登場! 受け継がれた恐竜の魂?
その日――平和を謳歌していた都会街は、一瞬にじて地獄と変貌した。
見るからに不審な見た目をした男と、白衣姿の男の二人によって混沌の底へと沈み、破壊音と悲鳴によるオーケストラが奏でられる。
鋭利な金属がぶつかり合うような音と同時にガシャンガシャンとガラスが割れる音が響き続ける。
そして悲鳴をあげながら逃げ惑う大勢の人々。
娯楽に、仕事に、遊びに来ていた人達は全員、忘れがたい恐怖を受けることとなった。
灰色のローブを纏った男、ファントムは甲高い声で笑いながら指に付けたワイヤーを振り回し街を破壊する。
両手合わせて計十本の銀色のしなるワイヤーはビルに傷を付け、ガラスを割り、止まっている車を某有名格ゲーのミニゲームのような有様にしていった。
「きひひ。きひひひひ」
気持ち悪い笑いをあげていくファントムは住民達を一切気にせず、街を乱雑な子供の玩具のように破壊の限りを尽くしていた。
ちなみにファントムの様子はクアンと同様に、ただのキャラ付けであり逃げている人々はKOHOの役者、ぶっちゃけて言えばサクラである。
クアンのキャラ付けは本人が良い子すぎて相手が戦いにくいだろうという気遣いが理由だが、ファントムの場合は中身が俳優として有名でありそれを隠す為である。
周囲に十本のワイヤーがバラバラに走り周り、ファントムが通った道は自らが羽織っているボロボロのローブのように傷だらけになっていた。
彼が通った道で無事であるものはたった一つ。
ファントムのすぐ後ろでポケットに手を突っ込み堂々と歩く白衣を羽織った男、ARバレットのトップ、科学者Dr.テイルのみだ。
無言のまま、笑みを浮かべワイヤーが暴れまわる中で堂々と歩くテイル。
ファントムがどんなミスをしたとしても、そのワイヤーは絶対に当たらないと信じているからこその態度である。
「それでハカセ。どうして僕に付いてきたんです。あ、もちろん一緒に動くのは大歓迎で嬉しいですが……」
ファントムは蚊の鳴くような声で口を動かさずそう呟いた。
それだけで、テイルの耳に付けた受信機はファントムの声を感知できるからだ。
「ああ。今回の相手に興味があってな」
「なるほど。ハカセあのタイプのヒーロー好きですもんね。その割に怪人にあのタイプ作ってませんが」
「作りたくはあるんだが……いかんせん難しくてなぁ。雅人のコンセプトがそうなんだがちょっと違う事になったし」
そんな事を話しながら街を破壊していると、どこからともなくお約束の声が響き渡った。
「そこまでだ! 悪党め!」
いかにも正義感溢れそうな青年の声に二人は反応し、きょろきょろと周囲を見回す。
「誰だ! 何処にいる!」
ファントムが若干気持ち悪い高めの声で叫んだ。
「俺達はここだ!」
その声が聞こえてきた場所……ビルの上、太陽をバックに立っている三人に二人は目を向ける。
腕を組んでこちらを不敵な笑みを浮かべる男性と、その両脇に無表情な男と優しく微笑む女性が一人ずつがこちらを見下ろしていた。
「いくぞ二人共! ダイノ――チェェィンジ!」
中央の男が音頭を取り、三人は声を揃えてそう叫ぶと眩い光に包まれ――変身した。
――うむ。悪くない。これは今後も期待が持てるな。
テイルは表情に出さないが、内心非常に満足していた。
この変身シーンだけで参加して良かったと思う程度には――。
三人組はそのままビルから飛び降り、ファントムの前に着地し決めポーズと取った。
「強き牙で敵を食らうアギトの力! ダイノエース!」
中央にいる赤いタイツ姿の男はそう叫び、両手を縦に開いて顎の形をモチーフにしたポーズを取り、後ろでドーンと大きな赤い爆発が響いた。
「縦横無尽で疾風怒涛、鋭き爪の力! ダイノアサルト!」
青いタイツの男はそう叫びながら右手でひっかくようなポーズを取り、やはり背後で爆発が響いた。
「弾丸のような華麗なる一撃、翼の力、ダイノフリット」
ピンク色のタイツの女性がそう言葉しながら蝶のようなポーズを取り、さきほどよりも若干柔らかい、桃色の爆発が響いた。
「我ら三人、恐竜王の力を受け継ぎし勇者――ダイノキング!」
決めポーズの中ドドーンと爆音がなり、どこからともなく恐竜の鳴き声が響き渡る。
テイルは内心で拍手をあげつつ、ひるんだような演技をする。
この時点なら文句なし百点をあげたくなるお約束の出来だったからだ。
そう、テイルは戦隊シリーズのファンで、特に恐竜モチーフが大好物だった。
