テイル先生の階級講義
一体どういう法則でどういう給料体形なのかはわからない。
クアンは自分の為に用意された通帳を見つめ、その入金されている金額を確認した。
二十八万。
たった数時間での稼ぎとしては破格だが、命を賭けた金額と思うと安いと言えるだろう。
だが、クアンはその金額に文句はなく、むしろ十分な金額と言えた。
衣食住完備で欲しい物は何でも大体買ってもらえる超絶甘やかされ生活となっているクアンには、正直金銭は必要なかった。
欲しいと言えば島でも城でも用意しそうなそんなテイルの様子は、クアンが苦笑せざるを得ないほどである。
誰がどう見ても渡しすぎで甘やかししぐなのだが、クアンはそんな愛情が嬉しくてテイルにあまり強く否定することが出来なかった。
そんなお金のいらないクアンでも、今回だけは別の事情があった。
正しく言えば、自分が稼いだお金が欲しかったのだ。
もうすぐ結婚するらしい仲間のナナに対するお祝いは、自分で稼いだお金でするべきだとクアンは考えていた。
そしてその準備も終わり祝いの品も用意したのだが……数日経ってもナナの結婚話は全くに耳に入ってこなかった。
「えー地球征服の為に次の作戦――をする前にー、一つ授業をしようとおもーう」
テイルはスーツの上に白衣を羽織るという何時もの姿に加え、何故か眼鏡を掛けながら指示棒を持ち黒板をこんこんと叩いた。
それに対してクアンは、苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
今クアンとテイルがいる場所は基地の三階……のはずなのだが、この部屋の内装は完全に良くある学校の教室だ。
個人用の机と椅子が四十近く並べられ、教卓と黒板が用意されそこにテイルが佇んでいる。
ご丁寧にスピーカーまで配備されているどこにでる教室に瓜二つな部屋となっていた。
どう見ても悪の秘密基地には場違いな部屋と言えるだろう。
だがクアンはそこはまだスルー出来た。
クアンがどうしてもスルー出来ない事、それは自分の恰好だった。
「ハカセ。百歩譲って教室が基地内にあるのは突っ込みません。ですが、私の恰好は何ですこれ?」
そう言いながらクアンは自分のセーラー服を指差して尋ねた。
「ん? 似合ってるし変じゃないと思うが。学生と言えばセーラー服じゃ……ああ、ブレザーの方が良かったか」
クアンは大きく溜息を吐き、ジト目でテイルの方を見た。
「もう良いです……それで、何の授業を始めるのですか?」
授業に若干のイントネーションを付けて嫌味を混ぜクアンは尋ねた。
「うむ。というわけで今回の授業は、コレだ」
そう言いながらテイルは赤のチョークで文字書き、見えにくかったのか消して白のチョークで書き直した。
そこには大きな文字で『階級』と書かれていた。
「うむ。教師達が主に白を使う理由がわかるな。というわけで、階級について話しておこうと思う」
「んー。あっ! BクラスとかAプラスとか言ってたアレですね?」
「そうだ。正義、悪の陣営を評価する際に使うもので正式には階級と呼ぶのだが、ぶっちゃけランクとかクラスとか呼ばれている。そっちの方がカッコいいからな。さて、内容は微妙にややこしいからついて来いよ?」
そう言いながらテイルは軽快に、黒板にチョークを走らせる。
「……ハカセ。教師っぽい事するの妙に似合いますね」
「――そうか」
何故か若干照れながらテイルは嬉しそうに呟いた。
『階級』
1.組織対象と個人対象
2.共通項目と陣営項目
3.基本階級と上位階級
黒板にはそう書かれていた。
「――まず一項目からだ。準備は良いか?」
テイルの言葉にクアンは頷いた。
「うむ。まず階級の対象なのだが、これは個人だけでなく組織も当てはまる。所属する組織が階級Aで所属しているヒーローがB、なんてこともある。この辺りは大丈夫か?」
「はい。あの――」
「質問する時は手を挙げなさい」
キリッとした口調でそう言ってくるテイルをジト目で見ながら、クアンは手を挙げた。
「どうぞ」
「はい。参考までに、ウチの陣営、ハカセ、私の場合階級ってどうなるんですか?」
「ああ。まず我がARバレットだが、ぶっちゃけBランクだ。規模としては非常に小さく人気も少ない。そして俺自身はBマイナス。戦闘力が皆無だからだ。そしてクアンだが、まだ認定されていないがおそらくAランクになるだろう」
「え? どうして私がAランクなんですか?」
「はい良い質問です。そこで次の質問なのだが――」
そう言いながらテイルは黒板に書かれた二項目に指示棒を当てた。
「階級を決める際に評価する方法だが二方面から評価しその複合、総合などを状況に照らし合わせて決められる。最も重要な共通項目と言われる評価方法だが、ぶっちゃけ戦闘力だ。厳密に言えば『普段から使える安定した戦闘能力』だな」
「ん? つまりヒーローなら変身前の戦闘力で評価するって事ですか?
