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「あなたを売ったわ。琥珀」
うっ、た?
突然、告げられた母親の言葉に床に座っている琥珀は、首を傾げる。
琥珀は、幼稚園や小中高と、学校に行かせてもらえていない上、外にも出させて貰えてないために知識がとても欠けていた。
琥珀が最後に外に出たのは10年以上も前。琥珀がまだ4、5歳あたりの頃だ。交通事故で死んだ父親の葬儀の時。
そこからだった。父親が死から母親の態度が、がらりと変わってしまい、日に日に琥珀に対する態度が酷くなっていったのは。
ーコンコン
急に、家の扉を叩くような音がなった。
母親は立ち上がると、笑顔で玄関へと歩いていく。
しばらくすると、母親とその後ろに2人の男の人が部屋に入ってきた。
「この子ですか?」
「えぇ、そうよ。この間、写真を見せたでしょ?さぁ、お金になるならいくらでもいいから早くこの子を連れて行って頂戴。」
…な、なに?
琥珀は、今まで母親の顔しか知らなかったため、部屋の隅で小さくなって、男たちの様子を伺っていた。
すると、
「ひゃっ、」
急に、何か温かい物に包まれ視界が奪われると体が浮き上がった。
慌てて、手元に合った何かを掴む。
「いいだろう。コイツを十億で買ってやる。 行くぞ右京」
僕のすぐ近くで聞き慣れない母さんよりも低い声が聞こえた。
「はい。では、こちら十億となっておりますので、お確かめを」
「…………えぇ。きちんと受けったわ」
視界が真っ暗だが、聞き慣れた母親の声と別の2人の声が聞こえる。
しばらくすると、僕がしがみついていた物が急に動き出した。
「あっ」
それと同時にはらりと、僕の頭に乗っていたものが落ちる。
ずっと真っ暗な視界が無くなったかと思ったら、次は視界一面に金色が飛び込んできた。
「しっかりと掴まっとけよ」
声がした方に顔を上げると、見たこともない男の人の顔が目の前にあった。
その後ろにももう1人。
こわい、、
なに?だれ?
「、やっ」
ずっと長い間、母親以外の人を見ることがなかった上、180はゆうに超えてる長身。
そして女性とは違い一つ一つのパーツも固く大きな彼等は琥珀にとっては恐怖の対象でしかなかった。
「おい、落とすから暴れんじゃねぇ!大人しくしてろ!」
ービクッ
母親よりも大きく力の強そうな男の大きな声はただただ恐怖でしかなく琥珀の目からは次々と涙が溢れ出る。
「ぅ、ぁ、、ごめんなさ、、ごめ、ごめんなさい、」
男は自分の腕の中で必死に身を縮め己を守るような姿の琥珀をみて眉を顰めた。
「泣くな。お前はあの女に売られて今から俺と一緒に行くんだ。もうここには帰ってくることはねぇ。心配しなくてもここよりかはいい生活は保証してやる。なんか持っていくもんあるなら言え」
ポロポロをこぼす琥珀の涙を片手で拭ってやりながら、先程とは違いなるべく落ち着いた声で琥珀へ話しかける。
すると、ずっと事の成り行きを見ていた母親が口を開いた。
「そんなこと言ったって無駄よ。こいつに分かるわけないじゃない。さっきの言葉だって半分以上理解出来てないわよ。売られるってことさえ理解出来てないわ。それにこの部屋にこいつのもんなんてあるわけないじゃない。」
すると、男のすぐそばに立っていた右京が眉をひそめた。
「理解出来てない?」
「どういうことだ」