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商店街破壊計画!! 後編の2

 

 古の時代よりその姿が確認されていた異形の存在。

 時代によりその名は移り変わり多くの呼び名があるが、一番有名な物はコレだろう。

【狼男】

 満月の夜になると狼と変化し人々を襲う異形の怪物。

 早い話が化け物である。


『というわけで狼男、正式には【ライカンスロープ】という名の種族でな……見ての通り彼がソレなのだよ』

 テイルは強装甲ダーツの正体についてそう説明した。

「まあ受け入れがたくはありますがいるのはわかります。目の前にいますし……。ですが、満月どころか夜ですらないのですが?」

『うむ。ダーツの場合は気が昂ると変身してしまう。そして、彼は種族的には最高峰というべきレベルで才能に愛されていてな……』

 種族的な才能、それについてクアンは実際に体感していた。

 ただ吼えただけで周囲のガラスは割れ、ヴィーだけでなく自分すらも、知らず知らずのうちに足が竦む。

 目の前の異形が絶対的強者であると、魂で理解させられていた。

 クアンは人生で初めて、泣きそうになるほどの恐怖を感じた。


『彼は己の才能に振り回されていてな、残念ながら今の彼に理性はない。動く物を襲い、暴れまわり、ただただ破壊する悪鬼羅刹。我々よりもよほど悪のカリスマを兼ね備えた存在だ』

