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悪の組織やってます ~怪人大好きな科学者による悪役ライフスタイル~  作者: あらまき
第八章 壮絶ながら始まらない終わった話とオムニバスっぽいものとか(仮)
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終わった話―前編


 少し前の話になるが、ユキは武器商人らしき組織に拉致され、とんでもない洗脳装置を作らされそうになっていた。

 ゆるい条件で大多数の人間の思想を誘導するという、内乱やクーデターを乱発出来る様な悍ましい……使い方次第では兵器と言っても過言ではない危険は発明。

 結局それが完成する事はなく組織は崩壊し、その設計図も闇に葬られたのだが……ユキは全く安心していなかった。

 その組織が洗脳装置の設計図を用意出来たという事は、それは現実に作る事が出来るという事。

 そして現実に作れるという事は、いつか必ず誰かが作る事を意味しているから。

 更に言ってしまえば、ユキの中にその設計図の完成予想図は、完璧な形で残っている。

 天才であるとは言え、ただの人間であるユキ自身が作る事が出来るという事は、それはそう遠くない内に他の誰かも実用化まで持っていけるという事である。


 昔のユキなら、天才である自分しか作られないだろうと驕っていただろう。

 だが、今のユキは知っている。

 天才は自分だけでないという事もそうだが、それ以上に、天才でなくてもすさまじい事を成し遂げる者はこの世に沢山いて、ただの凡人と呼ばれる者ですらその可能性は無限に秘めているという事を。

 天才である上にこれまで努力を重ねてきたが、未だにユキはテイルの怪人技術、知識に追いつけてはいない。


 だからこそ、このユキの脳内にある洗脳装置は必ずこの世に出回る。

 であるならばどうすれば良いのかと言えば……その洗脳装置のカウンター装置を用意すれば良い。

 ただそれだけの話だった。


 科学と、魔と、人々の信仰の気持ちを利用した洗脳装置の完全なる設計図を知ったからこそ、ユキの脳内にはそれをアップグレードした完全なる形の、ありとあらゆる洗脳を解除出来る装置の草案が生まれた。


「というわけでなんかあっさり出来て試作機を作っちゃったわけだけど……どうしようかしら」

 部屋の中央に設置された一メートル四方のゴテゴテしつつもどこかスチームパンク感のある銀色の機械を見ながらユキはぽつりと呟く。

 思いがけずに上手く行ってしまい、あっという間に完成した為テストを含めて何の用意も出来ていなかった。

「こんな事ならテイルが好きそうって理由だけで外見を拘るよりも先にテストの準備をしておくべきだったわ……」

 そんな、とても自分の事を天才だと言っているとは思えない様な事を言葉にした後、ユキは再度設計書の確認を始めた。


「……うん。ミスもなし、電力も足りてるしケーブルの不備もなしと。後はテストするだけだけど……うーん」

 洗脳解除装置である為当然洗脳されていない効果がわからない。

 だが、洗脳されている人なんて早々見つける事が出来ない。

 そして、洗脳能力なんて稀有で危険な能力を持つ存在にユキは心当たりがなかった。

 ワンチャン吸血鬼の能力を備えたヴァルセトが出来るだろうが……彼の能力は本来のコンセプトよりも大幅に歪んでいる為実験という意味ではあまりに不向きである。


「……しょうがない。テイルの知り合いに誰かいないか今度尋ねてみましょう。それはそうとして……人体実験位はしておかないとマズイよね。いくら設計上安全であっても……」

 そう言いながら、ユキは洗脳解除装置のスイッチを見つめ、『ON』と書かれた位置にスイッチを動かした。

 

 その次の瞬間――ユキは脳がすっきりとし、自分の視界が酷くクリアになった様な錯覚に陥った。


 今まで見ていた視点はもやがかかっていた様なその錯覚。

 まるで生まれ変わった様な、または気持ちの良い春の目覚めの様な感覚。

 それは、今まで思考を誘導されていた何よりの証拠であった。


 そして冷静になった後、ユキは当然の様に存在している大きな矛盾に気が付き――恐怖に体を震わせた。

 そう、おかしいのだ。

 車が地上を走り、新幹線が高速な乗り物という時代に、空を飛び変形する機械や、自分が今まで作って来た巨大ロボが存在するなんて事、あるわけがないのだ。

 どれだけ連続でブレイクスルーが発生したとしても、こんな歪な技術格差が生まれるわけがないのだ。

 そしてももしそれが起きたとしても、正義と悪の戦いだけにその技術を使わせるなんてどう考えてもおかしい。

 その段階でおかしいのに、魔法や魔術という理屈さえもわからないものが存在し、しかもそれをユキは良くわからないまま改造や研究に活用する事が出来ている。

 ユキ自身が存在する事を当然と受け取り、調べもせずに信じているのだ。

 それは、まず研究し正体を調査する科学者として、あり得ない行動だった。


「……どういう事? なんで私は今まで違和感を持たなかったの? いえ、それこそが思想誘導を受けていたという事だけど……一体誰が? そして一体どこから? そもそも、対象は全世界? そんな馬鹿な……全世界が洗脳されている? 一体誰に?」

 混乱の極地に居ながらもユキは極力冷静になるよう努めて事態の解析を目論んだ。


 テレビでは正義と悪の戦いが繰り広げられ、警察など国家公務員もヒーローと手を取り合い国を護っている。

 それを考えると、この洗脳はほぼ間違いなく全世界で行われている。

 皆が洗脳されているからこそ、誰一人疑問に思わないのだ。


 では誰か洗脳をしているのか?

