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悪の組織やってます ~怪人大好きな科学者による悪役ライフスタイル~  作者: あらまき
第八章 壮絶ながら始まらない終わった話とオムニバスっぽいものとか(仮)
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茜色の空は美しい夜空に


 世界征服をもくろむ悪の科学者Dr.テイル。

 ARバレットという世界に対する凶弾を生み出し世を混沌に陥れようとするその男は、今日も世界を破滅させる為に暗躍を続けている。


 KOHOの悪の組織紹介コーナーにテイルはそう書かれてはいるが……ARバレットもテイルも悪の組織としての評価はそんなに高くない。

 理由は言わずもがな、世界征服どころか地区制圧にすら興味がなく、怪人達と共に楽しく暮らせたらそれで良いと考えているからだ。

 だからこそ、活動も限定的で野心もなく、他組織と競合した場合は一歩引きその姿勢により悪の組織としての評価、悪の科学者としての評価は限りなく低かった。

 テイル自身も自分が凡人であると理解している為、評価されていない事に不満も文句もなく日夜楽しそうに日常をエンジョイしまくっていた。


 が……テイルの評価自体で言えば低いかと言えばそんな事は決してなく、特定の人達からは神の様に崇められ称えられたていたり、逆に凄すぎる功績により嫉妬されたり蛇蝎の如く嫌われていたりしている。


 例えば、緊急災害時ARバレットは他の組織が持っていない多くの特権が与えられている。

 怪人とテイル、ユキは全員正義、悪両方のAプラス以上の権限を与えられ、テイルに至っては国家公務員である警察や消防などに応援を要請する権限と災害に対しての情報を答えさせる権限を付与されている。


 その権限はガッチガチになるまで正義に固執するオーバー階級の正義の味方やその組織にすら与えられていないもので、国内全組織を含めても九程度の団体にしか与えられていない。

 そろそろオーバー階級に入るだろうという事になっているが、それでも現行ではまだBクラス悪の組織でしかないARバレットが得られる特権ではなかった。


 その特権が認められた理由は、テイルの人柄と交友関係、怪人製造の技術ノウハウの高さにあった。

 他の怪人製造を行う優秀な科学者達がこぞってテイルの家族愛と怪人製造の技術と知識を認め、そしてその人柄を保証し推されていた。

 だからこそ、ARバレットは緊急災害時は特別扱いされても嫉妬すらされておらず、誰からも応用力の高く小回りも利く頼もしい味方であると認識されていた。


 ちなみにテイルが他の怪人製造を行う科学者達全員に推薦されている理由は……その手の科学者というものは善悪問わず奇人と呼ばれる者が非常に多く、その中で善良かつマトモだと言える存在はテイルだけとなっている。

 テイルがマトモな常識人であるという評価を受けている辺りで、他の科学者がどれだけ酷いのかをうかがい知る事が出来た。


 多種多様な活動をしているテイルだが本人の才覚がいまいちな事と、才能関係なく基本エンジョイしている事、そしてその才能のほとんどを人助けに使う為テイルが嫌われている事は少ないのだが、一点だけ、致命的なまでにテイルが嫌われている部分があった。

 それはテイル本人が未だに才能だと気づいてないない才能、商才についてである。

 悪の組織ARバレットを維持するには過去の蓄えだけでは足りず何か商売を始める必要があった。

 幸い元手はそれなりにあったテイルは会社の設立を考えたのだが、ここで一つ問題点が浮かび上がった。

 何の会社を開くかである。


 テイルは凡才ではあるが多趣味な人間である。

 過去勉強しか出来なかった学生時代を取り戻す為か子供の好きな物を好む傾向にはあるが、それ以外のありとあらゆる物に興味がある。

 だからこそ、何の会社を設立したら楽しいのかを思い悩み、ARバレット初期メンバー達にもアンケートを取り……そして結論を出した。

『やりたい事を全部やれば良いんじゃないかな』

 そんな理由でテイルは多角経営に手を出した。


 ただ……幸か不幸かそれなり以上にある商才と信頼出来る部下、家族が居た為そんな後先考えずの商売にもかかわらずテイルは成功を納める事が出来ていた。

 特に、喫茶店関連だけは何故ただの喫茶店でここまでヒットするんだと言う位売れに売れ、街の方からうちに喫茶店を作ってくれと頼まれているのに人手が足りなくて作れないという状況にすらなっている。