「それで、私はどうしたら?」

 今すぐ走り出したい欲求を堪えクアンは尋ねた。

『チャンスを狙って逃げろ。今全力で逃げてないから予想付くと思うが、相手は野獣みたいなものだ。背を向けたら一直線に襲ってくる』

 そんな予感のしていたクアンは緊張から額に汗を掻きながらそっと肯定を示す為に頷き、ライカンスロープの方をじっと見つめた。




 狼男ライカンスロープはヴィー達を一瞥した後、クアンの方に目を向け集中した。

 それは本能で誰が一番強いかを察したからだ。

 この中で、自分を除いて一番強い存在、クアンを確認した彼は、そのまま一直線にクアンに突っ込んだ――。


 クアンは自分の力を指し示す為、そしてテレビ映え重視の演出の為に自分の上空に一つ水の球体を浮かべている。

 本来なら複数の球体を浮かべ上空をぐるぐると浮遊させる予定だったのだが、水の複数操作は想像以上に難しくこのような形になった。

 その水は当然、常にクアンの制御下にある。


 クアンは水球を自分の正面に移動させ、そのまま半球体状の膜に形を変えシールドにした。

 うすっぺらい水だが、常に力場操作を行い受ける衝撃を移動させて分散しているので見た目と違いかなりの防御力を備えている。

 銃弾は当然、トラックの衝突すら受け止めきれるスペックを持っていた。

 そんなシールドであっても、狼男を止める手段にはならなかった。


 目にもとまらぬ速度で突っ込みながら右腕を振るい、水の膜に爪を立てる狼男。

 その瞬間、受け流す事すらできず水の膜はぱしゃっと音を立てて破れる、

 そしてそのまま左腕でクアンに襲い掛かった。


 クアンは水をコントロールするという能力上、物理的な計算の処理速度は異常な程早い。

 そんなクアンは今の自分では防ぐという行動は取れないと判断し、逆の発想を試みた。

 水を自分側ではなく、襲い掛かる凶爪にまとわりつかせる。

 力場を操作して水にやわからいクッションのような特性を持たせてから爪の周囲にくっ付け、自分への攻撃を軽減させる。

 相手との実力差に腕の振る速度から普通は絶対に間に合わない方法なのだが、シールドを破壊した初撃で一旦減速していた為その隙をうまく縫う事が出来成功した。

 そして最も受ける衝撃の少ない位置に身をよじりながら、クアンは衝撃に備える。


 そしてそんな柔らかいクッションのようになった爪にクアンの肌が触れた瞬間――クアンは吹き飛ばされた。

 爪を防ぎ、衝撃を減らして攻撃に備える。

 この これらの対抗手段を取っても、クアンが受ける事が出来る衝撃をはるかに上回っていた。


 銃弾のように一直線にふっ飛び、そのまま民家に激突して、なお衝撃は消えず民家の壁に激突して破壊し、再度家の内部の壁に激突してようやくクアンは地面に落下した。


 背中に眩暈がするような衝撃を受け、クアンの呼吸が止まる。

 背中の痛みを耐え、何とか息を吸おうとして出て来た声はかはっと言った声にならない声のみ。

 それでも何とか息を整え、酸欠になる寸前に行った息継ぎは、でこひゅーと喘息患者のような弱弱しい呼吸のみである。


『無事か!?』

 テイルの声に右手を挙げて肯定の返事をするクアン。

 右手を挙げるくらいしか、今出来そうになかった。


『そ、そうか。そんな中で悪いが追撃が迫っている。構えろ』

 テイルの妙に慌てた様子にクアンは苦笑いを浮かべながら、狼男の攻撃に備えた。


 正直に言えば、舐めていた。

 正義と悪、お互い国に認められた存在で、半ばショービジネスのような形状での戦い……。

 そんな理由で油断をしていた自分を、クアンは恥じた。

 どんな理由であろうとも、どんな状況であろうとも、これが本当の闘いである事には変わりはなかった。

 クアンは民家の中で意識を研ぎ澄ませ、能力使用の準備の為に痛みを堪え集中する。

 手持ちの手のひら大のカプセルを空け、中に入っていた水を水球状にしてからふよふよと自分の周囲を飛び回らせる。



 ――……………………いた!

 水球を通じてゆっくりと歩いて侵入してくる狼男の気配を感じ……そして待ち構え――。


 ――待ち構えても無理ですね。

 冷静に、クアンはそう分析した。

 万全の状態の時でも攻撃を受けてこうなったのだ。

 背中の激痛に耐え、呼吸すると肺辺りに痛みが走り、体の至る箇所に傷が出来どの程度の負傷かも確認できない現状で、狼男の攻撃に耐えきれるわけがなかった。


 どう考えても、攻撃を受ける余裕も余力もない。

 そう思ったクアンは、足音を殺し、そっと移動を開始した。


 民家の中で偶然見つけた小さな金属の缶を水の中に取り込み、ふよふよと移動させる。

 手の平で握って隠しきれそうな小さな缶だが、少量の水で運べる限界の重さである。

 水の操作は得意だが、それで何か物を運ぶのはそんなに得意ではなかった。

 そしてそのまま缶入りの水を操作して、狼男目掛けて射出した。




 大して早くもない速度で飛んでくるカレー粉の缶を狼男は軽々と弾く。

 鼻が良いだろうからあわよくば……という気持ちで射出したクアンのカレー粉攻撃だが、缶が開く事すらなく全くの無意味に終わった。


 狼男は缶が飛んできた方向に爪を立て走り出す。

 そして缶を飛ばしたであろう位置に移動した狼男は、誰もいない小さな部屋に到着した。

「…………」

 無言のままきょろきょろと周囲を探し、視覚で見つからなかった為嗅覚に集中した瞬間、狼男はある事に気が付き慌てて部屋を飛び出そうとするが――残念ながら手遅れである。


 狼男が感じた匂い。

 それはこの部屋に設置された火薬の香りだった。




 カチッ。

 本日九回目の爆破スイッチを押し込み、クアンは部屋を爆破した。


 別に特別変わった事はしていない。

 時間差で水から缶を射出するようにしておいて、その間に持っていた建物破壊用の爆弾を置いてとっとと逃げただけである。


「ハカセ。思い切ってやってしまいましたが、彼死にませんよね?」

 若干不安な声でそう呟くクアンに、テイルは優しく言い聞かせるように言葉を綴る。

『クアン。自分が思いつく現状での最高火力を想像しろ……。出来たな? それの倍の火力でもアイツは絶対に死なない。あの程度の爆弾、クラッカーを鳴らされた程度の衝撃しかないんじゃないか』

