冴島組若頭の自宅
あの住宅地や組の本拠地よりも僅かに離れた場所に美鷹の自宅マンションはあった。
とはいえ、家自体はいくつか所有しており今向かっているマンションもその中のひとつだ。
どの家にもそれ程頻繁に帰っている訳でもなくあちこちを転々としていた。
マンションに着くと地下の駐車場に車が止められ、右京が開くドアから琥珀を抱えながら外へ出る。
いつもなら部屋の前まで着いてくる部下を今日は断り1人、エレベーターホールへと足を向けた。
部屋に着く途中、1度小さな寝言のような唸り声を洩らし瞼が震えたものの琥珀は目を覚ます気配もなくそのまま部屋へと着いた。
あの場所から一番近い家、という理由でこのマンションを選んだのだが、ここに帰ってきたのは何ヶ月ぶり・・・いや何年ぶりかもしれない。
しかしここは冴島組若頭である美鷹の自宅である。
久しぶりに、それも何年ぶりかという帰宅であったとしても塵一つ積もっていない完璧な清掃ながなされていた。
整頓されている部屋というよりは物の少なさからモデルルームと見紛うほどだった。
必要以上に広く見えるリビングを通りぬけ、大きなベッドか置かれているだけの寝室へ向かう。
女を自宅へ招く習慣のない美鷹の寝室には揶揄ではなく本当にベッドしかなく、ルームライトどころかティッシュの類すら置かれていない。
完璧にベッドメイキングのされたそこへ、まだ眠ている琥珀をそっと横たえる。
「っ、うぅん、」
眉間に皺を寄せ、小さく息を漏らすがやはり起きる気配はない。
代わりに、小さな寝息がかすかに聞こえてくる。
少し落ち着こうとタバコに火をつける。
眠りながらも小さく震え続ける小さな体に大きめな毛布をかけてやるとちまっとした小さな手がそっと端を掴んだ。
そのまま琥珀を横目に寝室を出るとリビングのソファーに腰を下ろしパソコンを片手に一服することにした。
雅近しかいないリビングにはタイピングの音だけが大きく響く。
しばらくすると、カタッっと寝室からもの音が聞こえた気がした。