手を挙げながら尋ねるクアンに、テイルは首を横に振って答えた。
「いや、スーツ時は適用される。適用されないのは……この前の越朗君なんかの例がわかりやすいな。スーツが壊れたという緊急時かつ制御出来ない安定しない力。アレは評価に入らないから越朗君の評価はBとなっている。もう一つの項目でも彼は評価されないからな」
「なるほど。それでもう一つの項目とは?」
「ああ。共通項目は正義、悪共に同じ評価方法で判別されるが、もう一つは正義、悪の陣営で違う評価方補となる。まず正義側の評価方法だが、『平和に対する貢献度』となっている」
「んー。また随分漠然としていてイメージしづらいですね」
「ああ。漠然としているのは当然だ。どんな手段でも結果さえ出れば評価されるからな。それが医術で人を救っても、砂漠を緑化しても、多大な寄付をしても、ついでに言えば悪の陣営を平和的に倒しても上がっていく」
「平和的に――ですか?」
「テレビの特撮のように終わったらオッケーって話だ。正義側の方が多く建物を壊してたり、手段を択ばす非道な手段を使ったり、狂暴性を見せて怯えさせたりはアウトって事だな」
つまり強装甲ダーツみたいなのはアウト。
二人はそう思ったが、口には出さずにいた。
「つまりどんな手段でも構わらないから平和にすれば評価され、その規模でランクが付けられる。ここまでは理解出来てるか?」
テイルは黒板に書き足しながらそう尋ね、クアンは首を縦に動かした。
「うむ。次に悪側の評価方法だが、これは『脅威度』となっている。こっちはわかりやすい。社会、世界に対して驚異的であればあるほど評価される。例えば……越朗君が悪の組織に来た場合、これの評価と潜在的戦闘力も考慮され彼はA+ランクとなる事が予想される」
「ですよねー。十分足らずで商店街一つ壊す破壊力と私らが束になっても勝てない戦闘力持ってますもんねー」
「ああ。しかも制御出来ないという部分も脅威度的には加算となるしな。ここまでで質問はあるか?」
クアンはすっと手を挙げた。
「どうぞ」
「それでハカセ。私がAランクな理由はなんですか?」
「ああすまん。忘れていた。まず、クアンの戦闘力は現状でA相当だ。これは俺がそう設計したから間違いない。そして、基本的に共通項目が評価には優先される。戦闘力Aあるという事は脅威度もAに相当するって考えてもあながち間違いではないしな。なので階級Aの評価を受けるだろうと予想される」
「なるほど。それと追加で尋ねたいのですが、階級て途中で変わります? あと私みたいな怪人って肉体的に成長するのですか?」
「階級も変わるし肉体的な成長もあるぞ。これはあくまで現行スペックでの評価予想だ。越朗君もクアンも、当然成長したらその分評価が上に行くだろう」
「んー。ハカセって随分赤羽さんの事話しますね。ファンなんです?」
そんなクアンの音場にテイルは楽しそうな笑みを浮かべながら首を横に振った。
「んで最後に基本階級と上位階級、つまり階級の大きな分け方について話すが、大丈夫か? ついてこれてるか?」
クアンは首を縦に動かして見せた。
「はい。ハカセの説明が分かりやすいのか、今のところ理解出来ています」
「そうか……わからなければ遠慮なく言うが良い。それで階級なのだが、まず基本階級内にある例外について話そう」
そう良いながらテイルは、『無評価』『階級C』と黒板に書いた。