 だからこそ、わずか五年で地位を確立しここまで発展されたテイルは顰蹙と嫉妬を買い、喫茶店界隈で『テイル』という名前は悪魔の様に扱われ嫌われていた。


 そして、テイルはそれを知り放置するような人間ではなかった。




 普段では絶対に着たがらないスーツを身に着け、眼鏡をかけて髪を整えまるで普通の社会人のような容姿をしたテイルは、同じくスーツを身に着けたユキと共に立っていた。

 目の前には十四、五人の社会人と思われる人物。

 ごく普通な青年から明らかに上役か取締役と思われるような人物、ボディスタイルを恐ろしく協調してテイルに対し熱い視線を送っている女性など、さまざまな人がそこに立っていた。

「えー本日は私共の企画した喫茶店業務における改善とノウハウの共有についてのご参加、誠にありがとうございます。本日の司会を務めるテイルと――」

「秘書のユキです。何か要件があれば私の方に」

 そう答え、二人は集団に頭を下げた。


「まず、これだけは伝えておきます。私共は喫茶店関連に限りですが、一切隠さず全ての情報を公開し、同時に培ったノウハウを提供する準備が出来ております。ただし、もしこれを皆様に伝えた結果私共に何か被害か被る場合や、技術やノウハウを悪用されるような事があれば……私共は全力で対処しなくなりますのでそうならないようお願いします」

「当然ですが、ハニートラップを含めたスパイ行為も敵対行為と断定しますのでご留意を」

 そう言った後、二人は若い女性数人の方をちらっと見つめる。

 明らかにソレ目当てだった女性達は引きつった笑みを浮かべていた。


 敵を作るという事がどれほど恐ろしい事なのかテイルは良く知っている。

 とは言え、どのような事をしても商売敵である事に代わりはない為誰とも敵対しないという事は不可能だ。

 ではどうすれば良いのか考えた結果テイルが導き出した答えは……比較的マトモな敵を味方に付けるというものだった。


 一切合切の情報とノウハウを提供し、場合によっては独立するまで傘下に引き入れて店を育成する。

 それにより損をしたとしても、そこそこ以上に儲けがあれば良いという多角企業のメリットを最大限に生かしたテイルなりの商法と人助けだった。


 ちなみに、テイルの開くボランティア同然の技術やノウハウなどの提供イベントには参加条件がある。

 テイルに助けを求めた者、教えを乞うた者、悪口を言ったり怒ったりはしても直接嫌がらせを行わなかった者、負けず嫌いでテイルに実力で勝とうとする者。

 そんな人達である。

 流石のテイルであっても、店に直接被害が出るような嫌がらせや工作を行った者に対しては助けようという気持ちを持つ事が出来なかった。


「では、今日は希望の多かった宝が山商店街での店舗成功ケースの紹介をさせていただきます。今回はほとんどの割合で私が手を出したわけではなく店長達の努力と改善による部分が大きいので、その辺りを参考にしていただけたらと思います。では、店に入りましょう」

 そうテイルが言葉にするとその集団は一斉に頭を下げてから、テイルの後ろに付き喫茶店『茜雲』に入っていった。




 明るめな雰囲気のある店舗は気づけば相当以上にクラシックな雰囲気と様変わりしていた。

 設置型の大きな古時計や壁にかけられた木製の車も含め、タークブラウン一色の店内。

 曲も店の雰囲気に合わせたレトロな曲が流れ、それはとても学生向けの店とは思えなかった。

 まるで小説に出て来るカクテルバーの様な雰囲気となっていた。

「……ずいぶん様変わりしたなぁ」

 テイルがそう声をかけるとこの店の店長である周藤柳之助は首を傾げた。

「あれ? オーナーの方にこうしますって事前に許可を出して、その許可ももらいましたがご存知ありませんでしたか?」

「んー。変えるのは知ってたが内容は見てなかったからな」

「ええー。それ大丈夫なんですか?」

「それだけお前を信用してるって事だ。んじゃ、頼むぞ」

 そう言ってテイルは周藤の肩を強めに叩いた。

 周藤は頷き、店内に座る十五人の見学者の元にマイクを持って向かった。


「おまたせしました。喫茶茜雲の店長、周藤と申します。皆様は既にオーナーから数度の教導を受けていると思いますので私からはオーナーからのノウハウとは関係のない、この店独自の事を話したいと思います」

