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後悔しかない間違いのない選択


 電気の入ってないこたつに対面で入り、二人はぐでーと横になって気を抜いていた。

 足が当たり合うのだが、お互いほとんど気にしていなかった。


 確かに……ちょっとしたトラブルやイベント事が決して嫌いではない二人なのだが、それでもここ最近は色々とありすぎて、本当に忙しすぎた。

 それこそ、こたつに入ってゆっくりまったりする事が狂おしい位安らぐと感じる程度には……。

 二人は俗に言う、燃え尽き症候群に陥っていた。


「あのさぁテイル」

「なんだユキ」

「……ミカン空になったね」

 電気が入っていないとは言え、まだこたつを楽しむ季節からは相当以上に早い。

 だがしかし……それはそれとしても、こたつにミカンはお約束である。

 そしてミカンが入っていたカゴには、既に何も乗っていなかった。

「……そうだな組織ナンバーツーのユキよ」

 普段なら絶対にしない立場を強調しつつ、テイルはそう言葉にした。

「……電気が入ってなくてもさ、出るのって何か面倒になるよねこたつって」

 そう言いながらユキは足先でテイルの足を軽くつついた。

 お前が行けと言わんばかりに。


「わかる。わかるぞナンバーツーのユキよ。だが待って欲しい。……俺も出るのめんどい」

「……じゃあミカン我慢しようか」

 食べたいよりも億劫が勝ったユキはそう言葉にした。

「……とは言え、今まで意識していなかったがいざ話題に出されると食べたい気はするな」

「……行って来て良いのよ?」

「だが断る」

 本来ならば、クアンやファントムといった誰かしらがお節介を焼いて二人にミカンを届け、そして雅人辺りが二人を甘やかすなと怒るだろう。

 だが、今ここにいるのは二人だけである。

 それはつまり、誰もミカンを持ってきてくれないという事だ。


「……最悪さ、ジャンケンで決めるとしてもユキの方が有利だよな?」

 テイルはもしかしてと思いそう尋ねると、ユキは向こう側で力ない返事をした。

「んー。六割ちょいちょい位の勝率? かなー」

「何で五分にならねーんだよ」

「天才ですからー」

「んー。じゃあコイントスで決めよう。俺が投げるから選んでくれ」

「じゃあ裏ー」

「はいよー」

 そう言った後テイルとユキは体を起こし、テイルは甲高い音を響かせ空高くにコインを放った。


 くるくるくるくる……さくっ。


 コインはそのままカゴの中に入り、表でも裏でもなくまっすぐ水平のままカゴに突き刺さった。

「……横、が正解だったな」

 そうテイルが言葉にした後、仲良く二人で季節外れのミカンを取りに行った――段ボールで。




「酷く時期外れだからそんなに美味しくないけど……何故か欲しくなるよねー」

 ユキはミカンを一つ口に頬り込みそう言葉にした。

「わかる。こたつの魔性さ故だな。もう少し寒くなればこたつのスイッチ入れてアイスを食べたい」

「あーわかるわ」

 そういった後二人はしばらくたわいのない会話を繰り返し、そしてぐだぐだな空気のままテイルは唐突に、その言葉を放った。


「……ARバレット、ちょっと解散しよっかね」

「……ほわーい?」

「びこーずー。じーんざーいぶーそーくー」

「でーすーよーねー」

 現状の事を考えるとそう言わざるを得ない為、ユキも残念ながら同意した。


 色々ともろもろがとにかく重なり、現在ARバレットという組織はoAプラス階級となってしまった。

 だが、そんなほぼ最高に近い階級に在りながらも、現在常駐している怪人はヴォーダン一人のみである。

 今まではファントムとクアンがいたのだが、二人にはやるべき事が出来てしまった為ここにはいない。


 クアンは赤羽に付き、正義の味方への移籍となった。

 そしておそらく、そう遠くない内に苗字も変更になるだろう。


 ファントムの方は所属こそARバレットだが、実質は引退に近い。

 休業中だった本業の俳優、役者業を全て引退し、依然ヴォーダンが言った外国の寺院に長期での修行に向かった。

 目的は、地球の意思と交信する為。


 知らない人が聞けば気が触れたと思う様な内容だが、ファントムの中には人生を賭けるべき理由が、誰かにもう一度会いたいという確かな理由があった。

 おそらくだが、待っていてもいつか会えるだろう。

 だが、待つ事が性に合わないと言い放ちそのまま修行に向かった。

 じっとしていられないのは父譲りの性格なのであろう。


 そんなわけで、偶の助っ人で来てくれるフューリーやヴァルセトを除けば、ARバレットの怪人は最大戦力のヴォーダンのみとなる。

 更に言えば戦闘員の過半数も都市運営の方に向かっている為、既に悪の組織としては半ば引退状態に近かった。


「そんなわけで都市運営の方は何とかなってるから引継ぎ先を探しつつーARバレットという悪の組織を解体し、通常の企業に移行しようかなーって思ってるんだ」

「うん。そうねぇ。……んでテイル。何が原因?」

 言いたい事の筋道は通っている。

