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悪の組織やってます ~怪人大好きな科学者による悪役ライフスタイル~  作者: あらまき
第五章:復讐を忌み嫌う者

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ARバレット


 ARバレット内の休憩室に入った時、ユキは知らない人物がいる事に驚いた。

 休憩室と言ってもテイルと自分に怪人達くらいしかここには来ないからだ。

 タバコ独特の臭いをまき散らしながら、自分は世界で一人なんだというような雰囲気で佇むスーツ姿の男。

 いぶかし気な目をしながら良く見ると、それがテイルであると知ってユキは再度驚いた。


「テ、テイル? ……どうしたの? タバコなんて吸ってったっけ?」

 もちろんそんなわけがない。

 そもそも、ARバレット内でタバコを嗜む人物などほとんどおらず、テイルに至っては嫌煙派に等しい。

 にもかかわらず、目の前の男はタバコを吸っている。

 ただ、その表情はとても幸せそうには見えず、険しい。

 まるで水の中をもがいているような、そんな雰囲気を醸し出していた。


「……いいや。吸うのはこれで三度目だ。……すまんな」

 そう言いながらテイルはタバコを口に加え直し、まるで苦しむように味わいだした。


「……美味しいの?」

「いや、死ぬほど不味いな……」

 じゃあどうして吸っているの?

 そう聞きたかったユキだが、何故かわからないがその言葉を出す事は出来なかった。


 そうこうしてユキがテイルに話しかけられずにいると、もう一人入室してきた。

 今度こそ間違いなく、ユキの知らない男性だった。

 背が高くて肩幅が広いその男性は、今のテイルと同じようにスーツを着ていた。


 そのまま男性は無言でテイルに近づいてタバコを取り出す。

 テイルはその男に自分のタバコを押し当て、タバコ同士で火を移した後二人は無言のままタバコを嗜みだした。

 やはりその男も、その表情は幸せそうでもなければ、決して楽しそうでもなかった。


「……さて。行くか」

 タバコを携帯灰皿に入れながらテイルがそう呟くと、男も同じように灰皿にタバコを仕舞い、そのまま無言で部屋を出て行いく。

 その後を追うようにテイルも部屋を出て行こうとしているがユキは何も言えず、悲しそうな表情でテイルの背を見ていた。

 何故かわからないが、その背中がとても痛々しかったからだ。


「……ユキ。悪いが付いてきてくれ。これからの事を話す」

 そう言って返事も聞かずに移動しようとするテイルの背を、ユキは頑張って追いかけた。

 何故かわからないが、今追い掛けないと一生追いつけない気がしたからだ。




 体育館のような広い部屋の中、スーツ姿のテイルと知らない男はひな壇の上に立ち、それを皆で見守る構図となっていた。

 その観衆の前列にいるのはクアン、ファントムにエイレーン。

 その後ろには、ARバレットの戦闘員が三十人ほど。

 戦闘員のほとんどは何が起きているのかわかっておらず不可解そうな表情を浮かべているが、十和子など数人だけは何か事情を知っているのか、酷く悲しそうな顔をテイルに向けていた。


 そんなARバレットには似合わないざわついた空気の中、テイルは大きく咳払いをして皆の注目を集める。

「……ここにいる皆が、エイレーンについて大方理解していると思う。もし、良くわかっていないなら誰かから聞いてくれ。それともう一つ、これから行われる事は任意参加だ。途中で抜けたい奴はいつでも抜けてくれ。ただし、ファントムだけは悪いが作戦上絶対に必要な為、強制参加とする。良いな?」

