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誕生!怪人第八号

特撮とかのお約束的な事をしてみたいと思い始めました。

特撮が好きな方は当然、そうでない方も楽しんでいただけるようがんばりますのでどうかお付き合いください。

 

 その部屋は普通の部屋ではなかった。

 オフィスの一室のような数十人が入れそうな部屋で、窓は一つも見当たらない。

 壁も、床も、天井も、白く、蛍光灯の明かりすら……ただただ真っ白である。


 相当広い部屋ではあるのだが、実質は三人、多くても五人ほどしか中には入れないだろう。

 整理された様子はなく地べたには大量の紙が散乱し、部屋の至るところに色や大きさのバラバラなコードが張り巡らされていた。

 たが、部屋が狭い一番の理由は、一目見ても全くわからない謎の機械群の所為である。

 光ったり音を出したりとするデスクトップパソコン本体のような機械が、部屋中至るところに配置されていた。

 科学研究室というには少々低俗で、会社と呼ぶには少々不気味。

 そんな変わった部屋だった。


 その部屋の中でも一際目立つのは、中央に在する金属の筒である。

 直径一メートル、高さ三メートルほどの垂直に聳え立つ円柱情の銀色の筒。

 強いて近い物を上げるとしたら、SFに出て来るコールドスリープ装置だろうか。

 ただし、ガラスなど中が確認出来るような物は存在していないが。




 その機械の前に、一人の男が歩いてきた。

 スーツ姿の上に白衣を羽織った黒髪で、不健康そうな細身の人物。

 男は筒の傍にあるキーボードを操作しだした。

 その直後に、複数の機械が動くような音とブザーが鳴り響く。

 それと同時に、金属の筒足元で点滅していた赤いランプが消え、緑色のランプが点灯する。


 プシュー……。


 金属の筒隙間から白い煙が放たれ、それと同時に、筒は縦に真っ二つとなり上部を支店に開き中身を露見させる。

 その筒の中には、衣服を着用した青い髪の女性が目を閉じていた。

 眠っている……というよりは、身じろぎ一つ取らない為死んでいるように見えるほどだった。


 そんな微動だにしなかった女性は、突然目を開き、忙しそうに周囲をきょろきょろと見渡して自分の保有している情報を確認しはじめた。


「成功か。おい、俺の事、そして自分の事がわかるか?」

 筒を開けたであろう男の声に気づき女性はその男に視線を集中させた。


「……はい。あなたは私の生みの親。『怪人』製造の天才、Dr.テイル様。そして私はあなたに作られた怪人、で間違いないでしょうか?」

 女性は知識として覚えている事を目の前の男に告げ、男はそれに頷いて答えた。

「うむ。かんっぺきだな! では改めて、俺の名前はDr.テイル。偉大なる悪の科学者である! ハカセでもドクターでもプロフェッサーでもテイルでも好きに呼ぶが良い」

 テイルと呼ばれて男は満足な表情のまま声を張り上げた。


「は、はあ……。質問……自体は本当山ほどあるのですが、とりあえず一つ尋ねても良いでしょうか?」

 女性の言葉にテイルは頷いた。

「うむ。好きな事を聞くが良い。その為の時間はしっかりと作ってある」

 その言葉の後、女性は少しだけ考え込む仕草をし、今一番気になる事を尋ねてみた。

「あの、私怪人ですよね?」

「うむ。怪人とはという哲学的な質問は答えが出ない為難しいが、俺はお前を怪人として製造したな」

「ですから私は今生後数分という事ですよね?」

「そうだな。一応二十一という年齢で設定してあるから二十一歳と名乗っても良いぞ。あと年齢の前後や肉体の気に入らない部分があるなら今のうちに言ってくれたまえ。十時間以内なら修正が効くぞ」

「いえそれはどうでも良いです」

「む? そうか。ああ、あとその衣服は俺が選んだ服だが着せたのはウチの女性従業員だ。なので安心してくれ、と言っても俺は父親みたいなものだからお前に欲情することはないが」

「ああそれもどうでも良いです。私もあなた様の事を異性として見れませんし。そうではなくて、生まれてすぐに私は知識があるという事は、事前に何か情報を入れる方法があるという事ですよね?」

