商店街破壊計画!! 前編
クアンの初参加が決定してから数日かけ、テイルは『悪巧み』の準備を進めた。
と言っても『悪の組織運営許可証』ないで認められた範囲の為、誰かに迷惑をかけるというものではない。
ぶっちゃけた話、行動の為のただの建前である。
と言っても、悪の組織なのだからそんな建前でも、ないと何も出来ないのだが。
最初にすべき事は計画内容や対象を決定することではなく、場所決めである。
最初に場所を用意しない限りは何もすることが出来ない。
悪の組織が自分達で好き勝手に破壊する場所を探して決めるわけではなく、活動KOHO部隊と相談して活動場所、範囲を決定する。
そして悪の組織は使う場所に合わせて活動KOHO部隊に予算を払わなければならない。
払う予算によって規模や内容が変わってくる為適した予算を用意せねばならず、更にその予算は破壊する場所の復興や支援に使われるという地味に社会貢献ながらも社会貢献に繋がっていたりする。
今回はクアンの初参加となる為豪勢に……と考えないわけでもないが、初回からそんな気合入った舞台を経験しても緊張するだけだし雰囲気を掴む事も難しくなるだろう。
そう考えたテイルは、ほどほどの予算の中で用意されたカタログを見比べ、超絶お特パックと書かれているものを見つけてそれを選択した。
場所は商店街なのだが、老朽化により多くの建物の耐久年数が問題視されていた。
立地に問題はない為人通りもまだまだ多く、働き手も意欲があるという事で新造計画に政府が介入し、いっそのこと一旦更地にして完全リニューアルしようという話が出てきた。
そして、どうせ作り直すなら……と商店街一同で考え、町おこしも兼ねて破壊活動自由な戦いの場に立候補した。
壊しても問題ないどころか、壊した分だけ後の人が楽になる。
これならクアンもやる気になるだろう。
そう考えテイルは小さく微笑んだ。
超絶お得パックという事で、今回は商店街一つまるまる借りられるのに低予算でかなりの好立地な上、オプションが付いてくる。
オプション内容は一般人のフリをしてある程度何をしても罪に問われない活動KOHO部隊の人を配置すること。
簡単に言えば……サクラである。
場所と日程が決定し、続いて決める事と言えば作戦内容なのだが……慣れない新入り怪人が無理な作戦を行っても失敗するのが目に見えている。
場所を貸しだした商店街在住の方々も派手に壊される事を期待しているらしく、ここはシンプルに暴れるだけで良いだろう。
そもそも、今回はクアンの初回であり現場の空気を覚える事が第一である為、この程度のアバウトな作戦で十分だ。
場所と作戦内容が決まり、後するべき事は二つ。
一つはクアンを交えた実際の作戦会議だ。
クアンの役目はは正義の味方が来た時戦うだけだが、その段取りなどを話し合わないといけない。
そしてもう一つ、今回において最重要な要素となる……クアンの衣装決めだ。
「えーというわけで我らが新人クアンの衣装を決めるという事なのだがー……俺の用意した衣装は全て没を食らったのでー君達に任せる事にした。俺は他の男共と遊んでるから決まったら呼べ」
若干拗ねた様子でそう言い残し、テイルはその場を離れた。
この場にいるのはナナと名乗った人を含め三人の女性戦闘員とクアンである。
「あの……何か怒ってましたが放っておいて良いのですか?」
クアンの言葉にナナを含めた三人は苦笑いを浮かべた。
「あれはね、拗ねてるだけよ。ついでに言えば女性経験ゼロのダメ人間だから女性のファッションは壊滅的、そんなわけでどうせいても役に立たないからあっちで遊んでたら良いのよ」
「は……はぁ」
とても戦闘員と組織のトップの関係とは思えず、クアンはそう呟く事しか出来なかった。
ちなみに、何となく寂しい気持ちを忘れたい気分なテイルは奥の部屋で他の男共と一緒に仲良くファンタジーのTRPGをしていた。
「ハカセ―。こんなんどうでしょうかー?」
三十分ほどした後ノックをし隣の部屋に入ったクアンが見たのは、妙に白熱した演技をしているテイルだった。
「ん? ああ出来たか。見せてみろ」
