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VSペット怪人ジュージーン(後編)

「これは……一体……?」


「わふふ~どうなってるか知りたい? じゃあ、特別に教えてあげちゃうワン」


 くすくすと笑いと、ニヤける顔をこらえつつ、ジュージーンは何処からか手鏡を取り出し、それをホムラに向けてキラリと姿を映した。すると、どうだろう。手鏡にはホムラと同じ赤いスーツを着た犬が座っている姿が映し出されていた。


 ホムラは少しの間を置いて、それが自分の姿だと気付く。


 犬というよりかは、何処か中途半端で、ところどころ毛深くはあったが、人としての形はまだ幾分か残していて、人と獣の中間といったところだろうか。


「この鈴の音を聞かされちゃうとすこ~しずつ動物になっていっちゃうんだよ。どんな動物になるかは人によって違うんだけど~、キミは犬になったみたいだね。キミが完璧な犬になったらみっちり調教して可愛がってあげちゃうんだワン♪」


 唖然として、ホムラは判断が鈍りつつあった。もしまたあの鈴を鳴らされたら今度こそ本物の犬になってしまうに違いない。


「だいじょ~ぶ! 悪いようにはしないって。ただ、な~んでもいうこと聞いちゃう従順なペットにしつけちゃうだけだワン」


 ジュージーンは平然とにじりより、ホムラの頭をわしゃわしゃと撫でた。本当なら振り払うべきな手であるはずなのに、ホムラは思わず、「くぅ~ん」と鳴いてしまっていた。あまつさえ、心地よいとさえ感じていた。


 ホムラの中で、いっそこのままずっと、なんて考えさえ過ぎった。


「ほ~れ、よしよし~。いいこだワン」


 なでなでが続く。戦意がどんどん薄れていく。


 これはまずい。ホムラはそう思っても、反撃する手段がほとんどない。この格好では武器が使えそうにもないし、立ち上がること自体も難しい。


 立ち上がれたとしてもこの半端な姿ではパンチやキックなども威力が落ちて対抗できる気もしない。そもそも攻撃が繰り出せるかも怪しい。


 それに何より、もしジュージーンが「待て」と一言口にしたらそれだけで無力化されるのも目に見えているだろう。


 この状態でホムラにできることは……。


「わっふふ~ さあ、観念して私のペットになりなさ~い」


 ジュージーンがあの鈴を差し出そうとした。そのときだ。


「ゥワオォォーンッ!」


「きゃわわ~っ!? あ、あっつ~いっっ!!?」


 ホムラの身体から炎が発せられる。


 それは一瞬でそれほどの大きくはなかったが、目と鼻の先の至近距離にいたジュージーンを怯ませるには十分すぎる火力だった。


◆説明しよう。ホムラのスーツはパワー出力の調節次第で怒らずとも発火させることができるのだ。しかしせいぜい花火程度の火力で敵を攻撃するほどの威力はない。ジュージーンが怯んだのは至近距離だったせいで、自前のフサフサの毛皮に着火したためだ。


 ジュージーンはホムラの予想していたよりも飛び跳ねるほど大きく驚き、また怯んだせいで、手元にあった鈴も落っことしてしまっていた。


 その隙を見逃すものかと、ホムラはすかさず、落とした鈴を口でキャッチする。


ほれれろうらっ(これでどうだっ)!」


 一か八か、ホムラは口に銜えた鈴を奥歯でガリっと噛み砕く。さすがに少々痛かったが、鈴はベシャリとひしゃげて音が鳴らせないくらいに壊れた。


 これ以上この鈴で犬にされないようにと思っての行動だったが、それが予想以上に功を奏したのか、なんと半分犬になっていたホムラの身体がムクムクと次第に元の身体に戻っていった。どうやら、この鈴は破壊されたら効力を失うらしい。


 あれよあれよという間に、公園中にいた犬や猫たちが人間の姿へと戻っていく。おそらく町の中に徘徊していた動物たちも今ごろ元の姿に戻っていることだろう。


「あぁんっ! なんてことだワン! なんてことしてくれたんだワン!」


 火の粉でコゲかけたしっぽをパタパタと冷ましていたジュージーンがようやく一連のことに気付いたのか、四つん這いになりガルルとうなり声をあげて、ホムラを威嚇していた。


「せっかくキミをペットにしてあげようと思ったのにぃ……も~許さないワン! 謝ったってぺろぺろしてあげないんだからっ!」


 元の身体に戻れたのなら、もうホムラに何も心配することはなかった。


「レッド・バレット!!」


「きゃいんっ!?」


 ホムラの何の変哲もない右ストレートがジュージーンの顔面のいいところにクリーンヒットする。強化スーツのおかげでホムラの拳は大人並み。直撃させれば、気絶させるくらいの威力は十分。


 ジュージーンが四つん這いになんかなってなければホムラとの身長差もあって上手い具合に直撃することもなかったろうに、獣スタイルが招いた不運だった。


 ジュージーンは目から星を散らばせながら、キュゥと地面に倒れた。


 その瞬間に、ホムラの周囲からワッと歓声が上がる。ついさっきまで犬や猫にされていた人たちだ。怪人がホムラの手によって倒されたことを理解したのだろう。


「ありがとう。あなたのおかげで助かったわ」


 被害者と思わしき女性の一人がホムラを見下ろしてくる。


「いえ、当然のことをしたまでです」


「こんなに小さいのに、よく頑張ったね」


 ホムラの頭がなでなでと撫でられる。


「くぅ~ん……ハッ!? いや、その、これは……」


「うふふ、かわいいヒーローさんね」


「あ、あの、次の現場があるから、いそっ、急ぎます! では、失礼!」


 別に新しい通報は受けていないし、そもそもファイターボーイに仕事の掛け持ちは規約違反なのでずいぶんと堂々とした嘘だったが、顔を真っ赤に紅潮させたホムラは一目散に公園から逃げ出していった。


 ともあれ、今日も町の平和は守られた。


 ありがとう、ファイターボーイ。ありがとう、ホムラ。


<つづく>

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