水にご注意? 1
「がたんごとん……がたんごとん……。ごん……がたんごとん」
定期的な揺れに合わせてそう口ずさむクアン。
普段の女の子らしい清楚な恰好よりもかなりラフでだぼっとした衣装、つまりテレビ用の衣装で椅子に座ったまま茫然とながら何度もそう呟いていた。
どうして自分がここにいるのかわからず混乱しながら、クアンは初めての新幹線をこっそり堪能していた。
『仕事の時間だ! 予定はない……よな! よし、さあ車に乗り込め、すぐに出発だ!』
そんなテイルの一言から突然のドライブが始まり、そして現在は新幹線の中にクアンは乗っていた。
ARバレット(アーブ)から新幹線に乗ったのはクアンとテイルだけではない……というかこの新幹線、完全に貸し切りである。
この車両には全員灰色タイツに白いデスマスクをした不審者スタイル丸出しの集団により埋め尽くされていた。
他の車両は私服だが、全員がアーブの関係者である。
「それでハカセ……。一体……どういう事です?」
若干冷静を取り戻したものの、何から聞けば良いかわからないクアンはテイルにそう尋ねた。
「うむ。まずはコレを見ろ」
そう言ってテイルは手元のタブレットをクアンに見せた。
それは天気図だった。
「アーブがこの辺り……そしてこれから行く場所は幾つか県を越え――ここになる」
そう言ってテイルは指を左に動かし差し示した場所には、大きな雨雲が渦巻いていた。
「あ……」
クアンは小さく呟いた。
「本来ここに来る予定だった悪の組織、DDDは雨に弱いらしく土壇場でキャンセルとなった。そんなわけで活動KOHO部隊が代打を探していたから……俺が受けた。今回はオーソドックスな戦闘重視スタイルとなる。雨での戦闘。受けた理由はわかるな?」
クアンは頷いた。
能力の特性上、クアンが最も得意なのは純度の高い水が多くある場所での戦闘となる。
雨水というのは残念ながらそこまで純度が高いわけではないが、それでもクアンが操作するには十分な純度と言える。
そんな水が周囲に無限に降り注ぎ、その上敵も水にぬれた状態。
そう、雨の屋外というのはクアンにとって都合が良すぎると言っても過言ではないほどで、某超有名宇宙刑事の魔空〇間に匹敵するほどの専用フィールドと呼べる状態だった。
「それはわかりましたがハカセ。……妙に人多くないですか? というかウチ戦闘員の方々こんなにいたんです?」
周囲を見渡しながらクアンはそう呟いた。
妙にテンションが高く旅行を満喫する全身タイツ集団はほぼ一両を埋めていた。
「ああ。この車両にいるヴィーは八十二人だ。戦闘したい奴着ろっていったら思ったよりも多くてなぁ。……クアンについて戦闘するのはこの半分……でも多いな。四分の一程度で十分か」
そんな声にヴィー達は小さくブーイングを鳴らした。
「他の車両もウチの人ですし……どうしてこんな沢山の人連れてきたのですか?」
嫌味ではなく、単純に気になったクアンはそう尋ねた。
「せっかく遠方に行くんだから終わったら旅行でもしようかと思ってな。ああ、安心しろ。旅行先は検討中だが旅行に適した天気の良い場所にする予定だ」
「は……はぁ?」
クアンは良くわからずに首を傾げた。
「つまりだ。クアンの仕事が終わればそのまま社員旅行に移行する。だから暇で行きたそうな奴は全員連れてきた……というわけだ」
何故かドヤ顔で言い切るテイルにクアンは更に首を傾げる。
目の前の人物が言っている内容はクアンにとって、全くもって意味がわからない内容だった。
「ああ安心しろ。旅行とか興味ない奴には無理強いしていないぞ。ウチはホワイトを目指しているからな。来れなかった人、来なかった人全員には後日同等の旅行券と有給をプレゼントするつもりだ」
「……よくわかりませんが、旅行でしたら水族館に行ってみたいです」
クアンは脳年齢を低下させ、考える事を放棄して思いついた事を告げた。
「ソレは良いな。生き物と触れ合い教育にも役立つ。貸し切りに出来る場所がないか場所が決まったら調べてみようではないか。無理なら迷惑にならないように分割で移動しないとな。その場合は……どうグループ分けをするべきか……」
テイルは手元のタブレットを操作しながらぶつぶつと呟きだした。
「Dr.テイル。旅行も良いんですが、その前に作戦会議しましょうよ。クアン様が不安がります」
クアンの知らない男性のヴィーがテイルに忠告し、テイルは頷いた。
「ああ。そうだな。ありがとう。そしてすまんなクアン。旅行に集中しすぎた。作戦会議をする」
そうテイルが呟いた瞬間、さっきまで賑やかだったヴィー達は黙り、礼儀正しく椅子に座りテイルの言葉を待ちだした。
「作戦と言っても特にない。現場での指揮も特別な事がない限りは何も出さないだろう。というわけで相手の情報だ」
「あれ? 事前に相手の人の事知るのって有りなんですか? 赤羽さんの時は突然のマッチングだったような……」
「キャンセル込みだからな。今回はお互い情報を得てからの戦闘となる。……一方的にボコられる戦闘一回と料理一回の情報しか相手は得られないからこっちが有利だが、まあそれはニュービーの特権として許してもらうではないか」
そう言った後、テイルは相手の写真をタブレットに表示させクアンに見せる。
