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臆病者の決断の時


 後悔はない。


 この選択を、間違いだなとど思う事は二度とないし……この選択を間違いだなどと誰にも言わせるつもりもない。

 だが、それでも……心に小さなが穴が開いた様な気持ちにはなってくる。

 赤羽は、正義の味方の施設にある自分の部屋の跡片付けをしながらそんな寂しさを味わっていた。


 色々な事があった。


 自分の体質の所為で幼少時は幸せな思いをする事はなく、それどころか人としてすら扱ってもらえなかった。

 誰も助けてくれなかった。

 だから、自分が正義の味方になった。

 正義の味方として立ち上がった時、自分は未熟どころか足手まといにしかならなかった。

 幼少時苦しめられた体質が、ここでも足を引っ張り続けた。

 だが、そんな赤羽を助けてくれた人が沢山いた。

 正義の味方としてサポートしてくれている、この組織の人達である。


 そして今日、赤羽はこの組織から脱退した。

 脱退届も受理され、少ない私物も片し終わった。

 後はここを出ていくだけである。


 後ろ髪を開かれる気持ちは多いにある。

 赤羽にとってここでの生活は、恵まれていたと確かに言える数少ない場所だった。

 だが、赤羽はここで止まる訳にはいかなかった。


 自分で自分の道を見つけ、決めたのだから……迷っている時間は――もったいなかった。

「……よっし!」

 赤羽は自分の両頬をぴしゃりと叩き、振り返る事もなく組織を出て、そして荷物を駅のロッカーに押し込み目的の場所に向かった。

 自分の信念を貫く為に……。




 壊しても問題のない廃工場をKOHOに用意してもらった。

 既に気持ちも固まっている。

 後は戦うべき相手が来るのを待つなのだが……どうやらその心配も杞憂に終わったらしい。

 廃工場に似つかわしくない、赤羽にとって世界で最も美しい女性が、赤羽が来るのをずっと待っていたからだ。


「ごめん。待たせたね」

 そう赤羽が言うと、その女性、青く美しい髪が特徴的なクアンは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

