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穏やかないつもの日常とわくわくする新しい日常


 宝が山商店街内の賑やかな喫茶店の中、久方ぶりに仲良しカルテットである四人が揃った。

 それは本当に久方ぶりであった。

 トゥイリーズのミントとマリーに、ARバレットのクアンとユキ。

 敵対組織ではあるが、トゥイリーズとARバレットはかなり親しい関係となっていた。

 また変身ヒーローでありつつも基本的に普通の女子高生であるトゥイリーズという存在は、生後一年経過していないクアンとマトモとは言えない暗黒の学生生活だったユキにとって非常に良い影響を与えてくれている。

 また、トゥイリーズ側の二人も友人が少ないわけではないがこっち方面の知り合いが少ない為ユキとクアンの存在は貴重なものである。

 正義と悪という多少問題のある関係性ではあるのだが、仲良くするのは情の面では当然として利の面でも問題がなく、四人は非常に親しい関係性となっていた。


 話題の内容は最初こそ今回の騒動であるユキが拉致された話であったのだが……ここにいるのは基本的に若い女性である為、必然的に話の内容は違う方向性にシフトしていった。

 その話題は女性が最も好むあの話題である。


「――というわけで、自分でしっかり自分の気持ちも、自分の今までしてきた事も自覚したわ……。うん、確かに私はわかりやすい態度しか取ってない。でもね、私の想定よりもテイルは凄まじいわ。だってテイルは恐ろしく鈍感で私の気持ちに絶対気づいていないって」

 そんなユキの言葉に、クアンが横で頷いていた。

 少し前まで恋というものがわからずはテイルより鈍感か並ぶくらいのクアンだったのだが、そこから数段飛ばしのミラクル進化を遂げた為コイバナに付き合えるようになっていた。

「……例えばどんな感じでアピールしたんです?」

 ニヤニヤした口調でマリーがそう尋ねると、少し恥ずかしそうにユキは口を開いた。

「手を繋いだり、夜押しかけたり、可愛いって言ってた服着て行ったり……」

 もじもじとしながらそう言葉にするユキに、マリーとミントは楽しそうにきゃーきゃーと黄色い声をあげる。

「良いね良いねー。何かニヤニヤ出来るねー。他にもっと凄いのない?」

 ユキは顔を赤くし、下を向きながらぽつりと呟いた。

「……この前倒れてた時ね……。つい……おでこにチュッって……」

「もうお前ら付き合っちゃえよ」

 マリーはニヤニヤしながらユキにそう言葉を告げる。


 その瞬間、ユキは無表情で死んだ目となった。

「なお、おでこにキスしたにもかかわらず翌日からその事には一切の無反応。というか今日まで一切触れられていません」

「……おおう。もしかして、脈なし?」

 その言葉にユキとクアンは同時に首を横に振った。


「それ以前の話で……ハカセはユキさんの事をほとんど意識していません。いえ、興味がないわけではないですが……何というか、自分の事を好きになる人がいるわけがないと思い込んでいるフシがございまして」

