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悪の組織やってます ~怪人大好きな科学者による悪役ライフスタイル~  作者: あらまき
第八章 壮絶ながら始まらない終わった話とオムニバスっぽいものとか(仮)
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修行の旅―後編の1


 それ自体には特に決まりや拘りなどはなく、ただ世俗から離れて己の道を貫きたかった人達が適当に集まり、居住区域を作っただけに過ぎなかった。

 そこには特に決まり事もなく、また各々の求道の道も同じ物はない為生き様すら異なっていた。

 見えない暗闇の様な道を切り開く為、己を見つめ直すのに最適な場所。

 ただその為だけに作られたのが特定の信仰を持たない名もなき寺院なのだが……寺院を運営して数年が経過すると、少々以上に面倒な問題が発生した。

 有名になりすぎてしまったのだ。


 元々この寺院にいた者達の考えは『好き勝手にやれ。俺も好き勝手にやる』という自分主義の集まりでしかなかった。

 だが、何故かわからないが広く有名になってしまい、精神や肉体の鍛錬と言った理由でこの寺院に入門したいという声が後を絶たなかった。

 それ自体は、別にどうでも良い。

 問題となるのは……その修行方法だった。

 各自個人個人で自由にしていた為決まり事など何一つなく、ただ他人の邪魔をしなければどう時間を過ごしても良いというのがこの寺院の特徴である。

 だが、入門希望者達はそんな事知るわけがなく『きっと凄い修行が待っているんだ』と変な期待に胸を膨らませていた。


 その時寺院に居た者達は皆、確かに個人主義だった。

 だったのだが……何も知らぬその他大勢の期待を無碍にして全く気にしないでいられるほど精神が鍛えられているわけではなかった。


「そんなわけで、この寺には初代メンバーによるいかにもそれっぽい効果がある上に修行した気になれる修行コースが山ほど用意されているわ。ミントはその中の観光客用コースのアレンジバージョンに挑戦してもらうわね」

 寺院を目指して走っているミントに燿はそう言葉にした。

 ちなみに、ミントとヴォーダンは五分ほどの力で走っているが、燿は同じ速度で歩いている。

 ゆっくりとした動きにしか見えないはずなのに、二人はそんな燿に何故か追いつけずにいた。

「アレンジバージョン……ですか?」

「ええ。本来修行は時間管理で一日みっちりだけど、貴女だけ特別に課題式にするわ。つまり、課題さえ終えたらその日一日自由時間になるわ。時間が欲しいでしょ?」

「はい! ありがとうございます!」

 ウィンクする燿を見てミントはその意図を悟り、嬉しそうに頷いた。

「良いのよ。応援するって言ったからね」

 そう言って微笑む燿と嬉しそうなミントを見て、ヴォーダンは良くわからず首を傾げた。


「ふむ。何やら修行が上手く行きそうなのはわかった。良かったなミント。それで燿様。俺はどうしたら良いんだ?」

「貴女は最初から特別コース予約が入ってるわ。講師は私。だけど、知り合いだからって手を抜かないわよ。そもそも、私は厳しい事で有名だから覚悟してね」

「うむ。その位の方がやりがいがある。よろしく頼む。先生」

「はい! 先生、私も宜しくお願いします」

 そう新しく入門する二人は元気良く答え、燿は厳しめの顔でクールに頷く。

 内心は孫相当の男とその嫁候補が来てデレデレであるのだが、彼女はそれを必死に隠していた。


「ま、二人共今まで私に付いて来れてるし下地は十分ね」

 そう燿が言っても、正直二人は納得出来ず困惑した表情を浮かべる。 

 襲って来た男達を肩に担ぎゆっくり鼻歌混じりに歩く燿に追いつく為走っている状態では褒められている気がしなかった。


「というわけで、あれがその寺院よ」

 そう言ってミントは山に隠れていたその場所を指差す。

 そこには八角形のお堂の様な建造物が、五重塔よろしく八つ縦に積み重なって塔の様になっていた。

「……ゲームとか漫画とかで良くある一階事に敵を倒していって上に登っていく奴みたいですね」

「みたいじゃなくてそうなのよ」

 燿はミントの質問に溜息を吐きながら答えた。

「……そうなんですか?」

「ええ。というかあれよ。最近また修行者が増えてね、あれを新しく建造した時にそういうのを参考にしたみたいよ。私は良くわからないけど。あ、期待してたら悪いけどあの建物には入らないわよ?」

