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予定調和


 世界の敵であるルティアに直接乗り込む事が出来たのはARバレット所属の四人のみでだった。

 それは彼ら四人が誰よりも優れているというわけではなく、KOHOという母体の都合である。

 KOHOは法律と規則によりがんじがらめとなっている為、そこを突かれたら上陸は当然として反抗すら満足に行う事が出来ていなかった。

【諸外国に攻撃してはならない】

 この規則はKOHOが本当は地球防衛組織として設立されたという事実に加え、戦力が一国極致集中している事実がある為避ける事は不可能だった。


 ただ、だからといって彼らがいつまでも何も出来ないというわけではない。

 数時間の内に何等かの対策を取り、行動に移すだろう。

 ただし、逆を言えば最低でもその対策が完了する後数時間はたった四人でルティアという国家と戦湧ければならない。

 それはこの高射程兵器で囲まれた現代ではあり得ず、まるでおとぎ話の英雄譚の様である。

 そんな少数精鋭での孤軍奮闘という英雄達の仲に、一人だけ場違いな人物が混じっていた。


 男の名前はテイル。 

 敵地ど真ん中という状況に戦闘力一般人並で参加してしまった男である。


「ヤム〇ャ視点って良く言うけどさ、これそんなレベルじゃねーわ。バラモ〇城にレベル一で突入した気分だぞおい」

 テイルは苦笑いを浮かべながらそう呟いた。


 銃弾砲弾ミサイルの雨嵐をドーム状の電磁シールドを生成し、同時に遠距離の敵を落していく防ぐヴォーダン。

 いち早く敵の位置を割り出しルートと大まかな攻撃対象を指示するフューリー。

 そして接近してくる敵はユキがハンドガンと零距離解体で対処していた。


 ちなみにテイルはシールドがある上に三人の間に挟まれている為完全なる安全圏で、一応ユキと同じハンドガンを撃ってはいるが何故かユキと違い機械人形に大したダメージは与えられていなかった。

「んー。言い方は悪いけど凡人ならしょうがないわよ。むしろここまで邪魔せず付いてこれてるだけで凄いと思うわよ」

 ユキは掛け値なしにそう言葉にした。


 ヴォーダンやフューリーは戦いの為に作られた存在である。

 それに加えてユキはその二人に並ぶだけの能力を持っている。

 身体能力だけで言えばテイルと大差ない。

 だが、どう動けば体が疲れず、どう動けば最効率で筋肉を使えるかという本来人間が無意識で行っている行動を意識して尚且つ最効率で行う事が出来る為、ユキは常にカタログスペックの上限を引き出す事が出来た。

 それこそが凡人と天才の違いであり、そして絶対に超えられない壁である。

 彼らとテイルを比べるのは流石に酷としか言いようがなかった。


 しかも、四人はこの国に着地してから数時間、ずっと敵に塗れながら走り回っている。

 並の身体能力しか持たないテイルがそれについてくれている時点で十分過ぎるほど良くやっていると言っても良いだろう。


「グン――グニル!」

 ヴォーダンは己の手に距離な雷の槍を創り出し、投擲した。

 その槍は銃弾だろうとミサイルだろうと跳ね返す機械人形の胴体を貫通どころかまるまる消滅させ、そのまま更に直進し百近い数の機械人形を屠った。


「……ヴォーダン。無理するなよ」

 フューリーは本日十二度目のヴォーダンのグングニルを見てそう言葉にした。

「いえ。五分ほど休めば消耗は回復するので大丈夫です。むしろ負担という意味で言えば軽い部類ですね」

「……まじかよ」

 フューリーは一直線に消し飛んだ敵の残骸を見て驚いた様子でそう呟いた。


「あれよ。ヴォーダンの使うその技はテイルの生み出した怪人の能力でも、私の用意した機械的能力でもないからね。ぶっちゃけどうやってその技使ってるのか私さっぱりわからないわ」

