苦悩
一人の時間、ヴォーダンは己の部屋で思考の迷路に陥っていた。
正義の味方と悪の組織という二種の陣営がいる。
しかし、これがそのまま善悪に分かれているわけではないという事くらいは、ヴォーダンも理解していた。
これは要するに陣営を分けた遊戯のようなものである。
ただし、この遊戯は死者すら出るほど壮絶で、そして勝者は民ごと都市を得られるという非常にリターンも大きい遊戯だが。
ヴォーダンにとって遊戯のメリットやその内容など、どうでも良かった。
もっとはっきり言えば、戦う事自体がどうでも良いと考えていた。
ハカセが都市を欲しいという気持ちを持っているのなら別だが二人共興味がない。
また、遊戯内容も二人の望むままに動く事以外にヴォーダンは意義を見出していない。
二人が望み、二人の望みを自分が叶える。
ヴォーダンの理想はそのような状況だけだった。
そう、善悪二種の争いなどにヴォーダンは興味がない。
だからこそ、この前の出会いを機会にヴォーダンは一つ、悩みを持ってしまっていた。
善と悪とは、正義とは……。
「正しさとは、一体何なのであろうか」
兄ファントムに与えられた命題。
兄ヴァルセトに魅せられた生き方。
考えてみろとファントムに言われ考えてみたものの、その答えは一向に見えてこなかった。
ヴァルセトの行いは確かに正しくない。
しかし、何が間違っているのかヴォーダンには明確に指摘出来ない。
その上、ヴォーダンはヴァルセトが間違っていると微塵も思えなかった。
しかし、父テイルを含む数人はヴァルセトの行いをあまり好ましいと思っていない。
「……俺は、正しさを知らねばならぬな」
ヴォーダンはそう呟き、出かける準備を始めた。
「すまぬ兄よ。言伝を頼まれてくれぬか」
部屋から出たヴォーダンはファントムを見かけそう声を掛けた。
「ええ良いですよ。誰にですか?」
「父と母に出かけて来ると。忙しそうだから出来るだけ暇そうな時に頼む」
クアンと赤羽の話し合いが終わる気配を見せぬ為忙しいテイルとユキの事を考え、ヴォーダンはそう言葉を告げた。
「それは良いのですが……一人で大丈夫です? それと、どんな用事かも教えていただけますか?」
「うむ。一人で構わん。いや。一人でないといけないんだ。用事は……正しさを探してくる」
そう言ってヴォーダンは基地の外に向って歩いて行った。
「……念の為ストレスに注意してもらうようモニター班に伝えておきましょうか」
あまり顔色の良くなかったヴォーダンを見てファントムはそう呟きスマホを取り出した。
当然の話だが、正しさなどと言った曖昧なものなど探し回っても見つかる訳がなかった。
ヴォーダンにとって正しいものとは両親の事である。
両親に命じられたのならどのような悪事であれ、どのような苦行であれ正しさとなる。
だが、それはヴォーダンだけの正しさであり他の人にとっては正しさではない。
正しさなど、人によって当然異なる。
だが、ヴォーダンはそれに納得していなかった。
正しさを探し彷徨っている途中、ヴォーダンはある話を聞いた。
トロッコが誰も載せずに走行しています。
このまま走ると路線上にいる従業員三人が轢かれ死にます。
貴方の手元にはトロッコの走行する路線を変更スイッチがあります。
しかし、スイッチで路線を変更すればその先にいる一人の従業員が死にます。
貴方はどうしますか?」
ヴォーダンはその問いの答えが出せなかった。
正義とは……。
正しさとは……。
どうすれば誇らしい父と母の子として、正しさの元生きられるのか。
幾ら考えても、その答えは出てこない。
それでも、考えずにはいられなかった。
考えすぎてか、頭痛と耳鳴りが聞こえる。
思考を投げ出したい。
しかし、投げ出す事が正しさであるわけがない。
そう思い、ヴォーダンは悩み続けた。
「あかん」
