ケース3:真似の出来ない結婚式-1
「……テイル。ここどこ?」
手伝いの為に連れてこられたユキは不安そうにそう呟いた。
『雅人の結婚式準備をする。手伝ってくれ』
そうテイルに言われて連れてこられたのは、見知らぬ都市だった。
高層ビルが並ぶ非常に都会的な都市。
だが……ここには都市ならば必ず存在するものが存在していなかった。
空気が綺麗で静寂に包まれ電車やバスどころか車すら一台も見かけない、
それはまるでゴーストタウンのようである。
そう、酷く近代的な都市であるはずなのに、そこには住民が――それ以前に人が自分達以外誰もいなかった。
「フェイクシティと言えば良いかな?」
「……ああ。ここはそういう場所なのね」
名前の通りに受け取ったユキは少し安堵しながらそう言葉を返し、テイルは頷いた。
「ああ。そういった能力を持った存在に作られた仮想の世界……とはいえ質量もあるしから本物そのものだがな」
「……まあそれはそれで興味深い話だけどさ……それよりも……どうしてここにいるの?」
ユキの言葉に、テイルは非常に疲れた顔をしてユキの両肩を掴んだ。
「て、テイル!?」
声を上ずらせながらユキは頬を紅潮させた。
確かに友人として、非常に親しい距離にいる。
少なくとも、ユキが最も親しい友人はテイルとなるだろう。
だが、それでもこんな傍まで寄られたら……非常に緊張してしまう。
そんな今にも抱きしめられそうな雰囲気の中、テイルはしみじみと呟いた。
「最近……色々あったよな……」
テイルの虚無的な表情を見てユキは緊張や興奮は一気になくなり、同じように虚無的な……簡単に言えば遠くを見るような虚ろな目となった。
「ええ……そうね……」
唐突に始まる結婚騒動から七瀬の鬱病事件、そしてファーフが泣きながらテイルの子供産む発言。
開幕から非常に疲れる結果だった上に内容もまた微妙に面倒事だらけ。
何が面倒かと言えば、愛だの恋だのそういった内容だった事である。
「そう……。鬱だの自信がないだのならまだ良い。だが、問題の根本は恋愛話だ。今まで彼女すらいた事がない俺がだぞ。いや、手伝うのが嫌というわけではない。ただ……わからんだけだ」
恋愛初心者でかつ糞雑魚野郎であるテイルに恋愛相談は、はっきり言って荷が重かった。
それでも何とかなったのは、解決策が比較的わかりやすかった事と……本当にテイルが一生懸命真面目に問題解決に取り組み、なおかつ傍にユキがいてくれたからだ。
「うん。お疲れテイル」
「ありがとう。そっちもお疲れ様。それでな……問題児だった奴らの話はまあ解決に向かい、残されたのは結婚式についての話だけだ」
「うん。何か言ってたわね」
「別に怪人にしろ社員にしろ、身内のトラブルを解決する事は何度も言うが嫌ではない。だが、それらの際に一つだけ気に食わない事があった」
「それは?」
「何か色々厄介すぎて、この俺が常識的な対応しか出来なかった事。それがとにかく気に入らん。俺はもっとはっちゃけて回りに迷惑をかけるタイプのはずなんだ!」
テイルはそう豪語した。
「……ああ。テイル……自分が変人である自覚あったんだね」
変な方向に燃え上がるテイルを見て、ユキは疲れた表情でそう呟いた。
「それで話を戻すが、当然このDr.テイル様が、普通の結婚式を提案するわけがないだろう!」
「はぁ。それで?」
「うむ! そんなわけで、まあ……雅人らしい結婚式をしようと思ったわけだ」
「だからどんな?」
「それはギリギリまで秘密だ」
キリっとした表情のテイルを見て、ユキは盛大に溜息を吐いた。
「ああ……そう。そう言えばテイルってそんな感じだったわね。最近疲れた顔ばっかだったから忘れてたわ」