「無階級は階級を付ける側の組織ならびに組織員だから階級が付けられない。ぶっちゃけ『活動KOHO部隊』を現す。そして階級Cは正義、悪にかかわっていない一般人を差す。だから俺達の最低評価はBマイナスだ」
そう言った後、テイルは黒板に更に書き足していく。
「そして基本階級だが……『B-, B, B+, A-, A, A+』こうなっている。この六つが基本階級と呼ばれるもので、多くの組織がこの基本階級のどこかに入っている」
「あー、わかりました。SランクとかオーバーSランクとかSSSランクとかあるんですね」
クアンが嬉しそうにそう言うと、テイルは微笑んだ。
「惜しいな。だが発想はあっている。上位階級の説明をするぞ」
そう言いながらテイルは『op』と黒板に書いた。
「上位項目は基本項目にこのアルファベット二つが付く。意味は何だと思う?」
「えー。……オプションとかですか?」
「シューティングゲームみたいだな。正解はover powerだ。頭にoを付けるのが基本的な書き方だ。oBマイナスでもA+を圧倒する力を持っている。文字通り住む世界が違う」
「はー。上には上がいるんですねぇ」
「わかりやすく言えば、越朗君の最高出力がopB+に匹敵する。だからこそ、彼は引く手あまたなんだ。それとここでもう一つ例外的な階級が生じる」
そう言いながらテイルは『oC』と黒板に書き足した。
「一般人を巻き込む事は法律で禁止されているが、一般人が自分の意思で飛び込む事は禁止されていない。もちろんその時はこちらからも反撃可能だ。飛び入りで空気を楽しんだり、または力試しをしたり、単純に趣味で混ざったり、そう言う事もある。そんな中で、時々一般人とはとても思えないような強い奴がいる。そいつらをoCランクと呼ぶ」
そう言いながらテイルは『逸般人』と黒板に書きなぐった。
「俺はこう呼ぶことにしている。さて、後は〆に一つだけ説明があるが、ここまでは大丈夫か?」
クアンは首を縦に動かした。
「よろしい。最後に黒板には書いていないが、上位階級より上が一つだけ存在する。長い歴史を戦い抜き、その力を示した存在、組織。この国に一桁しかいない歴戦の存在……俗に言うSランクなのだが、その偉大さと強大さを称え、俺達はこう呼んでいる」
そう言いながらテイルは黒板に大きく『L』の字を書いた。
「Legend。生きる伝説、我らの頂点。本当の意味でのヒーローと本物の悪のカリスマ。それが彼らだ。その姿は直接拝むことはないだろうが、テレビではいつも見れる。気になるなら今度見てみると良い」
テイルはそう言いながら、黒板に書き込み話をまとめた。
1.組織対象と個人対象
階級が定められるのは組織と個人の二種類である。
2.共通項目と陣営項目
正義悪共に『普段から使える安定した戦闘能力』が階級判定の共通項目である。
正義の陣営項目は『平和に対する貢献度』、悪の陣営項目は『脅威度』である。
3.基本階級と上位階級
階級は
『B-, B, B+, A-, A, A+』の基本階級とそれに『o』がついた上位階級、そして最上位階級『L』となっている。
ただし例外として、活動KOHO部隊は『無階級』と定められており、また一般人は『C』か『oC』のどちらかに定められる。
「以上、今日の授業は終わりだ。わからなければ後で先生のもとに来ると良い」
そうテイルが言った瞬間に学校に流れるようなチャイムが響き渡った。
ありがとうございました。