 そう言って周藤が笑顔のまま丁寧に頭を下げるとまばらな拍手が響いた。

「とりあえず、話すよりも実際体験した貰った方が早いと思いますので、一杯どうぞ。喫茶店を知るという事はやはりこういう事だと思いますので」

 周藤が愛想の良い笑顔を浮かべた瞬間に、ウェイトレスの集団が一斉にコーヒーを用意し全員の前に丁寧に用意した。


 例え別の要件で、何かを飲みに来たわけではくとも……この店に来た以上は客として扱おう。

 周藤はそう決めていた。


「コーヒーが嫌いな方がいらしたら遠慮なく申し出て下さい」

 そう周藤が言葉にするが誰も何も言わず、興味深そうにカップを手に取り熱いコーヒーを口に運んだ。


 誰もが何も言わず、無言の時間が始まった。

 ただ、表情からどう考えているかは何となく理解出来た。

 七割ほどは納得したような表情をしていたり頷いたり、または自然な笑顔となっている。

 だが、残り三割ほどは首を傾げ、少し不満そうな表情を浮かべていた。


 ただ、全員に共通した考えが一つあった。

『思ったほどは凄くない』

 好意的な目で見ても、否定的な目で見ても、それが全員の共通見解であった。


 だが、次の周藤の言葉で全員が驚愕の表情へと変化した。

「ちなみに、この店ではイベントがない限りはそのオリジナルブレンドを一杯二百円、学生は一杯百五十円で提供させていただいています」

 それは驚くと同時に、全員が絶望するに十分な言葉であった。


 一杯五百円前後。

 もしこのコーヒーを自分の店で売るとすればこの場にいた十人は皆その位の値段とするだろう。

 だが、実際は半額以下である。

 そこそこの品物が格安コーヒーの値段で飲める。

 それはどうあがいても、自分達の店ではこの店に勝てない事を示唆していた。


 数人が再度カップに手を掴みコーヒーテイスティングを行った。

 聞かされた後なら、豆自体はどこにでもある安物で下げようと思えばいくらでも下げられると理解出来た。

 逆に言えば、コーヒーの淹れ方のみで本職が数百円分も見積もりを間違えたという事になる。

 それは驚異的な技量と言えざるを得なかった。


「何か質問はございますか?」

 周藤の言葉に全員が手を上げた。

「では……前列左の方から順番に」

「はい。では失礼します。これを入れたのは周藤店長でしょうか?」

 その言葉に、周藤は微笑んだ。

「いえ。ウェイトレスの方ですね」

「で、ではその人は特別な訓練を受けたのでしょうか?」

「いえ別に。今日出勤してくれて、コーヒーを淹れるのが嫌いじゃない人全員で淹れた物ですので別に特別な事は」

 どう考えても自分達より巧みな技量を持っているのにただのウェイトレスと聞き、全員は何とも言えぬ気持ちと敗北感を覚えた。


 テイルから指導を受ける時は多少悔しいが特別な技量などはなく知識とノウハウだけだった為納得出来たが、これは流石に理解も納得も出来ず、そして対応を取る事も出来なかった。

「店長……」

 すっと可愛らしくもシックな制服な身を包んだ女性が周藤に話しかけると周藤は頷き、彼女にマイクを渡した。


「失礼します。ウェイトレスの教育係兼副店長の周藤七瀬と申します。お伝えしたい事がございますのでこうして失礼させていただきますた」

 そう言ってぺこりと頭を下げると、十五人が揃って七瀬に頭を下げた。


「ではまず……あらかじめ申しておきたいのはこのコーヒーは誰にでも淹れる事が可能という事です。もう少し正しく言葉にしますと、味覚障害などがなく、健康体であるなら誰にでもこの位は出来ます」

 その言葉にざわざわといったとても信じられないという空気が流れた。

「お気持ちは良くわかります。私共も四か月前までは誰一人こうなるとは思っていませんでした。一月です。一月ほど店長の元で学べば本当に誰でもこれくらい淹れる事が可能になります。そして……もし学びたいという強い意思があるのでしたら皆様の大切な従業員や皆様自身を私共はコーヒーの淹れ方を教える為に受け入れる準備が出来ております」

