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わがままで幸せなアリス


 コックピットの中にいたのは、不思議のアリスという言葉が良く似あうような金髪ロングヘア―の少女だった。

 見た目は十四、五だが、今までの会話の流れから恐らくそれより上だろう。

 会話の流れからそう思う……のだが……正直テイルには自信がなかった。

 目の前にわんわんと泣きじゃくっているアリスは、どう見ても見た目通り、下手すればもっと下の年齢のようしか見えないからだ。


「……クアンさん。あの……泣きじゃくってるのですがどうしたら良いでしょうか?」

 そうテイルが尋ねると、クアンは睨むような目でテイルを見つめた。

「私達怪人は人と思われてません。だから慰められないです。じゃあ誰が慰めるべきかわかりますよね?」

 刺々しいクアンにテイルはぺこぺことしながら尋ねた。

「はい。あの……どうすれば良かとでしょうか?」

「……ハカセ。それは自分で考えるべきです」

 クアンは威圧的な笑みを浮かべながらテイルをコックピットに突き落とした。


 周囲に物が少なく、人が三、四人は入れそうなコックピットの中……テイルはアリスの背後にすとんと落ちた。

 その衝撃でアリスも気づき一瞬だけ泣き止んで後ろを振り向き……そのままテイルの顔を見ながら再度わんわんと泣きだした。

 おろおろとしながらもテイルは深く考える。

 自分だって、女性が泣いているのに心が痛まないような冷血漢ではない。

 だから、何とかしたいという気持ちは大いにある。

 そして慰める為にどうすべきも思いついている。


 だが、テイルはあらゆる意味で男女経験はなく……そしてヘタレだった。


 抱きしめて背中を叩いてよしよしとする。

 それが現在、事前情報や予測などを含めたテイルの思いつく、最も理想的な慰め方である。

 そして――実際にテイルが行ったのは、ただ手を握るだけ。

 ただそれしか出来なかった。

 何故ならテイルは――ヘタレだからだ。


 柔らかい手に振れた時、一瞬だけぴくっと手が動いた。

 だがそれだけで、泣き止む気配は一向に見られない。

「……そりゃそうだよな。手を握ったくらいで泣き止むわけないよな」

 だが、抱きしめる事はおろか頭を撫でる勇気すら、テイルにはない。

 あるわけがない。


 何か別の手段を取ろうとするテイルは、体が動かない事に気が付いた。

 ぴったりと、接着剤に付けられたように握った手が離れないのだ。


 痛くはない。

 ただ、恐ろしいほど全く、繋いだ手が動かないだけである。

 そんな状態の為どうすることも出来ず、テイルはおろおろとした表情のまま手を繋ぎつつ、アリスが泣き止むのをじっと待った。




 一時間だろうか、二時間だろうか。

 やけに時が長く感じる。

 その理由は非常にシンプルで、一言で説明できる。

 つまり……テイルがガチガチに緊張しているからだ。

 長時間、幼い見た目とは言え女性と手を繋ぐというのはテイルの気分を変に高揚させる。

 心臓が高鳴りそうになるのを抑えつつ、早くアリスが泣き止む事を祈っているテイルは――当の本人であるアリスと目があった。


 ジト目でこちらを見るアリスに、テイルはにやけ面の愛想笑いを浮かべる。

「……なんでここに、あんたがいるのよ」

 そんなアリスの呟きを、テイルは指を差して理由を説明した。

 その指の向く方向、お互いの手を繋ぎ合っているという現状を認識したアリスは顔を赤く染める。

「な、なんであんた手を繋いでるのよ!? 放しなさいよ!」

「……離れないんです。あの……はい」

「はぁ!?」

 アリスがそう言葉にした後、無意識で自分の方が手を握っている事に気が付いた。

「えっと……その、手を放してくだされば……」

 テイルの言葉を聞き、アリスは手を振り払おうと――する事さえ出来なかった。

 誰かと手を握った事など記憶になりアリスは、その手を振り払う勇気なんてなかった。

「…………もす……し」

「え? 何?」

「もう少し待ちなさい!」

「ふ、ふぁい!」

 突然、理不尽に怒鳴られ何故か頷いてしまったテイルは、こちらを涙目かつジト目で睨みつけて来るアリスの視線に耐えながら、時間が過ぎるのを祈った。


「気分はどう? 天才に勝った凡人さん」

 数分後、アリスが手を握ったまま嫌味のようにそう呟くとテイルは苦笑いを浮かべた。

「俺が勝ったわけじゃない。ファントムとクアンの力で勝ったからな」

「水の方は何もしてないじゃない」

 そうアリスが言うと、テイルは鼻で笑うような表情でアリスを見た。

「はっ。だから負けたんだ」

「はあ!? 何その言い方腹立つ!」

「へへーん。我が娘の偉大さを知りたければ教えてくださいって言えー」

 そんな子供のようなやり取りの後、アリスは悔しそうに唇を噛み、真っ赤な顔で呟いた。

「お、教えてください! これで良いでしょ!?」

 まさか言うとは思ってなかったテイルは茫然とした表情で驚きながら、首を縦に動かした。


「お、おう。ちょっと言われて嫌な事もあるかもしれんが、良いか?」

「もうどうでも良いわよ。今日だけでこれ以上恥を重ねても気にならないくらい恥を重ねちゃったわ……」

 それ以上に、誰かと話す事が心地よくて、この状況をアリスは手放したくなかった。


「えっとな。傷ついたらすまん。俺には女心とか天才の心理状況とか知らんが、クアンはお前の心が限界まで追い詰められていると言ったんだ」

「……どうしてそう思ったの?」

「『ハカセは人扱い。私達は物扱い。でも、ハカセ以外の人は私達のそれより下に扱ってるフシがあります。それって凄く辛い事ですよね?』だってさ」