その日の夜、テイルとユキは何時ものように二人で怪人達のバイタルチェックを行っていた。
そして感想が、その三文字である。
生まれたての怪人は変化に弱く、どのような状況になるのかわからない。
特に人生経験が少ないからかストレスには非常に弱い。
そしてヴォーダンの現在の状況は、レッドゾーンに完全に突入していた。
人間で表せば、嘔吐し一歩たりとも家から出られなくなるレベルである。
「……触れ合いが足りない所為かしら?」
忙しさにかまけてあまり相手にしていないと思っているユキはそう呟き、テイルも同じ様に考え込んだ。
なお、食事中は必ず一緒にいてそれなりに話もしている。
「……今日は一人で出かけさせたらしいしな……孤独を感じているのかもしれん」
ちなみにテイルとは必ず一緒に風呂に入り、一緒に風呂上がりのコーヒー牛乳を飲んで、寝る前には一緒に歯磨きをするのがいつも日常である。
「……私、もっと接してあげた方が良いかしら」
更に言えば、良くテイルと行動を共にするユキもヴォーダンとはそれなり以上には接している。
当然、ヴォーダンも寂しいなどと思った事はなく、これだけ自分に構ってもらえるなんてと両親の愛に感謝している位だった。
「……ふむ。今日一人で出たという事は……つまり外に出るのが好きという事だな」
「ええ。そして一人が嫌という事は……」
そう言い合った後、テイルとユキはそっと握りこぶしを出した。
「……さいしょはグー。ジャンケンポン! ……っしゃ!」
テイルはチョキを出している相手を見て、握りこぶしを高く掲げた。
「……ちぇー。まあ男同士の方が気兼ねもないしストレス緩和ならテイルの方が得意だし仕方ないか。んじゃ、明日はあの痴話喧嘩を繰り返す馬鹿二人の相手を私がするわね」
「ああ、悪いな。全くあの二人は……。もう少し落ち着いてくれてば良いのだがなぁ」
「ま、クアンは良い子だったしそう言う時もあるわよ。大変なのは確かだけどね」
「全くだ」
そう言い合った後、二人はしょうがないという雰囲気を出しながら笑いあった。
この基地内で最も面倒な恋愛をして、最も回りを振り回しているのは二人だという事を知らずに――。
「それでハカセよ。俺達は一体どこに向かっているんだ」
電車に揺られながらヴォーダンがそう言葉を投げかけると、テイルは満足そうに頷いた。
「うむ! 宝が山商店街という名前の良くわからない都市だ」
「良く、わからない?」
「ああ。あれは商店街という名前の何か別の都市だ」
「ふむ。……良くわからないが……。そこを侵略でもするのかハカセ?」
「んー。文化的侵略は狙っているが別にどうこうするつもりはないぞ。そして今回はただ遊びに来ただけだからな」
「ふむ。そうか遊びにか……」
「……俺と遊ぶのは嫌だったか? やはりユキの方が良かったか?」
「いや、そんな事はない。俺は口数が少ないからわかりにくいかもしれんが、これでもとても喜んでいる。遊び方のわからぬ俺に色々と新しい楽しさを教えて欲しい」
「ああ! 任せろ!」
テイルはドンと胸を張り、自信満々にそう答えた。
「というわけで到着。ここが宝が山商店街であーる!」
テイルがそう言葉にすると、ヴォーダンはきょろきょろと周囲を見回した。
見た目は本当に、ただの商店街のようであるのだが……その規模が違いすぎた。
常に人で賑わっており、建物もスポーツ店から八百屋に至るまであらゆる施設が大きめに設計されている。
それでいて、商店街の端が全く見えない。
ヴォーダンが能力を使って周囲の様子を探っても、延々と人と都市が続いておりどこまで商店街なのかさっぱりわからないほどだった。
「……なるほど。確かに商店街らしからぬ盛況さだ。商店街風のテーマパークか何かのようにも見える」
「ああ。その言い方は間違ってない。さあ息子よ! 俺に付いて来ると良い! 俺は遊びだけなら天才だぞ!」
