冴島組の若頭
何気ないいつも通りの朝。
冴島組若頭 美鷹雅近はとあるタワービルの最上階へと足を運んでいた。
キラキラと光るようなブロンドヘアーに漆黒のスーツ。
前髪は全て後ろへと流されておりすらっとした長身に程よくついた筋肉はスーツの上からでも分かるほどだった。
──組長 執務室
目的の部屋までつくと、ノックとともに目の前の扉を開け中へと体を滑らせる。
すると机の向こう側、、入口と向かい合うように置かれたソファーにどっかりと座っている人物が顔を上げた。
「組長、おはようございます」
「おう。今日の予定はどうなってる」
「本日はこちらの書類に1度目を通していただき、その後例の案件についてのご相談。そして昼からは山本会の会長との会食。その後はまたこちらに戻っていただき───」
「・・・めんどくせぇな。」
不機嫌そうに声を渋らせ、タバコを取り出すこの男こそが雅近がもっとも信頼を寄せ一生を誓った男。
冴島組組長 近藤 樹
190はある長身につり上がった鋭い目。
若くして組長へと上り詰めたともありその威圧感は並ではなく、ただそこに居るだけで身が竦む者も多いと言われている。
この冴島組は、関東の中でも1、2を争うほどの権力を持つ宮地組の2次団体であり、今もっとも波に乗って駆け上がっている最中の団体である。
主に、金貸し、不動産、株など、あらゆるビジネスに手をつけ、尚且つどのビジネスでも立派な黒字をたたき出していた。
特に不動産の方では「槇原不動産」という名で運営しており、マンション供給戸数ランキングでは5年連続全国1位、首都圏1位、近畿圏6位。
また都内を中心に200を超えるビルを保有・運営するなどしてよく、CMやメディアなどにも取り上げられ多くの高実績を積み上げていた。
ただし、不動産にしろ他のビジネスにしろヤクザであるゆえにその内容はグレイゾーンであったりするものがほとんどである。
「そういや、美鷹。お前今日の予定はどうなってる」
机の上に積まれた書類をめくる手を止めることなく美鷹へと声をかける。
「本日は私情で少し事務所を離れそのまま帰宅する予定です。私の代わりは別の者を用意しています。」
「私情?お前にしては珍しいな。・・・・・・って、そういやぁ今日か。なんつったかコノハだがコハクだかのガキを迎えに行くのは。熱心に舎弟まで使って色々調べてたみてぇじゃねぇか」
「はい。ご迷惑おかけして申し訳ありません。」
「別に構うもんか。そーいやここ数日休暇も与えてなかったな。ちょうどいい、お前そのまま数日休めや」
「え、しかし、、」
「まぁ、お前いねぇし俺も休むがな。最近この辺りも落ち着いてきてるからなぁ。いつ抗戦が始まるかわかんねぇんだ休める時に休んどけ」
確かに、明日から長期休みを貰えるなら有難い。
それに、組長付きである美鷹は組長が休みとなれば特にやることは無い。
「ありがとうございます」
「あぁ。それにしても意外だなぁ。てめぇがあんなガキに入れ込むとは」
それもそうだ。
冴島組の美鷹雅近という男は他人に興味を持たず、冷たく残酷な男だと言われている。
女にしろ1夜だけの相手が殆どで、気に入った女でももって1ヶ月。早くて1週間以内にはもう興味を失う。
昔に1度数人の女を囲ったこともあったがそれも長く続くことは無く今や特定の相手は1人もいない。
代わりに玄人素人を問わず一夜限りの相手には事欠かなかったのは、美鷹の容姿故か冴島組若頭という地位からなのか。
そして美鷹自身も、なぜこんなにもきちんと顔も見たことがない相手に執着しているのか分からなかった。