 ユキが困った顔でそう言葉にすると、テイルは嬉しそうに微笑んだ。

「うん。つまりヴォーダンが成長したって事だろ。良い事だ」

「そうね。……機械担当の私としては不要だと言われているみたいで複雑な気持ちだけどね」

 そんなユキの言葉に、ヴォーダンは首を横に振った。


「いいえ。二人共のおかげで今がありますし、母う――ユキハカセの用意して下さった物も俺には勿体ない位素晴らしい物です」

 そう言ってヴォーダンは電磁ライフルを取り出し、一発一発丁寧に打ち込み空に穴を開けていった。

「うーん。でも電力変換負荷がねぇ……。いっその事別方面でのアプローチを……爆弾……グングニル増強……」

「ユキ。考えるのは後で良いだろう」

 困り顔のテイルの言葉に、思考の奥に潜り込んでいたユキは我に返った。

「あ、ごめん。フューリー。次はどっち行けば良い?」

「見ての通り、あっちというか……あれの奥だな」

 フューリーは無言で、銀色の機械人形がぎっちぎちになるまで密集し向こう側が一切見えなくなっている方向を指差した。


「……うっわ。何か気持ちわっる」

 テイルはつい思った事をそのまま口に出した。

 ルティアに来てから常に敵の大群に囲まれてはいるが、それでも人形同士の間には行動する為に最低でも数十センチ位は隙間がある。

 だが、目の前にのその大群の壁は隙間がミリ程度も残されておらず、完璧なまでに一つの大きな銀の壁となっていた。


 それはまるで壁に人の手足や顔が生えている様に見え、不気味という以外言葉が見つからなかった。


「でも実際に相当硬そうね。……うーん。グングニルなら突破出来るしチャージするまで待つ?」

 ユキの言葉にヴォーダンは少し考え、そして首を振った。

「いえ。ユキハカセのアレを使いましょう。一度きりの」

 そうヴォーダンに言われてもユキはピンとこず、少し考えた後……少し前に冗談で作った道具を思い出し目を丸くした。

「アレ持って来たの!?」

「はい。別の使い方をしようと持って来ました。丁度良いので使いましょう」

 そしてヴォーダンがその道具である手のひら大の丸い物体を体内から取り出した瞬間、ユキは叫んだ。

「退避!」

 その言葉に合わせ、フューリー、テイル、ユキはヴォーダンの作ったシールドから出る事も厭わず、全力で足を動かした。


「んで! 何なんだアレって!?」

 テイルは全力疾走しながらそう叫んだ。

 ユキとフューリーは露払いとしてハンドガンで周囲の敵を足止めしつつ、それでも足を前に動かした。

 少しでもその何かと距離を取る為に。


「マッドな科学者として無茶をしようなんて話してた事あるじゃん?」

 ユキの言葉にテイルは頷いた。

「ああ。アニメ鑑賞で頭のおかしいマッドサイエンティストがはしゃいでいるのを見てそんな話したな」

「だから試しにそんなマッドな感じになって作ってみようやってみよう! って思って作ったは良いけど、やりすぎたと思って封印してた道具があるの」

「……ユキがやりすぎたって? 宇宙戦艦を一撃で屠る電磁ライフルなんて開発したユキが?」

「うん。明らかにやりすぎた」

「……何作ったんだ?」

「フラッシュバン」

「……スタングレネードか。思ったよりも普通じゃないか。こんな全力で逃げる必要あるのか?」

「周囲の太陽光を自動で吸収、同時にヴォーダンの電気エネルギーも吸収、要するにソーラーパネルの逆を行ってバン内部にエネルギーを蓄積させるの。そして蓄えられた指向性を持つ光を刹那の時間で放出。そして――」

「スタングレネード出ない事だけは理解した。……まあ待て。良くわからなくなってきたから結論だけで教えてくれ。結局その道具は使ったらどうなるんだ?」

「規模は少々小さいけど……汚染のないクリーンな核爆弾と思ってくれて良いわ」

 フューリーとテイルの逃げる足に力が入った。




 三人が距離を取ったのを確認した後、ヴォーダンはドーム状のシールドを解除して正面方向にシールドを集中させ、右手の中にあるグレネードに目を向けた。

 持っているだけで電光回路のエネルギーを吸うそれを見て、ヴォーダンは少し悩んだ。

 ――これ、一体どの位電気吸わせたら良いんだ?