そういってドヤ顔をするテイル。
本人は冗談のつもりなのだが、ここにいるのは生まれたてで冗談がわからず、また両親を尊敬しきっているヴォーダン。
自分が遊ぶ事に不器用な事もあり、ヴォーダンは純粋なる尊敬の眼差しをテイルに送っていた。
テイルは何故か少しだけ、申し訳ないような気持ちになった。
「それでハカセ。何をして遊ぶのだ? 良くハカセがやっている子供用のホビーとかか?」
「いや。あれはあれで俺は良いが万人受けが悪い。お前もあまり興味がないだろう?」
「ハカセ達と一緒に遊ぶ事はとても嬉しいが、正直興味はない。それならお互い対等な将棋やチェスの方が興味がある」
「だろ? だからここはとりあえず多くの人が楽しめるものから手を出そう」
「ほぅ。それは一体?」
「――食い歩きだ」
きりっとした顔のまま、テイルはヴォーダンにクレープを差し出した。
「……なるほど。それは俺でも楽しめそうだ」
そう言ってヴォーダンは恐ろしく甘そうなクレープを口に運んだ。
想定の三倍ほど、そのクレープは甘かった。
「うむ。……正直に言うなら、この辺りは俺が好みだな」
そう言ってヴォーダンはカップに入った唐揚げをつまようじに刺し口に運ぶ。
タイヤキからシュークリーム、たこ焼き等々様々な物を食べて来たヴォーダンの出した結論は唐揚げだった。
鳥の旨味と醤油と油。
そのハーモニーは最強としか表現できぬほどに美味だった。
というよりも、ヴォーダンはどあまり甘い物は好きでないらしい。
「そうか。んじゃ今日の夕飯……いや、今日は食ったし別の日が良いな。また近いうちに夕飯唐揚げにしよう」
「それは楽しみだ」
割と本当に楽しみで、ヴォーダンは頬をにやけさせながらそう呟いた。
「ああ。期待しててくれ。後、今はエネルギーが足りているから甘い物がさほどだろうが、エネルギーの供給が怪しくなってきたらたぶん甘い物が死ぬほど欲しくなるぞ」
「……ほぅ。だからこれを持たせているのか」
そう言ってヴォーダンはポケットに入ったブドウ糖のタブレットを見せた。
「うむ。怪人全員に持たせている。能力の連続使用はどうしても負担になるからな。ヴォーダンの場合はまだわからんが……」
ヴォーダンの場合は能力がそのまま生きる事に繋がっている為、おそらく過剰使用しても疲れないだろう。
だが、まだデータが出そろっていない為そうは言い切れない。
そんな状態だった。
「今度限界のテストしてみるべきか。俺も電光回路を限界点まで回した事がない事に少々不安を感じていた」
「そうだな。ユキ監修の元で一度試してみるべきだな」
そう言った後、二人は立ち上がり次の店に足を進めた。
「まだ入るか?」
「俺は大丈夫だが……ハカセこそ大丈夫か?」
「そうだな。次でラストにしよう。代わりに……次はがっつりとラーメンだ」
「素晴らしい。ご随伴に預かる」
そう口にするヴォーダンは、わずかではあるが確かに微笑んでいた。
――意外と表情豊かだな。
テイルはそう思いながら、嬉しそうに目指す場所を指差した。
……その直後、唐突に背後から爆発音が響いた。
今日は花火や爆音を使うイベントは行われていない。
その上、何やら不穏な空気が流れだし……時間差で悲鳴が轟いた。
「……ヴォーダン。予定変更だ」
表情の一変したテイルの様子を見てヴォーダンは頷き、テイルの後ろに付き爆音の聞こえた方に歩き出した。
「……原因はアレか」
テイルは焦げ跡が付き部屋の内装が見えてるビルを見つけ、そう呟いた。
十階建て位のビルの半ば二階層くらいの内装が外から丸見えになっていた。
「……ふむ。スプリンクラーが作動したから高温にはなったみたいだが……火災による爆発というよりは電気関係による火災、または爆発と言った感じか」
ヴォーダンはビルの様子を見てそう呟いた。