「……最悪」

 クアンは演技をしているわけではないのにダウナー系のようなしゃべり方になっていた。


 何も考えずの爆破は今までのような解体作業じみた光景はとはほど遠く、ある意味リアルな感じで建物を破壊した。

 徐々に内側に崩壊しつつも周囲にがれきを散らばらせていくその風景は、まさに特撮作品の悪役の被害そのものだった。

 爆心地であろう内側にも相当のがれきが落下し、常人なら中にいれば確実に死ぬであろう状況ではあるのだが……残念ながら非常に大きな声の咆哮が建物内から響き続けている。

 どうやら無傷というわけではなく、怒らせる程度には痛かったらしい。




 ぼーっとしていたつもりはない。

 ただ、初めての戦闘に初めての負傷。

 そして緊張の連続の為、ほんのわずかに緊張の糸が緩んでしまっていたらしい。

 刹那の時間の気のゆるみ、そのほんのわずかな変化を、建物の中から狼男は今までの経験側により、確かに感じ取った。


 コンクリートの壁をプラスチックのように軽々と破壊し、狼男は中から極度の前屈体形のまま襲い掛かってくる。

 その一瞬に反応出来ず回避が遅れたクアンは、時がスローモーションのように過ぎていくように感じていた。

 動かない体に向かって徐々に迫ってくる、血走った目をした狼の爪。

 クアンがその時感じた思い、それは諦めだった。


 ――ああ。これ無理だ。

 死すらも覚悟する一撃はすぐ傍に迫っており、対処する方法は……ない――。


 とん。


 だが、そんなクアンを襲ったのは凶爪ではなく、若干の痛みを感じる程度の弱い、小さな衝撃だった。

 ヴィーの一人が、どんと肩を押すようにして、クアンを突き飛ばしていた。


 スローモーションの中で横で突き飛ばされクアン。

 そしてゆっくりと振り下ろされる爪が辿る軌跡はさっきまでクアンが居た位置であり、その位置にある伸びた腕を爪はすっと通り抜け――棒のようなものが赤い液体と共に宙を舞う。


「――――ッ!」

 声にならない声がヴィーのマスクから響いた。

 くぐもって聞きずらく変声された声ではあったが、確かに女性の声で、そしてクアンが良く知った人の声だった。


「ナナさん!?」

 クアンは転がっている腕と本来腕があった位置から赤い液体を流しているヴィーを見て慌てふため――。

『落ち着け! 戻ってこれば絶対に直してやる! だから今はやるべき事を考えろ!』

 そんなテイルの声にクアンは我に返り、ついでに怒りを混ぜて狼男に足を振りぬいた。


 ヤクザキックの要領で、足の裏に水を吸着させて反発力を高めてのキックは、恐ろしい勢いで狼男を遠くに吹き飛ばした。

 思いつきで水の能力を色々使ってみているが、想った以上に応用力が広い。

 そんな自画自賛的な事を考えながらクアンは人差し指を狼男の方向に向け、一センチほどの小さな水の弾を狼男目掛けて何発も射出した。

 吹き飛びながらの狼男に透明な弾丸が襲い掛かり、体を貫いていく。


 後の事は考えず、持てる限りのリソースを使い果たすつもりで水を飛ばしながら、クアンはある事を思いついた。

「ヴィー。余った爆弾を投げられるだけ投げてしまって!」

 その声に合わせ、ヴィー全員は見事な遠投で狼男の位置に爆弾を投げ、そしてクアンはスイッチを起動する。


 つんざくような轟音、狼男の咆哮以上の爆音が鳴り響き鼓膜を狂わせる。

 どうやら思った以上に爆弾は強力で、そして数が残っていたらしい。

「やりすぎかしら?」

『だ……ぶ……ミ――』

 クアンの呟きにテイルが何かを返しているが、何を言っているのか聞き取れない。

 ――通信機か、ドローンか……いや、自分の耳でしょう。

 クアンはそう判断した。


「とりあえず今のうちに撤収!」

 そう言いながらクアンは手を大きく振って逃げる合図を出す。

 ヴィー達はふらふらしながらもそれに従い全員で撤退する。


 流石にあれだけの爆弾だと多少は効果があったらしく、狼男が追ってくる事はなかった。


ありがとうございました。

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