗字に神がついてるくせに神のような寛大な懐はない。あるのは筋肉だ。身長は俺と同じくらいの175センチ。

メガネのフレームの中から見えるツンとしたつり目に睨まれたらへびよりも怖い。猛毒である。危険極まりない。頑丈な檻にでも入れるべきである。


「まあまあ細かいことは気にすんなあー。たぶんあとちょっとで新入部員もくるわあー」


 とトール先輩の穏やかな声。


「エースがしっかりせんと緊張感に欠けるわ!」


 と神田先輩が一蹴。

ちなみに神田先輩は二年生である。


「こんちはー、遅くなりました」


 新入部員かと思ったら違った。声の主はコウ、一年で同じクラスの上宮向陽である。すみませんと謝らないところがコウらしい。驚くことなかれバドミントン部男子部員はこれからくるであろう新入部員を除いてたったの四人なのだ。


 えっ?「どうして四人でよく部活として成り立っているか」だって、それはバドミントン部は女子が14人もいるので男子はその中に加わり総計18人ということになる。

つまりは男子バドミントン部たるものは残念ながら存在しない。

いままでは男子はいつも1コートの半分を使わせていただいてる立場で肩身が狭い思いをしてきた。

だがしかし、新入部員が入ってくることで五人となりそれにより男子バドミントン部と正式に部として名乗ることができるのである。

それでやっとコートも1コート丸々全部使えるようになる。

コートが少し使えなくなるので女子バドミントン部員からは批判があったが、そんなことは知ったことではない。


「さっさと練習始めるぞ!」


 神田先輩は新入部員を待つことにしびれを切らす。しかし、神田先輩も新入部員を心待ちにしているのであろう、微かに口もとが笑っている。

――かわいいやつ目。

なんて口にすると神田先輩は目をきりっと上げて怒るので胸に収めておく。


 そもそも論、俺はバドミントン部に入るつもりはなかった。というか男子バドミントン部員がまったくいないという情報を聞いてこの高校に進学したのだ。

同じ中学のバトミントン部のやつらに出会わないようにするために。


 チカチカと目が眩しい。体育館の二階にあるカーテンの隙間から、赤い赤い日差しが俺の目を狙って射る。照らされるたびにかつての隠していた傷跡がチラリチラッと溶けて心の中で漂う。


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