 今まで静かだった空気とは打って変わり、全員が驚きと興奮から騒ぎ出した。

 信じられないと叫ぶ者、参加すると申し出る者、周りの人に相談する者。

 色々な人が出て来る中、七瀬は再度口を開いた。


「ただし!」

 その言葉と同時に場が静まり返った。

「ただし……本気でコーヒーが好きな人や死ぬ気で続ける覚悟の人だけを連れて来てください。生半可な覚悟ですと潰れかねないです。『材料費けちって高く売りたいからよろしく』何て軽い気持ちで部下に頼むと辞表が返ってくるでしょう。確かに、内容自体は誰にでも出来る事です。ただコーヒーを淹れる練習をするだけですから。ですが、私共は皆、店長直々の指導で……地獄を見ました。確かに、続けられた人全員がこの程度の技量は得る事が出来ました。ですが……相当数の人が途中でリタイアしました。訓練は、文字通り地獄を見ます」

 しみじみと、それでいて本気でそう言葉にする七瀬の声は酷く説得力を持っていた。


 一人の男が手を上げたのを見ると、七瀬は頷きその人物に手を向け発言を求めた。

「大体何割くらいの人がギブアップしたか教えていただいても宜しいでしょうか?」

「九割ですね。ちなみに技量が足りないとか成長が遅いとか味覚が人と少し違うとか疲れやすいとか、そんな理由でギブアップした人は一人もございません。店長はどんな非才な者であっても絶対に見捨てず地獄を見せてくれます。ギブアップした人全員が、ただただ単純に地獄により心が折れただけでした」

 たかだかコーヒーの淹れ方で……とはこのコーヒーを飲んだからか誰も思えなかった。


 周藤は七瀬からマイクを受け取ると皆の方を向いた。

「申し込み用紙を入れておきますのでステップアップしたい方がいらしたら是非いらしてください。もちろん紅茶の方でも歓迎します。さて、他に質問はありませんか?」

 とても良い笑顔で周藤がそう尋ねるが挙手は一気に減り、たった三人だけとなった。

 数人は顔が引きつっていた。


「では前列の女性の方」

 その言葉に女性は室内左手にある扉を指差す。

 それにはやけに雰囲気のある木製の扉に猫の飾りのついた金属プレートが付けられていた。

「あれって何ですか?」

「ああ。あちらは探偵事務局です」

「……へ?」

「探偵事務局です」

 女性は茫然とした表情を浮かべた。

 ちなみに、周りの人は事前に調べていたのか当然のようにその異常を受け止めていた。


「この喫茶店のお手伝いをしている探偵の人がここで学生達の相談事に乗っていたらやけに評判が良くなってしまって……。ああして専用の部屋を用意させていただきました」

 ちなみにこの店の雰囲気がシックな物にがらんと変わったのもそれが理由である。

 どうせなら探偵の店ぽくした方が楽しいし学生も喜ぶだろうという事でこのような学生街には似合わない雰囲気に変えていた。

「は、はあ。ありがとうございました?」

 女性はわからないままそう言って頭を下げた。




 その場を周藤と七瀬に任せて次の準備をしているテイルにユキが話しかけて来た。

「テイル。電話とかメールとか結構来てるよ」

「内容は……何時ものだろ?」

「うん。そんな感じ」

 二人の表情はとてもめんどそうだった。


 この企画を行うと、その時に必ずメールや電話が届く。

 例えば『次は自分を参加させて欲しい』とか『給料払うからうちに来て指導して欲しい』とかその辺りなら全然可愛らしい。

 とにかく無茶苦茶な要求が多く、酷いのになれば『自分を参加させないのは不当な差別だから今すぐ参加させろ』とか『俺だけ特別に儲けになる事を教えろ』とか『ノウハウを教えるなら店もよこせ』などとのたまう頭のおかしい連中がほとんどだった。

 ちなみに、そういうメールを送る人は軒並みテイルに対してか関係する店に嫌がらせをしてきた人か、現在進行形で嫌がらせをしている人達である。


「……どするテイル。無視?」

「いや、悪いが嫌がらせの証拠のコピーを送っておいてくれ。faxでも実際にでも構わないから。そうしないと次は乗り込んで気かねん」

「あ、それならちょっと文章捻って脅迫にならない程度に脅して良い?」

 ユキがそう尋ねるとテイルは少し口角を上げ頷いた。

「ああ。任せた」

「はーい。んじゃ次がんばってね」

 テイルの手伝いが出来るユキは機嫌よくその場を後にした。


「……楽しそうで良い事だ。さて、俺もお仕事するか」

 そんなユキを見ながらテイルは頬を緩め、経営状態と帳簿のコピーを持ってさきほどの男達の元に向かった。


ありがとうございました。


箸休めと世界観説明の為に番外編的なのを幾つか行います。

もし誰かを出して欲しいとかこのキャラのこういった場面が見たいとかあればご連絡下さい。


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