「そうか。……ヴォーダン。救助活動の手助けを頼んで良いか?」
ビル自体の被害は見た目が派手な割にさほどだが、その代わりビルから飛んだコンクリートの破片により街は結構な被害を受けていた。
コンクリートの直撃で破損した電柱や車。
それらによる渋滞。
そして、見える範囲ですら数人はいる瓦礫の直撃や交通事故に巻き込まれた怪我人達。
状況はかなり酷いものとなっていた。
「わかった。行ってくる」
ヴォーダンはそう答え、怪我人の方に飛んでいった。
――……命令され、それを聞く。なんと楽なのだろうか。
悩み疲れていたヴォーダンは命令される事の喜びを感じ、そう思った。
いざ救助に飛び出したものの、ヴォーダンに出来る事はそう多くなかった。
救助向きの能力や道具を内蔵しているならともかく、現在のヴォーダンで出来る事は瓦礫を除け、怪我人を探し、応急手当を行い救急隊員に預ける。
その位しか出来ない代わりに、その全てを全力で行っていった。
他ならぬ、父からの命令であったからだ。
「大丈夫か?」
ヴォーダンは倒れ泣いている子供にそう声をかけた。
だが、子供は泣くだけで何の反応も示さない。
体調自体に問題はないのだが……子供は泣きすぎて状況がわからなくなっていた。
――鬱陶しい。
そう思いながらも見捨てるわけにはいかず、どうすべきか考えていると一人の女性がこちらに近づいてきた。
「大丈夫ですか!? その子に何があったんですか?」
どうやら救助に来た人らしい。
その恰好も一般人の恰好ではない事から、同業者のようだった。
「俺が来た時からこうだった。子供の扱いはわからぬ為、どうしたら良いか途方に暮れていた」
「そうですか。救助協力ありがとうございます。ではこの子は私に任せて下さい」
そう言ってその女性はヴォーダンに微笑みかけた後座り込み、子供と同じ目線となり泣いている子供に優しく、ゆっくりと話しかけ始めた。
ヴォーダンは少しだけ、子供を鬱陶しがった事と、子供の目線になる事すら思いつかなかった自分に恥じ、女性に礼を言ってその場を後にして別の場所に向かった。
一通り救助活動と瓦礫の撤去を終えた後、ヴォーダンはテイルの元に戻っていった。
「今戻った。ハカセ。次はどうしたら良い?」
既に周囲には多くの救急車が出動し、車は一台残らずなくなり人も相当減りまばらになっていた。
もう出来る事はあまりないだろう。
「……そうだな。しんどいところ悪いが少し待機してくれ。人手が居る時に動けるように」
「了解」
それだけ答え、ヴォーダンはテイルの横に立った。
「なあヴォーダン。お前は――」
そうテイルが言った瞬間、つんざくような爆音が鳴り響き、ガラスが割れる程空気が振動した。
その爆音が生じた場所は、さきほど壊れ内装が見えているビルだった。
そして……どうやら二度目の爆発に耐えられるほど頑丈ではなかったらしくビルは脆くも崩れ――周囲に瓦礫を散乱させる。
高所から降り注ぐ鉄骨混じりの瓦礫は爆発の影響もあり広範囲に飛び散る。
そして周囲には――避難しれなかった人達と救急隊員がまだ大勢残っていた。
どうあがいても、全員が助けられない。
その一瞬で、ヴォーダンは誰から助けるべきか考えた。
自分の判断で言えばこれより先に多くを助ける救急隊員を優先すべきであるという結論が出ている。
それが正しいか正しくないかはわからないが、大勢助けられるのは間違いないだろう。
この間も、ヴォーダンはテイルの方をずっと見ていた。
最も守るべき存在の為一瞬たりとも目を離すわけがなかった。
そのテイルは――今にも跳びかかりそうな勢いで、まっすぐ、手を差し伸ばしていた。
ヴォーダンは一瞬たりとも見逃していないはずだった。
人の動きを絶対に見逃さない動体視力を持ったヴォーダンが、まったく目を離していないはずなのに……必死に手を伸ばすテイルの動きを、見逃していた。