 だが、その程度の理由でテイルがARバレットを、楽しく遊べる悪の組織なんて玩具を捨てるわけがない。

 それをユキは良く知っていた。


「あー。うん。別に理由は……」

 そう言い淀む姿を見て、ユキは理解した。

 原因が自分にあるという事を……。


「……ねぇテイル。私はね、別に悪の組織に拘りはないわよ。テイルと、ここの人達と一緒に何か出来るならそれは商売でも慈善活動でも、それこそ何でもきっと楽しめると思うの」

「ああ。だからARバレットは……」

「でもさ、テイルは違うよね? 拘りがあるんでしょ? 悪の組織事体に。……もし、もしも私に遠慮して大切な事を言わないで、自分の好きな事を止めようって言うのなら私は貴方を本気で怒って……そして貴方を許さないわ。地獄すらに温く感じる様な目遭わせてあげる」

「……例えばどんな?」

「新しくARバレットを作るわ」

「……それは別に嫌じゃないぞ?」

「『新ARバレット改RR(ダブルアール)教って名前にするわ』

「……は?」

「そしてテイルを『新ARバレット改RR教団終身名誉開祖』として一生涯崇めたてる宗教にしてやるわ」

「……どうしてそんなおぞましくも恐ろしい事を思いつくのだ君は!?」

「ふはははは! 嫌ならば正直に何があったのが言うが良いわ!」

 そんなテイルの偉そうな態度を真似てユキが言葉にしてみせた。

 そして二人はこたつ挟みに向かいあい、お互いの馬鹿さ加減に我慢出来ず、噴き出し腹から笑った。


「わーったよ。ほれ。こういう事だ。俺はユキが悪いとは微塵も思っていない。だがな、同時にKOHOのこの行動も間違っているとはとても言えない。だからARバレットの解散って形が落としどころとしては無難だろうなーって思ったんだよ」

 そう言ってテイルは書類をユキに手渡した。

「それってさ、カレーかからあげどっち食べようって考え悩んだあげくにパフェ食べるって位の暴論じゃない?」

「……確かに」

 もう一度二人は笑った。


 ユキはテイルの用意した書類を流し読みした。

 その書類には、ARバレット所属のユキに対して、多くのルール違反についての積もりに積もったルール違反についてが記述されていた。

「……あー。うん」

 思い当たるフシの多いユキはその罪状の束を見ながら苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


 元々、ARバレットに入る前のユキはルールギリギリの事を繰り返していた。

 別に違反はしていない。

 しかし、誰かが迷惑になる行為だった事は間違いがない。

 その為ユキは元々要注意人物だった状況で……事情があるとは言え罰則をかけざるを得ないほどのルール違反を行ってしまった。


 一つは、ユキが誘拐された時。

 元々ユキはARバレットに所属する際直接戦力にならないというルールで参入している。

 にもかかわらず、誘拐された時ユキはとにかく暴れまわった。

 それも、KOHOに報告していない能力を使用して。

 それは誘拐という緊急事態である事を考慮して、テイルがこちらが正しいという証拠を用意し、KOHOが許可を出したという事を踏まえても……駄目だと言わんばかりの暴れっぷりだった。


 ただし、この時点ではまだ議論を軽く行う程度で済んでいた。

 KOHO内で罰則を出すべきか事情を配慮すべきかという二択で優しく議論をしている最中……二つ目のルール違反にてかるーくその騒動を悪い方向に持って行ってしまった。

 それが今回使用した広範囲での洗脳解除装置である。


 ガイアによる認識誤認、過去に宇宙人が来たという事とそれに準ずる事の記憶を封印し、能力に関して違和感を持たないという情報修正。

 これは絶対に隠さないといけない秘密というわけではない。

 そう言う訳ではないのだが……大勢の一般人に知らしめ混乱させる事態にするというのはKOHOにとって決して好ましい状況とは言えない。

 後処理の事と説明の厄介さ、そして今後の影響を考えるとそれはKOHOの存在を脅かしかねないと言ってさえ過言ではない。


 KOHOもユキが悪いとは決して思っていない。

 その証拠に誘拐の時も全ての問題はKOHOが引き継ぎ、今回のコイオス騒動もARバレットに事体解決として相当以上の金銭を授与している。

 あの常時金欠のKOHOが金を送ったという時点でその本気ぷりも理解出来る。


 だが、それはそれとして、護るべき法は絶対である。

 KOHOという最強戦力を保持している組織として、法を護るという事は呼吸をするのにも等しい。

 だからこそ、ユキに名指しで警告と罰則が下された。




「それで、この書類には私の罰則内容が書かれていないんだけど……何をすれば良いの?」

 書類を読み込んだ後ユキがそう言葉にすると、テイルはおろおろとした様子となった。

「いやさ、その……俺らARバレット全員で二年程度奉仕活動するって罰則にも出来るぞ? ほら? KOHOのお手伝いだからそんな難しく――」

「却下。私に対しての罰則で、私の自業自得なのにどうして皆が被害に遭うのよ。それにさ、KOHOの事だから二年の奉仕活動後もなんやかんや理屈つけて仕事手伝わせて来るでしょ?」