「いいえ。構いません。……辞める事は出来ましたか?」

「ああ。正直何度も揺れたけど……まあ、自分が決めた事だからね」

「はい! 赤羽さんが決めた事ですからね。……それで、準備は出来てますか?」

 クアンがそう尋ねると、赤羽は頷いた。

「うん。何時でも」

 そんな赤羽を見て、クアンはくすっと笑い出した。

「どうしたんですクアンさん」

「いえ。少し嬉しくて。ようやく赤羽さんが決意を決めてくれたので」

「……ぐだぐだと言い訳して待たせてごめんね。でも、やっと決める事が出来たよ」


 コイオスの騒動の時、赤羽は出来るだけ多くの人を助けようと動いた。

 必死に頑張って、過去救えなかった自分を救おうと足掻き、そして、ようやく自分の本当のやりたい事を叫ぶ勇気が持てた。


 赤羽とクアンは今日まで喧嘩を続け、ずっと戦い続けていた。

 赤羽が勝てば、赤羽が正義の味方を辞めて悪の組織に付く。

 クアンが勝てば、クアンが悪の組織を止めて正義の味方となる。

 そんな相手の為を想っての賢者の贈り物の様なルールで戦って、戦って……そして、結局結論が出なかった。

 何度戦っても、お互いが譲らなかったからだ。

 そもそもの話、前提条件が違っている。

 クアンの中に迷いはなく、赤羽はずっと迷いながら戦っていた。

 だから結局の所、赤羽の気持ちがうじうじしていから今日まで延期する事となっていただけであり、幾ら戦ったところで、決まるわけがないのだ。


「……今日はもう、回りくどい事しないよ。クアンさん。俺が勝ったら、俺と一緒に来て欲しい。俺の夢の手伝いをして欲しいんだ」

 赤羽の夢、子供の頃の救われなかった自分を救う事――いいや違う。

 赤羽の本当の夢は、子供の頃の救われなかった自分の様な子供をもう出さない事である。

 子供は子供として、当たり前に笑っていて欲しい。


 その為に、赤羽はゼロからの再スタートを決意した。


「……ふふ。良いですよ。でも、私が勝ったらARバレット(ウチ)に来て、私の奴隷となり代わりにだるい仕事を全部片づけて下さいね」

 演技らしい演技もせず、ニコニコ嬉しそうにクアンはそう言葉にした。

 今、クアンは心の底から喜んでいた。

 赤羽が決断した事、自分の夢を見直した事。

 それより何より……『夢の為に自分が必要』だと言ってくれた事が、クアンには何よりも嬉しかった。


 だが、それはそれとして、手加減するつもりはなかった。


 別に深い意味はない。

 本気を出さないと意味がないとか、夢の為の決意を見るとか、色々と理由はあるが……根本はシンプルだ。

 どんな時だって、負けるのは悔しい。


 だからこそ、二人は自分に正直に、これから本当の意味で全力を出す。

 お互い相手にだけは正直にいたいと思っているからこそ、この戦いに手を抜く事などあり得なかった。




 

