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恐るべき悪の組織

 

 青い髪をした怪人の女性。

 見た目は悪くない部類に入るだろうと自分では考えている。

 服装も長袖ジーパンと極めて普通のもの。

 だが、自分は確かに作られた存在であり、人ではない。

『怪人』である。 

 そんな怪人の彼女は、案内された部屋に多いに戸惑いっていた。


 そりゃあそうだ。

 悪の科学者が『お茶の用意』をすると良い、連れて来られた部屋が和室だったら、多少は戸惑うだろう。

 それも茶室のような専門的な部屋ではなく、レトロな雰囲気が散りばめれた昔ながらの一般家屋の和室である。

 意味がわからなかった。


 障子張りの狭い部屋で中央にはどんと大きな炬燵、それも掘り炬燵が設置してあり、部屋の隅には妙に古臭いテレビが設置してあった。

 炬燵の脇には丁寧に座布団が設置してあり、炬燵以外に座れそうな場所はない。

 女性は戸惑いながらもおずおずと炬燵の中に足を入れ座った。


 ――あれ?私怪人ですよね?

 テレビの音だけが流れ続ける部屋の中に一人取り残された女性は、一体どうしてここにいるのかわからず首を傾げ続けた。




「どうした浮かない顔をして。もしかして西洋式の文化スタイルの方が好みだったか? それなら今からでも移動するが」

 そう尋ねるテイルは白衣にエプロンという珍妙な恰好で現れ、カゴ一杯のミカンと緑茶をお盆に乗せていた。

「あ――いえ、私和室大好きですので」

 何かを言おうとした女性だがテイルの盆の上の物を見た瞬間、満面の笑みを浮かべてそう答えた。

「そうか。それなら良かった。質問もたくさんあるだろうし長い話にある。喉を潤すと良い」

 そう言いながらテイルがお茶とミカンを入れたカゴをこたつに置くと、女性は迷わず湯呑を手に取りお茶をすすった。


 女性のインプットされている知識の中には偏りがあり、何故か緑茶の知識が多く入っていた。

 緑茶に関しては入れ方から銘柄、楽しみ方まで――。

 だからこそ分かる事があった。

 この用意された緑茶は、尋常ではないほど素晴らしい物であるという事が。


 女性はお茶を一口飲んだあと、自然と吐息は漏れとろんとした表情になる。

 優しく上品な香りをしつつも確かだと感じられるほどの旨味があり、それでいてお茶特有の渋みは全くない。

 これを超えるお茶はそうそうないだろう。

 最初の予想通り、いや予想以上にそのお茶は美味しかった。

 値段が予想出来る程度に知識があるからか、なお美味しく感じる。

 一袋三万前後、場合によっては四万は超えるだろう。


 そんな贅沢が楽しめるとは思ってもなかった女性は、尋ねたい事も全て忘れ至福の時間を楽しんだ。

 テイルはそんな女性を見て、満足そうに頷きミカンに手を伸ばす。




「えっと、質問というか、聞きたい事が漠然としすぎて質問すら思いつかないのですがどうしましょうか?」

 女性は三杯目のお代わりを湯呑に入れてもらいそれを飲みながら、困った表情でそう呟いた。

「うむ。そうだろうとも。だからこそ、まずは現状の確認からだ。まず、お前と俺は何で、俺達の関係性は何だ?」

 テイルの質問に女性は首を傾げながら考え、そして答えた。

「私は作られた怪人。ハカセは創造主で悪の科学者ですね。つまり、私に悪い事をして欲しいから私を作ったという事ですか?」

 その言葉にテイルは軽く頷いた。

「概ねその認識で間違っていない。ただ、拒否権はあるからしたくない事はしなくて良い」

 その言葉を聞き、女性は酷く困った表情を浮かべた。

「……それなら、どうして私に罪悪感を持たせたのでしょうか。正直に言いますと、あんまり悪い事、というよりも人が困る事はしたくないです」

「……そうか」

 テイルはそう一言だけ返した。


「ハカセ。今までどんな悪事を働いたのですか? 参考までに」

 女性は現状を知る為、そして覚悟をする為にテイルにそう尋ねる。

 その言葉を聞き、テイルは指を折りながら今までの所業を語りだした。

「そうだな……ビル、店、一般家庭の一軒家の破壊。誘拐、洗脳、コンピューターウィルスの流布。あと反政府組織の扇動もしたな。とりあえず許可の出た悪行はこんなもんだ」

 その言葉を聞き女性は眉間に皺を寄せて不快感を示し悲しい気持ちになった後、最後の言葉を聞き首を傾げた。

「……許可の出た……ですか?」

 その一言の意味が、女性には良くわからなかった。

 そんな戸惑う女性の様子を見て、テイルはニヤリと意地悪な笑みを浮かべていた。


「ああ。公的でかつ許可の出た悪事だな」

「……よくわかりませんが、そんな酷い事に許可が出るのですね……。参考なまでに許可の出ていない悪事ですとどのような凶悪な事を……」

 そんな質問が出るとは思ってなく、テイルは若干戸惑った後腕を組み必死に考える仕草をした。

「違法悪事違法悪事……そうだな……ああ。一つあった。この前ゴミの日間違えてしこたま怒られた」

 女性はそれを聞き、更に首を傾げ困惑した。




 そんな女性の困る姿を一通り堪能した後、テイルは説明を始めた。

「そろそろ答え合わせをしていこうか。アレ、何が見える?」

 テイルが指を差した方向を見て、女性は答えた。

「……テレビですね。恐ろしいほど古い」

 外枠は赤く正方形に近いほど厚みがあり、リモコンの代わりにダイヤルでチャンネルを変えるテレビ。