「……ん? んん? なんですこの恰好? 黒いイカ?」
全身真っ黒一色の黒装束で目元だけ開き、頭は三角に尖った不思議な被り物をしているという奇妙な恰好をするガタイの良い男性を見てクアンはそう呟いた。
「その三角っぽいのは頭巾だな。本当に昔の特撮、今のような映像じゃなくてテレビが白黒の頃に流行った時代劇風特撮の恰好……のオマージュだ」
「はぁ……特撮にも色々あったんですね」
「ああ。んで対戦相手の名前は【鞍馬武士『ライゾー』】特殊能力こそないものの人らしからぬ身軽さと重厚感ある殺陣がウリの新人人気ヒーローだ」
「へー。凄いですね。……新人!?」
「ああ。新人だ。半年も経ってないぞ。ちなみに歳は十六らしい」
「十六!? え? いや顔は目付近しか見えませんが……それでも、とても十六には見えませんね。顔も体格も趣味も含めて」
写真に写る目つきは鋭く、眉はしっかりと太眉で完全なる昭和顔で醤油顔。まるで時代劇スターのような険しさにクアンは戸惑った。
「そういう趣味の奴もいる。時代劇系列の特撮が好きだがそのジャンルは残念ながら絶滅危惧でな。俺も怪人とかロボットとか変身ヒーローが出ない特撮にはあまり興味がないし。ま、そんな時代劇風特撮の復興を狙ってヒーローになったらしい」
「戦う私が言うのもアレですが……夢叶うと良いですねぇ」
「実際に叶いそうな位には人気あるぞ。昔懐かしの人や時代劇から入った人、和風ヒーローが好きな人なんかにな。……話を戻そう。最大の長所であり欠点でもあるのがその戦い方にある」
「欠点ですか?」
「ああ。日本刀での戦いがメインなのだが……ライゾーは剣術、剣道といった当たりの技術を一切学んでいない」
「外国の剣技を学んだという事ですか?」
クアンの質問にテイルは首を横に振った。
「いや。一切マトモな剣の指導を受けていない。剣技は全て殺陣で学んだそうだ。だからこそ、コイツは剣術家として見れば大した事がない」
「――では長所としてみれば?」
「ああ。身体能力が異常に高い。特に筋力と体力が恐ろしいほどに発達しているから剣技がおざなりでも驚異的な剣の鋭さを発揮する。単純に鉄の棒きれを振りまわるだけと考えても驚異的だな」
「……赤羽さんと比べたらどのくらい強いです?」
「……比べる相手が悪すぎるぞソレは。俺の推測だが、十分の一越朗君くらいだ。ただ、彼の場合は暴れず立ち回りは理性的な。間合いの取り方は絶妙な上、立体的な戦いを仕掛けて来る。それと、もう一つライゾーには特殊な力がある」
「なんです?」
「――特殊能力とか何等かの力を持っていないはずなんだが……何故かライゾーの剣で人が傷付く事はない。思いっきり斬られても打撲や気絶程度で済むぞ。恐ろしく痛いが」
「……刃を潰しているんじゃないです?」
「いや、丸太は当然石でもすぱすぱ斬る。斬らないのは人だけだ。……たぶん血飛沫が映ると対象年齢上がるからその対策だと思う。……理由はわかるが理屈がわからん」
「……傾いた人なんです」
「だな。そういう拘りのあるタイプは好感が持てる。半年程度の新人ながら勝率も良く、勝率は八割をキープ。既に二組織ほど悪の組織を壊滅させており次世代での期待の一人とまで言われるほどだ。クアンと比べたら完全な格上となる為普段なら絶対に勝てないだろうが……」
テイルがそう呟きながら外を見る。
雨こそ降っていないものの、大きな雨雲が空を覆いつくしていた。
「現地は視界が危ぶまれるほどの降雨量となっているそうだ。だが、クアン、お前なら問題あるまい?」
クアンははっきりと首を縦に動かした。
水関連の情報は事前に持って生まれ、水を操作する能力を持ったクアンにとっては、水による悪天候は一切の障害にならず、むしろ快適なくらいだった。
「というわけで纏めると、特殊能力がない代わりに身体能力が高い相手が鉄の棒を振り回してくる。良くも悪くも王道ヒーローの相手だから特に作戦はない。現場の判断でがんばれ」
その言葉を聞き、クアンは苦笑いを浮かべた。
「身体能力高い相手に作戦って難しいですよねぇ。それと、戦う理由付けとかはどうなってます?」
「ああ。向こうが果たし状を送って、こっちが受け取ったという形になっている。だからライゾーの方に合わせて適当に答えてれば大丈夫だ」
「了解しました。サポートお願いしますねハカセ」
そんてクアンの言葉にテイルはニヤリと笑い頷く。
「任せろ。……よしこれで真面目な話は終わりだ。お前ら! 旅行で行きたい場所かたっぱしから上げていけ!」
テイルがそう叫ぶと、さっきまで大人しく座っていたヴィー達は一斉にはしゃぎはじめ、遊園地やゲームセンターなど思いつく限りの場所を好き放題挙げていき、テイルは周囲の声に同意しながらリストアップに入った。
ありがとうございました
悪の組織DDD
デンジャーダイナマイト団という名の組織で、爆弾を爆発させて楽しむのが趣味。
普段は工事の為や鉱山の為の発破作業で生計を立てている。
爆発に美学を感じる発想が強く、そのド派手な活動内容により根強いファンは多い。
ただしファンは全て男性であり、女性からは見た目のごつさ、爆弾の煩さ、土煙が巻き上がるといった理由で嫌われている。
お休みの理由は爆弾が湿気った事と急に別の仕事が入った為。




