エヴォリューション⇒レヴォリューション
それはまさしく戦争であった。
この正義と悪の組織が蔓延り日夜戦い合って凌ぎを削って来たこの国は、宇宙人と戦う為に備えて来たこの国は本来戦いという行為ならば誰にも負ける事はない。
この国以外の全ての国が、文字通り総力を掛けて決戦を挑んだとしても、レジェンドクラス一人、または大型oAクラス一人で十分おつりが来てしまう。
そんな戦力的な意味で言えば最高峰な国家に対して侵略戦を行い、数という最大の武器を駆使して戦略と戦術にて正義、悪と呼ばれる物達を翻弄しジリジリと有利な状況を作っていく国ルティア。
それは戦いにならない戦力差を、完全なまでに逆転させることに成功していた。
だからこそ、その戦いはまさしく、正義、悪達と機械人形達による戦争であった。
銃撃が飛び交う地上――、
鈍い銀色で輝く呪われた機械人情たちは地に折り、指先を正面に向けて機関銃を乱射し前進している。
そんな凶悪な相手に対抗しているのは……全身黒タイツ姿の男達だった。
彼らの名前はヴィー。
ARバレットの戦闘員であり、そして名誉あるやられ役である。
いつもなら正義の味方になんやかんやで強引に迫り、出来るだけ疲労させつつ味方の足を引っ張らない様に退場するのが仕事な彼らだが、今は本来幹部級が行うはずの最前線を務める事となっていた。
その理由はもう非常に分かりやすく、単純に人手が足りなりからだ。
ARバレットに襲って来た敵の数は膨大であり、そしてARバレットの基地に入るには幾つも道がある。
その為、現在ARバレット基地での防衛に当たっているファントム、ヴァルセト、クアンと怪人の三人だけでは到底防ぎきる事が出来ないので戦闘員達も防衛に加担していた。
基地の修復を後回しにしてでも用意した複数のバリケードを利用し、ユキ特製エレキライフルを装備し、その上で後退しながら敵進軍への遅延を行っていく。
それが彼らの仕事だった。
タタタ。
戦闘員数十人から放たれるライフル掃射は意外なほどに耳に優しく、まるで玩具の電動エアガンの様な音を奏でた。
その弾丸は敵の、数百体はいるであろう機械人形群の先頭に当たり、そしてパチンとはじけ、弾丸を中心にして目視出来るほどの電気が球体を作られた。
それに当たった機械人形は一秒にも満たないほど動きを止めていた。
テレビに映された機械人形を見てユキが防衛用に備え用意したエレキライフル。
性能は良くある歩兵用自動小銃、要するにアサルトライフルと大体同じであり、単発、三点、オートの三択での射出方法が選択出来る。
威力も既存の物と大差なく、決して弱いわけではないが決定打にかける。
取り回しを重視した結果そんな武器となっていた。
ただ、弾丸だけは対機械と完全なまでに特別製となっている。
重量が軽い為威力も更に下がるのだが、その代わりその弾丸は金属かそれに準ずる物に命中した場合、当たった箇所を中心にして電気の球体を発生させる。
機械であるならば電流を流せば多少は邪魔が出来るだろうという理由と、人に当たっても即死しない威力にする為、この様な形となっていた。
「なあ。こんな時だけど俺一度言ってみたいセリフ会ったんだ。聞いてくれるか?」
戦闘員の一人が唐突にそんな事を言い出した。
「今度結婚する……とか、地元に彼女が……とかパインサラダが……とかは聞かないぞ?」
比較的余裕の一人がそう返事を返した。
「いや。そうじゃない。つーか俺彼女居た事ないし」
「そうか。情けない奴め。ま、かく言う私も童貞でしてね」
そう言葉にした瞬間、二人の間に奇妙な、まるで友情の様な連帯感が生まれた。
「……阿呆な事言ってんなお前ら。終わったら風俗位連れて行ってやるから頑張れよ」
先頭の方にいる女性がそんな品のない言葉を呟くと、男二人はふぅーと小さく溜息を吐いた。
「何もわかってないなぁ。ここまで来たら守り通すのが男の使命って奴だろ?」
顔はマスクで見えないが、間違いなくドヤ顔をしている様な態度で馬鹿がそう言葉にし、もう一人の馬鹿もそれに同意する様に頷いた。
「ああそうかいそうかい。ま、好きにしな……ただし、月夜のない晩には気を付けな」
女性の言葉の裏から、舌なめずりの様なねちっこい何かがあったように馬鹿二人は感じた。
「ま、まあそれは良いとして、言ってみたいセリフって何なんだ?」
そう馬鹿の片割れが尋ねると、もう一人の馬鹿はライフルを担ぎ、そして乱れうちを始め叫びだした。
「ホント、戦場は地獄だぜ! フゥハハハーハァー!」
完全なる悪ふざけでしかないのだが、それを見て溜息を吐く者はいても馬鹿にする者はいなかった。
その理由は二つ。
一つは、悪ふざけが好きなテイルの元にいるヴィー達もまた、悪ふざけといった行動が大好きだからだ。
もし彼がやらなくても他の誰かが同じ様な事をしていただろう。
