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偉大なる者達に捧げる生誕祭


 遂に――心待ちにしていたその日が訪れた。

 テイルとユキを中心に雅人、ファントム、クアンの怪人三人は巨大な銀色のカプセルが置かれた機械だらけの部屋の中で、静かに目覚めの時を待っていた。


「テイル。貴方着替えさせる時にあの子を一旦見たんでしょ? どんな感じだった? ……ああやっぱ言わなくて良いわ」

 そわそわした様子でそう言葉にするユキにテイルは微笑んだ。

「うむうむ。落ち着かない気持ちは良くわかるぞ。ちなみに顔付きは真面目そうな感じで……整った顔立ちという感じかn」

「そか。真面目そうなのか。いや実際はわからないけどね」

「そうだな。真面目な顔で不真面目な性格ってのも大いにあり得る。特に今回は与えた事前情報に偏りが酷いからな。どんな性格になるのか予想も出来ない」


 そんな話を二人がしている今その時、銀のカプセルはぷしゅーと音を鳴らせ、煙を放った。

 一瞬の緊張感と興奮に場が支配され、皆の視線はそのカプセルに集まったその時……カプセルは静かに展開され中の人物を露出させた。


 ジーパンにTシャツというシンプルでラフな衣装に包まれた背の高い黒髪の男性。

 その顔立ちは事前にテイルの言っていた通り、実直という心象が強い真面目そうだった。

「うーん……ちょっとテイルに似てるね」

 ぽつりとユキはそう言葉を漏らした。

「そうか? 不真面目さが顔にまで出ている俺とは正反対な気がするが」

「ううん。顔立ちとか体形とか、結構似てるよ。何か真面目なテイルって感じ」

 その言葉にテイルは否定も肯定もせず困ったように微笑んだ。


 そして、皆の注目を浴びているその人物は、そっと目を開いた。

 男は機械だらけの部屋をぐるりと見渡した後、正面にいる一組、事前情報で良く見た男女とその背後にいるやけに親近感の持てる三人を見つめ……そしてカプセルを出てからテイルとユキの前にゆっくり歩き、その場で跪いた。

「お会いしとうございました。父上、母上」

 顔立ちや雰囲気と同じような、真面目そうな声で、まるで時代劇のように堅苦しく男はそう言葉にした。

「……これはまた始めてな反応だな……。ああでも事前情報が俺達の情報偏り過ぎたからな。そうなるか……」

「テイルは納得したかのようにそう言葉にした。


 ユキは少し恥ずかしそうではあったが嬉しそうに新しく生まれた我が子を見つめた。

「単純な疑問だけど、どうして時代劇風の呼び方なの? そう言うのが好きな感じ?」

 その言葉に男は首を横に振った。

「いえ。単純に敬愛すべき両親に最もふさわしい呼び方を考えれそのようになっただけです」

「うーん。そかそか。でももっとフランクにして良いのよ?」

 その言葉に少し驚き、そして悩み考えながら頷いた。

「はいお母さま。努力してみます」

 生真面目や実直かと思っていたが、実際はどうやらその想定の十倍くらいは生真面目で、固い石のような性格の男らしい。

「……私とテイルが生み出したとは思えないほど真面目な子になったわね」

「ああ。そうだな……」

 テイルも同じ事を思い頷いた。


「……すいません。悪として真面目というのは良くないですね。不真面目になるよう努力――」

「いらんいらん。お前が思うようにしてくれ。悪に染まる必要もない」

「というかこの組織で本当に悪い人って一人もいないしね。性格悪いのは私くらい?」

 苦笑いを浮かべながらユキがそう言うと、男はすっと立ち上がった。

「そんな事ありません。お父様もお母さまがどれほど真面目で、そして優しくて素晴らしい女性だと何度も力説してくださいました。お母さまが心優しくまじめである事は皆周知の事実です」