五年ほど昔に、惜しまれながらもやむを得ない理由の為解散してしまった、悲劇の戦隊ヒーローと呼ばれる五人組がいた。
ダイノファイブと呼ばれた彼らはoAプラス級の超ド級の実力者で人気も人柄も良く、十年を超える歴史を持つ為レジェンド入りは確実と言われていた。
テイルも彼らのファンで、いつか戦える日が来れば良いなと思っていた矢先に、最悪とも言えるトラブル――いや、スキャンダルがおきた。
悲しいとしか表現出来ない……誰も得しない事件……ダイノセカンドとダイノフォースのダブル不倫である。
ちなみに、ダイノファイブは全員男だ。
共に家庭ある身ながら不倫にいそしみ、発覚した後はお互いがお互いを責めるという醜い展開。
流石に庇う余地もなく、もうどうしようもなくなりの解散である。
以後セカンドとフォースは中の人共に世間に出る事はなくなった。
相応以上の罰を受けたらしいのだが、その辺りの事情を知る者はいない。
ただ……全てを取り仕切るKOHOの上層部が、本気でガチギレしたという事だけは確かである。
KOHOだからこそ、彼らがどうなったかはわからなくても彼ら二人が大きな罰を受けた事を皆理解し、以後その事を触れる者は誰もいなかった。
そんなわけで残った三人は引退後に後継者を探しだし、そんな彼ら三人の悲しい気持ちと正義の為の強い意思を受け継いだのが今回の彼ら、階級Aヒーロー『恐竜戦鬼ダイノキング』である。
ぶっちゃけテイルにとってあらゆる意味でツボを抑えられていた。
恐竜というテーマの中でも、力、速さ、飛行という三パターンに特化にうまく区切りが付けられている事。
恐竜なのか鬼なのか王なのか良くわからないごちゃまぜな感じでありつつもメインは王道な流れ。
そして何より、スーツが古臭くないのだ。
昔のシンプルなタイツ姿も確かに恰好良いのは認めるが、センスが小二で止まっているテイルには金属を多く使った未来チックなスーツの方が好みだった。
古代の恐竜と未来のメカチックなスーツを併せ持つ三人組。
テイルが是が非でも、実物を見ておきたかった。
「……ぶっちゃけ俺はこれで満足だ。彼らは良いね。期待出来る。今度DVD買おう」
テイルは誰にも聞こえないようにそう呟いた。
「半分出すので一緒に見ましょ。んでハカセ。お気に入りのお相手みたいですし、わざとボロボロに負けましょうか?」
そうファントムが小声で言うと、テイルは苦笑いを浮かべた。
「馬鹿な。素敵な相手だからこそ、全力で当たらねば失礼だろう。俺の守りは気にしなくて良い。全力で行け」
テイルの言葉にファントムは微笑み頷いた。
「ダイノキングか。聞いた事ないな! ま、私の敵ではないでしょう。Dr.テイル! どう料理してくれましょうか」
きひひと笑いながら、キンキン声でファントムはそう尋ね、テイルはにやにやと不愉快で不気味な笑みを浮かべた。
「ふむ。恐竜のステーキなんてどうだろう。研究意欲がそそられる」
「んんー。了解致しましたよドークターテイル! きひ、きひひ。きひひひひぃ!」
両手に持ったワイヤーを上空でぶつけ合い甲高い金属音を鳴らせながら、ファントムは前に歩き出す。
それを見たダイノキングの三人は瞬時にファイテングポーズを取った。
「きひ。Dr.テイルの腹心、怪人ファントム。趣味は……刻む事です!」
そう言いながらファントムはダイノエースに向けて右腕を振り、ワイヤーを振りぬくとダイノエースはバラバラに動く五本のワイヤーを両手で掴んだ。
「ご丁寧にあいさつどーも。リーダーのダイノエース、趣味は、悪党退治だ!」
そのダイノエースの声に反応してダイノアサルトが側面からファントムに奇襲をかける。
青い影しか捉えられない高速移動からの側面強襲。
ファントムはそれを見てから左手のワイヤーを置くように設置して迎撃を試み、アサルトは舌打ちしながら後ろに引いた。
「ちぇっ。あのワイヤー思ったよりも隙ないぞ」
アサルトの声にダイノフリットも頷く。
「うん。特に私と相性最悪だよあのワイヤー。蜘蛛の糸みたいな対空攻撃は私の天敵っぽい」
やれやれと言ったポーズを取るフリット。
「んー。なら俺が主体で行くべき――おっと」
エースは手の中で暴れるワイヤーに危険を察知し素早くファントムの方に投げ捨てた。
「もう少し長く持ってくれたら腕の一本も持って行けたのに。……やり辛いですねぇ」
「そりゃどーも。最高の誉め言葉だぜ」
ファントムの心からの本音を聞き、エースは挑発的な笑みでそう答えた。
ありがとうございました。
ガブリンチョって言いたかったけど我慢した。