 クアンが右手を上げると同時に、宙に巨大な球体状の水が五つ浮かび上がった。 

 ソレをそのまま、クアンは一斉に操作し赤羽に向って叩きつける――。


 自分の扱える範囲を大幅に超える無理な一撃。

 しかも、クアンの得意な搦め手ではない強引な攻撃である。

 それでも、クアンと長く一緒に居た赤羽にはその行動は予想の範疇だった。


 上空から降り注ぐ五つの水球は単純な挙動で赤羽に襲い掛かる。

 その水球を、赤羽は低空の姿勢――獣の様な構えで回避しクアンの方に差し迫った。

 水球は赤羽がいた場所に全て衝突し、周囲を水浸しにする。

 その僅かな水が再度宙に浮き、小さな無数の水球と化して赤羽の背に襲い掛かる。 

 それと同時にクアンはユキの作った射出機を用いて赤羽に狙い――引き金を絞った。


 交差する無数の水の弾丸は全て赤羽に向かい、砂煙をまき散らせる。

 その一発一発がコンクリートを破壊し鉄を抉るだけの威力を持っている。

 が、砂煙の晴れた赤羽は五体満足に立っていた。


「……今までなら、これで暴走して終わってましたけどねぇ」

 クアンは困った口調でそうぼやいた。

 赤羽は曲芸の様な動きで大多数の水弾を回避した。

 とは言え、赤羽も全てを避けきったというわけではなく、三、四発ほど命中し服を破っている。

 傷らしい傷は見えず血も出ていないが、それでもダメージには変わりない。

 今までであるなら、これくらいのダメージを追えば赤羽はゲイルと化し暴走状態となっていた。


 だが、今はその予兆すらなくクアンの方をしっかりと、次の行動を予測しながら見据えていた。


 クアンからしてみれば、暴走してくれた方がよほど楽である。

 確かに戦闘力で見れば暴走状態である完全獣化した赤羽の方が間違いなく高い。

 だが……戦闘力が高いだけの相手などクアンにとってはカモ以外の何者でもない。

 むしろ、多少戦闘力が落ちても今の方がクアンにとってはやり辛かった。


 自分の意思で考え、出来る事を模索し、獣の心を静め自分と向き合えている赤羽の方が……。

 それが自分を従わせる為であると考えるとクアンの心はどうしようもなく嬉しくなる。

 それと同時に……どうしようもなく熱くなってしまう。


 自分の為に強くなった赤羽を、一切の容赦なく徹底的に叩き潰したい。

 自分の為に強くなってくれた赤羽に、一切の容赦なく組みふされ蹂躙されたい。


 自分でもどうしてこんな気持ちになるのかわからない。

 だが、二つだけ確かな事がある。

 一つは、自分と赤羽は相思相愛である事。

 少なくとも、クアンはそう信じている。

 そして、今現在自分達のこの戦いは、深く愛し合っている行為である事。

 そうでなければ、頬が熱くなり、胸が高まり、心が躍る訳がないのだ。


 だからこそ、クアンは全力で、赤羽を愛し(殺し)にいった――。




 ――ああ。俺は愛されてるな。

 戦いから殺し合いにシフトし、無数の銃弾に水に作られた凶器、棘や刃に襲われながら赤羽はそう心から思った。

 これはクアンの狂気ではない。

 純粋な愛である。

 それを他の誰でもなく、赤羽はそうだと理解していた。


「……せいっ!」

 赤羽は自分の腕だけを獣と変え、刃を弾き飛ばす。

 厚い毛皮で覆われた獣の腕と強大な爪は鉄すら切り裂く水の刃であっても切り裂く事は不可能であった。

 そしてそのままクアンに近寄るのだが、それでも距離は詰まっていなかった。

 クアンはまるで天女の様にふわふわと軽やかに跳び、そして距離を重ねて赤羽に攻撃を繰り返す。

 致死性の高い攻撃。

 それは完全に殺意の塊だが、赤羽は知っていた。


 クアンには一切の殺意はないと。


 むしろ心優しい人で、誰かを殺すとか考える事すら苦手な人だ。

 では何故今、全力で致死性の攻撃を繰り出しているのか。

 それは単純に、クアンは信じているからだ。

 赤羽が自分の攻撃では死ぬわけがないと――。


 絶対に死なないとわかっているからこそ、そして絶対に殺してこないとわかっているからこそ、クアンは誰にも出せない本当の全力を赤羽相手に出す事が出来ていた。

 そして今この時こそが、赤羽がクアンからの愛を最も感じる瞬間だった。


 ――とは言え……怖い事には変わりないな。最悪死ぬのは良いけど……。

 ただ死ぬだけなら自分はそこまで悔やまない。

 クアンの愛を受け切れなかった自分の落ち度だからだ。

 だが、クアンは必ず後悔するし場合によっては自死を選んでしまうだろう。

 それだけは許して良い事ではない。

 だからこそ、赤羽は背筋がひりつく様な緊張感と愛される事による高揚感で全身が支配されていた。


「そろそろ……掴ませてくれよっ……!」

 赤羽は自分の両足を獣の足と変え、地面が抉れるほど蹴り込みクアンの方に突っ込んだ。

 途中クアンが障害物として作った棘や壁は足で蹴り怖し、水の弾丸や刃は傷付きながらも腕で受け流し、足以外全ての部位を血で染めながら赤羽は強引にクアンの元に向かう。

 そしてすぐ傍まで来て……赤羽はクアンの手首を――。


 ぱしゃっ。


 赤羽が掴んだクアンの手首は水の様に溶け、赤羽の手からすり抜けた瞬間に元の形に戻った。


「なっ!?」

 模造で作った腕でもなく、触る直前までは確かにクアンの肉体だった。

