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男の言葉に母親はクスリと笑うと近くにあった椅子へと腰掛ける。
「どうもこうもないわよ。そのままの意味。こいつに言葉なんて分かるはずないじゃない。その辺の犬や猫と一緒よ。説明するだけ無駄。言う事聞かせたかったら殴るなりなんなりしたら大人しくはなるわ。特に今みたいにめんどくさい事になったときはね」
男の腕の中で「ごめんなさい」と泣き続けている琥珀を目で捉えた母親はすっと椅子から立ち上がると躊躇いもなく琥珀の首へと手をかけた。
「ごめんな、、ぁ、かはっ、、っっつ!!」
「五月蝿いわね。このクズが。誰が喋っていいって言った?あんたは大人しくこの人たちについて行けばいいんだ、「てめぇ!!」きゃぁっ!!」
加減なく琥珀の首を締め付ける母親を男はすぐさま蹴り飛ばし、慌てて後ろで控えていた右京が押さえつける。
「っ、げほっ、けほ、っぁ、はぁ、、あ、けほっ」
急に入ってきた空気に咳き込む琥珀の背を撫でながら男は母親を睨みつけた。
「てめぇ、俺のもんに手ぇだすとはいい度胸じゃねぇか。こいつはもう俺が10億で買ったんだ。それともぶっ殺されたいか」
「ちっ、なによ。ならさっさとそのクズを連れて帰りなさいよ。目障りだわ。」
右京に押さえつけられた母親は蹴り飛ばされた時に口を切ったのか口の端が赤く染っていた。
「・・・右京。行くぞ」
「はい」
男は琥珀を抱え直すと床に落ちたスーツの上着で琥珀を包み込み玄関の方へと歩き出す。
後ろからは右京が少し距離を開けてついてくる。
「か、母さん……」
琥珀は、男の肩から母親に手を伸ばして見るが、、
「ふん。母さんだなんて呼ばないでちょうだい。気持ち悪いのよ。どうして、あんたなんかを産んだのかしら さようなら。」
そう言うと、母親はくるりと机に向かうと、なにやら大量の紙の束を笑顔で机に並べ始めてしまった。
これが琥珀が最後に見た母の姿だった。