そしてもう一つは……今の内に好きな事をやっておかないと後悔が残るかもしれないからだ。
その位、戦況は芳しくないものだった。
いや、基地を見捨てて逃げればまだ幾らでも生き延びる事が出来るし、実際危なくなる前に逃げろとも事前に言われている。
にもかかわらず、その場から誰一人逃げ出していなかった。
既に半壊し、ボロボロで拠点としての価値もないが、それでも……彼らにとって後ろにある物は、帰るべき我が家であるのだ。
そこから立ち去る事など出来るわけがなかった。
ヴィー達は皆、元々何等かの身体的欠陥を持っていた。
それこそ、医療という正規の方法ではどうしようもなかったからこそ、テイルによる改造手術を受ける事になった位である。
その為、その肉体は限りなく人に近くはあるが、人とは異なるものとなっている。
特に治療するという意味においては人とは比べ物にならない位大きなメリットが存在していた。
具体的に言えば、腕がないなら付け替えて、足がないなら付け替えてという事が可能であり、半ばプラモデル位の気軽さで治療が行える。
だからこそ、多少の無茶を行う事が出来ていた。
それはまさしく、奇跡としか言いようがなかった。
戦闘力はB程度で五十人程度しかいないヴィー達が、戦闘力少なくみてもoA相当で、分散しているとはいえ万単位の敵相手に持久戦が成立しているのだ。
それは敵機体人形の強引に攻めてこないという特性もあるが、それでも確かに奇跡であった。
ただ、奇跡が起きても、そこが限界である。
既に逃げ場はなく、疲労は当然としてほぼ全員が腕が足等どこかしらが欠損し、治療用パーツは底をつき手お互いを支え合うといったギリギリの状況。
武器と各地に配備したバリケードこそまだ機能するもの、使う人間の方が駄目になりかかっていた。
ここまでか。
皆がそう思っているが、誰もそれを言葉にしない。
皆がそう思っているからこそ、口にする必要がなかった。
足が動く者は集団の前側に移動した。
最後に突撃する為に。
手が動く者は広く散開した。
最後に肉壁となる為に。
そして覚悟を決め、最後の特攻をかけようとしたその瞬間――すぐ背後にある入り口が開かれた。
「……お前ら、逃げろって言ったろ……」
入り口からあきれ顔で出て来たのはヴァルセトだった。
「あっはっは。ヴァルセトさん。ラナちゃんとか可愛い子基地内にいますけど、見捨てて逃げれます?」
「出来るわけないだろ。玉砕するまで戦うわ」
戦闘員の言葉にヴァルセトは迷わず答えた。
「そういう事です。俺達にとってこの基地は、ARバレットは帰るべき場所なんです。見捨てる事なんて出来るわけないじゃないですか」
「……馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど……大馬鹿者だったか」
「何を今更。あの人がウチのトップですよ? 馬鹿以外いるわけないでしょ」
その言葉にヴァルセトは思わず納得してしまった。
「……はぁ。もうこの際だ、もっと酷い馬鹿になる気はないか?」
ヴァルセトはそう呟きながら、小さな蝙蝠を出し、戦闘員一人一人の前に飛び立たせた。
「……出来ればやりたくないが……戦闘経験的に俺よりもその方が効率言いろうしねぇ。というわけで、吸血鬼の力を手にしてみる気はない?」
「ヴァルセトさん。やりたくなかったってのは俺達のほとんどが男だからですね」
「それもある。確かにそれも、それもあるんだが……どっちかって言うと戦闘員に力を分けると無理して戦って逃げなくなる気がしてな。……結局お前ら一人も逃げなかったが。んでどうする? 先に言っとくが強くはなるが焼石に水程度だぞ?」
そうヴァルセトが言う頃には、皆が迷わずその蝙蝠を手に、手がない者は口で咥えていた。
「すんません。俺達元から超絶大馬鹿なもんで」
その言葉にヴァルセトは笑い、そして蝙蝠達は戦闘員全員の首にかみついた。
痛みも衝撃もない。
ふと気づいた時には、既に全員の恰好が変化していた。
戦闘員らしき黒タイツはどこにもなく、バロック調の、男なら執事風、女性ならゴシック風ドレスに変化した。
その上で更に、戦闘員達は三種類の特徴をそれぞれ得ていた。
まず、三分の一の者だけマントで身を包んでいた。
吸血鬼が使う様な漆黒のマントを手にした者は、それが硬度を自由に変えられる防具であると理解した。
続いて三分の一の者の背に羽が生えていた。
見るからに吸血鬼らしい大きな蝙蝠の羽を手にした者は、それが自由自在に空を駆けれると理解した。
最後に、残り三分の一の者には牙が生えていた。
それは純粋に力を強くするものであると理解出来た。
こうして、さきほどまで怪し気な黒タイツであった集団は怪しい吸血鬼集団に変貌を遂げた。
「……これさ、イケメン美女揃いなら相当似合うよな……」
戦闘員の一人がぽつりとそう呟いた。