「うん。脈なしとかそれ以前で、最初に言った通り超絶鈍感なだけ」


 二人の言葉にマリーは信じられないような顔をした。

「今時の少年漫画に出る突発性難聴野郎より酷い人がいるなんて……」

「……子供なんですね。テイルさんって」

 そんな的確すぎるミントの言葉に、二人はしっかりと、そして何度も首を縦に動かした。


「まあ……どうせ進展しない私の方は置いといて……」

「いや。ユー告っちゃいなYO!」

 マリーがそう言葉にすると、ユキはダンとテーブルを叩き立ち上がった。

「そんな勇気があったなら私はこんな人生送ってないわよ! ひねくれもので嘘つきで、意地っ張りよ私!?」

「いや、めっちゃ素直じゃん」

 マリーの突っ込みにミントとクアンは何度も頷いた。

「……いや、友達には話しやすいというか……皆大切な友達だし……」

「その素直さをもっと出せば良いのに」

 ミントはマリーに抱き着かれ困惑しているユキを見ながら溜息を吐きそう呟いた。


「私は良いからさ、クアンの事を教えてよ」

 ユキにそう言われ、クアンは首を傾げた。

「いや、越朗君とどうなってるの?」

「え? あ、はい。お付き合いさせていただいていますよ」

 そう言ってクアンはにっこりと微笑んだ。

「……何か、あっさりと答えられるわ堂々としているわで……勝ち組オーラ感じるわ……」

 ユキが悲しそうにそう呟いた。


「んで、どんな経緯でどういった感じだったのか、おせーておせーて!」

 マリーが楽しそうにそう尋ねると、クアンは微笑み頷いた。

「まず、私がちょっと無茶して倒れまして。その時のお世話をしてくれたのが赤羽さんです。それで私が治ると今度は慣れない介護疲れと、たぶん緊張で赤羽さんが倒れて、それを私が面倒見ました」

「ふむふむ……」

 三人は今までと違いおそろしく真剣な様子で、今後の参考の為にクアンの言葉に耳を傾けていた。

「それでその時に、私はこの人がどれだけ私に尽くしてくれたのかがわかりまして、そうしたら胸に暖かいものを感じて――。その気持ちを大切にしようと思いましたらこう……カチリとパズルのピースがハマったような気持ちになって……ああ、これが恋愛という意味の好きなんだなと自覚しました。それでそこからは自然とお付き合いするって形になりまして」

「……駄目だ。参考にならんパターンだ。というかそんな恋したい」

 マリーがしょんぼりしながらそう呟いた。

 そんなマリーをミントはニコニコしながらやけにねちっこい視線を送っていた。




 しばらく四人がわいわいと騒いでいると、そんな四人の元に一人の男が近づいてきた。

 さきほど話題にも出てきたテイルである。

「邪魔するぞ」

 そう言いながら現れるテイルにマリーとミントは生暖かい視線を送り、ユキはぱーっと笑顔になりクアンはいつも通りニコニコして会釈をする。

「どうしたのテイル? あ、約束の時間過ぎてた?」

 そう言葉にするユキを見てテイルは首を横に振った。

「いや。まだ一時間あるぞ。ただ、ちょっと買い物の予定が出来たから早めに来ただけだ。だから一時間後に迎えに――」

「ううん。買い物って電気街の方でしょ? 私も必要な物あるから行くわ。ごめん三人共。ちょっと用事があるから私先に行くね」

 そう言いながらユキはそっと四人分の飲食代に加えて三人のタクシー代になりそうなほどの金額を置き立ち上がった。

「ごゆっくりどうぞー」

 ニマニマした顔でマリーがそう言葉にするが、ユキは一切気づかずテイルと何やら難しい言葉を使った会話に夢中になりながらその場を立ち去って行った。


「あらま。本当にお熱なんですねー」

 マリーがそう言葉にするとクアンが苦笑いを浮かべながら首を横に振った。

「いえ。あれはただ……似た者同士なだけですよ。あんな親しい様子ですが今現在あの二人にはお互いに恋愛感情とかそういった感情は一切持っておりません。今二人はお互い同じ目的の為の同士でしかなくなっています」

「どゆこと?」

 マリーの言葉にクアンは、嬉しそうに言葉を紡いだ。

「今二人は……妹か弟用意しようとしてますので」

 その言葉にマリーは誤解をし、顔を真っ赤にしてオタオタと慌てだした。

 そんな様子のマリーをミントは楽しそうに見つめていた。




 買い物を終え、ARバレット基地に戻った二人は一台のパソコンの前に座り顔を寄せ合うような距離であーだこーだと言い合っていた。

 二人が現在行っているのは第九怪人の製造、その設計についてだった。


 人工完全AIや体組織となる培養液、能力プロトコルのベースなどは大まかには出来ている為、現在は細かな部分の擦り合わせを行っている段階である。

 ちなみに、第九怪人の製造にユキはため込んでいた全財産を全て吐き出し、それでも足りずテイルも持っていた特許の権利を幾つか売り払って今回の資産としている。

 それはARバレットに予算がないからではなく、今回は今までの怪人と比べ三倍から五倍ほど予算が必要となっていたからだ。


 その理由には二人が知恵と技術を出し合って新しい事を幾つも実用化しているという理由もあるのだが、一番の理由は第九怪人が高性能化のモデルケースであるという面が大きかった。