 テイルの言葉にファントムは、微笑みながら嬉しそうに頷いた。


 今のテイルが異常で、何か重たい決意をしたという事はファントムも良くわかっている。

 そんなテイルを見るのはこれが初めてではないからだ。

 そして、そんな追い詰められたようなテイルに必要と言われる事。

 それこそがファントムにとって最も嬉しい事だった。


「さて……エイレーン。決意が変わらないなら……そのままこちらに上がってこい」

 テイルの言葉を聞き、エイレーンは迷わずひな壇を上がりテイルの横に立った。


 きっと、人を殺すという事は悪い事で、二度とマトモな生涯を送る事は出来ないだろう。

 逆に、全てを忘れてしまえばきっと自分だけは幸せになれるだろう。

 ARバレット(ここ)は、そう思えるに十分なほど信用出来る暖かい場所だった。


 だが、それでも結局エイレーンの気持ちは変わらない――変えられない。

 どうしても、瞼の裏にある優しい姉の悲しそうな顔が見えて、その気持ちを忘れる事が出来なかった……。


 エイレーンが傍に来ても、テイルの表情は一切変わっていない。

 いつもと全く違う、良く言えば覚悟の出来た顔、悪く言えば……重苦しい表情。

 そんな表情のまま、テイルは口を開いた。


「ARバレットという組織名だが、その由来を知っている人は少ないだろう。……ARとは『Anti Revenge』の略称の事だ。復讐を忌み嫌う弾丸。それがこの組織の由来で、俺の組織設立理由でもある」

 元々テイルは正義の味方を設立するつもりだった。

 悪の方に関心があるのは確かだが、正義の方が勝ちやすく、そして皆に好かれやすいからだ。

 自分の作った息子、娘達を幸せにしたい。

 だから正義の味方をやりたかったのだが、それは選択出来なかった。

 正義の味方では為すべき事を――弾丸となる事が出来ないと考えたからだ。


「――俺は、復讐が大っ嫌いだ。自分勝手な気持ちで、他者の迷惑も考えず、自己満足の為に命を賭けて死んでいく。そんな復讐を俺は憎んでいる……」

 その言葉はまるで腹の底から引っ張り出されているようだった。

 非常に重たく、聞いている方が悲しく、苦しくなる。

 だからこそ、それがテイルの本心であると皆が理解出来た。


「……だが、復讐を俺の自己満足で無理やり止めさせたとして、それで皆が幸せになるだろうか……。断言しよう。むしろより悲劇は広がる。エイレーン……一つ尋ねるが、君が復讐を忘れたとして、君のような、または君の姉のような犠牲者はもう出ないと思うか?」

 その言葉に、エイレーンは首を横に振った。

「……おばあちゃんもいた。若い人もいた。人に乱暴する悪い人も、優しい女の子もいた。……さっき言った人、全員途中で見なくなったよ……たぶんもう……」

「――そう。復讐という一矢を行う事で、悲しむ人を減らせる事が出来るのも事実だ……。だが、それでも俺は復讐を許さない」

 そう呟いた後、テイルはエイレーンの方を見た。


「俺は復讐(revenge)を許さないし、認めない。だからこそ、これは報復(avenge)である」

 その言葉にエイレーンは首を傾げた。

「……一緒じゃない?」

「違う! 復讐には未来がないが、報復は皆の、自分の未来の為に行う。その差は非常に大きい。自分の為だけでなく、社会的な意味でも必要な処置でもある。……故に、これより作戦を言い渡す。その前に、人を殺す覚悟がないもの、作戦に反対する者はすぐこの場を離れよ」

 テイルの言葉に、誰一人動こうとはしなかった。

 そういった事から最も縁遠いクアンですら、その場を離れずまっすぐテイルの方を見ていた。


「……クアン。離れても構わないぞ? お前の心が美しいのは知っている。この中の誰よりも優しくて、そして慈悲深い。だから……」

 その言葉に、クアンは首を横に振った。

「……いいえ。離れませんよ。それに、私は綺麗な心じゃなくて、ただわがままなだけです。確かに、人を害する覚悟を持つのは私には難しいです。でも……それ以上に私は、苦しんで傷ついているお父様(あなた)の支えになりたいと思ってしまっていますから……」

 そう言って、クアンは力なく笑った。


「……そうか。すまんな。悪い父親で。ユキ。君は――」

「大丈夫。たぶん私が一番傷つかないから。遠慮しないで頼って」

 堂々として、そして本音であるユキの言葉にテイルは頷いた。

「……言っちゃ悪いが、その空気が読めない部分が今は救われる」

「そ? んじゃ私の人生も悪いものじゃなかったわね」

 そう言ってユキは微笑んだ。




「作戦と言ってもそこまで難しい事はない。ついでに言えばこの中の大多数、ユキとクアン含めてそのほとんどは手を汚さなくて良い」

 そう言った後、テイルは指を三本立てた。

「作戦チームは大きくわけて三つとなる。一つ、一番人数を割く必要がある部分だ。任務内容は、ジェネシス社員で今回とは無関係な人物の避難。……もし、一人で無実の者がも巻き込まれて死ぬようなら、俺はエイレーンを殺して自害する」