彼らの容姿は決して悪いわけではない。
普段から鍛えている為体も引き絞られているし、いつでも飲食店のヘルプに行ける様清潔感も整えている。
ただ、それでも少々地味な顔立ちな人が多いのは否定できない事実だった。
「……んー。吸血気というか……うーん何かに似てるなこの状況」
ヴァルセトは吸血鬼化した集団を見て、そう呟き手を顎の下に置いて悩みだした。
「……ハロウィンパーティーだろ」
戦闘員の一言に、ヴァルセトはぽんと手鼓を打った。
ARバレットにおける戦闘員、ヴィー。
彼らは正義と悪の戦いにおいて当然だがやられ役である。
毎回全力で正義の味方に挑みはするのだが、極わずかな例外を除いて負ける事が最初から織り込み済みである。
単純な話、カタログスペックから大幅に負けているからだ。
どれだけ綺麗な連携を組み、どれだけ力を付け、工夫を施したところで、所詮アリと象の戦いにしかならない。
だが、彼らがただ弱い存在であるかと言えば――それは間違いなく否である。
縁の下の力持ちであるとか、数によるサポートが得意とか、そういう裏方の話ではなく……彼らには誰よりも優れた、大きな武器を一つ持っているからだ。
彼ら今までずっと、下っ端として戦い続けて来たのだ。
毎回全力で、苦しみながら、常に格上であるヒーロー達と。
足りない手札で、工夫を重ね、血を吐くような苦しみと共に。
そんな彼らが弱い訳がなかった。
それでも、彼らはどうしようもなく力を渇望していた。
『もしも俺達に特別な力があれば』
『もしあの時、ほんの僅かでも足せる何かがあれば』
何時だって、彼らは自分達の手札の少なさに悔やみ、後悔し、そして足りない手札と向き合い続けてきた。
そんな彼らが……この日、生まれて初めて異形の力を得た。
何十分の一にも分散された吸血鬼の力程度であっても、ないない尽くしの彼らにとってそれは渇望してきたこれまでの渇きを癒すには十分すぎる力であった。
今ここにヴィー達の積み重なって来た苦労と戦いの日々による経験があふれ出し、渇望が満たされ……彼らの真価が発揮された。
銀の機械人形群は無数の銃弾をばらまき続けている。
それは今まではバリケードでようやく防げる攻撃であったが、今は違う。
彼らは立派な盾が得る事が出来ているからだ。
マントを持った者は銃弾の雨の中バリケードから飛び出し、その銃弾をマントで打ち払って前に進んでいった。
本来ならマントの高度では防ぎきれない重機関銃の一撃だが、クアンのサポートをし続けていた彼らにとって銃弾の指向性をずらすと言った行動はさほど難しい事ではなかった。
その後ろに牙を持った吸血鬼が身を隠し、エレキライフル二丁持ちで弾幕をばらまいていく。
動きを止め、少しでも銃弾を止めてマント部隊が前に進みやすいにする為だ。
それと同時に、翼を得たヴィー達が空から銃弾をばらまき厄介な攻撃を潰していく。
どれだけ距離を取ろうと、どれだけ広く戦おうと、連携しか武器のなかった彼らが連携を崩す事などあり得るわけがなかった。
そして、今、初めて機械人形に自らの意思で接近した。
「おらいけ! 目に物見せてやれ!」
常に力の足りなかったその憎しみと悔しさをぶつける様、マント部隊は後ろにいる同志にそう叫ぶ。
それを聞いた牙持ちは、仲間達の今までの悩みを晴らす様に、足元に転がる瓦礫を十数人が持ちあげ――同時にぶん投げた。
機械人形達はまるで規定通りの行動の様に飛んでくる瓦礫に指先を向け、内蔵された機関銃を放ち撃ち砕いた。
この程度のサイズであるなら機械人形が破壊される可能性は零に等しいが、それでもダメージを受ける可能性があると判断したからだ。
そして、その判断は間違いだったのだと機械人形はすぐに理解した。
そのわずか一瞬の隙を突いて五十三人全員が集まり、全員がほぼ零距離で同じ機械人形に銃口を向けていた。
軽やかな発射音と軽い金属音が繰り返され、機械人形は踊る様に体を揺らし続け――そして破損した。
「撃墜! おっしゃ撤収撤収!」
ヴィーの一人がそう叫ぶと牙持ちの一人がぶっ壊れた機械人形の足を持ち、ぶん回して周囲の機械人形を散らしていく。
その隙に煙幕を地面に投げ付け、ヴィー達は一斉にバリケード奥に引きこもりさきほどまでと同じ様に足止めの為銃弾をばらまいた。
「ヒュー。ん万いるとは言え、あの一山幾らの戦闘員である俺らがやばげな人形一体ぶっ壊せたぞ。しかも俺達にはまだまだ余力あるし」
男がそう言葉にする。
本来ならばそれは絶望のセリフのはずだ。
あれだけやっても、数万の内たった一体しか壊せていないのだから。
だが、それは負け戦しか経験していない彼らにとっては希望でしかなかった。
たった一体でも壊せたのなら、粘り続けたら最後には勝てる。
そして、粘り強く戦うという行動は彼らにとっていつもの戦いと大差ない事であったからだ。
ありがとうございました。