 確かにがっつりと電気を持って行ってはいるが、それでも全然耐えられる量であり、前評判から考えると拍子抜けという言葉以外出てこない。

「電磁ライフルの手加減版三発位を爆発力に換算……普通に考えたら全然足りん」

 そう呟いた後、ヴォーダンはグレネードに意識して電気を送り込んだ。

「せめて電磁ライフル全力の二発……いや、三発分位は入れておこう」

 それ位あればあの銀の壁を壊せるだろう。

 単純計算でヴォーダンはそう考えた。


 そのフラッシュバンの構造だけで言えば、そこまで難しくない。

 わずかな光と膨大な電気を光に変換し、熱エネルギーとして利用するのではなく直接エネルギーに再変換し爆発させる。

 どうしてそんな回りくどい物を作ったのかと言えばそれなりに理由は存在している。

 光をエネルギーに変換する効率が飛びぬけて良いからだ。

 それこそ、持続は出来ない為一瞬という条件が付くが、一瞬だけなら他の何よりも、そここそ核融合炉よりも効率が良いと言っても過言ではない。

 だからこそ、その火力は少々過剰となっていた。


 ヴォーダンはフラッシュバンを銀の壁に放り投げ、シールドを張ったまま離脱し三人の元に移動しどうなるか見つめた。

 フラッシュバンは僅かな光を発しながらふわふわと宙に浮き、そして次にはグレネード周囲三メートル位が一瞬で真っ暗となり、その空間だけが何かに食べられた様に闇に落ちた。


「後ろを向いてきつく目を閉じなさい。目が焼けるわよ」

 ユキがそう言葉にして全員が言われた通りにそうした。


 そして次の瞬間……カッという短い音が聞こえた後背中にドライヤーよりも熱い位の風が吹き荒れた。

「あっつ!」

 突然の事にテイルは背中に手を当てぴょんぴょん飛び跳ねて後ろを見た。

 絶句した。

 何も言えなかった。


「……ハカセ。もう大丈夫なのか?」

 フューリーがそう言って後ろを振り向くと、同じ様に絶句した。


 銀の壁があった位置にはわずかばかりの水銀の様な液体が沸騰しており、地面はキラキラと融解しガラス状になっている。

 背後側にいた敵は銀の壁辺りどころかその半径数キロに動く存在はなく、数キロ先にはかろうじて原形をとどめている機械人形位しか見えない。

 そして、銀で染まっていた空に大きな青い穴が開き……同時に巨大なキノコ雲が空に浮かんでいた。


「……わーお。レイリー・テイラー不安定性だー」

 現実に戻って来たテイルが発したのはそれだけだった。


「ああ。あれか。目的地が見えたわね」

 銀の壁があった辺りのずっと奥、フラッシュバンの範囲よりも更に奥にこの大陸で唯一の人工的な建造物が見え、ユキはそう言葉にした。

 建造物は白く、神殿の様な形をしている。

 ただ、大きさは非常に小さく居住区どころか人が入れるようなスペースがある様にはとても見えない。

 おそらく地下へ向かうの階段だけがあるだけだろう。


「……。ユキ、使用禁止なこれ」

「はーい。正直反省してる」

「ん。素直でよろしい。それでフューリー。次の方針は?」

 その言葉にフューリーはユキの方を見た。

「あー。そうだな。ユキさん。任せても良いか?」

「どういう事?」

「地上での足止めが必要だ。そしてそれが出来るのはヴォーダンと俺の連携位だ。だから……」

「ああ。そういう事ね。わかった。やってみるわ。テイル。行くわよ」

 そう言ってユキはテイルの手を掴み、爆心地を迂回しつつ建造物を目指した。


「どういう事だ? 何をすれば良いんだ?」

 テイルがそう尋ねると、ユキは建造物を指差した。

「私らあの中に入る。あの二人入り口で見張り」

「把握した。行こうか」

 テイルの言葉にユキは頷いた。


ありがとうございました。

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