 だが、ほんの一瞬だけ、クアンはまるで水の妖精の様に肉体を水に変化させ赤羽の拘束を逃れていた。


「……残念でしたっ!」

 そう言って笑い、クアンは赤羽を全力で蹴り飛ばした。

 ガードこそ間に合ったが、通常の肉体に怪人全力の蹴りはとても耐えきれるものではなく両腕に痛みを負いながら赤羽は数十メートルふっ飛び稼いだ距離を台無しにされる。


 赤羽は成長した。

 強力な治癒能力を持ち、身体能力も相当以上に向上し、暴走の危険性も僅かとなった。

 それだけでなく、部分的に肉体を獣人のソレに変質させ本来持つスペックを部分的に再現する事も可能になった。


 だが、同時にクアンも成長していた。

 ヴォーダンのデータを元にスペックが強化されただけでなく、心も、能力も強くなった。

 全力を出す事はきっと二度とないだろう。

 だから、今日、今この瞬間だけがクアンの全盛期だった。

 それこそ、テイルがまだ公開していないクアンの第二能力の片鱗が現れる程度にはクアンは心も体も青く燃えていた。


「やっぱり、私はこういう戦い方の方が得意みたいです!」

 遠くの方からそんな声が聞こえたと同時に、地中から無数の細長い紐の様な水が赤羽の周りに出現した。

 まるでワームの様なソレはうにょうにょと気持ち悪い動きをし、赤羽の肉体に触れていく。

 赤羽は慌ててその水を振り払おうとするが……先程掴んだ腕の様に、水はぱしゃっと音を立てすり抜けるだけだった。

 そして赤羽の抵抗を完全に無視し、水はワームの様な挙動のまま赤羽を縛りつけ締めあげた。


「……こ、このっ!」

 赤羽は抵抗し腕を振るうが、腕だけが拘束をすり抜け空を切る。

 力に対しては搦め手でかかり、暴れる事は許してもその場から一歩たりとも移動させない。

 ヴォーダンなど力ある相手と戦い続けたクアンの切り札だった。


 そしてクアンは足の止まった赤羽の方を向き、自分の背後に無数の武器を作った。

 装飾は拘らなくて良い。

 大切なのは……獣人を殺したりえる武器である。

 故にクアンは、無数の杭を自らの背後に作り――一斉に射出した。


 別に、これに殺されても後悔はない。

 クアンの手にかかるなら本望な位だ。

 杭が目前と迫った赤羽はついそう思ってしまった。

 だが、それは駄目だ。

 勝たなくてはならない。

 赤羽は心配そうな表情のクアンを見つめ、そう願った。


 百回戦って、百回勝たなくてはならない。

 別に男がどうとか、女がどうとかという話ではなく……それが、愛する人の願いで、誓いだからである。


 だから赤羽は、自分の持つ可能性の限界を目指した。

 先程クアンが自らの体を水に変えた様に、まだ、自分でも出来る事があるはずだ。

 そう考え……考え……考え……そして吼えた。

 愛する人の為だけに。


 咆哮が轟く。

 どれだけ遠くにいても届けてやる。

 まるでそう言っている様な叫びはビリビリとした空気の振動となり、強く肌で感じさせる。

 その声を肌で感じると、クアンはどうしようもなく、心が……体が熱くなる。


 そしてクアンは、赤羽の周囲に用意した拘束用の水と射出した杭が自らの操作権を外れ、ただの水に戻る瞬間を見た。


 赤羽はゆっくりと歩いてくる。

 水を飛ばし、杭を飛ばしても、それらを意図せず無視して歩いてくる。

 赤羽がただ静かに歩くだけで水はただの水に戻り地面に落ち染みとなっていった。

 クアンは周囲の音はほとんどなく静かなのに、空気だけが激しく振動している事に気が付いた。


「ああ。そうか……。いえ、そうですよね。その咆哮なら不可能ではないですよね……」

 人の聞き取れる範囲の音域の更に上の上。

 赤羽は超音波を放ち強制的に水を振動させ、クアンが操作可能な温度域を越えさせていた。

 その為だろう、地面に落ちた水はぱしゃっと音を立てて激しく暴れるという電磁レンジで過加熱状態を起こした再に発生する突沸現象と全く同じ現象が起きていた。


「……ああ。これ、私対処方法ないですね」

 クアンはぽつりとそう呟いた。

 というよりも、ギブアップしなければ死以外に道がない。

 水の操作は完全無効化されており、あの超音波を間近で受けたら肉体は見るも無残な事になるだろう。

 だからクアンは、苦笑いを浮かべて両手を上げ、水の操作を止める事しか出来なかった。

 その瞬間に空気の振動は止まり、赤羽の足音と風の音以外の音が消えた。


「捕まえました」

 赤羽はそう言ってクアンの手を握った。

「……ふふ。捕まっちゃいました」

「クアンさん。お願いがあります」

「はい。何でしょうか?」

「……俺はこれから、新しく一から正義の味方を始めようと思っています。昔の俺の様な子供を助ける為……いえ、昔の俺みたいな子供を生み出さない為に」

 クアンは無言のまま、赤羽の言葉に耳を傾けた。

「……でも、俺一人では何も出来ません。何のノウハウもないまま組織を抜けましたからね。だから……俺の夢の手伝いを、お願いしても良いでしょうか?」

「そうですね……。では、一つ、私もお願いをしても良いでしょうか?」

「はい。何でも」

「では……これから、ずっと一緒に生きてください。私は貴方がもう嫌だと言っても離れるつもりはありません。でも、もし私がもう嫌だと言っても、それでもずっと一緒にいてください」

