決戦!商店街を守護する乙女達1
宝が山商店街に危機が迫っている!
いや別に誰かに狙われているとか住民の危機とかそういった大きな陰謀や暗躍渦巻く話ではなく、至極単純で一般的な問題だ。
宝が山商店街は現在、正義と悪の壮絶なる死闘の末に完全なる廃墟となっている。
ただ、偶然近々リニューアルの為建て壊しの予定が入っていたたけそこは何も問題はない。
そう、壊れて欲しい時に壊れたのは全くもって不思議な偶然だ。
そして、リニューアルに関しても問題らしい問題は起きてなく、順調という他ないくらいだ。
リニューアルとは非常に目出度い事であり、とても素晴らしい事でもある。
特撮で言えば新スーツや新フォームのお披露目、ロボットアニメなら主人公機乗り換えに匹敵するだろう。
そんな事情で何が危機なのかと言うと、ここで商店街側ではなく、別の人に視点を変えてみよう。
店側の人ではなく今まで購入してた人達……特に主婦の方など日常の買い物を買ってくれた人達だと今はどうなっているだろうか。
完全にガレキの山と化した商店街。
馴染みの店は使えずしばらくの間遠くの店に行かなければならない……。
今までお世話になったお客様に不便を強いているという結果に他ならない。
そう!これはまさに、商店街の危機と呼べるだけの緊急事態である!
そして、そんな方々をそのままにしておいて良いのかと言えば――そんなわけがない。
困ってる人を放っておけない上に、商魂逞しい商店街スピリッツを持った我々は、何もするなと言ったって勝手に何かしようではないか。
そう……『店舗がないならテントを使えば良いじゃない!』という言葉を胸に、我々商店街スタッフは動き出したのだ……。
――宝が山商店街商工会広報――
ライカンスロープという暴威により建造物は全てガレキと化し、宝が山商店街は現在建物らしい建物は消滅した。
だがそれでも何もないわけではなく、現在はテントや簡易住居で埋め尽くされていた。
簡易住居やテントと言っても生活難の対策といった類のものではなく、単純に簡易式の店として用意しているだけで住居に困っているといった人は一切いない。
そもそも、商店街の全員がリニューアルまでそこそこのホテルに泊まり続けてもおつりがくる程度は補助金を貰えていた。
多くの簡易式店舗が並んでいるが本来の商店街と比べれば三割程度の規模である。
それでも、十分な人が商いを行っており常連だけでなく物珍しさからか新規の客まで入っており、青空商店街はそれなりに賑わっていた。
様々な人がそこにはいて、中には店が開きたくても簡易店舗では開けないからという理由で何故か自分の店先で手品をするような変わった人がいたくらいだ。
彼らは商売のチャンスを逃さないという気持ちもあるし、今までのお客様に不便を強いたくないという気持ちも強く持っている。
だが、一番強い気持ちは別にあった。
一番強い気持ち……それは単純にこの商店街が大好きで、彼らはこの生まれ育った場所で何かをせずにはいられなかったのだ。
そんな仮設営された商店街密集地からから少し離れた広場にて、少々奇抜ながらも可愛らしい恰好をした女の子が二人、何やら作業を行っていた。
「んー。ミント。設置はこの辺りで良い感じ?」
活発そうな印象をした黄色い髪の女の子は相方の黒い髪の女の子にそう尋ねる。
「んー。うん、良いと思うよマリー」
ミントと呼ばれた少女はそう返事をし、優しい笑みを相方に向けた。
それに合わせて、マリーと呼ばれた少女は微笑み返し、手元の機材を広げてテントを組み立て始めた。
黄色い髪に茶色の瞳、天真爛漫という言葉が良く似合う向日葵のような笑顔の女の子。
おそらく高校生くらいの年齢だろう。
名前はマリー。
正しくはマリーゴールドという名なのだが、長いのでマリーと人から呼ばれるようになっていた。
黄色い妖精の着るようなドレス風衣装は活発そうな印象を残しつつも可憐さを引き出し、非常に彼女に似合っていた。
そしてもう一人、マリーと色違いの同じ衣装に身を包んだ黒い髪の女の子。