 そっとテイルはユキから顔を反らした。


「あー。息子よ。どうやら事前情報の記憶が記録ではなく知識としてあるようだから言っておこう。暴露せず胸に秘めてくれ。頼む」

 周知の事実であり羞恥の事実となった事に対しテイルは困惑した顔で頼み込むように男に言った。

「はっ。わかりました」

 男はテイルの方に深く頭を下げお辞儀をした。

「テイルには悪いけど私の方じゃなくて良かったわ……」

 ユキはにやけた顔のままぽつりとそう言葉を漏らした。




「ところでお父様お母様。後ろの、俺の家族と思わしき人物の紹介をお願い出来ますか?」

「ん。あ、ああ。そうだな。せっかく来てくれたし、三人共自己紹介を頼む」

 そう言ってテイルとユキが横にどけると三人は一歩前に行き男の前に立った。


「序列順で良いだろ。まずは俺だ。元第三怪人、現在映画俳優とリハビリセンター職員を掛け持ちしている古河雅人だ。よろしく」

 その言葉に男は頷いた。

「よろしくお願いします兄さん。今度兄さんの出る映画を教えて下さい。是非見て見たいです」

「ああ。是非見てくれ」

 そう言った後握手をし、雅人が離れると次はファントムが男の前に立った。

「僕の名前はファントム。第六怪人だから君の三つお兄さんですね。生まれてくれて嬉しいです。それで、僕の言った事覚えてる?」

 その言葉に男はしっかりと頷いた。

「よろしくお願いします。はい、して欲しい事は今一つだけですがあります」

「おー。生まれてすぐに要求が出来るなんて本当早熟で優秀だね。それで、僕に何して欲しい事って何かな?」

「はい。敬愛すべき両親に報いる方法を教えていただけたら」

「あー。その気持ちは良くわかります」

 新しく生まれた第九怪人を除けば最もテイル大好きっ子であるファントムは納得したように頷いて見せた。


「ええ。御恩を返し、同時にあの人達に尽くしたいという強い気持ちは確かにあるのですが……。使命と言っても良いほどしなければならない事なのですが……何分経験不足でどうすれば良いかわからなくて」

 男が困った顔をするのを見てファントムは微笑んだ。

「うん。君がすべき事は単純ですよ。両親が関わらない何かやりたい事を見つけて幸せになる事。そうすれば、二人は幸せになれますよ」

「……難しいですね。今は全く思いつきません。ですが、言われた通りやりたい事を探してみたいと思います」

「うん。ま、何にしてもこれからよろしくね」

 そう言って握手をすると、今か今かと待ちわびていたクアンがぴょんと男の前に立った。


「初めまして。第八怪人クアン。君の一つ上のお姉ちゃんだよ! よろしく!」

 ニコニコと満面の笑みに釣られ男はあまり上手でない笑顔を作りながら頷いた。

「はい。これから色々教えてください、お姉さん」

「お姉ちゃん」

「……は、はい?」

「のーお姉さん。イエス。お姉ちゃん。りぴーとあふたーみー?」

「お、お姉ちゃん?」

 男が困った顔のまま言われたように答えるとクアンはにぱーと笑い男の頭を撫でた。

「うん。私は君のお姉ちゃんだからね。だから何かあったら言って。私は君を絶対助けるから」

 そう言ってクアンは男の手を強引に掴み握手をしてから男をテイルとユキの方に向けた。


「どうだった?」

 テイルの言葉に男はぽつりと呟いた。

「素晴らしい兄とと姉……お姉ちゃんだと思いました。皆凄く個性的で生き生きして。やはり俺は生まれたばかりで人格面でもそれ以外でもまだまだだなと思い知りました」

「いや、お前も十分濃いから安心しろ」

 テイルははっきりとそう言葉にした。


「それでお父様。お――」

「待った。その前に呼び方は変えよう。一人なら好きにしろで良いのだがその呼び方だとユキに迷惑がかかる」

「……それは構いませんが迷惑とは?」

「俺とユキは友人であるだけの関係で決して夫婦ではない。だからお父様お母様だと誤解を招きユキが困るだろう。もし良い相手が居たのなら俺の存在も邪魔になる。だから――」