 というのも、これからはARバレットとして参加する怪人はオーバー階級、出来ればoB、それが無理でも最低でoBマイナスにまで引き上げなければならなくなったからだ。


 クアンという明らかな期待の星に加えてユキという高性能な人員。

 更に最近幾つかの事件に介入し一定の戦闘記録を残したARバレット。

 これらにより、階級が見直される事となった。


 というよりも、むしろ今まで災害救助時に特権を持っているARバレットが組織階級Bである事の方がおかしかったのだ。

 それに気づいたKOHOは即座にARバレットのランク上げを決定した。

 そんわけで恐らくARバレットの階級はBからBプラス、Aマイナス、A、Aプラスを飛び越え、一種の壁であるはずのオーバー階級であるoBマイナスの更に上の『oB』にランク上げされる事となった。


 そうなると困るのが戦闘関連である。

 現在ARバレットの主力であるファントムとクアンも確かに優秀ではあるが、オーバー階級の壁を越えた相手と戦えるほど強いわけではない。


 そんな彼ら怪人再調整のモデルケースとして最初からオーバー階級となるように製造されているのが今回の第九怪人である。

 第九怪人のデータを流用して、これからARバレットで戦う怪人達を再調整しようと二人は考えていた。


「とは言え……クアンがなぁ……」

「クアンがどうしたの?」

「いや、ファントムは再調整確定なんだが……クアンはどうかなと思って」

「ああ。まだこっちに残るかわからないんだっけ?」

 その言葉にテイルは頷いた。


 赤羽越朗という男は見事初恋であるクアンの心を射止め、恋人となる事が出来た。

 だが、赤羽は正義の味方でクアンは悪の怪人。

 敵味方に分かれたままのカップルも多くはいるが、大多数は一緒の陣営になる事の方が多い。

 カップルで一緒に戦った方がテレビ映えも良いし本人達も共に戦える方が喜ぶからだ。


 敵味方でのカップルとなった場合は、大体が二パターンのどちらかとなる。

 正義の味方が悪落ちして共に悪の組織に入るパターン。

 ただしこれは将来や子供の事を考えるずっといるわけにもいかず、最終的には見せ場を作ってから死を偽装し、組織から引退して一般家庭に戻るという感じに収まる。

 もう一つは悪の組織側が改心して正義の味方に陣営変えするというパターン。

 今回の場合は、後者の可能性の方が高いだろう。

 赤羽は強い憧れから正義の味方になったからだ。


「というわけで今んとこオーバー階級に調整しなおすのはファントムだけだな。ああ、クアンがいなくなればヴァルセトが戻って来るかもしれん」

「ああ。吸血鬼の」

「そう。……大丈夫だと思うが色々な意味で女の敵だから気をつけてくれよ」

「ふふ。大丈夫よ。その人だって貴方の子供でしょ?」

 そう言われテイルは何とも恥ずかしいような嬉しいような困った表情を浮かべた。


「まあ後の事は後で考えよう。今は第九怪人の調整についてだ。AIの事前教育はどの程度行う? それと性別や性格の考え方は?」

「そうね……せっかくだしテイルに似せない?」

「……いや、どうせ似せるなら俺はユキに似せるべきだと思うぞ。今回の主体はユキだし」

「いや、テイルの正確に似せる方が応用力に優れるし冷静に行動出来るでしょ」

「俺の性格だとガキになるだけだ。それならユキの方が――」

「いやいや――」

「いやいや――」

 そんなどう考えても痴話げんかにしか聞こえない言い争いをしながらも、二人は新しい家族の準備を着実に進めて行っていた。



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