「いやいや。そうは言っても……今回も、いつだってユキは俺や俺達の為にやった事じゃないか」

「でも、皆と会う前から私が真面目にやっていたら今回は警告だけで済んだ可能性が高いわ。それなら私の自業自得よ。ほら。話し合う時間がもったいないわ。私は何をしたら良いの?」

 そうユキが言うと、テイルは困った顔を浮かべた。


 それなりに、長い付き合いとなった。

 だからテイルはユキの事をあくまでそれなりだが良く知っている。

 この組織に居る時は割と素直で、外でも人当たりは良くなった。

 対人恐怖症自体はもう治ったと言っても良いだろう。


 だが、それでも人が苦手な事に変わりはない。

 未だに見ず知らずの人相手には酷く緊張し、知り合いのいない場所で人の多い場所に行くと顔を顰め逃げ出そうとする。

 だからこそ……ユキにはこの罰則を伝えたくなかった。


 KOHOは間違いなく、ユキに気を使ってくれている。

 そりゃあそうだ。

 コイオス事件の時は間違いなく世界の救世主である事に変わりはない。

 だが、その気の使い方が少々以上に間違っている……。

 そうテイルは思わざるを得なかった。


 テイルは無言で、カラフルな色どりのパンフレットをぽんと投げた。

 それを手に取り、ユキは首を傾げた。

「……何これ? アイドルコンサート?」

 その言葉にテイルは表紙を指差した。

【第十八回善悪合同スペシャルフェスコンサート】

 そう書かれていた。


「……どゆこと?」

「要するにあれだ。KOHOと正義、悪の知名度アップと世間の評判を上げる為に開かれるこっち界隈の関係者限定の多数参加型ライブコンサートだ」

「……ふーん。でもさ、これコンサートに出るの皆素人って事だよね? 参加者アイドルじゃないんだし」

「皆じゃないが……まあ九割方素人だな」

「それ上手くいくの?」

「それなりに盛り上がるらしいぞ」

「ほーん。……それで、私の罰則って何? 裏方? 会場準備? 参加者の護衛とか? ああ、金銭の工面か? この位のコンサートを支える位のお金はあるから大丈夫よ?」

 そう答えるユキに、テイルはそっと無慈悲なる一枚の紙を手渡した。

 参加証明用の記述用紙である。


「……Who(ふー)?」

 ユキがきょとんとした顔で呟くと、テイルはユキの方を見つめた。

「ゆー」

「……は? なして私?」

「そういう罰則だからとしか」

「いやそうじゃなくてさ、自分で言ってて悲しくなるけどちんちくりんな体形で童顔の私だよ?」

「それに関してはノーコメントだ。女心がわからない俺が何かを言うと大体悲惨な事になるからな。ただ……ユキに出て欲しいって声が多かったのは事実だ」

「……なんでー?」

 ユキは現実逃避しているとしか思えない、とても天才であるとは思えない様な間抜け面でそう尋ねた。

「そうだな……『いつもクールな感じが凄く良い』『最近艶が出てきて綺麗になってきた』『幼い外見なのにクールなのがツボ』みたいな声が視聴者様から……」

「わかった! わかったからもう止めて! テイルの口でそれ言われると私心臓が保たないから!」

 ユキは真っ赤な顔でオタオタしながらそう叫んだ。


「……だよな。人にそう言う目で見られるのって恥ずかしいよな。……うん。俺が何とかしてみるよ。流石にユキにフェス参加しろってのはなぁ……流石に辛いよな……」

 そう言ってテイルは力なく笑い、今まで出した書類を片そうとした。


「……べ、別に無理じゃないわよ! 人前に出て歌って踊るだけの罰則なんて余裕よ余裕! 私は天才なんだから!」

 そう言ってユキは参加証明にすらすらと自分のプロフィールを書き記していった。

 既に若干後悔していたが、それでもユキは後には引けなかった。


「……そうか。うん。頑張るなら俺は何も言わん。今までこのフェスに参加した事はなかったけど……ユキが出るなら今回は直接フェス会場に行って応援するからな」

 ライブ上で、煌びやかな衣装を着て、媚を売ってキラキラしながら踊って歌う。

 しかもそこにはテイルもいる。


 ユキの後悔は更に加速した。


ありがとうございました。

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