 ぐうの音も出ないほどの正論にアリスは何も言えなかった。

「というわけで、クアンはお前が『孤独』か『退屈』で苦しんでると予想した。だからクアンと俺はファントムと離れた後、その情報を元に作戦を立てて今に至るんだが……」

 それのが合ってるか外れているか、それを尋ねるほどテイルも空気が読めないわけではない。

 そして、アリスは負けた本当の理由をきちんと理解した。

 自分は相手を理解しようとしなかった。

 相手は自分を理解しようと歩み寄った。

 アリスはその結果を当然のように思いつつも、悔しくてテイルを睨みつけた。


「……卑怯よ! そっちは三人がかりで私の対策取って!」

「は、はぁ!? お前もっと連れてきても良いって言っただろうが!」

「それは物だから良いのよ! 人をつれてきてよってたかって、恥ずかしいと思わないの!?」

「思いませんねー! むしろ天才の癖に凡人に負けて恥ずかしくないんですかー!」

「ぐぬぬぬぬ……」

 アリスは何も言えず、テイルを涙目で睨みつけた。

 口喧嘩で負けるというのも、アリスにとって初めての事だった。

 そして、その間も二人は手を繋ぎ合ったままである。


「……俺には『孤独』を癒せるかわからん。だが、『退屈』の方は解消出来たろ?」

 その言葉に、アリスは茫然とした。

「へ?」

「俺と違うからな。そっちが楽しめたかは俺にはわからん。だけど、負けて悔しかっただろ? 悔しいのも嫌かもしれんが、退屈ではなかったんじゃないか?」


 そう言われ、アリスは、少しだけ考え込み……出た結論は、自分の為だけにこんな事をしてくれたという傲慢かつ自惚れたような回答だった。

 そして、それを否定出来る要素は一つもなかった。

「え? え……え?」

 アリスは茫然としたまま固まり、直後に真っ赤になった。

「は!? あんた馬鹿じゃないの! そんな事の為に……」

「……俺には女心なんてわからん。クアン的にはそうすべきって事だから動いたが……余計なお世話だったらすまん」

 そんなテイルの言葉に、アリスは少しだけ怒りを覚えた。

 

 ――どうして?

 今まで言った言葉は全て自分の為の物で、喜ぶ事はあれど怒る事などないはずである。

 それなのに図星とは違う、むっとしたような怒りが湧き出てきたのだ。

 出てきたのはクアンという名前が出てきてから……。

 ではどうして怒ったのか。

 その答えを自分で導き出した瞬間、アリスは顔をりんごのように真っ赤にし、テイルと繋いだ手を振り払った。

「あー! もう! 知らない!」

 そう叫び、アリスはぴょんと寝転がったロボのコックピットから飛び降り走り去っていく。

「馬鹿! テイルの馬鹿!」

 それだけ叫び、アリスはこっちを何度も振り向きながら、オリンピック選手も真っ青な速度で走り去っていった。

「……すげぇな。アリスっぽいごってごてのドレスを着たままあんな早く走れるんだな」

 そう呟くテイルを横に、ファントムとクアンはアリスの方をニヤニヤとしつつも値踏みするような目で見ていた。


「……ファントムお兄さん。多くのストーカーを輩出したお兄さんはどう見る? いえ、何日と見ます?」

「……ふむ。そうですね妹のクアンさん。僕的には……二日、いえ、一日と見ました」

「ふふ。お兄さんもまだまだですね」

「おや、ではクアンさんはどのくらいだと思うのですか?」

「ふふ。それは――」

 そんな二人の会話が何かわからなくて混じれず、テイルはしょんぼりしながら兄妹の会話を聞いていた。




 結果として言えば、ファントムの予想である『一日』は外れ、クアンが正解した。


 戦いが終わり、自分達の基地に戻って数分後、戦いが終わっておよそ『六時間後』喫茶店の方に、テイルはとある客に呼び出された。

 睨みつけるようなジト目でテイルを見つめる、青みがかった白い髪をした、幼い容姿の女性。

 その女性が、泣きはらした目を赤くし、頬を赤く染めながら手に持った紙をテイルに押し付けた。

 それはARバレットへの願書だった。


「……えと、あの……さきほどぶりです。えっと……立花雪来ユキナさんで二十歳女性と……。……あの……どうして我がARバレットに入ろうと――」

「入れてくれないなら泣かされた事を中心にある事ない事周囲に言いふらす所存で訪れました」

 元アリスこと立花の言葉を聞いたテイルは、深く頭を下げ願書を受理した旨を伝えた。



ありがとうございました。

どうしてもやりたかった部分ですので少々急いで進みました。


ただでさえ忙しい中こっちを優先させてしまった為、その分もう片方の連載がストップしてしまいました。

ですが後悔はしていません。

これがやりたかったからです!

ぶっちゃけ最初からコレがやりたかった事だからです!


という事でここまで読んでくださりありがとうございました。

終わるわけではございませんのでこの言い方は余り適切ではないですが……それでもここまでお付き合いいただき本当に嬉しいです。


なろうのパターンや人気ジャンルから大分はみ出した内容ですが、それでもブクマも評価ももらえて本当に嬉しいです。

また新しい挑戦の為私の技量不足がどうしても目立ってしまいますが、それでもお付き合いくださった事、本当に嬉しく思っています。


これ以降もまだ話は終わらないので、よろしければまたお付き合いくだされば……私が喜び小躍りします。


では、ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。

またお手に取っていただけるよう、これからも精進してまいります(`・ω・´)

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