「……わかりました。でも、出来たらお互いそう言わない様な生き方がしたいですね」

「ですね。じゃあ……楽しく一緒に、ずっと生きてください」

「それなら是非。俺もそう望みますから」

 そう赤羽が答えると、クアンは笑った。

 ニコニコと、何の憂いもない顔で笑い、赤羽の胸にぽふっと顔を埋めた。

「これから……ううん。これからも宜しくお願いしますね」

 そんなクアンの願いを聞き、赤羽はしずかに、クアンの頭を撫でた。





「というわけでして、越朗君の独立記念とクアンのARバレット脱退お別れ会を兼ねてーかんぱーい!」

 ユキはテンション高くそう叫び、グラスを天高く持ち上げた。

 それに合わせて大勢の人がグラスを天に掲げた。


「すいません。こんな事になってしまって」

 赤羽がそう言葉にするとテイルは笑った。

「何がだ? めでたい事だろうが。胸を張れ! んで、独立ってったけどアテはあるのか?」

 その言葉に赤羽は一応そうに頷いた。

「ええ。桐山さんっているじゃないですか? 探偵でファーフさんの旦那の」

「ああ。いるな。改造人間で探偵で正義の味方の」

「あの人と一緒に新しい組織を立ち上げようって話をしています。願いという意味でも被ってる部分も多いですし、あちらさんとこちらさんで役割が分けやすいですし、他にも獣繋がりとか色々理由もありますし」

「なるほどね。良いじゃないか。それと話は変わるんだが……」

「はい。何です?」

「クアンとはどうなんだ?」

 テイルは完全に品のないおっさんの様な顔でそう尋ねた。

「え? いや、良くしてもらってますが」

「そうじゃなくて、夜の方だよ? ん? どうなんだ?」

 赤羽は飲んでいたお茶を噴き出した。

「何いきなり聞いてるんですか!? あんたあの子の親でしょう!?」

「だから気になるってのもあるぞ?」

「……安心してください。手は出していません。まだ、完全に自分の獣性を制御出来たとは言えませんから」

 自分を完全に制御出来なければ結婚させない。

 それがテイルと赤羽の約束だった。


「いや、そんだけ出来りゃ十分だろ。人間だって自分の感情を制御なんて出来ない。むしろそれだけの野生をそこまで手なずけたなら十分だと思うぞ」

「そうですかね……。それに、クアンさんがそういう事にどう考えているのかもわかりませんから。もしかしら興味がないかもしれませんし。クアンさんは一年も生きてませんから時期尚早の可能性が高いですし……。何より……傷つけたくありませんから」

「その気持ちはありがたい。だが……親としてはこう……な? 孫というか何という――」

 スパーン!

 ハリセンによる鋭い一撃がテイルの脳天に直撃し、テイルは「ぐえ」と気の抜けた声を出し地面に倒れた。

「はい。おっさんのセクハラは止めましょうねー」

 そう言ってユキはテイルをずるずると引きずり去っていった。


「……は、あはは……」

 テイルは自分の義理の親となる変人に苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

「ちゃんとわかってますよ?」

 耳元にそう囁かれ、赤羽は驚き後ろを振りぬいた。

 そこには、何時もと違うどこか怪し気な笑みを浮かべたクアンがいた。

「え、えっと、クアンさん。何ですか?」

 その言葉にクアンは答えず、自分の人差し指を口元に持ってきて妖艶な笑みのまま、からかうような口調で呟いた。

「ふふ。私()何時でも良いですよ? ちゃんと、待っていますから」

 そう言ってクアンはそっとその場を立ち去った。


 赤羽は自分の許容量を超える事態にパニックになり、そのまま酒に逃げて倒れた。


ありがとうございました。


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