そう答える疲れた表情のユキを見て、テイルは満足そうに微笑んだ。
「ま、それはそれとしてさっさと合流しようか」
「合流って……誰かと待ち合わせ?」
「ああ。花嫁さんだよ。相手が女性だからな。結婚前に変な噂とかついてケチをつけたくない。だからユキを呼んだんだ。……迷惑だったか?」
「いえ別に。言いたい事はわかったわ」
要するに、結婚前の花嫁とゴシップ的な話題を避けたい。
その為に自分を呼んだのだとユキは理解した。
だが、今度はテイルと自分の関係がそのゴシップになる恐れがあるのだが……きっとテイルはそこまで考えていないだろうと思い苦笑いを浮かべた。
「というわけで、さっそく花嫁さんと合流しようか」
テイルの言葉にユキは頷き、肩が触れ合う距離で二人は街を歩いた。
「へー。七瀬さんも茜って名前なんですね」
そう、今回の花嫁である古賀茜は元七号、またはナナである七瀬茜に言葉を投げた。
「はい。ただ……」
「ただ何です?」
古賀がそう尋ねると、七瀬は申し訳なさそうに呟いた。
「いえ。同じ名前で分かりにくいから私名前変えようと思います」
「え!? 同じ名前になっただけで変えるの!?」
「まあ親に捨てられた私が親に反発して適当に付けただけの名前ですのでそこまで愛着があるわけでもありませんし」
「いや!? 色々と突っ込みどころ多すぎて何言えばいいかわかんないよ!? というか何か恐ろしいほどに重い話をさらっと言わないでよ!」
古賀の容赦ない叫び声に、七瀬は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ああ……古賀様は大丈夫ですね。雅人様と……ARバレットとも深い繋がりが出来てもやっていけますね」
「え? 今のどこでそう判断したんです?」
「突っ込み力です」
「いやどういう事!? つっこみ力!? ああ。私にわざと突っ込ませる為にそんな変な話をしたんですね。七瀬さんったらもう……」
「え? さっきまでの会話に一切嘘はないですよ?」
「だから重いよ!? それに名前変えないで良いよ!」
「……うん。鋭い突っ込みですね。常識人枠の雅人さんと共に頑張ってください」
「……いや、雅人さんが真面目なのは知ってますが、雅人さん怪獣に変身するような人だし私怪獣フリークですよ? 私達が常識人枠なんてとても……」
そう呟く古賀に、七瀬はぽんと肩を叩いた。
「その程度……変人のへの字にすらなりません……」
「そっか……そっかぁ……」
古賀は何か諦めたような表情でそう呟いた。
「先に合流していたか。ナナ……じゃないなもう。七瀬君……それとも周藤夫人と呼んだ良いかな?」
「テイル様。社員である事に変わりはないですししばらくは七瀬で構いません。喫茶店が建って副店長となった時にまた呼ばれ方は考えます」
そう笑う七瀬の様子を見て、テイルは満足そうに頷いた。
「……何か親しいわね」
ユキが妙に距離の近い二人を見て、ぽつりとそう呟いた。
それを聞いた七瀬は満面の笑みでユキの方に近づいた。
「そりゃ、私にとってテイル様は神様ですからね!」
「か、かみ……さま?」
ユキは少し後ずさりながらそう言葉にする。
「ええ。両手両足は使えず、調子が良くて寝返りを打つのがやっとの地獄すら生ぬるい病院生活。そんな状態の私を両親は捨てて放置で唯一の楽しみはナースさんが寂しそうな顔で私を見る事くらい。医者も治すのを諦め痛みの緩和で精いっぱい。そんな絶望的な私の元に来るセラピストは逆に私を見て心を病ませて帰っていく……。それを救って下さったのですから、そりゃ尊敬もしますし敬愛もします。命を捧げても惜しくないと思っていましたよ」
