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VSペット怪人ジュージーン(前編)

 とある市街地にて、大量の住民が行方不明になり、代わりに動物たちが町中を氾濫しているという通報を受け、ホムラはこの町を訪れていた。


 近隣の住民たちの避難が完了した繁華街は、もはやゴーストタウンのようになっていたが、報告通り町のそこかしこには猫や犬などが徘徊していた。


「本当に……動物だらけだ」


 道を歩けば犬、猫、犬、猫。その多さときたら一目見て異常だと分かる光景だ。


 これほど規模の事件となると、怪人が原因であると安易に考えられてしまい、ホムラの所属するファイターボーイの本部に救援要請が届けられる。


 中には怪人が全く関係ない事例も当然あり、パトロールだけで業務を終えたこともある。


 あまりに被害が酷いものになると、そもそも戦闘員が子供だけのファイターボーイに声が掛かることなどまずないので、ある種、簡単な雑用や小間使いのような立ち位地になっているところはある。


「一体、この動物たちは何処から……?」


 あくまでファイターボーイは政府に認可された怪人討伐機構の少年部門のうちの一つであり、怪人が事件を起こしているかもしれない、と上が判断したらとりあえず駆り出される身なのだ。


 政府が定めた怪人討伐機構の規定では、少年の部では怪人一人以上三人以下の出現時のみ派遣が許可される。勿論、複数人が派遣される場合には例外もあるが、少なからずともホムラの行く先々に規定以上の脅威があることはまずない。


 怪人討伐なんてものは、そもそもの話、力のある大の大人の仕事が当然であって、少年の部は強化スーツなる代物が存在しなければ必要のない、いやむしろあってはならないような部署だ。


 何せ、根本的に怪人の被害は減ることがないのだから、大人が派遣されても足りないくらい多い。そのせいで、日夜訓練が必要な大人よりも数の多い少年の部の派遣の比率が多くなってしまうのも、水面下では問題視されていることでもある。


 きっと今も何処かで「怪人討伐に少年を起用するのは反対!」などというデモ運動による戦いが繰り広げられていることだろう。しかし、あいにく、この物語には関係ないので割愛とする。


「おかしい……、この近辺にはペットショップも動物園もないはずなのに……」


 町を散策していくも、ホムラの目に映るのは犬猫の戯れる姿ばかり。そろそろ本部に連絡を取り、一旦報告して本部に帰還すべきかと思ったその矢先だ。


 通りがかった公園に、ずいぶんと大きな犬の姿があった。


 まるでプードルのように毛を刈り込まれていたが、あれほどの大型犬であのようなトリミングをする犬種なんていただろうか、とホムラがよくよく目をこらしてみると、それは犬ではなかった。


 骨格からしてあきらかにそれは人間そのものだった。


 イヌミミのカチューチャを頭につけ、手足やお腹周辺にモコモコな毛を残した、まるで動物のコスプレのような格好。


 紛れもなく、怪人。あれこそはペット怪人ジュージーンだった。


「わふん? おやおや~? その格好、そのエムブレム。ひょっとしてキミはファイターボーイかワン?」


 ホムラに気付いたジュージーンは向き直り、四つん這いで尻尾を振っていた。


「そうだ! この町に人がいなくなったのはお前の仕業か?」


「わっふふ~ その通りだワン。私は怪人ジュージーン。ペット怪人なんだワン」


 ちょこんとおすわりポーズになり、ハッハッハと息を荒げて答える。


「ペット怪人……?」


「そうだワン。私の手に掛かれば人間なんてみぃんなペットにしちゃうんだワン」


「なんだと……? じゃあ行方不明になった人たちってまさか……」


「わっふ~ん キミも私のペットにしてあげるワン♪」


 そういうとおもむろにジュージーンは立ち上がり、何処からか取り出した小さな鈴のようなものをホムラに向けて、ちりんちりんと鳴らし始めた。


「ケモケモ・メタモル・リンリンっ!」


 何やら律儀に技名のようなものを唱える。


 何の変哲もない小さな鈴にしか見えなかったが、超音波でも放っているのか、ホムラのあまりの眩暈に視界が揺らぐほどに強烈な音が耳の奥にまで届いた。


「ぅ……っ、これ、は……?」


 とっさに耳をふさぐも、そんなことくらいで鈴の音が聞こえなくなることはなく、ちりん、ちりん、ちりんとまるで脳を揺さぶるように響いてきていた。


 次第に、ホムラは立ち上がるのも辛くなっていき、耳をふさぐのも忘れて、地面にペタリと両手をついて倒れこむように屈する。


 気付いたときには鈴の音も鳴り止んでいたが、それでもホムラは何故か立ち上がることができなかった。というよりも、足が思ったように動いていなかった。


「あ、あれ……?」


 スーツごしに感じるくすぐったいような違和感。スーツのその下で何か、ふわふわと柔らかいものが挟まってきたかのような変な感覚。


「きゃうう~ん♪ とってもプリティだワン」


 いつの間にかホムラの目の前まで来ていたジュージーンがキャピキャピとはしゃいで飛び跳ねていた。ホムラには何を言っているのかすぐには分からなかった。


「お手っ♪」


「ワフゥ」


 その一声で、ホムラはジュージーンに差し出された手をとっていた。


 しかも、子犬のような声をあげて。自分の出した声に驚き、差し出した手も引っ込めて、ホムラは跳ねるように後ろに立ち上がった。


 するとどうしたことか、やはり立ち辛い。まるで骨格がおかしくなってしまったかのように。


「おやおや~? どうしたのかな~? おすわりっ♪」


「ワゥン」


 またしても、ホムラはジュージーンの声に反応して、自分の意思とは関係なく、その場にペタリと犬のようにお座りしていた。


 それもどういうわけか、ホムラはさっきよりも気分が良くなっていた。これはまるで嬉しいという気持ち。もっと命令を聞いていたいという気持ちだった。

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