人狼デスゲーム~最終日~
野々市「やっぱり俺は死にたくない。」
ここにきて死にたくないって言われても、野々市君を助ける道はもう残されてはいない。悪いけど、死んで貰わないと私たちが被害を被る。
藍野「今更言われても困るんだが。」
彼の言う通りだよ。私たちは今更野々市君を助ける事は出来ない。だって、人の為に命を放り捨てられるほど人間という生き物は素晴らしく出来ていないから。
灯火「野々市ごめんね。」
謝る事しかできない私たち。でもそれが余計に野々市君の癪に障ったようだ。野々市君は怒り狂った。
野々市「嫌だ、死にたくない!」
大声をあげて死を拒否したかと思えば、野々市君はどこかに走り出してしまった。私たちは直ぐ後を追っていくが、死に際に立たされた人間の底力とは計り知れないもので、私たちは全く追いつけない。
藍野「仕方ないな。」
聞こえるか聞こえないかの声量で呟いた藍野君の手には拳銃が握られている。藍野君は拳銃を持って追いかけているということは、野々市君を殺す気でいるって事か。
灯火「野々市いた!」
声を上げた彼女が指をさす先をみると野々市君が立ち止まっていた。行き止まりのようだ。彼の姿を視認した藍野君は銃口を野々市君に向ける。
野々市「お願いだ!待ってくれ!」
藍野「……」
俯いて何も言わなくなった藍野君は強く拳銃を握り、銃口を野々市君に向けたままその場に立ちすくむ。
灯火「貸して。」
藍野君の手からひったくるように拳銃を奪い取った灯火さんは野々市君に近づき、銃を突きつける。
野々市「灯火?どういうつもりだ?御前は今まで殺しに消極的だったよな?」
額に押し当てられた拳銃に体を震わせながら、灯火さんに問い掛ける彼。確かに彼の言う通り、灯火さんは今まで殺しに対して自ら行動はしてこなかった。手を下す役目は全くと言っていい程担わなかった。
灯火「あんたに教える義理はない。」
痛烈な音が奏でられ、真っ赤な液体が辺り一面に飛び散る。野々市君は死んでしまった。
???「人狼側が全滅しました。狐側も全滅しているので市民側の勝ちです。生存者は会議所に戻って下さい。」
放送が響き渡る。会議所に戻れってどういう事?終わったんだったら帰れるんじゃないの?でも私たちに殺し合いをさせた奴らに逆らう様な行動はするべきじゃない。
村井「ねえ2人とも、戻った方が良いんじゃない?」
私たち3人は会議所に戻ることにした。会議所に戻って、真っ先に聞こえてきた声はモニターに映るピエロ。と、うちの学校の教師。
灯火「何で、先生たちが…」
藍野「妹島の話は本当だったのか?」
狼狽える2人を横目にモニターの向こうにいる先生たちを見続ける。妹島さんの考えは合っていた。そう、このゲームを考案し、取り仕切っていたのは校長先生だったんだよ。
校長「とても素晴らしい回だった。君達には感謝しているぞ。」
満足げに私たちに語る校長先生。以前にも何度かゲームをしているようだ。一体何人が犠牲になったのだろうか。今回のゲームで死んでしまったのは9人、いや#11人__・__#になるのか。
校長「特に不知火君の様な事例は初めてだ。今回は本当に良かった。私の望む教育の糧になるゲームだった。」
藍野「うるさい、一体何人死んだと思ってんだ。何人も死んでいく場所を見た生存者もどうなるんだ?俺は大丈夫だが、村井や灯火にトラウマが残ったらどうするんだ。」
彼の言う通り。灯火さんにトラウマが残る可能性は大いにある。生きているうえでトラウマがあるのは大きな障害になる。生きているうえでは。
校長「それにしても君をメンバーに入れたのは大正解だったな。もう演技は結構だ。君の功績には後々褒賞を与えよう。」
内通者が居たって事。最後まで残った人間も内通者が紛れている事には全く気付いてはいなかった。
村井「疲れたわ。私の役目もここでおしまいね。」
灯火「村井ちゃん、どうしたの?役目って何?」
校長「気付いていなかったようだが、ゲームのメンバーには内通者を紛れ込ませていた。このゲームを盛り上げ、良い成果が得られるようにね。それが村井 加奈だったという事だ。」
そう、校長先生の言う通り、私は内通者。このゲームを盛り上げるために送り込まれた。
校長「君の口から話してやってくれ。」
村井「最初にこの話を持ち掛けられた時はさすがに断ろうと思ったけど、話を聞くうちにラッキーだなと思ってね。内通者としての頼みを受ける事にしたの。人が大勢死ぬ事も知っていた。」
藍野「村井、人が死ぬことまで知ってて何でラッキーな頼みだと思ったんだよ。御前、大丈夫か?」
確かに、普通の感性を持っている人間なら、今の話だけを聞けば私の決断は理解に苦しむものだろう。でも、次の話を聞いてからはどうかな?