ナナは恍惚とした表情でそう語り、テイルは非常に嬉しそうに何度も頷いた。
「いやテイル。何放置して頷いているのよ。明らかにやばい感じになってるよこの子!?」
「ユキ。ぶっちゃけうちの戦闘員みんなどこかしらヤバイ。それに、七瀬は過去形で言ったのだ。それだけで……そう変わっただけで俺は満足なんだよ」
『命を捧げても惜しくないと思っていましたよ』
これが去年なら、過去形ではなかっただろう。
それは七瀬がテイルを尊敬する事以外に関心がなかったからである。
それが変わったのだ。
嬉しくないわけがなかった。
「……おおう……恐ろしやARバレット……」
ユキは頭を抱えてそう呟き、七瀬とテイルはそれを満足そうに見ていた。
反応の激しいユキはARバレット一の頭脳でありながら、同時にマスコットのようにもなっていた。
「……あれが明日の我が姿か……」
自分の役割を悟った古賀は、小声でそう呟いた。
「んでさテイル。私に何をさせたいの?」
四人で誰もいない為妙な荒廃感のある都市をぶらぶらと歩いている時、落ち着きを取り戻したユキはそう尋ねた。
「んー、そうだな。古賀と七瀬の二人だけで答えが出ないようだしユキの意見も聞いてみよう。公園に行くぞ」
テイルはそう言って近くの公園に入り、タブレットをユキに手渡した。
「ほい。これがこの都市の頭上からのマップデータ」
「うん。この……連続して繋がっている円形の部分は何?」
マップにはリンキンリング、またはオリンピックマークのような繋がった複数の円が描かれていた。
「ああ。そこは戦闘予測範囲」
「戦闘!? 結婚式でしょ?」
「……常識に囚われてはならないのよ」
決めポーズを取りながらそうのたまうテイルをユキは叩く。
「それは良いから説明して。……いや、言う気はないって言ってたわねそういや」
「ああ。その方が当日楽しいだろ」
「んじゃ、どうして欲しいか、何をして欲しいのか教えて。戦闘区域を狭めるの? それとも減らす? または範囲予測だし……戦闘被害を減らす事が目的?」
「いや、その範囲限界いっぱいまで戦闘を過激にして欲しい」
「いや本当何考えてんのあんた!? 結婚式よ!? 古賀……さんもそれで良いの?」
ユキは古賀の方に、怒鳴る勢いでそう尋ねる。
「え? 派手な方が楽しいじゃないですか」
その言葉にユキは頭を抱えた。
「それともう一つ頼みたいんだが」
「……今度は何?」
「戦闘が最も派手に映る箇所を何点かピックアップしてほしい。円一つに二、三か所程度で」
「……特撮的な結婚式……にしてももう少し穏やかな感じになるわよね。あの過激なデカレン〇ャーの結婚式だって一応は普通にしてたわよ……」
ユキは最近テイルと一緒に見た映画の事を思い出しそう呟いた。
「お? 特撮にハマってくれて俺は嬉しいぞ。そしてその結婚式もある意味全く的外れという事でもないな」
「……何にしても、マップだけじゃ判断出来ないし情報が少なすぎるわ。もう詳細は良いから必要な情報と……ついでに実際に円の範囲を歩かせてよ。実際に見た方がわかりやすいわ」
「そうだな。……七瀬と古賀を歩かせるのは悪いから付き添いは俺だけで良いか?」
「……それで良いわ」
「あと、多少は被害が拡大しても良いから、あそこだけは絶対に壊さないように計画してくれ。……怪獣映画が好きならこれだけでピンとくるかもしれんな」
そう言いながらテイルは空を――いや、空に昇るほど高いタワーを指差した。
それを聞いた古賀は何度もこくんこくんと頷く。
タワーだったりツリーだったりといった名前が付きそうな展望台付きのこの都市で最も高いタワー。
それを指差すテイルを見ても、ユキはわからず首を傾げるだけだった。
ありがとうございました。