白の強い空色の衣装に身を包んだ彼女の名前はミント。
マリーとは対照的に嫋やかな、お淑やかを全面に出し大和撫子のような印象を醸し出している。
といってもそれはあくまでただの印象には本人にそんな気一切ない。
それどころか、自分の印象がお淑やかな事に迷惑をしているくらいだった。
むしろ趣味はアウトドア寄りで、勉強よりも運動の方が得意なタイプである。
二人の衣装は妖精の着るドレスに布を増やして露出を減らしたようなデザインだ。
ヒラヒラしてはいるのだが、不思議な事に実際のドレスと違い動きをあまり阻害しておない。
運動することを想定しているといっても間違いないだろう。
現に彼女達はテント設置など複数人数で行う作業をこなしているのにもかかわらず、衣装が邪魔になっている様子は一切ない。
華をモチーフにした妖精チックなデザインのドレスは、幼い印象を残した二人が着ると可愛らしさと可憐さが際立たされた。
最初の頃、二人はこのドレスがとても恥ずかしかったが、高度な戦闘オプションが内蔵されている上その他便利な能力が多々あり着心地も良く、また可愛い衣装が嫌いではない二人はあっという間に馴染んでしまっていた。
そんな彼女達の名前は『トゥイリーズ』と言い、二人で正義の味方をしていた。
と言っても、彼女達の活動範囲はこの商店街のみな為、正義の味方というよりは商店街の味方、または商店街の名物マスコットと呼ぶ方が正しいかもしれない。
行動範囲だけでなく実際の活動時間も放課後のみと非常に限定されていた。
学校との二足の草鞋を履いている彼女達の為その程度しか正義の味方に時間をさけていないのだが……その割にトゥイリーズの人気は非常に高い。
階級Bでありながらも放送枠は毎回休日で、その大体が午後七時という人気の高い時間を割り振って貰っている。
『近いうちに彼女達はニチアサ時間にまで進出するだろう』
ファンの間からそう言う声が上がるほどだった。
ニチアサ時間帯。
それは文字通り伝説の時間帯だった。
その時間に活躍できたヒーローは皆歴史に名を遺しているからだ。
そして……その時間帯には女性専用枠も存在していた。
早い話がプリ〇ュア枠である。
彼女達の活躍方針も肉体言語での語り合いが中心で、爽やかな中にもスポコン根性満載な二人の評価としては正しいかもしれない。
「んー。こんなもんかな? ま、ウチの台所よりも器具揃ってるくらいだし十分でしょ」
大きなテントをきっちりと設置して中に調理器具を並べたマリーはそう呟くと、ミントはこくんと頷いた。
「良いじゃない。あ、私の方も出来たよ」
そう言ってミントは青空の下にある二十五のテーブル、百の椅子をマリーに見せる。
簡易組み立て式とは言え木材のちゃんとしたテーブルと椅子をミントは一人で全て組み立て設置していた。
「おっけーお疲れミント! 後は……雨が降らないのを祈るだけだね」
「大丈夫だよ。今日の降水確率はゼロだし、降りそうになったら連絡入るようになってるからそこからでも十分何とかなるよ」
「さっすが。それじゃ、がんばろう!」
元気いっぱいではしゃぐように気合を入れるマリーを見て、ミントは軽く頬を紅潮させながら微笑んだ。
その笑顔には友情だけではなく、もっとドロドロとしたねばっこく重たい感情が見え隠れしているのだが……マリーがそれに気づく事はなかった。
「――そこまでよ二人とも。あなた達の思い通りにはさせないわ」
そんな二人が行動に移ろうかというタイミングで、突然一人の女性がそのテントの前に姿を見せた。
それは綺麗な青い目は寝ぼけ眼のようなジト目で、妙に気だるそうな表情をした恐ろしいと感じるほど綺麗な青い髪の女性だった。
「誰です!?」
ミントが驚きながらそう尋ねると、女性は相も変わらず面倒そうな表情で自己紹介を始めた。
「ARバレット……めどいから略そ。アーブの怪人クアン……。あ、前回自己紹介忘れてた、まどうでも良いか」
そんなクアンの声に二人は驚愕の表情を浮かべた。
演技が苦手なのかマリーの表情が妙にぎこちないのだが、それは気にしない方が良いだろう。