 その答えは、ユキには見つけられなかった。

 人類総員を洗脳するなんて、それはまるで神の御業としか思えない。

「つまり、神の洗脳から逃れた私は神の敵になるのかしらね」

 そんな恐ろしい想像が、冗談にならないと感じたユキは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

 足場が崩れた様な、崖に落ちかけている様な感覚がユキの体を再度震わせた。


 一度疑い始めると、他にも様々な矛盾に目に付く。

 例えば、正義と悪の戦いが許されているのはこの国のみ。

 これは明らかにおかしい。

 この国だけ常識外の過剰戦力を持つ事が許可されているという事である。

 そんな事があるわけがない。


 もしユキが他国の指導者であるなら、迷わずこの国から技術や軍事力をそぎ落とし、あらゆる手段で奪おうと目論むだろう。

 そしてそれが出来ないのであれば……自国の為必ずこの国を破壊する。

 だがそんな事は一切起きておらず、武器商人の様な小物はちょくちょく動くが大国はこの国のその特異な戦闘力を気にもせずのんきにスルーしている。

 重ねて誓って言おう。

 隣の国が強大な力を持って安息にしている国なんて、あるわけがない。

 人はもっと愚かである。


 何が正しくて、何が間違っているのか。

 そもそも、この世界は本当に存在するのか。

 本当に自分は生きているのだろうか。


 ユキは足元が崩れ去った様な幻覚に陥り、目の前が真っ暗になった。




 ガチャっと、扉が開かれる音が聞こえた。

「……おーい。何の実験してるんだー。楽しそうなら俺も混ぜてくれー」

 そんなのんきな声でテイルは部屋に入り、地面に蹲るユキを見て血相を変えた。

「おい! どうした!? 何があった!?」

 青いを通し越して顔色が白いユキを見て、テイルはそう叫んだ。

「……私はここにいる?」

 最後の拠り所のテイルに、ユキは不安そうそう言葉を投げた。

「何を言っているんだ!? 実験に失敗したのか? 何がいる? 救急車呼ぶか?」

 ユキはふるふると首を振り、テイルの方を見つめた。

「私が見てる物って本物なの? 貴方が自分がここにいるって証明出来る?」

「何を言っているのかわからん! 体調は大丈夫なのか?」

「……うん。体に問題はないよ」

 手足を震わせながらユキは囁くようにそう言葉にした。

「そうは見えないぞ……。やっぱり病院に行こう。ちょっと救急車呼んでく――」

 そう言ってどこかに行こうとするテイルの腕をユキは掴み引き留めた。

「お願い……一人にしないで……」

 少し悩んだ後、テイルは溜息を付きその場に胡坐を掻いて座った。

「それじゃ、とりあえず何があったかゆっくりで良いから教えてくれ」

 その言葉にユキは震えながら頷き、自分の感じた事、気づいた事をゆっくりと説明しだした。


 それを聞いていたテイルは最初こそ首を傾げていたが、ある程度その話を聞いた時には目を丸くして驚愕した様な表情を浮かべ、そして最後まで話し終わった時にはユキの方を感動する様な、尊敬する様な目で見ていた。


「……ごめん。話したら色々落ち着いてきたわ」

「そうか。それじゃ、ユキが知った事を纏めてみようか」

「そうね。とりあえず……全世界が思想誘導という洗脳を受けている。内容は異常な事態が当たり前の様に存在していると思わせる事。下手人も理由も不明。戦闘力という意味では一国だけ超絶有利になっている事態で本来なら戦争待ったなしだけど戦争は起きていない。……それともう一つ、とても大切な事に気が付いたわ」

「ほぅ。何だ?」

 ユキはちらっと洗脳解除装置の方を見た。

 あれから一度もいじっていない為、当然洗脳解除装置はそのままスイッチがオンのままになっていた。

 にもかかわらず、テイルの様子は一切変わっていない。

 個人差がある……という考えも一瞬したが、そんなわけがない。

 つまり……。


「テイル。どうして貴方は私と同じ状態に、この良くわからない思想誘導が解除された状態にならないの?」

「その理由はもうわかってるだろ?」

 ニヤニヤするテイルにユキは困った顔で頷いた。

「そうね。テイル。この事態ではなく私の事を驚いた眼で見た事と言い、私を感心したような目で見た事といい、最初から全部知っていたのね?」

 テイルは微笑み頷いた。

「……これってどの位の人が知ってる事なの?」

「そうだな……レジェンドクラスにならば告知される事だしoAになれば自分で気づく奴もちらほらいるらしい」

「そう……。じゃあどうしてテイルはそれを知っているの?」

「んー。まあ、ちょっとした付き合いがあってな。偶然知った。ちなみに息子、娘達には教えていないぞ。気づいてる奴もいるが」

「……貴方良く自分が凡人だって言うけどさ……貴方と話していると私の方が凡庸な気がするわ……。本当どうなってるのよ」

「能力は凡庸だぞ? 情熱は人一倍だがな」

「うん、それは知ってる。それで、私にもその貴方の知っている特別な事情を教えて頂けるかしら?」

 若干拗ねた口調でそう尋ねるユキに困った顔を向けつつテイルは頷いた。

「ああ。自分で気づいたなら別に話しても問題ないしな。ただ……先に言っておくぞ」

「何? 世界の秘密で誰にも言ってはいけないとか、知ったら何か世界を守る義務が生じるとかそれ系?」

「いや。ただな、これはもう……終わった話なんだ」

 そう切り出した後、テイルは正義と悪の戦いが、その存在が生まれた原初の理由――西暦千九百十年位の出来事について話を始めた。


ありがとうございました。

ぶっちゃけ語れそうにない初期段階のプロットをこの機会に纏めているだけです。

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