 その言葉に、エイレーンは頷いた。


「二つ、エイレーンのような人体実験をされている者達の救出だ。幸い実験施設は一か所しかないからそこまで大変ではない」

 そう言った後、テイルはこほんと小さく咳をして、指を一本だけ立てた。


「三つ目。俺は……いや、俺達は復讐を忌み嫌う者である。故に……復讐を根絶する為に騒動関係者を――皆殺しにする」

 その言葉は誰かに伝えているというよりも、自分の中で繰り替えているようだった。


「法律は問題ない。殺しても合法な環境を用意する。負ける事もない。俺が用意出来る最高の人材を用意した。大切なのは、明確に他者を害する意思だけだ。……だから、最後の三つ目は志願制とする。クアンとユキは悪いが救出、避難の補助を頼む。ファントムはまた別口での仕事がある。だから……戦闘員の皆に尋ねる。人を殺す覚悟のある者は手を挙げてくれ」

 その言葉に、二十人ほどいる中で三つの手が上がった。

 男性二人と、十和子。

 三人共、最初から同情的な瞳をテイルに向け続けていた人物である。


「……三人はフューリー……俺の隣にいる男と共に移動して作戦を聞いてくれ。フューリー。任せるぞ」

 その言葉に隣にいたスーツの男は頷き、手招きをして三人を呼び、慣れた動きで別室に移動していった。


「さて、救出、避難について詳しい作戦を話そう。とりあえず、全員、スマホの用意をしてくれ。手元にないなら部屋に取りに、持っていないなら貸し出すから言ってくれ」

 その言葉を聞き、わちゃわちゃと集団が移動を始めた。




「十和子と柏葉は前の時と一緒だったが、今日は新入りがいるな」

 そう言ってフューリーは男の一人をちらっと見つめた。

「えと、俺がいない時に三人で何かあったんですか?」

「ああ。今回と同じだ」

「同じ?」

「今回で三回目なんだよ。正しい意味でARバレットの活動を、復讐を嫌う弾丸として、動くのがだ」

「……なるほど」

「んで、お前はどうして志願したんだ? 俺と十和子三度目で、柏葉は二度目だからある程度は慣れっこだ。この処刑メンバーも……大分減ったな。いや、良い事か。全員死亡でなく幸せに巣立っていったのだから」

 そう言ってフューリーは遠くを見るような眼差しをした。


「……俺、それなりに人を殺した経験があるんで。……すいません。Dr.テイルにあまり話すなって言われてて。ただ、そういう経験だった俺を助けてくれたので、良い恩返しになるかなと」

 新入りと呼ばれた男はおずおずとそう言葉にした。

「わかった……何も聞かない。ハカセがそう言うなら大丈夫だろう。というわけで自己紹介をしようか。今作戦の滅殺チーム指揮を担当するフューリーだ。ハカセの作った最初の……ああいや、零号がいたな。ま、怪人第一号だ。よろしく」

 そう言った後、フューリーは全員に手を差し伸べ順に握手を求めた。


「先に言っておく。俺の手札……怪人としての能力は指揮能力だ。……こんな見た目だがそれほど戦闘力は高くない」

 大きな背をした男は、おちゃらけるようにそう言葉にして両手を横に広げた。

「代わりに指揮能力は特別高いぞ? 俺の言う事を聞けば全員無事で、そして簡単に殺れるって宣言しておこう。ついでに言えば、今回は切り札も用意出来た」

 そう言ってフューリーはスマホをちらちらと見せた。


「切り札って、何でしょうか?」

 十和子がそう尋ねると、フューリーはいたずらっ子のように笑った。

「作戦決行時、フレンジィと連絡が繋がる手筈となっている」

 その言葉に十和子は驚き、苦笑いを浮かべた。

 だが、男性二人は理解出来ず首を傾げていた。


「ああ。柏葉も知らなかったか。フレンジィってのは第二怪人、俺の弟なんだが、能力は未来予知だ。絶対に変えられない未来ではなく、最も可能性の高い未来を読み取るタイプのな」