 その言葉に、男は表情を一変させ始めて見せる顔となった。

 その顔は、誰が見ても非常にわかりやすい言葉を帯びていた。

『何言ってるんだこの人』

 そういう顔だった。


「……お母様。お父様って……」

「ああうん。私達そういう関係じゃないの、ごめんね?」

「……非常に失礼ですが、お父様は人として感性がおかしいと思います」

「おうふ。ついに生まれたばかりの存在にまで人間性を駄目だしされてしまった。……そんなに駄目かな俺」

 しょんぼりしているテイルにユキは微笑んだ。

「駄目じゃないわよ。ただ……鈍すぎるだけで」

「そうか。これでもエチケットとか女性には紳士的にいようとか気をつけているのだが……色々と難しいものだな」

 腕を組んで考え出すテイルを見てユキは苦笑いを浮かべる。


「と言っても……テイルだけじゃなくて私にも問題はあるんだけどね」

 一歩踏み出す勇気のないユキはぽつりとそう呟いた。


 後ろの三人は、そんなテイルとユキを安心しきった微笑ましい目で見ていた。


「というわけで俺は皆からハカセと呼ばれているから俺の方はそう呼んでくれ。兄達と一緒だし、それにお前が息子である事は変わらないから」

「わかりましたテイルハカセ。ユキハカセ」

「ユキは母呼びでも良いのだぞ?」

「いえ、二人の呼び方は一緒にした方が良いと思いますので。ですよねユキハカセ」

 そんな息子の気遣いにユキは溜息を吐き、そっと頷いた。


「ああ。親が駄目だと気配りが出来る子になるってのは本当なのね……」

 ユキは嬉しいような悲しいような気持ちでそう呟いた。




「んで息子よ。さっき言いかけたのは何だ?」

 テイルの言葉に頷き、そして男は自分の胸に手を当てているの方をまっすぐ見つめた。

「俺に名前を下さい。俺が俺であると、偉大な二人から生まれたのだと知らしめるような、偉大なる名を――」

 ハードルが上がりまくった状況にテイルはそっと汗を流した。

「……あー。うん、ユキ……どする?」

「え? テイル付ければ良いじゃない。今までそうしてきたんでしょ?」

 ユキは慌てたようにそう答えた。

「俺ネーミングセンスギリギリなんだよ。今回は任せる」

「いやいや。そう言われても……」

 そう二人が言った後、テイルは男の方に向かって一言尋ねた。

「どっちに付けて欲しい?」

 男は顔をしかめ、唸り声をあげて苦しみ……そして頭から煙を出し始めた。


「おおう。まさか漫画的表現を実際に行うほど苦しむとは。悪かった二人で決める。な? 安心しろ二人一緒だから」

「は、はい。俺にはどっちかなど選べないので……二人でお願いします」

 男の言葉に頷き、テイルはユキの方を向き二人は小さな声であーでもないこーでもないと話し出した。


「貴方は今どんな事に興味があるかな? こんなのが恰好良いとかこんな事がしたいなとか、希望程度で良いわから教えて」

「……そうですね。幾つか映像が俺の中に残っていますが……やはり能力前の決めセリフとかそういう事に少し憧れがあります。俺の能力は感情を起伏にしてのスイッチを入れるものですので技名や武器名を叫ぶというのは戦略的にもありですし。後は……こう……神の名前とかそういうのが恰好良いと思います。すいません幼稚で」

「いや、その気持ちはよくわかるぞ。ああ非常に良くわかる」

 テイルは何度も頷き男に同意した。


「……じゃあその方向性で行くとして……」

「何か良いのあるか? 能力に見合った名前で神話モチーフで。ゼウスとかは却下な。色々な意味で」

「んー。そうね。……じゃあこういうのは……」

 そう言いながら二人は顔がくっつきそうな距離で内緒話を繰り返した。


「……あの……お兄さん方。あれであの二人夫婦どころか恋人ですらないんでしょうか?」

 男の言葉に三人は皆同様の生暖かい目を浮かべつつ頷いた。

「あれでああなんですよ。ま、あの関係が居心地良いのでしょうね二人共」

 ファントムの言葉に男はなるほどと呟いた。




「決まったぞ」

 テイルがそう言うと男はびしっと背筋を伸ばした。

 軍人のような直立不動っぷりではあるのだが、その雰囲気は飼い主に構ってもらうのを嬉しそうに待つチワワのようだった。

「ヴォーダン。貴方の名前はヴォーダンよ」

「……ジェヴォーダンの獣の獣でしょうか?」

「いえ。オーディンの語源とも言われたドイツでの古き嵐の神よ。風と死を司り、嵐の中で霊と雷を操る。貴方の能力とも合致するわ。どう?」

「……なるほど。オーディンの元……。はい。その名をありがたく受け取り名に恥じぬよう力を見せていきます」

 そう言ってヴォーダンは二人に再び跪いた。


「生まれた直後でこの性格……。成長するとどうなるのかしら……」

 生真面目かつ敬愛っぷりが凄まじい我が子に対しユキはそう呟いた。

「クアンのようにちょっと遊び心が入って真面目なまま安定する場合もあれば、ファントムのように純粋に真面目なまま成長する場合もある。……ヴァルセトのように不真面目にぶち抜ける場合もあるぞ。あれはあれで良い子だが。だからこの後どう成長するかはわからないが……まあどうにかなるさ」

 そう言ってテイルは微笑んだ。




「それでちょっとした疑問なんですけど、弟は非常に強く製造したと聞きましたがどの位強いんです? 僕達二人分くらいです?」

 ファントムの嫌味でも何でもない質問にヴォーダンは少し困った顔をした。

「えと……まあそれなりに」

 そんな気遣いが見えファントムは苦笑いを浮かべた。

「別に気にせずはっきり言って良いですよ」

「は、はい。では失礼ながらはっきりと。俺の見通しが正しければ……三人が全力になっても俺が勝てると」

「ハカセ。どうです?」

 ファントムが真偽を確かめる為そう尋ねると、テイルは頷いて答えた。

「ああ。その見通しは間違ってないな。オーバークラスでかつユキのサポートが全力で受けられるような設計になってるからヴォーダンの汎用性とその基礎スペックは本当に凄まじい。まじで三人相手でも勝つだろうな」

「でも……それは……」

 そう言いながらファントムは雅人の方を見た。

 雅人は戦力的に言えば別格でありオーバー階級に入っていると言っても良い位である。

 何と言っても体積が単純に違うからだ。

 純粋な戦闘力だけならば、怪人達の中でも文句なしの最強格である。


「とりあえずさ、動作テストもしておきたいし実際に能力見て判断したら? 流石に古賀君は戦えないから実際に三人相手には出来ないけど」

 ユキはそう言葉にした。

 雅人は引退している上に仕事をしている社会人で、しかも能力が能力な為訓練程度では能力使用許可が出る事はなかった。


「そうですね。ヴォーダンの経験不足を解消出来ますし、僕達も格上との戦闘という経験値も得られます」

「決まりだな。ヴォーダン。目覚めてすぐで悪いが動作チェックも兼ねて模擬戦をやってくれるか?」

「……それが両親(ハカセ)の望みであるのなら」

 そう言ってヴォーダンは仰々しい雰囲気のまま気障ったらしく頭を下げた。



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