額に汗を掻きながらテイルは紙を受け取る。
「あの……何をしていたのでしょうか?」
「ん? テーブルトークアールピージーだが知らないか? ちなみに俺は白衣を利用して動物好きの獣医という設定で遊んでいた」
そう言うテイルの見た目は何時と少し変化しており、若干大人しそうな雰囲気になっていた。
「いえ、TRPGは知ってますが、どうしてそんなに……皆さん汗だくなのですか?」
そう、ここにいるテイルを含めた四人の男性。
その全員がコスプレをし、汗だくになっていた。
ちなみにテイルは白衣を着て医者の恰好をしており、それ以外の三人は鎧を着た戦士、老人の賢者、露出の多い女性エルフの恰好をしている。
全員男のはずなのに、女性エルフのコスプレをしている人に違和感はなく妙な色気を醸し出していた。
「ん? 白熱したらなりきりで遊ぶだろ? そして体を動かすと汗を掻く。何か変か?」
テイルの言葉にクアンは首を傾げる事しか出来なかった。
クアンと三人の女性で考えた衣装は、怪人らしさは一切なく、極普通の一般人らしい衣装だった。
フード付きのトレーナーにひざ丈まであるスカートの下には黒いスパッツ。
違うのは、クアンの回りに三つの球体が浮いている事だった。
能力を使って水を球体状のままふわふわと自分の上空を浮遊させる。
つまり能力を全般に押し出す魅せ方で怪人らしさを出そうという考えである。
「ほうほう! 良いじゃないか。常に水を用意することで戦闘力の維持にも役立つしその水を相手に叩きつける事で悪役ロールもしやすい。何より……宙にふわふわ水を浮かせて操り続けて挑発的な笑みを浮かべる。うむ! 実に良い! 決定で良いだろう」
そう言いながらテイルは財布をクアンに手渡した。
「衣装を作っても良いがせっかくの機会だ。ナナと一緒に地上で買い物に行って自分でそれっぽい衣装買ってこい。ついでに日常品で欲しい物とかあったら買って良いぞ」
そう言って財布を受け取った後クアンは中身を確認して、めまいがした。
二桁後半万円が財布にみっちりと詰め込まれ、折り畳み財布が妙な厚みになっていたからだ。
「ハカセ……多すぎです……」
「そうか。いや確かにそうだな。悪い」
そう言ってテイルは十万だけ残して札を抜き、そっとクレジットカードを入れた。
「うむ。これなら持ちやすいな。カードは限度額まで好きに使うと良い」
クアンは頭を抱え、溜息を吐いた。
「……使った金額とかきっちりレシートに書きます。あと、私そんなに金使い荒くないですし人の金で豪遊しませんよ」
「そ、そうか。だけど必要な物があったら遠慮なく買えよ」
「高価で必要な物があれば相談してからにしますよ……。と言っても何着か服や下着も欲しかったですし雑貨類も必要だなと思う物もありました。ありがたく受け取り、ナナさんとお出かけさせていただきますね」
そう言った後、クアンは足取り軽くさきほどの部屋に戻っていった。
「……女心とは難しいものだな」
「いやーテイル様の場合は女心という以前に子煩悩すぎるだけですよ」
戦士の恰好をした男がそう呟くと、残り二人もそれに同意し何度も頷いた。
戦闘員兼従業員の彼ら三人はテイルが優しい事を知っている。
特に、自分の作った怪人には優しいという言葉すら生ぬるい。
一言で言うならダダ甘い。
それこそ、孫を見るおじいちゃんの如くの甘さである。
それは、テイルが怪人達を自分の家族であり、息子、娘同然だと思っているからだ。
だからこそ、怪人達は皆テイルの優しさに驚き、クアン以外の怪人は皆、テイルの事を親のように思っていた。
生まれたてのクアンはまだ戸惑っている段階であり、その過程は全ての怪人が経験したものである。
それを知っている従業員は皆、クアンの事を生暖かい目で見ていた。
「さて、続きをしましょう獣医殿、ほっほっほっ」
老人の恰好をした男はそんな演技を始めだすと、部屋の他の男が数人ほど入ってきた。
「俺達も参加良いですかテイルさまー」
「ああ。良いぞー。んー、結構多いな。……十三人か。人数多いし一旦切り上げ別の事しよう。格ゲーの大会でもするか?」