 そんな動くはずのない骨董品級のテレビを見て女性はそう答えた。

「ああ。これはぶっちゃけ雰囲気重視でそう作っただけだから。中身はデジタル放送受信機でリモコンもあるしブルーレイも見れるぞ」

 そう言いながらテイルはリモコンを女性に渡した。

「そうですね。確かに映像はクリアですしブラウン管特有の曲線も見えません。なるほど、雰囲気の為だったのですね」

「ああ。だが聞きたい事はそうではなく、番組だ。今何の放送をしている?」


 そう言われ、女性は今やっている番組に注目してみる。

 三人の正義の味方が一匹のサソリ型の怪人をボコボコにしていた。

 子供向けの番組らしい。

 妙に出来が良く見えるが。


「珍しいですねこんな昼間に。えっと、特撮ですよね?」

「そう見えるか。そうか、そう見えるよな。では、次にチャンネルを幾つか変えてみたまえ」

 そう言われ、女性は手に持ったリモコンのボタンをかたっぱしから押していった。


「――十二チャンネルのうち八チャンネルが特撮って偏りすぎてません?」

 女性は困惑した表情でそう呟いた。

「うむ。それが普通の反応で、この国を知らない者の証である。では、説明しよう!」

 テイルはこたつから出て立ち上がり、自慢げに叫んだ。

「あ、は、はい」

 女性はそのテンションについて行けず生返事をして返す。


「この国には『正義の味方』という準公務員扱いの職業があり、『悪の組織許可証』という資格が発行されている」

 ――なまじ出来の良い頭をしている自分を呪いたい。

 その一言で何となく、自分のほとんどの疑問が解消され女性は頭を抱えた。




「あー。ハカセの言う事が真実なのだとしたら、私の作った理由って……そういう事ですよね?」

 さきほどテイルの言っていた許可の出た悪事という言葉と、自分の怪人という特徴から女性はそう尋ねた。

「うむ。飲み込みが早いようで助かる」

 テイルは満足そうに頷いた。


 どういう理屈でそうなっているのか、どういう事を考えてそんな事になったのかわからない。

 女性が理解した事は、この国は『悪の組織』を認める事によって何等かの利益を出しつつ、善悪をコントロールしているという事だ。

 悪の組織という都合上国がコントロールできるとは思えないが、そこは何か秘密があるのだろう。


「犠牲になる人ってどのくらいいますか?」

 女性は単刀直入にそう尋ねた。

「ああ。とりあえず正しい意味での一般人ならば巻き込まれる可能性はほとんどない。故意に巻き込むような事は、俺はしないと誓おう」

「……プロレス?」

 女性は思いついた可能性を一つ尋ねてみた。

「うーん。その言葉は確かに近いかもしれん。ただ、悪の組織が勝てば合法的に村や町を征服出来、治外法権となる。だから完全にプロレスというわけではない。俺達は正しく悪の組織だ。正義を目の敵にし、悪を成すという意味でな」

「なるほど……」

 女性は小さくそう呟いた。


「もう少し正義の味方と悪の組織の事とか聞きたいのですが、それより先にウチの事を教えてください」

「ふむ。ウチ、というと……俺の組織した団体の事か」

 その言葉に女性は頷いた。

「そうだな。公的には世界征服を企む悪の秘密結社『ARバレット』であり『アーブ』と呼ばれている。AにRにバレットのBでアーブ」

「なるほど。バレットは弾丸だと思いますが、ARとは何の意味でしょうか?」

 そう女性が尋ねると、テイルは妙に迫力のある表情をして、首を横に振った。

「すまないな。……それは秘密だ」

「……何か重大な意味があったのでしょうか?」

「――何故なら、秘密にした方がかっこいいからだ!」

 決めポーズを取りながら、テイルはドヤ顔でそう言い切った。


「私……どうしてハカセが悪の科学者になったのか理由がわかった気がします」

 女性はそう呟き、小さく溜息を吐いた。


 トップは科学者のテイルで、部下として三十二人の戦闘員兼従業員が在している。

 そして怪人は女性を含めて八名の所属。

 ここは秘密基地という名目で作られた場所だが許可は得ている。

 地下三階建てで地上は喫茶店をダミーで運営している。

 現在は地下二階にいる。

 テイルは女性にARバレットの事をそう説明した。




「……少し話変わるのだが、良いか?」

 テイルが深刻そうな表情でそう尋ねると、女性はこくんと頷き真面目な表情をした。

「ああ。それでだな……『クアン』というのはどうだろうか?」

 テイルは少し言いずらそうにこちらの様子を伺いながら、そう尋ねてくる。

 それが何を示した言葉なのか女性はテイルの態度からすぐに理解した。

 それは『自分の名前』である。

 女性は驚きと安堵を含めた柔らかい笑顔を浮かべ、頷いた。

「正直、思ってた以上に良い名前です。ありがたく、受け取らせていただきます」

 ぶっちゃけ女性は〇〇女とか怪人〇〇とかの怪人ネームが来る可能性に気づき、少々恐れていた。


「そうか。それなら良かった」

 テイルはほっとした表情を浮かべ安堵した。

 名付けに慣れてないのか、相当悩んでいたらしい。

「はいハカセ。では改めて、私の名前はクアン。これからよろしくお願いします」

 クアンは小さく微笑み、テイルと握手をした。


ありがとうございました。

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