「あ、そうなんですか?」

「ええ。あそこは長期入門コース用だからね。ミントは短期旅行客向けコースで、ヴォーダンは特別コースだからまた別の建物よ。だから……二人共あそこまでダッシュ!」

 不意打ちの様なその言葉とほぼ同時に、ヴォーダンとミントは迷わず一直線に走り出した。


「あらら。予想されていたのかしら」

 燿はそんな二人を楽しそうに見つつ、軽くジャンプして八回建てタワーの上に移動しどっちが勝つのかを見学しだした。


 その時はヴォーダンが圧倒的大差をつけて勝利した。




 二人に個室が与えられ、荷造りをした辺りで暗くなった為、修行は翌日からと決まり、そして翌日、ミントは別行動となりヴォーダンと燿二人だけの修行が始まった。

「それで、目的は一応事前に聞いているけど、やっぱり本人の口からちゃんと聞きたいわ。どうして修行をしたいと思ったの」

「うむ。巧く説明出来る自信はないが……」

「構わないわ。貴方がどう感じたかも大切な部分だから。思った事を思った様に話して頂戴」

 その言葉にヴォーダンは頷き、自分の心を吐露していった。


 ほんの少し前、ヴォーダンは深く悩んでいた。

 例えで言えば、父と母どちらかしか助けられない時どちらを助けるか。

 そんな答えの見えない問いにずっと苦しみ悩んでいた時、ビル爆破が起きた。

 その時、ヴォーダンの体は勝手に動いた。

 今でも、その時自分が何をしたのか覚えていない。

 覚えているのは、自分が飛んで来た全ての瓦礫を落とし、破壊し、その場にいた全員をいともたやすく守り抜いた事だけである。

 そして、それは自分のスペックでは明らかに不可能な行動であった。


 それにより、ヴォーダンは自分なりの答えを見出した。

 どっちかしか助けられないと言われたなら、その問い自身を無視して両方助けてしまえば良い。

 そんな今までの悩みを全てぶん投げる様な脳筋的発想にヴォーダンは目覚めてしまった。


 愚かで、馬鹿馬鹿しくて、夢見がちな答えなのだが……それでもヴォーダンはそれを一度出来た。

 一度出来たのなら、次出来ないわけがない。

 だからこそ、いつでもそれを出来る様にしておきたい。


 それがヴォーダンが自分を鍛え続けている一番の理由だった。


「という事で自分なりに色々と鍛えてきたのだが、それだけでは意味がないと思い精神修行も含めて良い場所はないかと考えている時に、ココを紹介された」

「……なるほどねー。うん、貴方が何をどう目指したいのかわかった。だからこそ言っておくわ。貴方のそれは踏み込む事は出来るけど、終点に到達出来るかは本当に運と才能と長い時間が必要な極地と呼ばれる領域よ」

「ああ。何となくわかっている。だからこそ俺はそこを目指しているのかもしれん。そもそも……その位出来ないと追いつけない相手がいてな」

「あら。そんな凄い人がいるの?」

「ああ。変人で、うっとおしくて、暑苦しい……親友だ」

「……そ。じゃあ頑張らないとね。私なら一月で貴方の目指す物の形が見える位まで、具体的に言えば指先位までならその領域に踏み込ませてあげられるわ。ただし、相当厳しいわよ?」