理由はわからない。
理屈もわからない。
テイルの運動能力では絶対に出来ないような動きで、しかもその動きには何も意味がない。
そもそもがだ……手を差し伸ばし手程度で誰かを掬う事など出来るわけがない。
だが……それでも……テイルはその手を……己が弱者だからこそ、助ける事が出来ない凡人だからこそ、誰か掬う手を伸ばさずにはいられなかった。
誰かを助けようとする、力なきその手。
それを見た瞬間、ヴォーダンの思考は停止する。
その代わり、体が勝手に動いていた。
そして次の瞬間――。
三度目の爆音。
ただし今度の爆音はビルからでなかった。
三度目の爆音が起きた瞬間、周囲に降り注いでいた瓦礫のほとんどは小石や砂程度となり、三つ四つと残った瓦礫の塊や鉄筋混じりのコンクリートは、地面に落下せず何故か宙に浮いたままとなっていた。
半径数百メートルにまで散乱した瓦礫の脅威は取り除かれた。
そしてその中央には、さきほどの子供と女性、そしてそれを庇うように立つヴォーダンの姿があった。
「無事か?」
ヴォーダンは女性の方を見て、そう呟いた。
あっけに取られたような表情のまま、女性は半開きの口まま小さく頷いた。
「そうか。……二人とも、無事で良かった」
心からそう思え、安堵の息を漏らした後ヴォーダンは己の主の元に走った。
何がしたいのか。
何が正しいのか。
それはわからない。
ただ、勝手に体が動いていた。
「……良くやった……としか言えないな」
テイルは泣きそうな表情でそう呟いた。
「ハカセ。どうしてそんな顔をしているんだ?」
「……誰も助けられないと思った。誰かが犠牲になると思った。だが……誰一人……少なくとも、俺の見える範囲で誰も死ななかった。それが何よりも嬉しかった」
そう言ってテイルは、涙を流しヴォーダンを抱きしめた。
「良くやってくれた。ありがとう……」
その涙の意味は、ヴォーダンにはわからない――いや、本人以外にはわからないだろう。
だが、息子として父を喜ばせる事が出来た事は、とても誇らしかった。
「ハカセ。俺も……俺も何となくですが、答えが見えた気がしました」
「ん? 何の話だ?」
抱きしめたまま、テイルはヴォーダンの質問にそう尋ねた。
「ずっと悩んでいたんです。と言っても、まだ明確に言葉になるほどはっきりとは見えない。だが……」
「そうか。良くわからないが、ずっと苦しんでいた事だけはわかっている。すまんな。役に立てない親で」
「いえ。そんな事ありません。ハカセのおかげです。ハカセのおかげで……俺は……」
そう呟いた後、ヴォーダンの腹が恐ろしいほどの音を立て自己主張を始めた。
「……ああ。無茶したもんな」
テイルは苦笑しながらそう呟いた。
「実は、俺自身さっき何したかわかっていない。ただ……今の俺はおそろしく疲れて……死ぬほど甘いものが食いたい気分です」
「そうかそうか。それじゃあ何か食いに行くか! 頑張った息子に対してのご褒美だ! 金に糸目は付けん! 付いて来い我が自慢の息子よ!」
そう言ってテイルはどしどしと歩き出し、その後ろをヴォーダンは追いかけた。
「……お姉ちゃん。大丈夫?」
小さな子供は、自分を泣き止ませてくれた少女が固まったように動かなくなった事を心配しそう呟いた。
少女はそんな子供の声も聞こえてないように、茫然とした様子のまま、虚空を見ていた。
「……いたいた! おーいミント! どうしたの? 何かあったの?」
少女の相方が少女を見つけ走って来るが、少女は一切反応しなかった。
「……この私が……。まさか……この私が……」
「ど、どしたのミント!? どこか怪我したの?」
「すとんと……落ちる音が聞こえた……」
そう少女は茫然としたまま呟いた。
小さな子供と少女の相方は、全く意味がわからず二人で首を傾げていた。
ありがとうございました。