村井「まあ誰でもラッキーに思うでしょ。少なくとも内通者に選ばれる様な人間なら確実にね。」
校長「内通者の選定にはいくつか条件があってね。1つ目は人の死に抵抗がない者。2つ目は頭の切れる者。3つ目は欲深い者。」
つまり、内通者に選ばれた私は、他人の死に無関心で、頭が切れ、欲深い人間という事になる。悪い響きじゃないね。
村井「このゲームを盛り上げるだけで私は完璧な将来が約束される。まあ、生き残れた場合だけだけど、目立たずに居たから人狼側も私を脅威に感じず、かみ殺さなかった。1日目は上手く飯山さんに誘導したけど、2日目以降は半分運だね。」
藍野「村井、御前は自分の完璧な将来のためだけに人を殺したのか?」
村井「ねえ、藍野君。私は銃を一度も撃って無いんだよ。それに比べて君は何回銃を撃ったの?教えてあげるよ。衷さんと大野君の2回。君は自分の手で2人も殺してるの。でも私は1人も撃ってない。」
藍野「汚ねぇ女だな…」
何とでも言ってくれて結構。私は元からこういう人間だ、今更何かを言われて変わったりはしない。
村井「さて、この拳銃には残り2発入っている。何に使うでしょう?」
灯火「でも、それは処刑対象にしか効かないはずじゃ…」
最初から勝利陣営の生存者を生きて返すつもりは無いと宣告されていた。最後に手を下すのは私だとも言われている。2人を殺す準備は整えられているはずだ。
校長「君達が生きて帰って、このことが明るみに出れば困るんだ。」
私は躊躇うことなく灯火さんを撃った。そして銃口を藍野君に向けると、彼が一言も発する時間を与えないまま容赦無く銃を撃つ。
校長「よくやってくれた。君にはしっかり褒賞を与えよう。これから学校に戻ろうか。」
終わった。これで、私の未来は保証される。私はやってきた大人たちに薬をかがされて、意識を失った。
目が覚めると、私は学校の保健室のベッドの上に居た。保健室の先生がおはようと、声を掛けてくれる。
保健の先生「目が覚めたら校長室に行くように言ってと言われててね。行ってきなさい。」
私は校長室に向かう。校長室の扉をノックし、入る。
校長「今回の褒賞の手配は済んでいる。時が来るまで待っていなさい。」
村井「分かりました。失礼します。」
私は校長室を後にすると教室の方へ足を運ぶ。教室に戻ると友達が私の元に駆け寄る。
友達「加奈!久しぶりだね。ここ数日休んでたけど、どうした?」
誤魔化す理由は適当でいっか。ごちゃごちゃ考えてもしんどいだけだもんね。
村井「ちょっと体調崩しちゃって。もう大丈夫だよ。」