「お願いします」

 迷う理由なんてなかった。

 むしろ、色々と限界を感じていたからこそ、厳しい修行というものこそ、今ヴォーダンが最も求めている物であった。

「そうね。じゃあさっそく始めるわ。柔軟を終えたら……ヴォーダン、長時間座るならカーペットと畳どっちが良い? どっちもあるけど」

「より厳しい方を」

「ぶっちゃけどっちも一緒よ。正座するわけじゃないし」

「じゃあ畳で。別にどちらでも良いが何となく」

「了解。とりあえずしっかりと柔軟しましょう。体をほぐすのは修行の基本みたいな物だからね」

 その言葉に頷き、ヴォーダンは念入りに体を解し、修行に備えた。





 修行コース一日相当の課題を午前中の内に終わらせたミントはお茶と弁当の用意をしヴォーダンの元に走った。

 弁当は当然、手作りではなく用意された物である。

 ミントは自分の料理の腕前を親友の次に良く理解している。

 その親友のマリーには『ミントの料理はどうしても絶対に、命を狩りたいと思う相手に出す秘密兵器』とまで言わしめた。

 それほどの技量を、ヴォーダンに発揮するわけにはいかなかった。


「さて……確かこの辺りにいるって聞いたけど……あ、いましたいました」

 ミントは嬉しそうに笑いながらヴォーダンの元に走り、そして絶句した。

 ヴォーダンは他人に弱みを見せるタイプではない。

 基本的に真面目で、どんな時でも気高く正しくあろうとしているようにミントは思っている。

 そんなヴォーダンが……芋虫の様に倒れ込み死んだ魚の様な目でぼけーっとしていた。

 当然だが、そんな姿は初めて見る姿だった。


「ぬ、ミントか。すまぬな。しばらくは……このままで……」

「いえ。それは良いのですけど……大分きつそうですねぇ?」

「……かなりきついな。想像していた様な過酷な修行はなく、むしろ内容自体は地味なのだが……とにかくしんどい」

「どんな事をしてか聞いても良いですか?」

「うむ。良いが……逆にそっちはどんな事したんだ?」

「私ですか? そうですね……走って飛んで殴ってのSASU〇Eっぽい感じのアスレチックコースとかギアとかグローブとかとにかく怪我しない様気をつけたスパーリングとか集団マラソンとかでした」

「なるほど……。こっちは能力強化と精神統一らしき何かだな」

「能力強化とは?」

「外国にいる内は能力が制限されているだろ?」

「ええ。私変身出来ませんし今は完全なるただの一般人ですね」

「その制限を破るのが修行内容だ」

「……出来るんです?」

「理屈も理論も良くわからん。『世界の強制力なんて微々たる物で、己の世界を持ってしまえば肉体の内側なら簡単に解除出来る』だそうだ」

「……良くわかりませんが何するんです?」

「とにかく電光回路を走らせる。今五パーセント位しか使えないがそれをとにかくぶん回して電気を放出し続ける。ぶっちゃけ痛いし辛い……」

 それはミントが初めて聞くヴォーダンの泣き言だった。

「……本当にきついんですねぇ」

「うむ。きつい。しかも成長が全く実感出来ないからなおきつい。ちなみに精神統一はアレだ。俺らの国の寺でも良くある座禅を組んで時々叩かれるアレ。無心になる様集中するんだがどうしても叩かれると体が強張って上手く行かん。色々指導されながらだからだろうが肉体は休めるが心が疲労する」

「なるほど」

「しばらくはその二つを延々と繰り返すらしい。正直考えたくもないな……とはいえ、望んで来たのは俺だ。ここで折れるわけにはいかん。……さて、そろそろ飯を食わないと昼の修行に間に合わないな。弁当持ってきてくれてありがとう」

 そう言葉にして起き上がり、胡坐を掻いて座るヴォーダンを見てミントはぴこーんと何かを思いついた様な顔を浮かべた。

 そしてヴォーダンの弁当を開け、箸を取り、ヴォーダンの口元に運んだ。

「はいあーん」

「……? あーん」

 良くわからないままヴォーダンは口を開いてそれを食べた。

「……何をしているんだ?」

 首を傾げそう尋ねるヴォーダンにミントは微笑み再度口元に食べ物を運んだ。

「いえ。疲れている様ですので食べさせてあげようかと。はいあーん」

「あーん。……いや、俺は確かに実年齢は赤んぼだが一応扱いは成人で良いのだぞ?」

「成人扱いしてるからこうしてるんですよ? はいあーん」

 そう言って嬉しそうにするミントの事が良くわからず、ヴォーダンは首を傾げながらされるがままとなり、ついでにミントはヴォーダンの足や腕を丁寧にマッサージした。


 すぐ傍に出るタイミングを失った燿がいる事に気づかないまま、ミントは二人だけの時間を昼休憩一杯まで堪能した。


ありがとうございました。

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