「か、怪人!? まさか私達の……『宝が山商店街』に貢献する為に『宝が山商店街』の食材を使って調理し、それを振舞って『宝が山商店街』の宣伝する作戦を邪魔しにきたのね!」
「……良く噛まずに言えるね」
妙に商店街の名前を強調するマリーの言葉にクアンは驚きながら頷いた。
「ま、そういう命令が出てるの……めんどいけど……」
そう言いながらクアンは口に手を当て欠伸をしてみせた。
「くっ……。『宝が山商店街』の平和を乱させるわけにはいかない……『宝が山商店街』の平和をかけて料理で勝負よ!」
「ええ。良いわ。めんどいけど……」
クアンはマリーの言葉にだるそうに同意し頷いた。
さっきからやたらと『宝が山商店街』を強調して話すマリー。
そして全く同じ調理器具が揃ったテントが何故か最初から二つ用意され並べられている事に突っ込んではいけない。
平然とうまく役をこなしているクアンだが、その内心はとにかく慌てていた。
――いやこれ流れ的に無理ないですか!? どうしてあそこから料理勝負!? え、料理漫画的世界なんですか!? というか前回の赤羽さんの時私自己紹介してなくない? やらかした? それに一番の問題は料理勝負って、私生後一月も経ってないよ本当に大丈夫!?
そんな突っ込みやら何やらでお約束についていけず、更に前回ダーツ戦で名乗り忘れた事に急に気づき、そして料理という苦手分野に挑む為の緊張で内心がぐちゃぐちゃではあるが、何とか表情だけは取り繕っていた。
緊張しテンパりきっている理由には更にもう一つあった。
それは、現在テイルが所用で基地にいない為連絡がなく、全ての事態を独りでこなさなければならない事だ。
気分は初めてのお使い途中にメモを失くした子供である。
「勝負内容は……カレーよ」
マリーはクアンにびしっと指を差しそう宣言した。
「ええ……。良いわ」
クアンはめんどそうに頷いた。
ただし、その内面、内なるクアンは満面の笑みで小躍りしている。
カレーなら一度食べてるし作るのも見やすい。
勝負に勝てる物は作れないだろうが、それでも最低限料理という形にはなるだろう。
そんな風にクアンは考えていたからだ。
「材料はこの『宝が山商店街』からのみ調達を許可するわ。カレーチャーハンなどの亜種も可。調達時間は三十分で調理時間は一時間半、煮込みは圧力鍋を使って。おっけ?」
マリーの説明にクアンはこくんと首を縦に降る。
――さっきの『おっけ』の言い方可愛いですね。私も真似……しても似合わないだろうし止めときましょう。
若干緊張が解けたからか、クアンは完全に道筋を外れた思考をしていた。
ちなみに、カレー勝負になったのはクアンの料理技術に合わせてである。
「はい。これがマップだよ。迷ったら下の番号に電話して。準備は良い?」
ミントにマップを手渡されながらそう心配した。
クアンはそれを受け取り、ミントにこくんと首を縦に降って見せた。
「よっし……それじゃあー。用意……スタート!」
マリーが大きな声でそう叫ぶと、ミントが全力で駆けだしていった。
その走りは可愛らしい花の女子高生が出すような速度でもなければ女の子らしい走り方でもなかった
一陣の風を彷彿とさせるその走りはまるで一流のアスリートのようだった。
「……あれ? 貴方……マリーはいかないの?」
「んー。さすがに二人で一人を相手にするってずるいでしょ。だから役割分担。ミント集める人で私が料理作る人。見ての通りミントの方が足早いし」
そう言ってマリーは少し恥ずかしそうに小さく微笑んだ。
「そか。貴方の方が元気いっぱいな様子だから走る人。あっちの大人しそうな彼女の方が作る人っぽいのにね」
「……ミントが料理を作ったら……バイオテロと呼ばれるので」
「――ごめんなさい」
向日葵のような笑顔をいつも浮かべていたマリーの表情に影が差したのを見て、クアンは踏み込んではならない事を尋ねた事に気づき素直に謝罪をしてから、マップを見てテントの並ぶ地区に走りだした。
ありがとうございました。