「……なるほど。隊長と組み合わせたら本当に恐ろしい事になりますね」

 柏葉と呼ばれた男はぽつりとそう呟いた。


「おう。もともと双子みたいなもんで連携前提だから俺とフレンジィは。んで俺達の具体的な行動だが……ぶっちゃけ大筋の人間は俺達がどうこうしなくてももう死ぬ運命になってる。祭りの開始まで秒読みだからな。だから俺達のすべき事は……お祭りの時にノリの悪い奴らのお相手だ。具体的に言えば……一人頭三人だ」

「なんだ。たったのそれだけですか」

 新入りと呼ばれた男がそう言葉にすると、皆が目を丸くさせその男を見つめた。


「新入り……。いや、そりゃそうか。こんなぬるま湯みたいな幸せ空間の中で人殺しに立候補するんだ。マトモなわけないよな」

 そう言ってフューリーは苦笑いを浮かべた。


「というわけで、作戦実働部隊四人で、一人頭三人ほど殺ってくれや。指揮は俺が出す。だから、責任も罪も俺が引き受ける」

 フューリーはそう言葉にした。

「あれ? 四人です? フューリー様……いえ、隊長は指揮ですので実働とは……」

「……俺達に人殺しをさせて、ハカセがのうのうとしてると思うか。あの人も殺る気なんだよ」

 そう行ってフューリーは盛大に溜息を吐いた。




 数時間後、三チーム全ての作戦相談が終わった後にテイルはファントムをコンピュータールームに呼び出した。

 復讐ではなく、報復。

 そうする為には社会的に相手を殺して良い環境を作らなければならない。

 そして、この国で合法的に他者を抹殺出来る条件はたった一つしかなかった。

 KOHOにより『最優先殲滅対象』に指定される事。

 たったそれだけである。


 実際、ジェネシスの一部、仁志木などは『最優先殲滅対象』指定されるべきほどの悪事を行ってはいる。

 武器の輸入出に人体実験。

 なにより、外国の人間を買って実験に使っているのだ。

 国にとっても厄介以外の何者でもなく、死刑を通り越して『最優先殲滅対象』にされても何らおかしくはない。

 なのだが……現状それは難しかった。


 ジェネシスは国に信用されている組織である事もそうなのだが、一番の理由は具体的な証拠が欠如している事にある。

 KOHOの指定する『最優先殲滅対象』に選ばれるには、確証と証拠が揃ってなおかつKOHOにとって処理しなければならないという理由が存在していなければならない。

 だからこそ、ファントムの存在が必要だった。


 逆に言えば、桐山の調査した具体的な位置の情報があり、更にファントムさえいれば、今回の作戦の九割は終えたと言っても過言ではなかった。

 ファントムの持つ怪人としての特性、それはネットワーク関の移動であるのだが……更に次の能力、『幻影通行』は、あらゆるネットワーク状のプロテクトを無視して通過出来る。

 あまりに危険すぎて今まで一度も使っていなかった能力を、ファントムは今日始めて使用した。


 ネットワークに入った後、五分ほどしてファントムはにゅーっとテイルの前に突然姿を現した。

「ハカセ。やっぱこの能力やばいです。僕自身が怪人という性質なのでウィルスという判定受けません。というか、そもそも僕が機械でないからあらゆる防犯セキュリティが作動しません。普通に、何の工夫もせずに会社の情報を丸々コピーしたのに全く何の反応もありませんでした」

 ファントムは不安げな表情でいたテイルにそう言葉をかけた。

 その言葉を聞いて、テイルは逆の意味で心配そうな顔を浮かべる。

「……うん。確かにやばいな。……俺の信念と反するが、お前の能力は使えないように封印していこう。出来るだけ厳重に」

「そですね。あ、データは全てパソコンに突っ込んどいたのでご確認下さい」

 ファントムの言葉にテイルは頷き、カタカタとパソコンを操作した。


「……ああ。残念ながら、桐山君の調査した内容の裏付けにしかならなかったか。……本当に残念だ」

 そう呟くテイルの目には、深く、昏い殺意が宿っていた。



ありがとうございました。


何か最終回が近いみたいな流れになってますが別に最終回とは何の関係もありません。

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