そんなテイルの言葉に、アレしようコレしようと皆が意見を出し合い、それをテイルは微笑みながら見ていた。
数日後、クアンはナナに今まで来た事がない地下三階の密室に案内された。
そこに待っていたのはいつものようにテイルだ。
「来たか。それじゃあ作戦を説明する。と言ってもクアンは初回だ。特に変わった事はない。場の空気を覚える事に集中してくれ」
「……すいません。真面目な話なのはわかりますがこの場所について説明してもらえませんか?」
「……見てわからないか? 作戦指令室だが」
「見てわかりますけど……それでもちょっと色々ついていけません」
クアンは無表彰でそう呟いた。
真っ黒いカーテンに覆われ壁には金属製のドクロマークが並べられ。
斧とか剣とかがあり、狭い会議室のような形状。
そして、テイルのいる位置は少し高い位置で体育館のひな壇のようになっている。
ちなみに、椅子から机、壁全て真っ黒だ。
つまり、特撮に良くある悪の組織の首領が命令を下すような部屋である。
「まあ、言いたい気持ちもわかるが……これにもちゃんと理由がある」
テイルはクアンの言いたい事を理解し、そう答えた。
「理由ですか?」
「ああ。活動KOHO部隊……略すか。【KOHO】が間に入って放送するって話を覚えてるか?」
「はい。それで正義の予算とか壊す建物の修繕費とかもろもろ出たりして両陣営を纏めつつ盛り上げる特撮オタ集団ですよね?」
クアンの言葉にテイルは頷いた。
「うむ、一言一句間違っていない。つまりな、俺達の戦いを面白おかしく放送するという事だ。なので場合によっては作戦内容の説明するシーンや俺が怪人に指令を飛ばすシーンを挟む事がある。その為にこういう雰囲気重視の作戦指令室が必要になってくるのだ」
「はえー。なるほど。ハカセの趣味ではないんですね」
そうクアンが感心した口調で呟くと、テイルは顔をそっと逸らした。
「というわけで作戦だが、耐久年数が切れそうな商店街を更地にし、ニュー商店街を作ろうという事になった」
「あ、それ私がこの前行った場所ですか?」
「いや、ここから駅三つ分くらい先の事だ。それでだ、ついでに客寄せも兼ねて、そこを俺達が破壊する。派手にな」
「ほほー。私達が派手にがんばればがんばるほど、テレビで盛り上がってニュー商店街に注目が増えたり! とかしちゃいます?」
クアンが期待してそう言うとテイルは難しい顔をした。
「ううむ……。正直俺達のような弱小組織ではそれほど数字取れないしなぁ……相手も俺達と同じ程度の組織だろうし……。という事でたぶん俺達ががんばってもさして影響ない。失敗してもな」
「しょんぼりです。人の為に悪い事出来ると思ったのに」
そんなクアンにテイルは微笑みかけた。
「人の為に何かをしたいという気持ちは大切だ。その気持ちは悪事でなく、ちゃんとした場所で使うと良い。具体的に言えば……今回の作戦が終わった後のニュー商店街の宣伝活動とかしてみるか? そういう仕事もあるぞ」
「あ、それ凄く良いですね!」
テイルの言葉にクアンは目を輝かせ、何度も頷いた。
「そう言えば、この場所にナナさんとかは来ないのですか?」
「んー。戦闘員がここに来る事はほとんどないなぁ。作戦指令室は俺が怪人に作戦を告げる場合と指令を飛ばす場合の二種類が主な用途だし。偶に悪役ムーブで戦闘員を処刑するフリをして撮影することはある」
「はえー。本当にプロレスみたいなんですねぇ」
「うむ。戦い自体など重要な部分に嘘はあまりないが、引退とかする場合はそうやって処刑したり重症を負ったという事にしてそっと引退させる。……だが、本当に重症や死亡で引退する者もいる。プロレスみたいだからと言って油断はするなよ。当然次の作戦でもだ」
きつく言い放つテイルの言葉の中に強い心配を感じ、クアンは真面目な表情でしっかりと頷いて見せた。
「というわけで、明日は朝の八時に出発して作戦を開始する。初回だし弱小組織だから大事にはならないだろうが、それでも正義の味方と戦いあう事には変わりない。しっかりと寝て英気を養え」
そんなテイルの言葉に頷き、クアンは自分の部屋で早めの睡眠を取った。
ありがとうございました。