「うむ。睡眠学習……とも少し違うな。一番近いのはデータのインプットだな。基本的な事は入ってるはずだぞ」

 その言葉に女性は頷いた。

「はい。そこが私の尋ねたい部分です。どうして私にインプットされた情報は、こんなに少ないのでしょうか?」

 それこそが、女性がテイルと話して一番気になった部分だった。


 基本的な日常の知識と偏った日常の知識、自分が怪人であるという事、そして目の前の男性が『怪人製造の天才Dr.テイル』であるという事。

 それくらいしか女性にインプットされた情報はなかった。

 知識の事前インプットたる技術があるのだとしたら、自分が何を望まれ、どうすべきかも情報に入っているはずである。

 いやそれ以前に、この周囲の地理くらいは情報に入れているはずだ。

 端的に言うなら、情報が少なすぎて聞きたい事すらわからない状況になっていた。


「ふむ。その質問に対して、俺はこう答えようではないか! 埋め込まれた知識というものは確かに便利だ。だが、利点だけでなくデメリットもある。例えばだ、俺の事は天才であるとインプットされているが、それは俺の主観であり真実かどうかわからない。いや俺は天才だがな。そもそもだ、知識とは取捨選択した上で己の手で手に入れる物だ。それをインプットという方法で入手する事はつまり、学ぶという機会を失う事になる。誰かのバイアス、特に設計者でかつ情報を仕入れる俺のバイアスがかかった上に己の手で入手したわけではない知識が、一体どのくらい役に――」

「――長いです。十五文字程度に纏めてください」

 女性は一向に終わる気配のない言葉を止め、冷たい目をテイルに向けながらそう呟いた。

 綺麗な宝石にも見える青い瞳だからこそ、その冷たい瞳はまるでの氷のようだった。

 そんな女性の様子を見て、テイルは少しだけ、しょんぼりしながら呟いた。

「作った怪人と、お話したい」

「一文字オーバーです」

 女性のそんな言葉に、テイルは眉毛をハの字にしてしょんぼりしていた。




 要するに、情報を自分で仕入れる重要性に加え、団体の新入りである女性とコミュニケーションを取る為に、テイルはインプットを最小限にしていた。

「つまり、お話したいからインプットを最小限にしたという事ですか?」

「ま、まあ、それが一番大きな理由だな」

 テイルは少しおどおどしながらそう答えた。

 そんな言葉を聞き、女性は溜息を吐いた後小さく微笑んだ。

「少しだけ、貴方様の事がわかった気がします。もう一つ質問思いついたのですがよろしいでしょうか?」

「あ、ああ! 何でも聞いてくれ。だがその前に、こんな殺風景な場所ではなくてお茶の用意をした部屋がある。そっちで話そうじゃないか」

 テイルは嬉しそうにそう言った。


「いえ。その前に二つだけ質問を、割と大切な事ですので」

 女性の言葉にテイルは表情を硬くし、頷いた。

「ああ。わかった」

「まず一つ目ですが、他の怪人の方々は貴方様の事を何と呼んでいますか?」

 そう尋ねると、テイルは小さく微笑んだ。


「あれ? 変な質問でしたか?」

 女性の言葉にテイルは首を横に振った。

「いいや。変じゃないとも。ただ、これまで製造してきた怪人、皆その質問を俺にしてくるからな。やっぱりお前も俺の怪人なんだと思ってな。初代怪人は俺の事は『ハカセ』と呼ぶ事に決め、それに続いて他の怪人も俺の事をハカセと呼ぶようになった」

「なるほど。ではハカセ、これは本当に大切な質問です。私の名前は何と言うのでしょうか?」

 女性の言葉に、再度テイルは笑みを浮かべる。


「まだないさ。君はブランクであり、希望であり……そして未来である。だからこそ、君は君の名前を好きに付ける権利がある。もちろん、自信がないなら誰かに頼ればいい。うちの従業員には子持ちもいるしそういうセンスのある人も多い。残念ながら、俺にセンスはないがな」

 そう言って苦笑したテイルに向かい、女性は微笑んだ。

「わかりました。ではハカセ。私の名付けをお願いしますね」

「は!? 何故にホワイ!?」

 テイルの慌てた様子を見て、女性は嬉しそうに、幸せそうに笑った。

「あら? 私はあなたの怪人です。頼むのは普通の事ではないですか?」

 女性がそう意地悪そうな笑みを浮かべながら言うと、テイルは渋い表情を浮かべた。

「うーむ。……良いだろう。頼まれたからには出来るだけの事をしてみよう。だがな、一つ訂正しておく。『俺の怪人』ではない。『俺が製造した怪人』だ。お前はお前のものだ。俺の物ではない」

 女性はきょとんとした後、テイルの言いたい意味とテイルの愛情に気づき、微笑を浮かべ頷いた。

「訂正、了解しました。ふふ……では名前の事、お願いしますね。女性らしい素敵な名前を待っています」

「……ハードル高いな」

 溜息を吐くテイルに、女性は嬉しそうに笑った。


 女性は確信していた。

 目の前の男性、自分を作った人が信頼するに値する人物であると。

 だからこそ、女性はテイルに名づけを頼んだ。

「それでは、よろしくお願いしますね。ハカセ」

 信頼し名前を預けるという意味のよろしくと、今度ずっと共にという意味のよろしく。

 そんな二つの意味を込めて、女性はテイルに微笑んだ。



ありがとうございました。

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